【解答】ウミガメのスープ【2杯目】~Last Link~
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遥か昔、一人の女騎士がいた。名はエイミー・ハイゼン。
アルビノ、先天性色素欠乏症と現代でこそ呼ばれている症例を患っている彼女は
若くありながら髪は白髪、瞳孔は赤く、肌は気味が悪いほど白い。
それを見た昔の人々は彼女のことを魔女だ、悪魔だと罵った。
彼女はそれらに耐え、仕事に励んでいた。
そしていつしか、そんな彼女にも愛する人ができ、愛する子ができた。
不幸にも、彼女の病までも受け継いで。
彼女は考えた。
このままでは子供も同じような風評を浴びてしまう。
それだけでも、なんとか避けて育ててあげたい。
そのために、彼女は決心した。
この子が普通に外を歩けるようにしてあげたい、と。
そのために彼女が選んだ道は、武勇による名声を得ることだった。
戦場を駆け、獅子奮迅の働きをし、民衆からも兵士からも高い評価を受ける。
それによりこの髪や肌の色による偏見が消えればと願い、彼女は剣を振るった。
その意志は、元来の剣の腕と、その思いの強さからか、彼女を見たあらゆる人に伝わった。
結果、彼女の腕は所属する国家からも、近隣諸国にも轟き広まった。
素晴らしい活躍、そして得た名声、近隣諸国への牽制も踏まえ、彼女には領地が与えられた。
近隣諸国4国と接する防衛拠点の最前線、エルハーベン領。
「銀髪の戦乙女」「ヴァルキリーの化身」と呼ばれる彼女が、近隣諸国に与えた影響は大きかった。
緊迫した戦況は一変、膠着状態に陥った。
水面下での争いはあるものの、事実上の休戦と相成ったのである。
領民の希望から、エルハーベン領の領主となったエイミー・ハイゼン。
名をエイミー・エルハーベンと改名し、英雄の子供として迎えられたエイミーの子は、領民達に暖かく迎えられた。
そして、これが後に「銀髪の伝承」と名づけられた。伝説の始まりでもあった。
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世間一般において「魔女」「悪魔」などと呼称されるアルビノ。
それが銀髪の伝承の効果により、エルハーベン領ではアルビノの人間を逆に敬う特異な土地となった。
アルビノの人は若いながら髪が脱色され、白髪となる。
しかし、ツヤのある白髪は一見すると美しい銀髪であり、陽光の下では黄金にすら輝く。
エルハーベン領が危ぶまれる時、それの救世主として銀髪が現れる。
そのような伝説が生まれたゆえなのか、
エイミー・ハイゼン以降も歴史上に度々銀髪を携えた女性が現れ、
この地を救うといったことが発生した。
ある時は芸術の力で領を復興、またあるときは新しい知識などを駆使して領を復興した。
「銀の乙女」「銀の錬金術師」新しい銀髪が現れる度に、銀髪の呼称は増えていった。
ただ変わらないことは、初代銀髪の乙女の名前を引き継ぎ、全ての銀髪の女性は『エイミー・エルハーベン』と名乗ったことがあげられる。
しかし、領主となったエルハーベン家には、一つの制約がついていた。
それはこの領を、国から授けられた時に一緒に通達されたもの
『エルハーベン領を、近隣諸国から防衛せよ。そのため、銀髪の戦乙女を領家にて常駐するものとする』
これは防衛も目的とした上での、一種の拘留だった。
エルハーベン領では呼ぶ声高い銀髪、しかし一歩外に出ればその評価は以前として高い壁があったのである。
~~~~~~~~<< 現 代 >>~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時が流れて、再びエルハーベン領は何度目かの危機を迎えていた。
領主、エリック・エルハーベン。
銀髪の血統とはいえ、もはや銀髪が現れずに100年を迎えようとしていた。
血はあってないようなもの、しかし市井にも銀髪は現れない。
だが、近隣諸国との国交の細さという致命的な問題は解決しなければならない。
時代は変わったが、エルハーベン領の立地条件は変わらない。
近隣諸国4国と密接しており、陸路も繋がっている。
交易拠点として、近隣諸国は常にその領土を狙っていたのである。
そこで、エリックは考えた。この危機をどうにかできないものか、と。
現状を打破する解決策を見つけたのは、エリックの妻達だった。
エリックの妻であるセレス、フィーリアの姉妹。
自分らを世間に公表する前だったことを利用して、彼女達は銀髪の偽装を買って出たのである。
兼ねてより、エルハーベン領の危機を救ってきた『銀髪』。
それを模すことで突破口にしようと考えたのである。
しかし、エルハーベン領には以前として2つの問題があった。
1.古来より防衛拠点としての意味が強いこの領は、周辺国家とは本国が定めた極端な交易規制が入っていたこと。
2.銀髪の伝承があるとはいえ、近隣諸国からのアルビノの風評があまり好ましくなかったこと
これらを解決することが目下のことと思われた。
そこで、彼らが立てた計画は突拍子もないものだった。
「よし、この領を独立させよう」
近隣諸国4国、さらに元々所属していた本国の計5国を繋ぐ独立交易都市としようと考えたのだ。
しかし、当然勝手な独立宣言では戦争すら招きかねない。
ただですらこの土地を狙って眼を光らせている近隣諸国のことを考えるとなおのことであった。
そのためにも、正規の手続きは使えない。そのために彼らがたどり着いた結論。
「このエルハーベン領を、潰そう。この領をエサにして近隣諸国を釣り上げるんだ!」
『わざと』近隣諸国に領を攻めさせ、エルハーベン領と本国との繋がりを薄くしようと考えたのである。
近隣諸国により制圧されかける、しかし、エルハーベン領民の反感を買わずに交易拠点とする
そのために近隣諸国からの攻勢を『口実に』本国から独立する。
そうすることで近隣諸国はこのエルハーベン領を有益な交易拠点として扱うことができる。
これによりエルハーベン領は本国を含めた計5国との重要な交易拠点として栄えることができる。
この計画は大きく3段階のステップを踏むことで成立させる必要があった。
『
1.近隣諸国からのスパイを呼び込むことで、
領内の情報を逆に近隣諸国に発信させる
2.ある程度の暴動を起こさせ、領内を混乱状態に、
属する本国との接続を希薄にさせる言い訳を作る
3.近隣諸国をはじめ、本国との交渉を行い、外交として交易関係を築く。
』
どう考えても突飛な計画だが、それには理由があった。
セレス・フィーリアの姉妹の子供達が、そろって銀髪を携えて産まれてきたのである。
しかし歓迎すべき銀髪の乙女、その登場はあまりにも遅すぎた。
このままでは、国が攻めいれられる寸前のような状況まで事態が悪化してから委ねることになるのは明白。
親として、子供のために動かないわけにはいかない。そうして彼女達は立ち上がったのである。
計画は即座に実行に移された。
国境の警備を傍目からは手薄にし、スパイは発見しても見逃すようにと伝令した。
エルハーベン領の情報がある程度近隣諸国に伝わった時期を見計らい、ここで一計を打った。
エルハーベン領にて、銀髪の乙女が現れたと報を領内に発信。市井を活気付かせた。
これでスパイにより銀髪が近隣諸国に知れ渡ることとなり、適度な牽制となった。
この銀髪の乙女、セレス、フィーリアの二人役者による偽装の銀髪である。
時と場合によって、あえて『二人が一人の』銀髪を装っていたのだが、それには大きな理由があった。
銀髪を公表してから、数ヵ月後、計画を次の段階へと進めた。
エイミー・エルハーベン。中身はフィーリア・エルハーベンが旦那であるエリック・エルハーベンと偽装工作を行った。
フィーリアが乱心、エリックに小刀を手に襲いかかった。という偽装を。
それは傍目からすると争いのような光景で、最後には切れ味が鋭そうな小刀をエリックがフィーリアに突き刺すというものだった。
力なく崩れるフィーリア、それをひそかに運び出すエリック。
しかし、これは全て彼らが示し合わせた演技であり、フィーリアも服の下に厚い布をしこませて無傷。
だが、これを目撃した密偵は勘違いすることになる。
エイミー・エルハーベンが乱心。旦那、エリックがそれを取り押さえようとして、勢いのまま殺してしまった、と。
さらにエリックはこの偽装を完璧にするため、エルハーベン家の地下埋葬地から抜け道を使い、
フィーリアをエルハーベン家と親交が深いフォーデルハイト家へと身を隠させたのである。
一見すると密かにフィーリアを葬ったように見せる偽装工作は結果としてうまくいった。
この報は公表こそされなかったが、人の噂を伝ってまたたくまに領内に広がり、領民を落ち込ませた。
そして同時に、近隣諸国のハッパになった。
銀髪が消え、意気消沈した領民達、加えて警備が薄い国境。
落とすならば今しかないと周辺国家は考えた。
しかし、まっすぐ攻め込めば他三国及び、エルハーベン領の本国を交えた乱戦になる。
それらを避けた上でエルハーベン領を制圧する方法は多くはない。
そして、エルハーベン家のメンバーはそれを見越して一計を準備していた。
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時は流れ10年
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国交問題は深刻化、加えて近隣諸国からの水面下の圧力は相当なものと化していた。
この期間に、銀髪の子供のナナキアをフォーデルハイト家に、セーレンをエルハーベン家にわけて住ませていた。
それぞれの母親にあたるフィーリアもフォーデルハイト家に、セレスもエルハーベン家にて隠れて過ごしていた。
一見して、もしバレてもエルハーベン家に銀髪が一人しかいないようにするためである。
しかし、本国との関係を絶つ為の暴動を起こす時が近づいた時、予想外のことが起きた。
フォーデルハイト家が銀髪の暗殺を行った、との偽の報が領内に知れ渡ったのである。
近隣諸国からの情報操作であることはすぐに判明した。
エルハーベン家にて隠れていたセレスはとうに密偵にバレ、フォーデルハイト家のフィーリアもついにバレてしまったのだ。
近隣諸国はエルハーベン家が銀髪の替え玉を用意し、フォーデルハイト家が銀髪を誘拐したものだと勘違いした。
セレスとフィーリアの外見が酷似していたことも、その推測に拍車をかけた。
領民達は決起した。許すまじ、フォーデルハイト、と。
だが、この騒動を逆に利用しようと彼らは動き出した。
狙ってもいた暴動、これを使い本国からの独立の口実とすることができる。
彼らの行動は早かった。
ナナキアを早馬でエルハーベン家へと移送。
フィーリアは暴動鎮圧のためにフォーデルハイト家に待機。
エリック、セーレン、フォーデルハイト家頭首ガルシアが暴動鎮圧の補佐へと回った。
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その時点でのエルハーベン領の立ち位置は不安定極まりないものだった。
本国はエルハーベン領をなかば見限り知らぬフリ、近隣諸国からは水面下からのあらゆる情報操作や妨害工作。
実質5国から囲まれて孤立しているかのような有様であった。
しかし、エルハーベン家の者達は10年、この状況を待ち続けていた。
エルハーベン領を立て直すため、未来の子達へと託すため。ひたすらにこの時を待ちわびていたのである。
満を持して計画は最終段階へと進む。
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エリックは近隣諸国へと親書を送った。
『わがエルハーベン領を、独立交易国家として独立させます。
御国がこれを支持していただいた場合、
独立後の交易関税を大陸標準課税の4割で行わせていただこうと考えております。
こころ良い返事をお待ち申し上げております。』
近隣諸国は火がついたかのような早馬でこれに返事を返した。
総じて『誠心誠意、その旗本を支持する』である。
近隣諸国は理解していた。
戦争による領土を獲得しても、それは次の争いを産む事を。
それにより立地条件に優れた交易拠点も意味がないただの最前線基地に成り下がってしまう。
しかして、エルハーベン領の属する国家からの関税は高く、商売にはならない。
エリックが出した近隣諸国への親書、まさしくこれは渡りに舟の申し出だったのである。
残った本国、こちらはすでに親書を送る以前の問題であった。
争いの種、近隣諸国4国から囲まれた最前線基地ともいえる領土。
維持するにも、兵力を投入するにもあまりに割に合わない最悪な立地だったのである。
救援を要請する密書を送った返事は
『兵役の準備に4ヶ月掛かる、それまで凌げ』
という遠まわしに『その領は見捨てる』といった返事が帰ってきた。
後顧の憂いは消えた。
残る課題は暴動だけである。
フォーデルハイト家を囲む領民、各々が獲物を手にし鬼の形相をしている。
フォーデルハイト家は私兵を用いて可能な限り鎮圧を試みた。
万が一にも、『銀髪』として認知されているフィーリアに傷を負わせることができなかったからである。
だが、その気遣いは銀髪当人によって破られる。
『聞こえるか!エルハーベン領の方々!』
ガルシアが引き止めるのも聞かず、2階の踊り場から身を乗り出して民衆へと呼びかけたのはまぎれもないフィーリア。
彼女の姿を見つけるや、領民達は動きを止めた。
『しばし、わけあってガルシア殿の家にて静養していた!
そして今、市井に聞こえる報も耳にした!
安心していただきたい、私はこの通り生きている!
この声と顔、忘れたとは言わせんぞ!』
フィーリアのそんな短い言葉だけで、領民達の暴動は波が引くように冷めていった。
銀髪の一言、それがこの領における絶対の声であり信頼でもあったのである。
そして、ここからがエルハーベン領の火勢の巻き返しだった。
ただちに領主、エリックは本国、近隣諸国に独立宣言を通達。
本国からは叱咤の声が返ってきたが、国民達はエルハーベン領を国が見捨てたことを知っていた。
国の声明としては断固反対ではあったが、英断であると国内から賞賛の声すらあがる結果となった。
事前通達もあり、近隣諸国4国はこれを全面支持。
世間の風評、近隣諸国との対立も益なしとして、本国も意見を下げるに至る。
そして独立宣言が発せられて1週間。世論も落ち着いたところでただちに近隣国との交易交渉を開始した。
課税は約束を守り近隣諸国とは大陸課税の4割。
本国とも同様の交易交渉を行い、こちらは大陸課税通りとして制定した。
紛れもない交易国家の誕生である。
また、独立するにあたり国名を変更することになった。
エルハーベンの名は元々属していた本国のもの、やや風当たりはよろしくない。
ならばとして決まった名前は必然ですらあった。
独立交易国家、ハイゼン公国。
初代銀髪の乙女、エイミー・ハイゼンからの名前を授かることにしたのである。
これにて、エルハーベン領は消滅した。
変わりに、一層栄えた、あらゆる人々であふれかえる貿易国家が誕生して。
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「母さん、東の国からおいしい果物が入ってきたんだって。一緒に見に行こうよ」
「ナナキア、そんなに急がなくても行きますから。まずは落ち着いて身なりを整えなさいな」
「あ…うん、わかった」
交易国家として立ったハイゼン公国。
毎日のように様々な人々や品物が行きかうこの国において、もう銀髪の伝承はない。
しかし、代わりに銀髪に対する白い目もまた、ない。
「この国を、母さん達が作ったんだよね」
「違うわよ、この国を作ったのはいろんな人よ」
「いやまぁ、確かにそうだけどさ。一番の立役者は母さん達じゃない」
「そうね、今の貴方はそう思うかもしれないわ。でも、いつか貴方にも旦那が出来たらわかるわよ」
「いや、たしかにそろそろ結婚しろって周りもなんか言ってくるけど…」
「あ、エイミー様だー!」
「あらあら、見つかってしまったわね」
「のんきだなぁ、母さん」
しかし、領民達は忘れることなどない。
銀髪を携えた偉大な建国者のことを。長い歴史の中でこの土地を守ってきた乙女達を。
「でもさ、なんで結婚するとわかるのさ?」
「それはね、きっと今あぁやって手を振ってくれているあそこの奥さんにもわかることよ」
「え…?」
「うふふ、娘の成長が楽しみだわ」
伝承こそなくなった銀髪の活躍。
しかし、それはきっと当人達にとってはどうでもいいことなのだろう。
「そういえばさ、私も娘らしくなってきた…?」
「あら、いったいどうして?」
「だって、つい最近まで母さんがセレスおばさんだと思っていたんだもん」
「あぁー、そうねぇ。いくら仕方がなかったとはいえ苦労をかけてごめんなさい」
「いや、そういう意味じゃなくて!え、と…慣れないんだ」
「あらあら、そんなこと気にしないの。これからはもう一人の娘もいるんだもの」
銀髪を偽っていた姉妹、その姉のセレス。
建国とほぼ同時に病を患い急死する。
身内でひそかに手厚く見送られた彼女は今の領民、いや国民達の笑顔は見ることができなかった。
「でも、きっとね?姉さんも天国で胸を張っていると思うのよ」
「セレスおばさんが?どうしてそう思うの?志半ばで逝ってしまったようにしか思えないんだけども」
「そうね、それも結婚すればわかるわよ」
「またその話ー?」
銀髪を携えたナナキアは外を歩く。
珍しい髪の色に振り返る人こそあれ、それ以上の者はいない。
千差万別の人々が行きかうこの国に、多少の髪や肌の色など見慣れたものになったからである。
「でも、やっぱり母さん達はすごい。銀髪ってやっぱりすごいんだね」
「うふふ、ナナキアも銀髪だから頑張らないとね」
「え、いや。私はそんな特技も才能もないし…」
「大丈夫、皆そうなのよ」
「いや、母さんが言っても説得力が…」
「ううん、母さんだけじゃないわよ。英雄と呼ばれる銀髪の女性、皆そんな凄い人じゃないのよ」
「え?なんでそんなことがわかるの?」
「うふふ、それも結婚すればわかるわよ」
「だからなんで結婚になるの!?」
銀髪の乙女達、彼女達によって支えられたと言っても過言ではないこの土地。
だが、疑問が残る。
なぜ、銀髪の男はこの歴史に名を残していないのか。
伝承に残る銀髪は、一人の例外もなく全て女性なのである。
「そうね、じゃあ恋人ができたらちょっとだけ教えてあげるわ」
「そのまま結婚に話を持っていかれそうな気がする…」
「あ、ナナキアおねーちゃんみつけたー!」
「あら、もう一人の娘もきたわね」
「でも、セーレンの声は聞こえるけど…どこにいるんだろ?」
「こっちこっちー!」
「…セーレン、どこに登ってるんだ?」
「うーん、屋台の上かしら?」
「そういう意味じゃないから母さん!?」
銀髪を携えた男性が産まれなかったわけではない。
だが、歴史に名を残す銀髪は一人残らず女性だけである。
「二人ともおそーい」
「というかお前はもう少し大人しくしなさいっ」
「まぁまぁ、仲がいい姉妹」
「母さん、ちゃんと叱ってよ…」
「そうねぇ、じゃあナナキアが結婚したらそうしましょう」
「アーアーキコエナーイ」
「イーイーキコエナーイ」
「セーレン、そういうことはマネしちゃだめよ?」
「はーい!おかーさん!」
「そこは叱るの!?」
旧エルハーベン領主の家。
その二階の書庫、その奥の隠れるようにして作られている個室。
狭いその部屋には小さな机と、一冊の本がある。
「ねーねー聞いておねーちゃん!あそこの食べ物すっっごくおいしいんだよ!」
「あーあーわかったからひっぱるなー!」
「おかーさんも忘れちゃいやよー?」
赤い表紙をしたその本は、ところどころが擦り切れ、長い年月を超えたのがひと目でわかる。
中の紙だけは取り替えられたのか、新品とまではいかないながらも読み書きできるレベルには形を保っている。
「でもさ、なんで母さんはそんなに私に結婚を勧めるのさ?」
「うふふ、決まってるじゃない。孫を早く見たいからよ」
「本当にそれだけかなぁ、たまにそれ以外の理由がありそうに思うんだよね」
「あら、疑り深いわねぇ」
「だって母さんだし、10年も騙してたわけだし」
「あらあら、おまけに恨み深いわねぇ」
「二人とも面倒な話してないでこれくおうぜ!」
「セーレンはもうちょっと落ち着こうか!」
「うふふ、受け継がれてるわねぇ」
「は?」
「いえいえ、何もないわよー」
その本は、歴代の銀髪の乙女達が記した日記の写本だった。
二代目の銀の乙女がなんとなく作ったものが、今も残り、受け継がれてきているのである。
『ふむ…やはり本国との関係を立て直すことは難しいかしら?エリック』
『あぁ、今の状況を考えるとまるで手が見つからないのが本音だ』
『できればこちらもなんとかしたいのだけども…』
『おいおいめんどくせぇ顔してないでこれでも食おうぜ!フィーリア!』
『うわっ!姉さん突然どうしたの』
『いやさ?かわいい妹が眉間にシワ寄せてたんでちょっと厨房からパンくすねてきた』
『コックのレイさん困ってるだろうな…ちょっと俺いってくるわ』
『ふむ、エリックめ。気を使うとはなかなかできる夫だな』
『私は姉さんから逃げたようにしか見えないわよ』
歴代の銀髪の乙女、と言えば聞こえはいいが。
書いてある内容はごくごく平凡なものである。
「ふぅ、買い物もしたし、帰りましょうか」
「わかった、母さん」
「はーい」
この国は今後も何度かの危機に陥るが、人々は助け合って乗り越えていく。
それは銀髪の庇護ではなく、紛れもなくそこに住む人々の力によって。
彼らには引き継がれていく『あるもの』があるから。
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赤い本を紐解く。
本来、結婚したエルハーベン家の女性しか見てはいけないとされるその本。
その中に書き込まれているのは、純粋すぎるものばかりだった。
▼▼初代銀の乙女:エイミー・ハイゼンより抜粋▼▼
「なぁ、私たちはいずれ死ぬ。でも、きっとそれでも無駄じゃないんだ。わかるか?娘よ」
「むずかしくてわからないよ、おかーさん」
「ははっ、そうかもね。でも、いつかわかるよ。それはきっと凄く大事なことだから」
「残せたって思うんだ、お前や、いろんな人達に、いろんなものをさ」
▼▼芸術の銀:ニーア・エルハーベンより抜粋▼▼
「おかーさんはね?強くもないし、頭もよくないの、でも人を喜ばせてあげることは知ってるの。えへへ、すごいでしょー」
「いや、おかーさん、のんきにいってるけどそれだめだよ!」
「いいのよ。私がやったことを貴方が知ってくれてる。人が喜んでくれてる。それでいいじゃない」
「私には、そうやって元気に笑える貴方がいてくれればそれで充分なのよ」
▼▼建国の双銀:セレス、フィーリア・エルハーベンより抜粋▼▼
「私たちがやってること、本当にいいのかな。姉さん」
「それを判断するのは後の子供たち、私たちは私たちでできることをするだけよ」
「うん…そうね、そうよね」
「じっとしていてもだめなら、少しでも希望を狙ってみましょう。子供達のためにも」
▼▼最後の銀:ナナキア・ハイゼンより抜粋▼▼
「とまぁ私が銀になったわけなんだが、どう思う?セーレン」
「おめで・・・いや、うん。ご苦労様です」
「うん、素直でよろしい。でもまぁ、かーさんの言ってる意味、やっとわかったきがする」
「この本を読んでると思うんだ、私達はいろんな人たちからいろんなものを引き継いでるって」
「てかさ、おかしいと思ったんだよ。銀髪が全員女性って」
「なんだかんだで銀髪のなんちゃらって呼ばれてる人、みんな子供のために何かしようとしてただけじゃない」
「あはは、銀髪の乙女はみんな子持ちのおかーさんかー」
「ま、私もその一人になってるんだから人のこと言えないか…」
「それでおねーちゃんは、えーと・・・フィ・・・・なんだっけ?」
「娘の名前を忘れるな!…フィーナよ」
「そうそう、フィーナのために何をするの?」
「そうだね、何を残そうかな。とりあえず、1つだけは決まってるかな」
「お、なになに?」
「母さんから受けた愛情だけは、そっくりそのまま与えてやろうかなって」
「あぁ、だからフィーリアかーさんに名前似てるのか」
銀髪の乙女は、すべからく普通な人々だった。
あえていうならば、初代エイミー・ハイゼンだけは剣技に突出して秀でた人物だった。
だが、銀髪の乙女達は等しく子供のために精一杯の努力をしただけだったのである。
それが彼女達の努力と、それを支える人々の手によって実を結び、結果として偉大な功績となった。
この本に、彼女達のとても素朴な一面が残されていた。
精一杯の努力をする彼女達はみなまっすぐ成功したわけではない。
それを支えてくれた旦那や子供の存在、様々な絆が彼女達を導いたといえる。
受け継がれていく彼女達の思いは、子に引き継がれ、さらに広がっていく。
ハイゼン公国。この国の領民には言葉無き意志が引き継がれていく。
あえて言葉をつけるならば『銀の意思』とでも言うのだろうか。
子供を愛し、育てる親の心。親に感謝し、相応に恩を返す子の心。
当たり前のことが当たり前として引き継がれただけだが、それがこの国を支えていた。
これは、親から子へと引き継がれていく絆の物語
~Last Link~
~続いていく絆~
...F i n ...
書き込み
1番~10番を表示
02月02日
21:25
1: 一気通貫
長らくお待たせしました。解答となります。
とんでもない長さになってしまいましたが、ところどころの疑問が残るかもしれません。
そういった質問があればお答えしますのでここに書き込んでくださると幸いです!
てかどうしてこんなに長くなった。
02月02日
21:55
2: フレイジア「ヘルムウィーゲ」
大作の執筆お疲れ様でした~
最後まで楽しく読ませていただきました。
しかし最初に少しだけ情報与えられて内容を推理してたんで、
話の随所でなるほど~ってニヤニヤしちゃいますねw
しかし話の大筋は追えてたのに肝心の答えでこけたのが何とも^^;
母は強しって良く言いますし、本当に単純で純粋な答えでしたね♪
と、一つだけ気になったので作法に則ってw
Q:出題時に作られてたのは「物語の大筋」だけで、「完成した作品が作られていた」
という訳ではないのでしょうか?
02月02日
22:16
3: GALM2
( ゚ω゚)血は血で止められないとは、まさにこの事な・・・。
(メ゚Д゚)全くだ・・・。戦争屋の俺達よりも、彼女らの方が一枚・・・いや、それ以上に上手だったって事だ。
改めて執筆お疲れ様でした。<(゚Д゚メ)<(゚ω゚ )
最後に・・・物語とは関係ありませんが・・・。
Q..次回から新規参戦を表明している部隊があるようですが、参加しても宜しいですか?(ォィ)(つまり、新しい顔文字のキャラの登場)
02月02日
22:33
4: 一気通貫
>>フレイジアさん
そのニヤニヤが参加者の特権ってやつですねw
そして母は強しが今回のテーマでもあったりする!
Q:出題時に作られてたのは「物語の大筋」だけで、「完成した作品が作られていた」
という訳ではないのでしょうか?
A:はい、程度の差はあれ「最初から完成した作品」ではありませんでした。
参加者とともに成長する。いわばこの物語は参加者様が作った物語でもあります。
>>GALM2さん
母親は強い。でもきっとそれは助けたい子供がいるから強いんでしょう。
Q..次回から新規参戦を表明している部隊があるようですが、参加しても宜しいですか?(ォィ)(つまり、新しい顔文字のキャラの登場)
A.こちらウミガメ【3杯目】、質問にお答えする。
はい、大歓迎でございます
02月02日
23:44
5: 卯月遥
ながっ!と言わざるを得ない解答作成本当にお疲れ様でした。
いやー、近隣諸国だけではなく私もしてやられました、エリッククラプトンに(ぇ
やり場のないこの怒りを今度ガル何とかさんにぶつけようと思います。(
しかし、期間中に財布を落とすなど、不幸が本気で続いたので…
次回はもうちょっと腰を据えてやりたいものですな(ぁ
1回フライングしてしまいましたが改めて。
一通さん、参加者の皆さん、本当にお疲れ様でした。
Q:コミュ書き込みメール受信をしていた一通さんのパケ代は
定額でなかったら万を遙かに超えていましたか(
02月02日
23:50
6: 一気通貫
本当に長くなりまくってすいませんでした!
でも、それに見合う面白いものになってくれたと信じてる!
そちらも参加どもどもした!
Q:コミュ書き込みメール受信をしていた一通さんのパケ代は
定額でなかったら万を遙かに超えていましたか(
A:ここ二週間で900件オーバー、文字数にするといくらなんだろう・・・
でも所詮メールだし…
いいえ、超えてないと思います!
02月03日
00:44
7: ☆アルル☆
執筆オツカレ~
誤字についてはやっぱ小説読んでると気になったりする所だよねぇ…ウヘウヘ
たまに見かけるから苦笑してしまう…w
それはさておき
Q:物語の登場人物の名前はどのようにして決めていますか?
エイミーの中のハーレムだなんて一気さんエロヒ
02月03日
09:10
8: 一気通貫
誤字はもはや相棒(キリッ
Q:物語の登場人物の名前はどのようにして決めていますか?
A:今回のメインキャラクターは皆直感です。
基本的にわかりやすい名前をつけるようにしているくらいでしょうか
あとはメインの主人公は少し変わった名前とかにしてます。
今回だとナナキアですかー。
02月03日
14:31
9: tizzo
ふぅやっと今さっきウミガメ関連記事見ました。
そして、解答読了。
執筆お疲れ様でしたっ♪
くそう、
イッツーさんのいってるとおり、
柱は見事に一本でやんのーきぃいわかんなかったよー!笑
敵は、
回答で弄ぶイッツーさんと、
かく乱打で迷わせる仲間と、
自分の固定観念、
味方は、
いろんな形のヒントで導いてくれるイッツーさんと、
道に光照らすような快撃放つ仲間と、
自分のひらめき。
深いなぁこのゲーム。
それにしても
この情報の海を泳いでいたなんて…
出題者のイッツーさんもさることながら、
もがきつつ答えへと着実に近づいていった質問者の面々も
すごいといわざるをえない。。w
私もかなりの後半で参戦しましたけど、
すこしはその面々に入れたのかしら…w
次こそは、初手からがっつりいくゼ!
皆々様、お疲れ様でした♪
謎に包まれたあのフィールドの感覚を私は忘れない…!
またそんなフィールドで会えることを願いつつ、
しばらくは休息ですね♪
この間にじっくり充電しておきましょう♪
ええ、三杯目に追われるイッツーさんを除いてねww(ぁ
さて、二杯目ラストくえすちょん。
Q:このゲーム中、イッツーさんが焦る場面は結構あったんですか?w
それとも意外に余裕でした?w
02月03日
15:10
10: 一気通貫
コメント長くて返信しきれねぇ!?
とりあえずウミガメ参加どもどもでした!
さっそく次回のを作ってるよ!いつできるかわかんないけど!
Q:このゲーム中、イッツーさんが焦る場面は結構あったんですか?w
それとも意外に余裕でした?w
A:はい、最初は結構焦ってました
ただ終盤になるにつれていくつか大事な情報を参加者が見つけていないことがわかりまして…
うん、逆の意味であせった!
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