[No Border Friends] トピック

2011年05月17日
21:29

【解答】ウミガメのスープ【4杯目】~くだらない約束~

※注意!※
これはウミガメのスープ4杯目~くだらない約束~の解答になります。
まず問題を見たいという方はこちらのリンクよりお飛びください。
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G計画なんて、大層な名前がついてるだけのありきたりな教育実験だと思ってた。
その計画の研究施設、そこにある学校に入学した私を待っていたのは。

一癖隠した普通な仲間達

読心術などが出来る、正確に人や場の空気を読み取るホワイトキャンバス。
先天的な特異体質で常人の8倍の瞬発力を発揮するビフォーバーナー。
同じく先天的な特異体質で常人の180倍の思考速度まで加速するウインクオアフリーズ。
幼少の頃より少年兵として訓練を受け、戦いきった戦争の申し子ワンスレギオン。
視力を持たず、その影響で聴覚が人間のレベルを超越するほど練磨されたサウンドワールド。

そんな5人との出会いと、淡くて、ゆるやかに迫る闇。
それが、千里能と名づけられた私の出会ったものだった。




ホワイトキャンバスという名前を受けた子がいた。
昔受けた虐待の日々が彼女を少しずつ、しっかりと捻じ曲げていった。
育った彼女は、自分の意思を口に出すことすらできない人になった。
変わりに、周囲に自然に溶け込むほどの把握能力を身に着けた。
そして、彼女の口からは彼女の意思ではなく『そこにいる人や雰囲気に最も適した』発言が出るようになった。

そんな彼女が見てはいけない場所を垣間見てしてしまったことが全ての始まりだった。

ホワイトキャンバスが知ったのはG計画の次の段階。
『健常者に意図的に障害を付加することにより、相対的に能力を開花させる』というもの。
これは聴覚を伸ばすために視力を奪い、コミュニケーション能力を伸ばすために精神をいためること。
子供をまるで実験動物かのように扱うそんなものが、3年後に始まることを知った。
そこでホワイトキャンバスは、切り替わる。
『そのような計画が間違っている』そう判断する人々が現れることなど容易に想像ができ
そちらに共感してしまった彼女は『そのような計画が間違っている』と判断するしかできなくなった。

ホワイトキャンバスに自己は限りなく存在しない。
誰かに、何かに、共感することでその人や形なき意思を模倣することでしか行動ができない人。
そんな彼女が今回は『3年後のG計画を否定する人々』という存在すらしない人になってしまった。
それが、全ての始まりだった。



2004年11月、私たちはバラバラになり始めた。

ホワイトキャンバスがわざと足をつくように情報を残して、誘い出した。
ウインクオアフリーズを、まるで招くようにして。
G計画を潰すためにホワイトが立てた予定は残忍なものだった。

まず、戦力面から考え、一番弱いウインクを。
次に、サウンドワールドを始末する。
そこで、わざとホワイト本人も『仕掛け』を残して一緒に死去する。

突然被験者3人が暴走したとあってG計画は傾き出した。
多方面からこの計画を危険視する意見がどれほど飛び交ったのかは想像にかたくない。
そして、それはホワイトの残していったものでさらに加速する。
ホワイトの意思を引き継いだ私が加速させていった。



2005年2月、G計画が本格的に傾きだした。
それを受けバーナーが動いた。
バーナーは母親の医療費のために計画に参加した子だった。
計画が傾けば当然医療費は出せない、そしてその矛先は私へと向かった。

ホワイトの意思を受けてG計画を止めようと動く私は、彼女から見れば敵にしか見えなかったのかもしれない。
その結果が、バーナーに襲われたということだったのは一種の必然だったんじゃないだろうか。
騒ぎを聞きつけたワンスレギオンと二人でバーナーを止めようとしたのは焼け石に水だった。
身体能力だけで言えば8倍のバーナー。
たった二人でなんとかすることなんて最初から不可能だった。
だからこそおかしかったんだ。なんで『バーナーに私がやられていないのか』ということが。
きっと、彼女にも迷いがあったのかもしれない。いや、あったんだ。
G計画を止めることが正しいのか、続けることが正しいのか。
G計画を止めれば母親が消え、続けようとすれば私と相対する。
そんな迷いがあったからこそ、
バーナーは自爆としか思えない行動を、ワンスレギオンの持つナイフへと真正面から向かうことをした。
もう、皆自暴自棄になっていたんだ。
六人もいた仲間はもう三人になっていた。
追い詰められたバーナーも、何が良いのか、何が悪いのか、見つけられないまま逝った。
そうして、私たちは二人になった。


2005年3月、ホワイトの置き土産がここで動いた。
ワンスレギオン宛に届いたサウンドワールドからの一通のバースデイメール。
しかし、そのバースデイメールの機能を使っただけで、内容は遺書というに等しいものだった。
そこに書かれていたのは今まで起こったことを予見するものだった。
その中でも彼が目をつけたのは『僕は確実に千里にやられる』という一文だった。
当然とも思えることだったがそれを見たワンスレギオンは敵討ちに出た。
親友から届いた、時間を越えた手紙。
それに心動かされないほうがおかしな話であるとも言える。
たとえ、それが『サウンドを語ったホワイトからのメッセージ』であろうとも。

そして、またビフォーバーアーと同じ事件になってしまった。
ワンスもどこかで『このメールはサウンド本人のものではない』と思っていたのかもしれない。
でも、もうそんなことなんて関係ないくらい私たちはボロボロになっていた。
戦って、わけがわからないまま決着がついて、ワンスは逝った。



六人いた私たちも、一人になっていた。
でも、そんなことはもうどうでもいい。
私一人になっても、私たちがすることに変わりはない。
たとえ、どんな結果になったとしても、こんなバカげた計画は潰す。
そうさ、センセーに止められなくても、無駄なことだって私にもわかってる。
だったら、どうすればいい?
私一人のうのうと生きていればいいの?
そんなのは嫌だ、もう嫌だ、こんな場所も時間も嫌だ。

私一人でこのG計画を潰そうとしたけども、そんなことは無理な話だ。
大したこともできずに捕まった。
そして拘束されて、変な再教育をされた。
わかってる。こんなことをしたって、無駄だって、もっとなんとかしなければいけなかったって。
そんな当たり前のことを教え込まされるかのようなものばかりを見せられた。学ばされた。



でも、そんなことも長くは続かなかった。
元々被験者が5人も死亡した計画は、まるで必然かのように頓挫して、私は解放された。
だが、解放されたからなんなんだろう。
仲間はいなくて、私の家だった場所にはもう私の居場所がなくて、倒すべきG計画はもう倒れていて、
もう、私には何もなかった。
とても、あっちの世界に魅力を感じた。
だからかもしれない、勢いよく目の前に走りこんでくる通過列車が。
私をあっちの世界に連れて行ってくれる船頭のように見えたのは。
駅のホームから一歩、トンッと軽く跳ねた。
終わる。これでやっと終わる。


最後の最後で追想したのは、約束だった。
私を出迎えてくれた翌日、バーナーが言った一言だった。
「ねぇ、くだらない約束をしようよ?
 私たちがここを卒業して、そして皆でテレビに出るくらいスゲーことしてさ!
 それで皆に自慢して、5年後の4月に会おうぜ!
 私たちならまぁすっげー余裕かもしんないような世界一くっだらない約束をさ!」
この約束は私の支えになっていたんだな、と今なら思う。
でも、なんでこんな約束をバーナーはしたんだろう。
思いつきにしてはすごく具体的で、あまりにもながったらしい約束。
まるで、前から言う事を決めていたかのような不自然な約束だった。
私は、私たちは、この約束をいつかは守れるんだろうか?
誰も、守れなかった約束を。
守って何かが変わるわけでもない約束を。

目の前が、まぶしい。
白くて、暖かい。
なんてくだらない終わり方だろう。