【ENDING】オーバーライト【4杯目】~くだらない約束~
生気のない瞳。それが六人分。
そんな中、空っぽな声がひとつだけ、響いた。
「ねぇ、ひとつ約束しない?私たちがここに笑顔で戻ってくるってやつ」
皆がその約束を聞き流した。言った当人すら。
そんなくだらない約束なんて、守ってどうするんだ。
誰もがそう思って。
▼End-No.1-『???』▼
―未解放です―
▼End-No.2-『銀と魔術師』▼
G計画は潰れた。
六人の少年・少女たちが結束し、立ち向かった結果である。
社会的に頭目をあらわしたところを叩かれ、ウインクオアフリーズを筆頭に『裏』の顔も徹底的に駆逐された。
悲劇は起きない未来。
バーナーの母親の医療費については、ウインクオアフリーズがそれを工面した。
彼女は元来G計画に研究者の立場として参加しており、それに伴う莫大な給金、及び様々な研究資材を持っていた。
何もかもが大人しく終わりを告げた。
「ありがとなウインクたん。正直おかーさんのことどうしよっかなって思ってたんだー」
「お安い御用よ、バーナー」
遺伝子欠損としての名目で参加していた彼女達。
だが、そんな彼女達を縛っていたのは遺伝子ではない。
「なんかさ、終わってみて、スゲーすっきりしたんだよね私」
「うん、私も。どう言葉にしていいのかわからないけど」
彼女達を縛っていたのは『普通』の差別だった。
自分たちは普通じゃない、皆と一緒にはなれない、共に歩くことができない。
そんな心の壁が、彼女達の能力と、心を縛り付けていた。
「なんだろ、すっげー長い夢を見てたような気がすんだよね、そんな変な感じ!」
「いつも通り、わけがわからないわよ。バーナー」
そして、その縛る鎖がほどかれる。
▼End-No.3-『デコとボコ』▼
「お前は最高の友達だ」
これは、ありえない言葉だった。
ワンスレギオンは、孤立した心を持った少年だった。
その少年がそんな言葉を選ぶことがまずありえないことだった。
だが、それ以上にその言葉をかける相手がサウンドワールドであることがなおありえなかった。
僕からかける返事は、決まっている。
「そうか、じゃあ君は最悪の友達だ」
『俺たちなら勝てる、なのになんで何もしない?』
―なぜ今もそこを引きずっているのはどうしてだい
『なんでワンスって僕のことをサウンドって呼ばないんだい』
『そんなことかよ、それはな―――ただ、呼びたくねーだけだよ』
―ワンスレギオン、君は最初から僕の正体に感づいていたんじゃないか
『お前は最高の友達だ』
―君が僕にしたことを、僕は忘れない
「最悪の友達か……少しほっとした」
「ほっとした?」
「あぁ」
そう言ったワンスの顔はまるで憑きものが落ちたみたいな顔をしていた。
「安藤匠という名前も、経歴も、サウンドワールドという能力も才能も…化けの皮だって俺はしっかり気づいてた」
「――うん、薄々気がついてた」
「お前に……いや、貴方に俺からかける言葉は本来ありません」
「そこまでわかっていながら、なぜ戯れ言を口にしたんだい?」
今の僕はサウンドワールドではなく、『素の』僕であったかもしれない。
だが、そんなことは今は関係ない。
「俺は自分がガキだってことはわかってる。言葉に重みなんてないさ、でもな」
ワンスの眼光が鋭く、僕を、僕を通して先を、遠く遠くを見つめる。
「俺の目的は、あんたを助けた時も、今ここにいる時も変わっちゃいねぇ」
「…今更青春漫画かい」
バカみたいにまっすぐなワンスから出たのは、同じようにまっすぐな言葉。
その言葉に込められた熱意と真剣さは音から確かに伝わってきた。
「きっと、俺とあんたはデコボコなんだ」
「うん、まぁ確かにそうだね」
「だろ?だから『このまま』でいいって思ったんだ」
「? わけがわからないんだけど、どういうことだい?」
「俺は、今でもカレル=レングイッツという人物を最高の戦友だと思ってる」
「――そう」
「わかれよ、カレル。あんたと俺は結局最後までチグハグだった。
でもな?今俺はそれでよかったんだって思ってる。今も、昔もだ」
あぁ、そうか。気づいた。
ワンスレギオンという少年はいつのまにか――
「もう一度言ってやる、カレル=レングイッツ。
あんたは俺の最高の友人だ」
「……変わってないな。やっぱりワンスは―いや」
「レグニム=バーニス、君は最悪の友人だ」
後ろを歩いていたと思っていた少年は、気がついたら前にいて、手を差し伸べていた。
たった、それだけの話。
何もかもを背負っていた気になっていたのは、自分の殻の中だった。
そうじゃないと、知った。
そう、きっとこれはよくある自意識過剰な過ち。
でも、そこに見える光明がとてもとても眩しいものだった。
今なら、今の僕なら思える。考えられる。
心許せる友を、横に歩く未来を
∥『ビフォーバーナー、ウインクオアフリーズ』リカバリします∥
「うっ…またかよまぶしっ……」
∥『サウンドワールド、ワンスレギオン』リカバリします∥
「んぁ……目あけらんねぇ…」
「お?」
ワンスのうめき声に反応してバーナーがそちらを振り向く。
瞬きを繰り返して、光をゆっくりと取り込んでいく4人に近づく人影がいた。
「遅いよー、皆」
「あーごめんごめん、カナ姉……え?」
千里能として存在していた少女が、4人の目の前に確かにいた。
他の4人のような白衣のような患者服ではなく、しっかりとした私服で。
「『治療プログラム』終了だよ。おめでとう」
「……待てや、センリ。治療が必要なのは6人じゃねーのか、後二人いるはずだろ」
「いや、真剣なところ悪いけどワンス、残りはホワイトとカナタだからいても後一人だよ」
「………うるせー!寝起きだから間違えたんだよ!」
「…カナタ、残りの2つの医療カプセルを開くことはできるかしら?」
「ウインクたん…?」
カナタはコクンと頷いた。
「開くことは難しいけれど、窓から覗くくらいなら大丈夫だよ」
「そう、ありがとう」
二人のやりとりを見守る3人は、未だにカプセルから中途半端に身を起こして様子を見守る。
少しだけたどたどしい足つきで、開かないカプセルを覗き込むウインク。
「……なんで私はこれを確認しようとしなかったのかしらね」
「それが『解答者』の考えだからさ」
「っ……!」
二人の様子を見守っていたバーナーはゆっくりと声をかける。
「……ウインクたん、いったいどうしたってのさ?」
「――いないのよ」
「いない?」
「千里能、柊彼方なんて人物は初めからいなかったのよ。『この中にはね』…!」
そうして拳をガンッとカプセルに叩き付けるウインク。
「…それについて詳しい話は後でするつもり。ごめんね」
静寂、険悪な空気それを破るのはのんきな声。
「あー?んーむ、わからんけどどういう状況よこれ?」
「そうだね、ゆっくり種明かしをしようか。まずは完治おめでとう、みんな」
4人を見回して、カナタはウンと頷いた。
「これにて『治療プログラム』は終了です。皆これからリアルでの生活を頑張ってね」
「……あれ、でもえっと、カナ姉を抜いてもホワイトたんがいるんじゃ?」
「あ、それはね…3回前からずっとなの」
3回前、その言葉を判断した4人は動きが止まった。
「おい、待てセンリ。じゃあ、なんだ、ホワイトはいつからこの状態なんだ?」
「…かれこれ2年になるかな。私じゃホワイトは助けられなかった」
「カナ姉……」
「だから、『解答者』に任せたの?貴方は」
「そう、私の人格をプログラムとして参加させ、頼った。私じゃどうしようもなかったから」
再びの沈黙がゆっくり降りてくる。
「ねぇ、もしかしてこの医療プランは初めからホワイトのためのものだったのかい?」
そこに口を開いたのはサウンドだった。
「違うよ、あくまでホワイトは一人の被験者。そこに優劣はないつもり。例外があるとするなら、私だけだと思う。私はただね――」
つ、と開かないカプセルを見てから、カナタは口を開いた。
「ホワイトを……姉さんを助けたいだけなんだ」
「え、助けりゃよくね?」
「いや、バーナー…お前もうちょっと空気読めよ?」
「うっせーなーワンスー。助けられるんだし助けようっていってんだよ」
「あん?」
「バーナー、一応期待してないけど。何をするのさ?」
「いや、決まってんじゃん。カナ姉を出撃させるのさ」
無邪気なバーナーに、ふぅとカナタはため息をついて答えた。
「今まで何度も何度も私は―」
「プログラムじゃなくて、カナ姉本人がいくのが大事なんだよ。きっとホワイトたんは気がついてるよ、カナ姉が偽者だって」
「だからさ!もっかいやってみようよ!きっとなんとかなるって!んじゃお先!」
∥『ビフォーバーナー』ダイブしました∥
「せっかちね、バーナー。それじゃ、私もお先に」
∥『ウインクオアフリーズ』ダイブしました∥
「ここまできたんだし、最後まで付き合うよ。二人のために」
∥『サウンドワールド』ダイブしました∥
「……あー、くそ!言葉がでねぇ!助けんぞ!いいな!」
∥『ワンスレギオン』ダイブしました∥
「……あはは、なにそれ。なんでこうなるんだろ。今まではもっとドライだったのに」
「うん、いってきます」
∥『千里能』ダイブしました∥