[ECOでの小説を書いている人の集い] トピック

2012年08月23日
14:23

お題を拾って1レスショート!

  • 下記のお題を一つ使い、1レス(一回の投稿で収まる)ショートストーリーを書いてみませんか?
    ルールは簡単。
    ・お題を一つ選ぶ。
    ・それに沿ったストーリーを一回の投稿で収まるように書く。(一回の投稿であれば長さは自由)
    ・お題が重複している場合は宣言したお題を優先とします。(でないと、職業がスキル使って転職したら【職、スキル、転生】の三つが埋まってしまいますからねw)
    ・一行目は『』でお題を表記する事。
    ※“自分が過去に書いた小説の1シーン”を使用する事は構いません。

    お題は以下のものとなります。
    ①種族(エミル、タイタニア、ドミニオン 、DEM)
    ②職業【F系(ソードマン系、フェンサー系、スカウト系 、アーチャー系)、SU系(ウィザード系、シャーマン系、ウァテス系、ウォーロック系)、BP系(タタラベ系、ファーマー系、レンジャー系、マーチャント系)、JJ系(ブリーダー、ガーデナー)】
    ③転職、転生
    ④髪型、服装(武器、職服、鎧など)、
    ⑤イベント、
    ⑥スキル、経験値、レベル、
    ⑦フレンド、PT、リング、
    ⑧飛空庭、飛空城、
    ⑨憑依、師弟、
    ⑩マリオネット、ペット【ネコマタ(オートマタ)、守護魔、アルマ、武神】、
    ⑪タイニー、ダンプティ、
    ⑫モンスター、
    ⑬宝箱、コンテナ、ドロップ、
    ⑭合成、強化、融合、属性、
    ⑮イリスカード、
    ⑯HEARTシステム、
    ⑰演習、
    ⑱NPC【メイドのおねーさん、六姫、騎士団や町や各イベントのキャラなど】、
    ⑲街、ダンジョン、各地のフィールド、
    ⑳歌詞、キャッチフレーズ(「僕が君の盾になる、そして君が僕の……」など)

    さぁ、レッツトライ!

    ※現在、フリーの1レスショート投稿場所になっています。

書き込み

1番~21番を表示

次を表示

2012年
07月15日
12:31

お題⑱より『六姫』

俺はいつものように、北平原の六姫の前のテーブルで遅めの朝食を取っていた。

「相変わらず、のんびりとした奴じゃのー? 皆はもう既に出かけておると言うのに……」

お団子頭の少女が呆れた顔でため息をついている。

「しかたねーだろ? 昨日はいろいろあってな」

俺は昨日出会ったタイタニア少女との顛末を話した。
……そう言えば六姫さまもいくつなんだ?
年端も行かないように見える割に、口調はババ……ゲフンガフン。
……女はわからんな、奥が深い。

「……何を考えておる?」

そして勘が鋭い、と。

「まぁいい。そう言えばの、その娘かどうかは知らぬがお主を探しておるタイタニアがおったぞ?」
「へぇ、よろしく言っておいてくれ。」

少女、ともすれば幼女とも見える六姫は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「どうじゃ? 久しぶりにわらわのクエストを受けてみぬか?」
「冗談キツいぜ、あんたの頭にはもう俺があげた奴がついているだろ? 欲張りはいかんな~」

幼女は顔を真っ赤にした。

「な……何を言うか!! そのタイタニアの娘にどうじゃと言っておるのじゃ」

以前洒落のつもりでクエストを受け、大きなリボンを手にしたのだが、渡す人もおらず、自分で付ける訳にも行かないので六姫様にあげたって訳だ。
そうしたら、何て言ったと思う?
片方のお団子につけて、

『片方では格好がつかぬからもう一つ欲しいのう』

だとよ。
そのおかげで666匹を二回、1332匹も狩る羽目になった訳だがそれはまた別の話。

転載元:「フリージアの咲く丘で」
http://estar.jp/.pc/_novel_view?w=10418887#38

2012年
07月15日
21:13

⑲より『街』

 白いもやの向こうで、女の子が泣いている。
 名前はなんていったっけ…。今、どこでどうしているんだろう。
 記憶を無くした男の子は、無事彼女のもとに辿り着いただろうか…。
 ふと、女の子は笑顔になった。どこかの白い街。たくさんの仲間たち。あの男の子の姿もある…。
 ああ、よかった。ハッピーエンドになったんだね。よかった…。
 やがて目の前の幸せな光景はゆっくりと遠のき、代わりに明るい光が白いもやを割って入って、拡がっていく。
 あの女の子が、この先もずっと笑っていられたらいいな。
 一瞬、そう思った気がした。

 ここは、いつでもない場所、どこでもない時間。
 過去も未来も、あらゆる次元のあらゆる出来事が記された書物が集う場所。
 まどろみからさめて大きく伸びをした僕は、また一冊の本を手にとってみる。
 次は、どんな物語に出会えるだろうか。

2012年
07月16日
02:27

⑳より『歌詞』

「エミルっ!あぶないっ!」

「え?」

刹那。

エミルの視界がガクンと下がる。そして、目の前に見慣れたブーツ、見慣れたズボン。

「あ・・・れ・・・?」

次の瞬間にやってきたのは激痛。焼けるような痛み。意識が飛びそうになる。そして意識が切れる直前目の前の見慣れたものがついさっきまで自分の物だったと気付く。

「イ・・・イ・・・イヤアアアアァァァァァァ!!!」

ティタの悲鳴に全員が我に返る。目の前にいたのはデスだった。死神が実体化した悪魔系の魔物。大きな鎌を持ちその動きはとてつもなく速い。

「タイタス!エミルを!蘇生だ!ティタ!オマエもそっちだ!」

ベリアルの言葉にタイタスはエミルの上半身とティタの腕を掴んで隅へ移動する。ルルイエはエミルの下半身を抱えるとタイタスの元へ走る。エミルだった2つを地面に並べ、ルルイエはベリアルの加勢へタイタスは蘇生魔法を開始する。

「クソッ!『熾天使(セラフ)ラファエルのみなにおいて、体を覆いし2対の羽が羽ばたきしとき、降り注ぐ厄災の全てを浄化し全てを癒す風となれ!熾翼の風(アレス)!』還ってこい!エミル!」

ティタはエミルの袖口をギュッと掴み、わんわん泣くばかり。

「ティタ!おまえも詠唱してくれ!アレスで体をつながないとリザレクションが使えないんだ!わかるだろ!時間がないんだ!ティタ!」

タイタスの言葉も周りの音もティタの耳には何も入っていなかった。ただ泣きじゃくり、詠唱どころではなかった。そんなティタの姿を見ていたルルイエがティタの元へ駆け寄り、

「いい加減にしなよっ!」パーーーン

おもいっきりティタの頬を打つ。ティタは何が起こったのか理解できずに、泣き止んで呆然とする。ルルイエはティタの胸ぐらを左手で掴むと、もう一度ティタの頬を打つ。そして両手でティタの胸ぐらを掴みなおし、

「ティタ!いい加減にしなっ!アンタが泣いてる間にもエミルの命は消えていくんだよっ!アンタ、エミルのこと好きなんでしょ!守ってあげるんでしょ!」

ルルイエの物凄い剣幕にティタは現状の深刻さを実感する。そして・・・

  愛する人を守りたい
  この人を守るために私がアナタの盾になる

ティタの脳裏によぎった言葉・・・。私がエミルくんに出会って、話して、触れ合ってそうして生まれた偽りの無い言葉そして想い。胸の奥から熱いものがこみ上げる。

「ティタ!忘れたの!アクロニアの冒険者の・・・」

「忘れてないっ!私が!私がエミルの盾になるっ!」

ティタはルルイエの手を振りほどくと、エミルの方へ振り向き詠唱を始めた。

「『熾天使(セラフ)ラファエルのみなにおいて、体を覆いし2対の羽が羽ばたきしとき、降り注ぐ厄災の全てを浄化し全てを癒す風となれ!熾翼の風(アレス)!』」

ドルイド二人による治癒魔法は強力なものだった。切断された体はみるみる結合していき、傷がドンドン塞がっていく。体に刻まれた傷跡はもう跡形もなく治癒していた。タイタスは汗を拭いながら、ティタの肩にそっと手を置き

「さぁ、仕上げだティタ。エミルに生きる力を与えるんだ。」

タイタスの言葉にティタは小さく頷くと両手をエミルの心臓辺りへ置き、静かに詠唱を始めた。

「『熾天使(セラフ)ラファエルのみなにおいて、体を覆いし2対の羽を広げ給え。そして神への愛と情熱で燃え盛る体その炎で、今消えかからん命の灯火に生の力を与え給え。慈愛の熾(リザレクション)』」

ティタが詠唱を始めだすと両手から赤い炎のようなオーラが溢れ出し、エミルの体に吸い込まれていく。そして詠唱が終わると同時にエミルの止まっていた呼吸が・・・

転載元:「キサラギ第21話 ココロのかけら~ティタ篇2~」
diary_171078

2012年
07月17日
15:42

お久しぶりです。参加させていただきますw
お題:①『種族』


世界の中心とも呼ばれる都市。アクロポリス、アップタウン。
交易都市として機能するこの街は、冒険者たちの支援を行う大組織。
ギルド評議会があるため、多くの冒険者が集っていた。
その露店街に、一際目立つタイタニアの青年がいる。
アークタイタニア・タイタス。
彼もまた一般の冒険者のうちの一人だが、今日の彼は両腕で紙袋を持ち、人ごみを掻き分けるようにすすむ。
広場に出たところで、見覚えのある姿を見つけた。

「あら、タイタスじゃない。どうしたの? その荷物」
「ルルイエとベリアルか。夕食の材料を購入していた」

荷物を下ろし噴水に座っていた二人と向き合う。
二人は、イクスドミニオン・ベリアルとドミニオン・ルルイエだ。

「タイタニアには、辛そうな荷物だな……」
「……最近仲間になった、ルクスとリリの分が増えたからだ。単純計算でも8人分。少なくはない」
「いつも悪いな……」
「料理が嫌なわけではない。気にするな」
「そうか……? ならせめて荷物持ってやるよ」
「お、お前などに手伝われずとも、このぐらい……」
「遠慮すんなって」

遠慮の言葉をいう前に、荷物はすべてベリアルのもとへ、
持つべき荷物は無くなったが、自分より年下の相手へ屈辱を感じる。

「タイタニアは歩くのが苦手だろ? こんな荷物じゃ飛べないしな」
「……気に入らないぞ。ベリアル、癪に障る」
「はいはい。わかったからいくぜ」

流されてしまった。無理やり取り戻そうと前に出た時、タイタスはルルイエに肩を掴まれる。

「ちなみに、今夜のメニューはなんなの?」
「カレーだ」
「あら、楽しみにしてるわ。それじゃ私は買い物があるし後でね!」

そう言ってルルイエが立ち去る。
目立たない場所へ庭を下ろすため、飛空庭空港へ向かっていると、タイタスがはっと頭を上げた。

「しまった。白米を購入していない」
「はくまい? なんだそれ」
「カレーの主食だ。すぐに入手しなければ……」
「何いってんだ? カレーといえばナンだろ?」
「は?」
「ナンに付けて食べるのがカレーだろ?」
「貴様は何の話をしている。カレーは白米へかけるものだろう?」
「そもそも白米ってなんだよ。冥界ではカレーはナン煮付けるものだって昔から――」
「冥界の事情がどうであれ、カレーには白米。ナンなど、天界では祭り時期に売っているジャンクフード以下の食べ物だ」
「てんめぇえ、ナンを馬鹿にしやがったな!!
あれはカレーの調味料を最大限に引き出せる最高の食べ物なんだよ! 白米とかいうわけのわかんねーものにつけて食べるより、カレーそのものの味を楽しめる。最高だろうが!」
「馬鹿が! 白米こそ至高だ、過去のタイタニア達がありとあらゆるもので食べ合わせを試し、その中でも庶民にも手の届く最も美味な食材こそ、白米。これは天界の歴史書にも乗っていることだぞ。間違っている訳がない」
「天界の事情なんてしるか!!」
「冥界の事など、興味の対象にはならない」

睨み合う二人。
お互い一歩も譲らないが、大声で口論したため、野次馬の中に、白米派とナン派の派閥ができていた。
その真ん中を割く様に、タイタニアとエミルの少女を連れた少年エミルが現れる。

「こんな所で何してるの?」
「あら、お兄様。ごきげんよう」
「やぁティタ」
「ベリアル君も……どうかしたの?」
「すこし譲れないことがあった。それだけだ」
「譲れないこと?」
「お兄様、なにがあったのですか?」
「あぁ……。今日の夕食をカレーにしようと思ったのだが、そこの不届きもののドミニオンが、
カレーはナンで食べると言い出し、対応に困っていた所だ」
「てんめぇ……。白米こそ邪道だぜ。天界の貴族さんは頭が硬くてこまったもんだ」
「貴様……」
「言い過ぎですわ、お兄様。落ち着いてくださいまし」
「あぁ……すまないティタ。俺とした事が、たかが庶民の考え方に熱くなってしまった」
「てめぇ、反省する気ないだろ……」
「申し訳ございません、ベリアル。ですが私もナンは食したことが御座いませんので……」
「ちっ、エミルはどっちなんだよ?」
「え」
「白米かナンだよ。どっちをつけて食べるんだ? エミル界なら両方あっただろ?」
「確かに昔から両方あるけど……」
「ならエミル界での食べ方で決着しようではないか、ベリアル」
「おぉいいぜ。乗ってやる」
「えーっと、カレーの食べ方でいいのかしら……?」
「おう。言ってやれ。ナンだろ」
「白米に決まっている!」

「というかそもそも、カレーって飲み物じゃないの?」

…………。

***

ルルイエ「あら? 今日はカレーじゃなかったの? タイタス」
タイタス「ベリアルとの唯一の和解策がこれだっただけだ」
ベリアル「認めたわけじゃないぞ、タイタス。次は――」
ティタ「お兄様のシチューは最高のですわ」
タイタス「おかわりがあるから、沢山のたべるといい」
エミル「シチュー。久しぶりだけど、やっぱりおいしいなぁ」
マーシャ「カレーの文化の違いはあっても、シチューは三世界共通なのね」
リリ「液体なのにこんなに美味しい……」
ルクス「温度が少し高めだ。ゆっくり食した方がいい」
ベリアル「少し混ぜれば温度がさがるし、たべやすくなるぜ?」
リリ「ベリアル……ありがとう」

にっこりと笑うリリにベリアルが赤面。
ルルイエはこっそりと笑い、タイタスはティタにおかわりを装った。
マーシャはエミルの口についたシチューを拭い、全員にお冷やを注ぎ直す。

これは、後に世界を救う冒険者たちの日常の1ページだ。

END



見ていただいてありがとうございました。

2012年
07月18日
11:50

久しぶりに書いてみました。
お題は⑭より『融合』

 エミルとタイタス、そしてルルイエは武器の融合を依頼すべく、フシギ団の砦にある聖女の島に住むというヨーコさんの元を訪れていた。

「すみません、この武器とその武器の融合をお願いしたいんですけど」

 エミルの言葉に、ヨーコさんはにこりと微笑んで頷いた。

「ええ、構わないわよ。えっと……この武器との融合ならこれだけかかるけど大丈夫かしら? あと必ず成功するわけじゃないから、失敗することもあるって理解しておいて」

「大丈夫だ。それよりも、良質の剣を手に入れたはいいが、重くて使いにくいから融合で重さをごまかしたいだなどと、軟弱なエミルを――」

「あぁ、はいはい。そこまで。えっとお金はこれでお願いします」

 タイタスの言葉を制したルルイエは、ヨーコさんの提示した金額を支払った。

「それじゃあ、始めるわね」

 エミルたちはヨーコさんが武器の融合を行うのをじっと見つめて待っていた。

「ねぇねぇ、ヨーコさん」

 やがてじっと待っていることに飽きてきたのか、ルルイエがヨーコさんに話しかけた。

「装備品の融合が出来るってことは、人と人の融合も出来たりしないの?」

「またルルイエは、漫画の影響を受けたのか……」

 ルルイエが最近ハマっているという漫画では二人の人間が融合し、倍以上の力を引き出したりするのだ。

「そんなの無理に決まってるじゃないか。ほら、変なこと言って、ヨーコさんを困らせたら――」

「出来るわよ」

 ヨーコさんの言葉に、時が止まった。

「ほ、ほんとに!?」

 目を輝かせて詰め寄るルルイエ。驚きに目を見張るエミルとタイタス。

「じゃ、じゃあさ、ここのエミルとタイタスを融合したりとかも?」

「ええ、大丈夫」

「な、何で僕がこんなやつと!?」

「そ、その言い方は傷つくなぁ……」

「あ、でも」

 ふと思い出したように、ヨーコさんが人差し指を立てた。

「必ず成功するわけじゃないから、失敗することもあるって理解しておいてね」

「し、失敗……?」

「失敗すると、どうなるの?」

 ヨーコさんはにこりと微笑み、

「あしゅ○男爵みたいになるわ」

「絶対嫌だ!」

「却下する!」

「面白そう!」

 エミルとタイタスは逃げるように小屋を飛び出していく。

「ふふ、冗談なのに。はい、約束のもの、ちゃんと成功したわよ」

「えぇ……冗談なんだ」

 本気で残念がるルルイエに、ヨーコさんはいつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべるのだった。

 END


タイトル付け忘れてたのであげ直しました><

2012年
07月18日
18:03

お題は⑮『イリスカード』

◇リリの迎撃を妄想の赴くままに改変、改悪、もはやキャラさえ別物なので、これはパラレルだと言い訳する。

――――――――――――――――――――――――――――

 遥か遠く、遠くに思える地平線、砂塵が轟々と舞っているが見える。敵が迫っているのだ。遠からず、ここは戦場になるだろう。
 ヘルサバーク。熱砂の砂漠が肉体を焼き付け、砂を纏った風が喉を塞ぐ。ここはヘルサバーク。見ての通り地獄だ。もっとも、DEMにとってはこの程度の砂漠など設備の整った司令室とそう変わりないものだろう。

 熱砂の地獄にリリは立っていた。
 この場所は、きっと思い出の場所。リリはここが戦場になるのが残念でならなかった。
 しかし、思い出は自分で持っている。記憶は自分で持っている。
 あの男の事を思い出す。熱砂の地獄で出会った、あの男を。

        ◇

「なんだ、無愛想なDEMだな」と、男は言った。
 ―砂漠に人間?
 およそ人が存在出来ると思えないほどの地獄で、リリは男と出会った。
 髪はボサボサ、顎には無精ひげを生やし、清潔感などとはまるで無縁。見るからに怪しい風体の男だ。
 リリは男を見上げる。やけに背が高い。いや、この場合”長い”と言った方がより男の風体を正しく表現出来るだろう。

「無愛想」リリは男の言葉を反芻する。
 自身のディスクを検索するが、見つからない。
 ――ネットワークデータベースへアクセス。言語を検索、発見。

「人に接するときの態度。愛想のないこと。そっけないこと」
「そうだ」
「私は無愛想」
「そうだ」男は繰り返す。


「俺の知っているDEMは笑う」と、男は言った。
「笑う、笑顔」リリが男の言葉を反芻する。
 言語は――ディスクに記録されていた。笑顔、一部の生物が行う感情表現の一種。主に嬉しい時に行う表現だ。リリは笑わない。それも当然、DEMは生物ではない。無機物のはずだ。なのに笑う、DEMが笑うのだと男は言う。
 センサーを起動。体温、発汗、心拍数に異常なし。嘘は――ついていない。
「そうだ」
「なぜ」リリが問う。
「思い出すんだ」
「何を」
「記憶を」
「なぜ」
「記憶は美しいものだからだ。思い出は美化されるものだからだ」
「記憶。私も持っています」
「それは、記録だ」
「同じです」
「違う」
「なぜ」
「お前は笑っていないからだ」
「記憶があれば笑う?」
 リリの問いに男は、
「思い出は笑うんだ」と、答えた。


「俺の知っているDEMは歌う」と、男は言った。
「歌う」リリが男の言葉を反芻する
「そうだ」
「私も歌う」
「お前は歌えない」男が否定する。
「歌えます」
 ネットワークデータベースへアクセス。適当な言語で検索。リリは最初に見つけた曲を自身のディスクへダウンロードする。データを解析。リズム、音程をインプット。
 ――再生。
 美しい音色が辺りに響く。水に透き通るような高音、地に落ちるような儚げな低音。ここがステージなら喝采を受けるほどの歌声だろう。
 男は無表情にそれを眺めている。無感動に眺めている。
 やがて男が口を開いた。
「それは歌じゃない」
「歌です。声帯パーツを震わせ、声を発しています」
「腹で歌うんだ」
「腹で歌う」
「そうだ」
「腹部から声は出ません」
「声帯を震わせるだけならスピーカーと変わらない」
「お腹で歌う?」
 リリの問いに男は、
「腹は奏でるんだ」と、答えた。


「俺の知っているDEMは夢を語る」と、男は言った。
「夢」リリが男の言葉を反芻する
「そうだ」
「私たちは眠らない。夢を見ない」
「違う」
「何が」リリが問う。
「夢は語るものだ」
「夢を語る」
「そうだ」
「私は夢を語る」
「お前は夢を語れない」
「なぜ」
「心がないからだ」
「心がないと夢を語れない?」
 リリの問いに男は、
「心は夢想するんだ」と、答えた。
 
        ◇

 久しく思い出していなかった記憶が蘇り、リリの表情がわずかに綻ぶ。それは笑顔と言うには小さすぎる変化ではあったが、紛れもなく笑顔といえた。
「どうした、リリ」不審に思ったルクスが問いかける。
「思い出は笑うのよ」と、リリが答える。
「笑う?」
「そうよ」
「何を言っているんだ。敵がもうそこまで来ている」
 遠く、地平線の彼方に見えていた砂塵は、いつしか手の届きそうなほどの距離にまで迫っていた。
 ルクスは装備の最終確認をしている。背面に装備したイェーガーがこれから戦闘が始まるのだと否応なく思わせた。

 ふと、歌が聞こえた。
 ルクスは辺りを見渡す。この歌は?
 それは曲というよりは音色に近く、歌というよりも詩を思わせた。
「ルクス、お腹は奏でるのよ」と、リリが言った。
「さっきから何をやっている」

 立ち登る砂塵から敵の姿が現れる。戦闘が――始まろうとしている。

「ルクス、あのね」
「なんだ」
「この戦いが終わったら、私エミル界へ行きたいわ」
「何を言っている」
「夢よ」
「何を言って――」
「心は夢想するのよ」

 ――敵が迫る。

「さあいきましょう、ルクス」

 リリの迎撃が――今、始まった。

2012年
07月19日
02:03

お題は⑤イベントでやらせていただきます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は2月13日

バレンタインを前日に控えたアクロニア大陸中で種族に関係なく淑女も熟女も”聖戦”に備えある者はカカオ豆の成る木を狩りつくし、そしてある者は失敗合成物になると分かっていても至高のチョコを完成させるべく、常識では辿り着けないオリジナリティーという名の資源の無駄使いに連日徹夜で挑み続けていた。

そんな中、その聖戦に身を委ねようとしている集団が続々と集まっていたのである。

「諸君、いよいよ”あの日”まで後、1日となった訳だが準備の方はいかがだろうか?」

「「「問題ありません隊長!!!」」」

「よろしい、では早速だが今年の”アレ”の物価はどうなっているか報告してもらおうか・・・」

”隊長”と呼ばれた幹部用のフシギ団マスクを被った男が椅子に座ったままそう告げると、集まった集団の人込みをかき分けて1人のマスクを被った男が報告書を持って集団の最前列に現れた。

「今年も例年通りLVキャップの引き上げによる高LV冒険者への報酬の増加により物価は急激に上がるとの情報をマーチャントギルドから報告を受けましたであります!」

「うむ、計画通りで何よりだ。そして材料班、準備の方はぬかりはないだろうな・・・?」

隊長が再び集まった同志に告げると、今度は筋肉質の男が周囲に響かせるように大声で叫びながら報告を始めた。もちろん、この男もマスクを着けている。

「押忍!この日の為にファーマーギルドの連中にも同志を募り、材料を確保させておきやした。押忍!」

「素晴らしい、これで今年も計画を実行にうつすことができそうだ。」

隊長が重い腰を上げ、椅子から立ち上げると集まった同志に向かい、高らかに宣言した、決戦の時はきたと!!!

「では諸君、今ここに我らフシギ団の一世一代の作戦を実行にうつすことを今ここに宣言する!!!」

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」

「お前ら、俺達の目的はなんだ!!!」

「「「チョコをくれない女どもへの復讐!!!」」」

「そうだ!毎年朝から晩までアジトの前に整列して待っているにも関わらず、いつもクエストを受けさせてやってる冒険者(チョコくれるのはかわい子ちゃんのみで可)はおろか、フシギ団に所属しているにも関わらずチョコを渡そうともしてくれない団員への、アクロニア大陸に怨嗟する亡者・・・モテない男の声の代弁だ!!!」

「「「ちくしょーーーー!!!!」」」

「「「チョコ欲しいよ~~~!!!」」」

「「「奇跡のチョコもらったリア充全員爆発しろ~~~!!!!!」」」

「そこで、我々は来る明日のバレンタインに乗じ、チョコのぼったくり露店を開き、自分の想いをチョコに込める勇気のない女達から金を荒稼ぎしてやろうじゃねーかーー!!!」

「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」

「立てよ同志、時は来た。今こそチョコをくれなし女どもにフシギ団のモテない男の底力を見せつけてやろうじゃないか!!!」

こうして、モテない男達によるどうでもいい復讐劇が静かに幕を開けたのであるが、彼らの知らない所で今回の作戦に参加していないフシギ団員=女性陣が密かにチョコを用意してくれていることを彼らは知らない・・・。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日記で書いている小説そっちのけで即席で書かせていただきました。

そのうち、日記の方も更新したいと思ってるので、今回のも含めて多くの人に読んでもらえれば幸いです。

2012年
07月19日
17:55

お題⑨より『師弟』


「さて」
頬を2~3度叩き、椅子に座り直した。
「始めるぞ、分からなければ途中でも聞いて構わないからな」

俺は手始めに危険なモンスターについて話した。
一体一体は大した事はないが、集団で来られると少々厄介なバウやコッコー。
次にスノーウルフやポーラーベアなどの少々危険性の高い敵、戦っていると加勢に来る蜂類についても話した。
最後に敵が落とす物を加工して、金に変える方法。

「……ってな訳だ」
「ほむ……」

こう書くと偉そうに見えるが……何て事は無い。
俺も出会った人たちに教えてもらった事を教えているに過ぎない、まとめた訳では無いのでとりとめのない形になるのは仕方がないだろう。
そりゃそうだ、本来経験は積み重ねる物であって詰め込まれる物ではないからな。
それより俺が驚いたのは、くまぷぅは一度習った事は忘れないみたいだ。
なかなか吸収が早い。
なかなか優秀な生徒に、俺も口の端が緩む。

「やるじゃねぇか」
「へへぇ~」

頭をポンっと叩いて微笑むと、彼女も微笑みを返す。
相変わらずしまりの無ェ顔して笑ってやがるな……。
俺と変わらない年令してるなら、もう少し色気が出ても良さそうなものなんだが……

     くぅ~……

……こいつから色気が出る頃には、俺はきっとブレードマスターに転職している事だろう。
俺はため息を一つつくと、顔を真っ赤にして俯いている彼女の肩を軽く叩いた。

「メシにするか?」

クマぷぅは無言で頷く。
俺は軽く笑うと、彼女の頭をくしゃっと撫でてメシの用意を始めた。

「むー。」
「何だ? もうすぐ焼けるから待っていろ」

料理の最中、突然彼女はうなった。

「ただ焼いただけなのに、どうして先生のは味が変わるんですか?」
「あぁ、それはな……」

ついには料理まで講義をする事になった。
まぁ、これも一緒に旅をした農家の女性から習ったものだが。
良い生徒に恵まれ、俺もつい指導に熱が入る。

「……盾があると便利ですねぇ~」
「まぁな。だが、両手武器の破壊力は魅力的だ……これから先、硬い敵が現れるかもしれんからな」

何杯目かの茶を飲み干し、俺は新しい茶を沸かす。

「でもぉ、受け切れなくなりませんか?」
「まぁな、避けるにも限界はあるわな」

りんごを剥きながら、俺は続けた。

「お前ならどうするね?」
「う~ん……」

  カン、カン……

俺はナイフの背で肩当てを叩いた。

「鎧の厚い部分を使うのさ。弱い打撃は払い、重いなら受け止める」
「ええ~っ!? 痛いですよぉ~」
「達人なら武器と鎧で弾いて、無傷で白熊くらいなら倒す。まぁ、食らう前に倒すだろうがな」
.
.タイタニア少女は目を輝かせ、俺の話を聞いている……つか、魔術師に白兵戦を教えても仕方無いとは思うが。どこで知識が役に立つか分からないからな、いつかパートナーとなる剣士が……

    ……剣士が?

「先生?」
「ん? あ、あぁ……」

何だ?
今の感覚は……

気が付くと、空はいつのまにか夕焼けで赤くなっていた。
色白のタイタニア少女の頬をさらに赤く染めている。

「今日はこれで終わりだ、明日は実技に入る」

俺はいたたまれなくなり、逃げるようにその場を後にした。

.

2012年
07月19日
18:27

お題②の『職業』にてやってみます。

「エミル君の職って何だっけ?剣士?」

マーシャは僕に職を聞いた。僕の職は・・・

「僕の職はエクスプローラー。ソードマン系じゃないよ」

「そうだったのね! いつも剣を持ってるイメージがあったからよくわからなかった!」

「マーシャは杖を持ってるけど、トレーダーだよね」

マーシャは当然のように思ってそう答えた。

「うん、あたしは商人よ」

こうして僕とマーシャが話していると、シスコン(失礼)のタイタス、可愛いタイタニアのカーディナルのティタ、ドミニオン族のカバリストのベリアル、スカウト系の職をしているルルイエが来た。

「よぉ、エミル。エミルってブレイドマスターだっけ?」

「あたしも知りたかったですわ。剣士でしたっけ?」

「私も同じく、エミルがソードマン系か聞きたくって」

「僕も同じく・・・・」

エミルはブチ切れた。

「俺はエクスプローラーだ。剣士じゃない!俺はエクスプローラーなんだッ!」

エミルはキレると一人称が俺になってしまうのである。

「あはは、そうか、でも、お前がエクスプローラーじゃ"エミルの剣"を装備できないな」

「うんうん、あれはエミル君の武器がモチーフだったと思いますわ」

「そーだよね~、何でエミル君はエクスプローラー何だろう」

「うん。多分、俺はエクスプローラーに向いてるんだよ!!!」


今日も風が吹いている、みんなへと恵の風を吹いている。
今日もその何気ない日常の中、エミル君たちは楽しく過ごしているのである。

2012年
07月19日
20:45

お題⑬より『宝箱』


土埃とすえた臭いが広がる洞窟の中程、一人の若いレンジャーが返り血で重くなった靴底を時たま地面に擦りながら進んでいる。
その前方には曲がり角があり、宝箱が一つ鎮座していた。
レンジャーは周囲を警戒し一度立ち止まって耳を澄ます。
角の先には動く物の気配は無かった。レンジャーは幾分か気を緩めつつも落ち着きを損なわず、慎重に宝箱との距離を詰めていく。
このレンジャーの敗因は同業者への警戒が足りなかった事だろう。
レンジャーの後ろにはクローキングで気配を絶ったアサシンの女が居り、華麗な足捌きでレンジャーを追い抜いていった。
余裕を持って宝箱の前に着いたアサシンはクローキングを解き、笑みを浮かべながらレンジャーへ振り返る。
「箱を狙う時は一秒でも早く取りに行かなきゃダメ。たとえ周りに人が見えなくても、ね」
その助言と共に後ろ手で箱へ触れようとした刹那、一発の鉛玉で宝箱が大きく揺れた。

ガシャン

遥か後方の薄闇の中にガンナーの女がライフルを構えて立っている。
「残念でした。それあたしのだからね!」
今日も宝箱を廻る争いは絶えない。

2012年
07月19日
21:34

みんなの小説に感想とか書いちゃおうかw

>>4 詠羅さん
タイタスがアークタイタニアでベリアルがイクスドミニオンさんなんですねー!
驚きです。知らなかったよぉー。

カレーは飲み物wwww 凄く笑いました。

>>5 *レンシア*さん
ドラゴンボールネタっぽいのにウケた

>>7 サプレスさん
続きが気になります!

>>8 更良さん
良い話だったが、色々気になる所がある。弟子さんって剣士じゃなくて魔法使いなのなの?そしてスノーウルフってなーに?ECOのモンスター?

>>10 ふーしさん
レンジャーさんかわいそう。警戒とか・・・
アサシンじゃなくてガンナーさんもいたんだね!

2012年
07月20日
23:34

13: 四季

お題は⑦フレンド、PT、リング

書いてる途中の人がいそうなお題ですが、気にせずどーんと投稿。

追記:誤字脱字が多いので修正してUPし直しました。

「例えば、一つの冒険について」

――――――――――――――――――――

 轟と爆ぜる音がした。
 冒険者風の男が周囲を見渡す。その轟音を発したと思われるようなものは見当たらない。どうやらずいぶんと遠くから聞こえたようだ。
 西の空を見上げる。既に太陽は地平線に半分ほど身を隠していた。アクロポリスまではまだ遠い。急がねば野宿をする羽目になってしまうだろう。しかしどうにも気になる。男は音がした方向へ大体の当たりをつけ、足を向けた。

「これは、飛空庭じゃないか」
 勾配のある丘を抜けたところにそれはあった。思っていたよりも近くに落ちたようだ。
 比較的、小型な飛空庭のようだが、それでも立派なものだ。――いや、正確には”立派だった”だろう。
 土台のバオバブの幹は腐食し、朽ち果て、回転帆は穴だらけ。家に至っては原型を留めていない。恐らく落下の衝撃で破壊されたのだろう。これでは墜落するのも無理はない、と男は思った。
 男は飛空庭に近づく。周囲に気を配るが、どうやら怪我人はいないようだ。

「中に人がいなければいいが……」
 この朽ち具合から見て、放置されていた飛空庭なのは間違いないだろう。しかし、もしそうでなかったら目覚めが悪いし、なにより冒険帰りの一杯がまずくなるのはごめんだ。男は家だった瓦礫をかき分け始めた。

 その作業がある程度進み、衝撃で抉れた地面が見え始めたころ、男は瓦礫の中から一冊の本を見つけた。
 埃にまみれた古びた装丁の本だ。ずいぶんと分厚い。手に持つとその重みがずっしりと両手にのしかかる。
 どうやら日記のようだ。家主のものだろうか。男は手を止め腰を下ろす。他人を日記を開くのに少しばかり気が引けたが、ここまでしたんだから日記の一つくらい読んだって罰は当たらないだろう、そう男は自分に言い訳をして日記を開いた。

 所々かすれて読めないが、その日記はこんな一文から始まっていた。

          ◇

 □――――年―月―日
 くそ!くそ!あのくそ親父!いきなり殴りやがった!!なんだってんだ!!
 俺が冒険者になりたいって言ったらいきなりパンチだ!挙げ句お前が冒険者になれるわけないだろう、なんて言いやがる!
 くそ!俺はごめんだ!商人なんかに絶対にならねえ!俺は冒険者になるんだ!
 あのくそ親父みてえに毎日毎日朝っぱらからキャリアー引いて夜遅くに辛気くせえ面して帰ってくる、毎日の楽しみといえば一杯の酒くらいだぜ?やってられるか!俺はごめんだ!
 危険なダンジョンに潜り、凶暴なモンスターと命をかけて戦い、皮を剥ぎ、宝を探し、仲間と分かち合う。時にはボスモンスターだって狩るんだ。俺はそんな冒険者になる!
 絶対に冒険者になってやるぞ!!


 □――――年6月22日
 やっと準備が整った。
 俺は冒険者になる。やっと夢が叶うんだ。何も言わずに出ていけばお袋は心配するだろう、くそ親父は……知らねえ。でも、俺は商人なんか嫌なんだ。
 来たる冒険にワクワクして眠れそうにないが、明日は早い。出発の朝に寝坊なんてゲンが悪いしな。朝まで冒険の予行練習でもしていよう。


 □――――年―月―日
 仲間が出来た。
 初心者向けのダンジョンで出会ったやつだ。
 夜通しこれから始まるだろう冒険について語り合った。妙に気が合う。聞けば奴も反対されて実家から飛び出したクチだそうだ。
 俺は明日からこいつとパーティーを組む。
 一緒に強くなるんだ。


 □――――年4月―日
 リングを作った。
 初めはあいつと二人だけのパーティーだったが、次第に一人、二人と人数が増えた。
 だったらリング作らないか?
 そういったのは俺だった。
 みんな賛同してくれた。
 リングマスターはあいつに決まった。言い出したのは俺なんだから――ってあいつは言ったが、俺は断った。マスターなんて柄じゃないしな。
 あいつは気配りも出来るし良い奴だ。何より強い。きっとこのリングは大きくなるだろう。


 □―――5年7月―日
 仲間が一人、死んだ。
 俺たちにはまだ早いダンジョンだったんだ。
 リングから死者が出るのは初めてだ。でも、冒険者に死はつきものだろう?
 そう言ったらあいつ、俺をぶん殴りやがった。
 くそ。俺が悪いのか。


 □―9―6年1月―日
 仲間がまた死んだ。
 まだ入ったばかりのノービスだった。これから鍛えてやろうと思っていた矢先の話だ。
 最近はなんだか上手くいかない。
 体の動きも鈍くなってきた。既に老兵というのか。いや、そんな訳がない。
 俺はまだ戦える。大丈夫だ。


 □―9―1年6月2―日
 あいつがリングを抜けるって言いやがった。
 リングマスターのあいつだ。理由はなんと、これが笑えるぜ。
 実家の農業を継ぐんだとさ。
 俺たちだっていつまでも若くない、だそうだ。
 なんだったんだ。
 俺たちがあの語り合ったあの夜は嘘だったのか。
 もういい。
 あとは俺がやる。
 お前はせいぜい畑でも耕してろ。


 □―9―3年3月8日
 仲間が死んだ。
 俺たちは新しく発見されたディメンションダンジョンのボスに挑んだんだ。
 俺の計算では倒せるはずだったのに。
 くそ、仲間をもっと増やさないと。


 □―9―3年3月19日
 リングを潰した。
 俺のせいじゃない。俺のせいじゃないんだ。


 □―9―6年6月23日
 最近は体がずいぶんと重い。
 今まで3時間程で到着していたダンジョンに6時間以上もかかるようになった。
 おかげで冒険は早朝からの出発で、飛空庭に戻る頃にはもう深夜だ。疲れも取れない。
 昔は仲間が大勢いた。
 ダンジョンから帰ったら収穫を山分け、たらふく飯を食って酒を浴び、そのまま雑魚寝だ。
 それが今ではもう、一杯の酒が唯一の楽しみになってしまった。
 俺がなりたかった冒険者はこれだったのか?
  違う、こんなはずじゃなかったはずだ。

 俺は一体、どこで間違った。


 □1992年6月22日
 思えば、私は臆病だった。

 凶暴なモンスターと命をかけて戦い、皮を剥ぎ、宝を探して、仲間と分かち合う。時にはボスモンスターだって狩ってみせる。
 そういう冒険者に、私はなりたかったはずだ。
 しかし……

 私は、臆病だった。

 私は、弱かった。

 私は、守られていた。

 私は、一度だって冒険なんてしていなかった。

 そして何より致命的だったのが、私がそれに気づくのに40年の時間を要したことだ。

 親父の言っていた事は正しかった。
 私は冒険者になんてなれなかったのだ。 
 やり直したい。出来るのなら、やり直したいと思う。

 しかし、それはもう叶わぬことだ。

 だからせめて、今から始めようと思う。

 私が不甲斐ないばかりに
 私を置いて行ってしまった仲間達のところへ。

 私が弱いばかりに
 追いつくことが出来なかった仲間達のところへ。

 今から始めよう。冒険を始めよう。

 その冒険はきっと、
 凶暴なモンスターと命をかけて戦い、皮を剥ぎ、宝を探して、仲間と分かち合う。時にはボスモンスターだって狩ってしまうような、そんな冒険になるだろう。

 さあ、出発だ。

 心躍る冒険が、私を待っている。

 仲間達が待っている。

          ◇

 日記はここで終わっている。
「1992年……」
 男は周囲を見渡す。

 腐食したバオバブの幹、

 穴だらけになった回転帆、

 無残にも朽ちた家、

 20年の歳月が、そこにはあった。

 日記を閉じる。

 思えば、長い間実家に帰っていない。

 男はゆっくりと立ち上がり、アクロポリスに背を向けた。

2012年
07月21日
19:17

⑯HEART

 淡いオレンジ色が、小さな暖炉の中で揺らめいている。
 ゆらゆら、ゆらゆら。
 時折吹く隙間風でわずかによろめくものの、すぐに元の形に戻り、何事もなかったかのようにすまして揺れている。
 それは単に木材の急激な酸化によって光と熱が生じているだけの現象なのだが、私はメモリ上のある部分を刺激されて、じっとそれに見入っていた。
 炎と煙に満たされた戦場の光景。父親の亡きがらに取り縋って泣く少女。私と数体の仲間たちは、すでに彼女の周りを取り囲んでいた。
「ころセ」
 頭の中で声が響く。
 なぜだか私は武器を構えることができなかった。
「ころセ」
 再び、声が響いた。さっきよりも大きく。それでも私は動けない。
「ころセ、ころセ、ころセ!」
 やがて声は大音量となり、次第に私の頭の中を埋め尽くしていく。仲間が少女に銃口を向けるのが見えた。
 次の瞬間。
 何が起こったのかは、はっきり記憶していない。確かなのは、私がその場で仲間たちを全て破壊したこと。
 そして、その日から「イレギュラー」として仲間たちから追われる身となったことだ。

「やあ、外は寒かったでしょう。どうぞ。温まりますよ」
 永遠への北限と呼ばれる雪と氷の大地に住む男は、イワンと名乗った。彼は私をイグルーへと招き入れ、何やら湯気の立ちのぼるカップをテーブルの上に置いたのだ。
 私は暖炉に向けていた視線を男へと移し、礼を言ってカップに手を伸ばしてみた。
「…甘い」
 一口飲んで思わず顔をしかめた私を見て、イワンはわずかに顔を崩した―つまり、笑った。
 この世界に辿り着いた私を助けてくれた博士は、ヒトは楽しいことがあると笑うと言っていた。ならばこの男は、今何か楽しいことがあったのだろうか。
「砂糖がたくさん入ったミルクですからね。かなり甘いですが、こんな寒い日はこれに限る」
 そう言って自分のカップにもミルクを注いでから、イワンは私の向かい側に腰を下ろした。
「それで、私が以前に助けた御仁からのご依頼でしたか。うーん…すみません、心当たりがないなあ」
「私はあなたにこれを渡すように頼まれただけだ。受けとってくれ」
 差し出したのは、一輪の透き通った氷の花。何か魔法でもかけられているのか、幾分暖房の効いたこのイグルーの中でも全く溶けていないようだ。
「これは…なんて綺麗な氷だろう。それにとても美しい彫刻ですね。本当に…私がもらってしまっていいのでしょうか?」
「私にこれを託した者は、あなたへの感謝の気持ちだと言っていた。…ヒトでは、ないようだったが」
 それを聞いた彼は一瞬呼吸をとめ、どこか遠くを見るような仕草をしていたが、やがて思い当たることがあったようだ。短く息を吐き出すと、こちらに視線を戻してゆっくりと頷いた。
「なるほど…そうでしたか。届けてくれてありがとうございました。とても嬉しかったと、伝えて下さい」
 彼は笑顔だったが、先程の笑ったときの表情とはどこか違う、もっとやわらかい笑顔のようだった。
 博士は嬉しいと「幸せ」になると言っていた。ヒトは「幸せ」になったときも笑うものらしい。
 いつの間にか暖炉の火が強くなっていたのだろうか。イグルーの中の空気が、急に暖かくなったように感じられた。

 あの日、炎と煙の中で頭に響いた声は、今はもう聞こえることはない。

 見渡す限りの平原を貫く街道は穏やかで、帰りの道のりは順調だった。あともう少し行けば、遠くにアップタウンの町並みが見えてくるはずだ。
 空は青く高く、空気は澄んでいる。私は歩を進めながら、もう何度目かもわからない問いかけを、また繰り返していた。
 あのとき、仲間たちを裏切ってまで少女を助けたのはどうしてだったのだろう。私はずっと答えを探しているのに、それは未だ見つからないままだ。
 ヒトと関わっていれば、いつかわかるのかもしれない。そう分析した私は、冒険者として様々な仕事の依頼を引き受けて暮らしている。
 不意に、かすかだが甲高い声が聞こえた。悲鳴というべきだろうか。思考に沈み込んでいた頭を切り替え、周囲の状況を確認する。
 ヒトの少年と、ビーと呼ばれる巨大な蜂のモンスターの群れだった。距離、およそ300メートル。私は走り出していた。
「うわああああ、お母さん、助けて!」
まだ10歳くらいの少年と、近くには母親らしきヒトもいる。しかし二人とも地面に座り込んで逃げようとする気配もない。…いや、恐怖というもので動けないのか。周りを3匹のビーが取り囲み、威嚇するように羽を鳴らしている。そのうちの一匹が、攻撃に移るべく身体を傾けた。
 間に合わない!
 とっさのフォームチェンジ。マシナフォームへ。スラッシュディレイキャンセル発動。視界の端に、目を見開いたまま固まる少年の姿が流れた。
 手前のビーに狙いを定め、胴体の一番細い部分へ横なぎの一閃。手ごたえあり。同時に素早く身をかがめた次の瞬間、鋭い針が頭上をかすめた。振り向きざまに放った一撃はビーの背中をとらえ、切り飛ばされた羽が宙を舞う。
 残り、一匹。
 最後のビーを正面にとらえ、間合いを見極める。居合発動。巨大な蜂は、真っ二つになって地面に転がった。
 敵勢力の全滅を確認、マシナフォーム解除…私はまた、考えるよりも先にヒトを助けるために動いていた。
 少年は、無事だった。つかの間呆然としたまま座り込んでいたが、振り向いた私と視線が合った瞬間、びくりと身をすくませた。
 それから、慌てて背を向け母親のほうへと走り出す。
 …私も、恐怖の対象なのだろうか。無理もない。私は元々ヒトを狩るために作られた兵器だ。通常時のヒトに近い姿ならまだしも、戦闘時のマシナフォームは完全に異形の存在。少年の母親も、こちらを見たまま震えているようだ。
 そう、寂しいことだけれど、仕方ない…。…寂しい?…これが寂しい、という気持ちなのだろうか…?
「お姉ちゃん!後ろ!」
 不意に声がした。たった今母親のほうへ去ったはずの少年がこちらへ向かって走ってきている。手には細い木の枝が握られていた。
「…どうした?」
 向けた言葉とすれ違うように私の傍らをすり抜け、そして。
「このっ、このっ、このっ!」
 彼が一心に木の枝を叩きつける下には、羽を切り飛ばされたビーが横たわっていた。何とか起き上がろうと震えながら上体を動かしているが、胴体の先についた針を振る力も残っていなかったようだ。やがて、ぱたりと地面に崩れ落ちた。
「はあ。はあ。お姉ちゃん、やっつけたよ!はあ。はあ」
 肩で息をしながら振り返る少年は、得意そうな笑顔。今度は私が呆然とする番だった。
「…私が怖くて逃げ出したんじゃないのか…?」
「ううん、ちょっと怖かったけど、でも、モンスターが起き上がろうとしてたから、危ない、助けなきゃって。お姉ちゃん、いい人なんでしょう?」
 まだ荒い息で途切れがちになりながらも、答える少年。私の中のどこかの回路が、プツンと切れた。
「は…」
 思わず、口をついて出た音。
「は…?」
少年が怪訝そうな顔をする。
「はは…は」
 戦闘用の兵器である私が、こんな小さなヒトの子供に助けられた。
「ははははは」
 怖がられたと思ったら、戦うために戻ってきた。あんな細い棒切れを持って。
「はははは、あはははは」
 私は、お姉ちゃんで、しかも、いい人、だそうだ。
 なぜだか私は止まらなくなった。これは「嬉しい」だろうか、それとも「楽しい」だろうか。笑うのが止められなくなった。
 いつまでも笑い続けている私の隣で、少年は困ったように見上げてくる。
 きっと遠からず探していた答えは見つかるだろう。
 何だか、少し強くなれたような、そんな気がした。


―――――――――

誤字・改行忘れ修正して再投稿m(__)m

2012年
07月22日
14:46

⑩のお題で小説を書きます。

俺はファイヤードラゴ。3年前、ウィンと呼ばれる少年に出会った。
ウィンと呼ばれる少年は毎日ノーザン地方で狩りをしていた時期があり、ぺペンを倒した時にファイヤードラゴの卵を手に入れたらしい。
そして、軍艦島で俺は誕生して成竜した。

「ウィン、今日は何処に行くんだ?」

「スノップ追分に行くよ!」

スノップ追分。そこは北側は雪で覆われている土地で、南側は果物の木とかがいっぱい生えてる土地。
こうして俺が走っていると、ウィンは寝ていた。
飼い主が動かないということは俺も動くのをやめよう・・・

バウが俺へ攻撃してきたら反撃。そのほかはずっと俺がウィンのことを守る。
ウィンは俺の飼い主だから・・・


そんな日が毎日続いた・・・

「ウィン、最近俺とスノップ追分行くとき途中で眠りすぎだぞ」

「そーだっけ?気のせいだよ。いや・・・気のせいじゃないか。追分でドラゴに乗るのが気持ちいいんだよ」

そーなのか。そんなことを思っていたのか。
でもさ、もし、バウの猛攻で俺が倒れたら無防備じゃないか。その状態でバウの群れにウィンが殺されてしまったらどうするのさ。
こんな危険なこと、やめてほしい。

と思いながらもウィンのことを思い、襲ってきたバウに反撃をし続ける。



こうして数日後。

眠ったウィンと俺の前に2人の冒険者が現れた。
1人は髪の短い男のようだ。見たところウィンと同じエクスプローラー、いや、三次職のストライダーかもしれない。
もう一人は金髪のストレート髪のエミル族のギャンブラーのようだ。

「放置ペット育成をやめてもらえないでしょうか!」

放置だと!? ウィンがずっと俺のことを放置するはずがない。
3年前に出会い、ずっとずっとウィンと俺はパートナーだった。
背中にウィンを乗せてよく走った。ウィンと友に成長していった。
ペット仙人によって転生もしてきた。

「俺は・・・放置育成じゃないっ!」

「ど~みても放置育成じゃん。ストラ、そのドラゴ倒しちゃっていいかな?」

「ギャン。いいぜ。邪魔な存在は消えてもらおうか!」

ギャンと呼ばれたギャンブラーの少女はなにやら、色々な効果を発揮した。
そのうち、ガスは俺にも影響し、凍りつき、石化し、猛毒に犯されつづけた。

「ふふ、エニグマはもういいでしょう!」

こうしてると、スロットが発生し、アルカナハートが3匹現れ、アルカナハートたちは俺へ攻撃を放ってきた。
俺は猛毒の影響で瀕死の重傷

「ギャァァァアアアアアアアアア!!!!」

俺はアルカナハートのパンチを受け、力尽きた。その後、アルカナハートたちは5分間の間、ウィンのことを殴り続けていた・・・




そして次の日

「ウィン。どうして放置育成なんかするんだ」

「だって、友達がみんなやってるし、ウィンもやればって言ってきたんだぜ。やるのが当たり前な感じだったし、ペットは放置が一番成長するって教えてくれたんだ!」

「ふむふむ。確かに放置育成はひとつの手段かもしれない。でも俺は放置育成は嫌だ。ウィンと毎日一緒にいたい。ウィンと共に成長したい」

「でも・・・」

「放置したら他の冒険者の迷惑になる。放置以外のやり方を探して、ウィンと俺は共に最強のドラゴンライダーになろうじゃないか!」

「うん、わかった!」

こうして、俺とウィンの放置育成は終わり、ウィンと俺はお互いを相棒と思い続け、冒険を再開するのであった。


-------------------------------------------------


今回の小説はスノップ追分でのファイヤードラゴ放置してる人が多い為、それを題材に書いてみました。
放置せずに育成したほうがペットへの愛が感じる、ペット放置は少なからず他のプレイヤーの邪魔になる危険性がある。その2つがポイントですね。
まぁ、ギャンとストラのコンビが迷惑プレイヤーなのではとも思いますが・・・

2012年
07月24日
16:21

16: 四季

お題は⑫モンスター

『MONSTER』

「ヨハン!どこにいる!ヨハン!返事をしてくれ!」
 男が必死の形相で声を上げ、迫るアンデット達を次々になぎ倒す。
「ヨハン!どこなんだ!」
 男が再び声を上げる。しかしその呼びかけに答える者はいない。男はそれでも叫び続ける。息子の名を。アンデット城で行方不明になってしまった息子の名を呼び続ける。

 俺、父さんみたいな冒険者になりたいんだ。それが息子の口癖だった。
 こんな事になるのなら、いっそあの時止めていればよかった……男の心中にはそんな後悔と、アンデットへの深い憎悪に満ちていた。
 そう――男は息子を呼ぶ声を上げながらも、その生存を信じていなかったのだ。
 しかし、それは無理もない事だろう。ダンジョンで行方不明になった冒険者の末路など、一つしかないのだから。男とて長年冒険者としてならした身だ、それくらいは理解していた。覚悟だってしていた――つもりだった。

 我が子に限って――そう思う親を誰が責める事が出来るだろうか。
 きっと、それを責める事が出来るのは当人以外には存在しないのだ。

 男は責め続けた。
 自身を責め続け、責め続け、やがて耐えきれず体から溢れだした負の感情は、息子を奪ったアンデットへの憎悪と変わった。
 剣先に憎悪を、心に後悔を抱き、男は迫り来るアンデットを切り裂き、なぎ払い、打ち砕いた。

 同じく息子を失い、悲しみに暮れる妻の元へ帰る事もせず、男は戦って、戦って、そして極限まで疲労が蓄積されればその場で気絶するように眠った。

 制圧したはずの部屋で、どこからか現れたアンデットに寝込みを襲われる事もあった。
 腹が減れば、腐食したアンデットの肉を喰らい、体液を啜り、骨をしゃぶった。
 
 男は戦い続けた。
 腐臭漂うアンデットが占拠する部屋をたった一人で制圧し、次の部屋へ向かう。
 それを何度も繰り返し、やがてフロア全てを制圧すれば、次のフロアへ。

 そんな事を何度も繰り返し、繰り返し。

 そして――
 一年の歳月が経った。

 男は未だ、戦いの中にいた。
 もはや息子の名を呼ぶ事もない。自身がなぜ戦っているのかもわからない。
 それでも男は戦い続けた。
 憎悪だけを剣先に込め、アンデットを切り裂き、なぎ払い、打ち砕いた。

 そして――
 さらに一年が歳月が過ぎた。

 遂には男の体に異変が現れる。

 疲労が訪れないのだ。

 戦っても、戦っても、まるで疲労が感じられない。眠気さえもだ。
 男は戦い続けた。
 一日が過ぎ、一週間が過ぎ、そして一ヶ月が過ぎた。
 男は一ヶ月もの間、休息も取らずに戦い続けた。その様はもはや、悪鬼の類いであった。

 男に訪れた異変、2年間の極限状態が男にもたらした決定的な変異。致命的な異常。

 ――半球睡眠
 
 睡眠さえままならない男の二年間がもたらしたものは、もはや人間が持ちうる能力を逸脱していた。
 
 右脳を休める時は、右目で敵を捉え、右手に剣を握り、右足を軸にして戦った。
 左脳を休める時は、左目で敵を捉え、左手に剣を握り、左足を軸にして戦った。

 交互に脳と体の休息を取る男に、もはや睡眠は不要だった。

 男は戦い続けた。
 腐臭漂うアンデット達が占拠する部屋をたった一人で制圧し、次の部屋へ向かう。
 それを何度も繰り返し、やがてフロア全てを制圧すれば、次のフロアへ。

 男は戦い続けた。

 そして遂に――男はアンデットを殲滅した。

 一匹残らず――駆逐したのだ。

 この時、男が戦い始めてから五年の歳月が過ぎ去っていた。

 アンデット城の玉座を前にしても、もはや歓喜の声さえあがらない。
 いや――そうではなかった。
 五年の歳月は男から言葉さえも失わせていたのだ。

 男はゆっくりと、玉座に腰を下ろし、瞼を閉じる。

 意識が暗い底へ落ちていく。 

 三年振りの深い、深い睡眠。
 
 男は玉座で眠る。
 
 どこからか湧き出てくる憎悪だけを抱いて。


「おい、あんたどこに行くんだ」
 身の丈をゆうに超える大剣背負った冒険者の男の背中に、商人風の男が声を掛ける。ファーイースト地方を取り仕切るギルド商人の男だ。

「ああ、アンデット城だよ」冒険者は答える。
 すると、みるみるうちにギルド商人の男は顔を青ざめさせ、
「……やめときな」と呟いた。
 ギルド商人の尋常じゃない様子に、冒険者の男は鼻を鳴らす。余裕、といった表情だ。
 それもそうだろう。冒険者の男が背負う大剣は一見するだけで、その使い手がどれだけの手練れか、素人だって理解出来るほどの一品だ。
 
「忠告なら結構。相手を間違ってるよ。昔は不覚を取ったけど、今はこの通り。あそこのアンデット程度なら問題ないさ」
「……あそこにアンデットはいねえ」
「何言ってる、あんなにいたアンデットがいなくなるわけないだろ?」
「……いなくなったんだよ」ギルド商人が繰り返しうわごとのように呟く。

「はあ……まあいいよ。いないならそれはそれで好都合だ。俺の目的も済ましやすい」
「やめとけ!」
 声を荒げるギルド商人に冒険者の男は肩をぴくりと震わせる。
「一体なんだっていうんだ」

 冒険者の問いかけに、ギルド商人はその青ざめた顔を真っ白にして、こう言った。
「あそこにはいるんだ」



「MONSTERが」


――――――――――――――――――――――――――
最後までご覧頂き感謝です。
以下、あとがきというか蛇足というか。

タイトルから既に落ちが読めてるってゆー。
よくあるミイラ取りがミイラ落ちですね。
最後の方に一応伏線っぽいものを回収しているんですけどどうなんでしょ。
わかりやすいかな。そうでもないかな。

2012年
07月25日
02:22

お題⑥から、『スキル』で書かせていただきました。


 『チェンジ!』


「たあぁっ!」

 裂帛の気合と共に一閃。
 その身に深く剣をめり込ませたモンスターが断末魔の悲鳴を上げて、地面に倒れ伏す。
 それと同時に、私の中で新しい力が目覚めようとしているのが分かった。

「来た……ついに、このときが来た……」

 私は今にも歓喜に叫んでしまいそうになる心を必死で抑え込んだ。それでも口からこぼれた囁きにも似た言葉は、誰の耳に届くことなく消えていく。
 そう、ついに念願だったあのスキルを覚えるときが来たのだ!


 さて、いきなりではあるが、諸君らに問いたい。
 諸君らは大きい箱と小さい箱、お土産にどちらかを選べと言われたら、どちらを選ぶだろうか?
 豊穣と不毛、どちらかの土地を選べと言われたら、どちらを選ぶだろうか?
 断言する。そう、大きい方がいいに決まっている! 大は小を兼ねると昔の言葉にもあるように、特殊な一例を除いて、ほぼすべての人が大きい方を、豊かな方を選択するはずだ。
 だが、世界は不平等に出来ていた。
 豊かな実りを手に入れる者もいれば、地平の果てまで続くとしか思えない不毛な土地しか手に入れられないものもいる。
 そして、私は手に入れられなかった。
 生まれてから今まで苦節、十八年。周りの子たちが実りを手に入れていく中、私だけがいつ育つかも分からない苗木を見守り続けた。
 しかし、ついに私もこの新たなスキル、スタイルチェンジで生まれ変わるときが来たのだ! 私の苗木は緑豊かな大樹へと成長を遂げるのだ!

「ふ、ふふふ……」

「ちょ、ちょっと……大丈夫? なんか黒いオーラがにじみ出てるけど……」

 パーティメンバーとして一緒に戦っていた親友が引きつった顔で私の方を見ている。
 おっと、いけない。今すぐにでもスキルを習得して、使いたい衝動に駆られるが、それだとクール系で通っている自分のイメージにそぐわない。
 私は深呼吸すると、何でもないように親友へと微笑んでみせた。


 今の流れでお分かりいただけただろうが、私は貧 乳なのだ。同年代の子たちがたわわに実っていく中、私だけがぺったんこ。分かるだろうか、この屈辱、そして焦燥を。
 上位転生。今の肉体を捨て、より強大な力を受け入れることの出来る新たな肉体へと昇華する儀式。以前の私はそれにすべてを賭けた。
 しかし上位転生で手に入れた肉体は、以前の私の体の情報をベースに作り上げられたもので、夢にまで見ていた成長を促すことは出来なかった。
 それはもう落ち込んだ。一生、この貧相な体と付き合っていくしかないのかと絶望した。
 だが、希望はまだあったのだ。
 スタイルチェンジ。このスキルが私を救ってくれる。

「暗くなってきたし、今日はここまでにして宿に戻ろうか」

 私の提案に親友は頷き、私たちは帰還用アイテムの時空の鍵を使って、拠点となる町へと戻ったのだった。


 宿に戻った私は早速部屋に閉じこもり、スタイルチェンジのスキルを習得した。
 このスキル、驚くことにレベルが三段階――おそらく微 乳、美 乳、豊 乳と選べるのだろう――もあった。
 もちろん使うのはレベル三だ。それ以外ありえない。

「さようなら、今までの私。そしてこんにちは、新しい私っ」

 劣等感を手放し、恍惚感に身を任せ、私はついにスタイルチェンジのスキルを使った。


 そして翌日。
 旅支度を終えて宿の外に出ると、先に外で待っていた親友が目を丸くして私の方を見た。

「な、何かあったの……? 凄く暗い顔してるけど……」

「は、ははは……何でもないよ」

「で、でも……」

「何もなかった……そう、『何もなかった』んだよ……」

 スタイルチェンジというスキルは、使用するレベルに応じたステータス付与を与えるスキルであり、肉体的なスタイルとはまったく関係のないスキルだったのだ。
 さようなら、夢にまで見た未来の私。そしてこんにちは、劣等感にまみれた昨日までの私。
 今日の狩りで、この鬱憤をモンスターにぶちまけてやろうと心の中で決意し、私は親友を連れて、街を出ていくのだった。

2012年
07月25日
21:08

④から、服


 アクロポリスシティ、ダウンタウンの一角。古びた木造の貸店舗の二階に、それは存在する。
 ―逃走中実行委員会。 
 逃走中とは、賞金を賭けて決められたエリアをハンターから逃げ回る、鬼ごっこのような競技だ。逃げ切れば全てを手にし、捕まれば全てを失う。
 今やアクロニア全土で大人気―と言われるにはまだまだ遠いものの、委員会スタッフは日々地道な活動を続けている。
 そんなある日の午後。
「…あ。衣装の数が足りない」
 唐突にエデットは声をあげた。会議の合間の小休止で、スタッフたちは各々寛いでいるところだ。
 委員長であるヨウが、コーヒーをすすりながら振り返る。
「衣装って、ハンターの?」
「そう。ハンターの、礼服(黒)。足りないのは…ネコの分だね」 
 ネコは、次回開催でハンターを担当するスタッフだ。
「ええーっ、私の分!?」
 少し離れた場所で頬杖をついていた当事者・ネコは、慌てて寄ってきた。
「あれって、アップタウンの露店にも全然売ってないよね。大丈夫なの?本番は明日だよ?」
「うーん、たぶん大丈夫。最悪、高めの値段で掲示板で募集すれば手に入るよ」
「ホントに大丈夫?」 
 なおも不安そうなネコに、エデットは胸を叩いて請け合った。
「大丈夫、大丈夫。私が責任持って探しておくから、安心して他の準備して」
 実際、礼服(黒)は多少レアな品ではあるものの、特に値の張るものでもなく、探せば簡単に見つかるはずなのだ。
「…さて、ネコの言う通り明日は本番。気合い入れて会議の続きいくよ!」
 ヨウの一言でスタッフたちは休憩を切り上げ、会議が再開された。


 翌日、本番の日の正午近く。アップタウン露店街。
「ない…全然売ってない…」
 エデットは思わず呟いていた。
 昨日の会議が終わった後と今日の午前中にあちこち探してみたが、礼服(黒)を扱っている店は一件もなかったのだ。掲示板に取引条件と連絡先も載せたが、梨のつぶて。本番までの時間は刻々と近づいていた。
「どなたか、礼服(黒)を譲ってくれませんかーっ」
 半ばやけくそ気味に声を張り上げてみるものの、それさえ周囲の喧騒にあっさり吸い込まれ、振り向いてくれる人さえいない。
 エデットは泣きたくなった。
「あれ、エデット?」 
 不意に後ろから声をかけられた。振り返ると、リフレだった。委員会に所属してはいないが、逃走中スタッフが女性ばかりのため、力仕事などをたまに手伝っている青年冒険者だ。
「ちょうどいいや、これ見て見て。そこの露店で買ったんだけど、安かったんだよ。値段の割にはいいモノでさ、お買い得だったよなー」
 リフレはご機嫌で言葉を並べながら一振りのコンバットナイフをかざしてみせる。が、エデットの目には全く入っていなかった。その視線はかざされた短剣を通り越して、リフレの上半身を包むモノに釘付けになっている。
「リフレ、その上着って…」
「ああ、これ?いいでしょ、礼服(黒)。これもさっき買ってさ、安かったん…」
 最後まで言わせずに、エデットはリフレの肩を掴んだ。
「これ貸して?!」
 掴んだ肩を、更にガクガクと揺さぶる。
「え、ええ…?」
 突然のことに、リフレは目を白黒させた。
「今夜やる逃走中の、ハンターの衣装が足りないの!ちょうどこれを探してたんだよ!」
「ああ、逃走中かー。じゃあ、家で着替えてくるからちょっと待っ…」
「ごめん、もう時間ないの!ここで脱いでっ」
「えええ…?でもさっき着てた服は売っちゃって、着替え持ってないよー」
 エデットは街中に設置された時計に目をやった。スタッフの集合時間はとっくに過ぎている。こうなったら。
「わかった、じゃあその服に憑依して!」
「へ?」
「その礼服に自己憑依するの。それで、イベントの間じっとしてて」
「えええええ!?」
 エデットは強引にリフレの腕を掴んで走り出した。もうこうなったら手段は選んでいられない。ネコには内緒だ。
競技の開始まで、もう間もなくだった。


「さあ、残り10分を切って、累積賞金額は…なんと1200万ゴールドを越えた!残った逃走者はあと一人だああ!」
 イベントは順調に進み、クライマックスを迎えていた。最後に残った逃走者が周囲の観客を沸かせ、司会進行役のヨウの口調にも熱が入る。
 牢番を務めるエデットは、逃走失敗して捕まった参加者たちが集められる「牢獄」と決められたエリアで、タイムアップを待っていた。
「さあ、もう本当に残り時間はわずかだ!このまま時間切れまで、ハンターに見つからず逃げ切れるでしょうか…!」
 ヨウのそんなアナウンスをよそに、最後の一人は牢獄の前まで来て、すでに捕まった面々ににこやかに手を振りながら、歩いて通り過ぎていく。
「がんばれーっ」
「あともう少し!」
 牢獄の中からも声援が飛ぶ。残り時間は5分を切った。周囲の期待と緊張感が、ますます高まる。
 そのとき。
「ああっ、後ろ!後ろ!」
「ハンターだ!逃げてええええ」
 悲痛な叫びが重なった。
 全員の視線が集中する先には、黒い衣装を纏い、赤いドラゴを駆って一直線にこちらへ向かってくるハンター・ネコの姿。最後の一人も気づいて、慌てて走り出した。
 逃げる逃走者。追うハンター。
 脚力に優れたレッドドラゴは猛スピードで両者の距離を詰めていくが、逃走者もマリオネット・タイニーに憑依して、スピードを上げた。
「おおっとー!ついに見つかった!残り時間は4分、逃げ切れるでしょうかっ…!」
 そのまま遠くまで駆け去った二人は、どこをどうまわってきたのか、また牢獄の前に戻ってきた。さっきよりも二人の間の距離が縮まっている。
 固唾を飲んで見守る者、声を限りに声援を送る者、ただ悲鳴をあげる者。
 全員が注目する中で、じわじわと追いついたハンターが手を伸ばし、その手がまさに逃走者の肩に触れようとした…瞬間。
 …脱げた。手を伸ばすネコが着ていた礼服(黒)が、脱げた。消えた。
 広がるざわめき。そのまま一心に逃げ去る逃走者。
 なぜか寝ぼけまなこで近くに立っているリフレ。
「きゃあああ」
 ネコはドラゴから飛び降りて、手で身体を覆ってその場にうずくまった。
「ふわあ…。憑依とけちゃった…。あれ、ネコ?どうしたの、そんな恰好で」
 どうやらリフレは、礼服に憑依したまま寝てしまっていたらしい。それが目を覚ました拍子にか、はたまた寝ぼけてか、解除されてしまったようだ。
 エデットは青くなった。慌ててネコに駆け寄って、ドラゴに括りつけてある荷物からネコの私服を引っ張り出して差し出す。
「え、えっと、その…ネコ。ごめん…ね?」
 ネコはリフレの服装を見て事態を飲み込んだようだ。見上げる視線には明らかに怒りの炎が揺れている。
「…さん」
「え…?」
「許さあああああん!」
 ネコが切れた。その全身には、獲物を追い詰めて捕えるハンターのオーラを纏っている。
「エデット…覚悟はいい?」
にこりと微笑むネコ。逃げなければ、やられる。
 制限時間は、ネコの怒りが収まるまで。逃げ切って得られる賞品は、身の安全。
 エデットは、走り出した。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


------------

3人称の小説を目指したのに、いつの間にか1人称。
しかももはや小説じゃなくて、マンガを文章にしたものになってる^^;

2012年
08月02日
00:11

19: 詠羅

二投目失礼します!
お題:⑰『演習』 で描かせていただきました!

====

アクロポリス。
かつて、王国として栄えたこの都市は、クロノクエイクによって崩壊し、
東西南北の国家、ノーザン、モーグ、アイアンサウス、ファーイーストの国々によって、領有権を争われていた。
しかし、延々と続く戦争に疲れ果てた人々は、四つの国々による、分割統治を行うことに同意し、一つの騎士団を結成する。
これが、アクロポリス混成騎士団。
各国の騎士団が団結した平和の象徴とも言える産物だ。
だが、争ってきた人々は、団結という肩書きの元で争い、現在でもそのしがらみや利権を考える摩擦を生んでいる。
それを解決しようと実施されるようになったのが、混成騎士団演習。
騎士団たちをあえてぶつけることで摩擦の解消を行う、冒険者参加型のゲームイベントだ。

このイベントに参加し、演習場鉄火山の頂上付近に座る一人のエミル族がいる。
岩陰に身を隠し、岩の隙間から、光砲・エンジェルハイロゥを構え、
上部にある装着式のサーモスコープを覗き込む。
イヤーカフタイプの通信装置から聞こえてくるのは、エミルと同じ軍に所属する。
南軍兵達の音声通話だ。

"さぁ、始まったけどどうする?"
"ここは防衛よ。最後まで守り切る。得点稼ぎは遊撃隊に任せるわ"
"了解"

偉くお気楽でアバウトな会話だ。
とても国家の利権が絡んでいるとは思えない。
しかし、参加する冒険者にとっては、演習など安全の約束されたただのゲームであり、そうなってしまうのもある意味仕方が無い。

それでも、自分の様に、ギルド評議会から南軍を勝たせるため、参加を要請された人間もいるのだから、あながち無関係でもない。

評議会がこうして、勝たせるための人材を派遣するのは、混成騎士団の感情の偏りを防ぐためと、
軍事力抑制のためのバランス調整を行うためだ。
アクロポリスを囲む国々のなかで、特に南軍を動かすアイアンサウスは四つの大国の中でも最強を誇る軍事国家。
演習に負けることで、さらなる軍力の強化を行われてしまえば、それでこそ世界の均衡は保てない。
演習はそう言う意味も込められた、バランサーでもあるのだ。

"入口を突破されたらどうするんです?"
"大丈夫よ。今回は強力な助っ人がいるから、ホークアイさん!"

誰のことだと思う。

"ジンさん、ってば!"
"「え、俺!?」"
"他に誰がいるんですか! 頼りにしてますよ!"
"「俺、ガンナー、なんですけど……」"
"しってますよ。後ろをお願いしますね"
"「できる限りは」"
"思う存分実力を発揮してください"
"「プレッシャーに弱いんで勘弁……」"

南軍に笑が起こる。
目立ちたくはないが、個人的な参加回数も多い上、知り合いもいるので仕方が無い。
お馴染みになってしまえば気にされないとも思ったが、逆に目立ってしまっている気がする。
南軍が入り口に固まり、防衛を開始する。
出て行くのは、憑依を限界まで詰んだ。フルタンクの遊撃組5組みだ。
南軍本隊は指揮官と共に入り口の防衛へはいる。
ジンは、長さ一メートルはある、ボルトアクション式対物ライフル。
光砲・エンジェルハイロゥを構え、入り口の付近をサーモスコープで凝視した。

そして、視界に脇に現れる人型の影を、スコープにとらえる。
裸眼ではそれを確認できない。
クローキングで姿を隠す、スカウト系だ。

"「温度センサーに敵接近確認。後方より西軍本隊がきてる」"

この言葉に反応した南軍は即座に支援を開始、魔法による弾幕を展開した。
それでも抜けてくる者はいる。
ジンはそんな防衛戦を突破してきた敵を撃つ、南軍防衛の砦だ。
即座にエンジェルハイロゥの次弾を装填。命中補正を行い、精密射撃を唱える。
バシュという。サイレンサーの発砲音が響き、弾丸がクローキングを使っていたアサシンのこめかみを突き抜ける。
一瞬でアサシンは、姿を表したと同時に、光に消えた。
自軍ロビーへの強制送還だ。

"流石"
"えげづねぇ……"

演習と言う一つのゲームに、死亡はあり得ないが、死亡に限りなく近い致命傷を追った場合。
演習のシステムは安全対策として、強制的に参加者をロビーへと戻す。
非人道的ではあるが、こちらは仕事だ。手を抜くわけにはいかない。
即座に、ボルトアクションのレバーを引き、次弾装填。
西軍の本隊が防衛を行う南軍本隊とぶつかり、本格的な防衛戦を開始する。
ジンはそこへ援護射撃を行い、敵軍の要。ウァテス系とウィザード系を集中的に強制送還させて行った。
当然。抜けてきた連中も忘れない。
演習の獲得ポイントを頭で計算し、ジンは確実に敵を落として行く。
狙った場所のズレを修正し、正確に当てる。
手元にくるいがでないよう、集中させて、研ぎ澄ませて行った。
あと数発で、マガジンの交換と言うところで、背後に気配を察知。
ハイロゥを投げ捨て、横転して回避行動を取る。
“ブランディッシュ”アサシンのスキルだ。
即座に立ち上がり、クナイを突き出してくる相手の攻撃を交わす。
上半身の動きだけで交わしたジンは、アサシンの腕をひっつかみ胸ぐらを取る、そしてそのまま、背中を向けて投げ飛ばした。
背負い投げだ。
ゴツゴツした大地に叩きつけられたアサシンは、即座に胸のドックタグ外す。
同時。ジンはわき腹の短銃を抜いた。
どん。と派手な破裂音が響く。
額へ打ち込んだので、当然強制送還だ。
相手が消えたことを確認し、ほっと息をつく。

"ジンさん。大丈夫?"
"「防衛線を張る前に、紛れ込んだ敵がいるみたいだ。警戒を……」"
"わかったわ。ごめんなさい"
"「できる限り駆逐する」"

そう言って、本隊が像前にもう一つの防衛線を張る。
先ほどのアサシンは、侵入できたのも関わらず、像を狙わなかった。
個人戦ではなく、軍の勝利が何よりも優先されるのに、
なぜかまっすぐに自分を狙ったのは、何か理由があるのだろうか。
私怨ならまだいい。可愛いものだ。
他に何か目的が……?そんなことを考えながら、ジンは狙撃を続ける。
周りに警戒を怠らず、再びマガジンを入れ替えようとした時、
左側の死角に気配を感じた。
誰も居ない。

"狙撃なくなったぞ"
"ジンさん。無事ですかー"
"「こっちは、何の問題も……」"

そう応答した直後。
床に落ちていたドックタグから、タイタニアが飛び出してきた。
憑依防具だ、さっきのアサシンが残していったもの。
左斜め後ろ、ジンは右利きで死角だ。
当然。反応は遅れる。
即座に左手で腰の短銃を抜いたが、振り下ろされた赤い太刀により叩き落とされる。
左手首にも負荷が掛かり、痛みが走った。
それでも、回避はやめない。即座にその場を離れ、距離を取る。
そして向き合った相手に驚いた。

「なにしてんだよ。ジン」
「か、かなと!?」

思わず声がおどけた。
目の前に居るのは一年ほど前から一つ屋根の下で暮らす相方。
タイタニア・ジョーカーのカナトだ。
普段から生活のことばかり考え、演習になど話題にすら出さない彼が、
何故こんな場所に居るのか。

「お前こそ、なんで……」
「わかり切った事を……」
「は?」
「帰るぞ。今すぐ」

唐突に赤い太刀を構える。
ジンは左手をかばいつつも、自衛の為に右手で短銃を構えた。

「意味わかんねぇよ。俺は帰らねぇからな」
「ガキみたいな事を言いやがって……こっちの迷惑も考えろ」
「はぁ? どんな迷惑だよ」
「……晩御飯が冷める!!」
「どんな迷惑だ! 」

思わず突っ込んだ。どっちが子供か分からない。

"ジンさんどうしたの? 敵?"
"防衛線がそろそろヤバい。援護射撃まだか!!"

登山口は西軍以外にも、他軍すら押し寄せて来ている。
防衛戦を行なっているせいで、軍の自得点が集中して来ているのだ。
味方の救済の声が聞こえる中、ジンは一つの選択を迫られる。
いつも背中を預け、生死すら共にした相棒と、南軍。
答えは一つしかないが、ゲームと言う一つの概念が、ジンをそうさせた。

「晩御飯がなんだよ! 終わったら帰るから、お前こそ帰れ!」
「 そう言うところがガキって言うんだ!!」

スタイルチェンジを唱えるカナト。
神の守護を纏い、四枚羽の天使は空へ飛び立った。
ジンはそれを追いかけ、短銃での狙撃を行う。
だが、空を自由に舞う相手へ当てれるほど、銃は万能ではない。
カナトはそれを知っている。

ジグザグに舞い、カナトはジンへ接近を試みる。
見知った相手だ、苦手な立ち回り、癖、動きも把握できているが、
お互いにそれは同じ、唯一違うのは、経験ぐらいだ。
ある意味決定的な差でもあるが、乗り越える事はできる。

ジンが打つのをやめ、後退を始めたときを見計らい。
カナトがディレイキャンセルを唱える。
羽を風にのせ、滑るように接近。

「ジョーカー!!」

渾身の力で太刀を振り下ろす、同時、真っ黒な光が空間を飲み込み、
二メートル前後のクレーターが出来た。ジンはその着地を狙い。
マガジンを再装填した短銃で応戦。しかし、飛び立たれて交わされた。

「くっそ! キリがねぇ……」
「帰る気になったか?」
「かえらねぇよ!!」
「毎度だまって出かけて…月光花さんも心配しているんだ」
「ゲッカも……!?」

月光花は、ジンの幼馴染のエミル。女性だ。
確かに評議会から仕事を受けている事は、二人に話していない。
心配されたくなかったのだ。全て守り通すと決めたから……。
月光花の話題をだされ、ジンの手元にスキができる。
当然、カナトはそれを見逃さない。
動揺し、手元に迷いが生まれたのだ、撃てる訳が無い。
再び接近し放つ。

「ジョーカー!!」

間一髪で後ろへ飛び、直撃を回避。
しかし爆発の余波で吹っ飛ばされてしまった。

「帰るぞ。」

背中を強打し、握力が緩む。当然、衝撃で銃が手から離れた。
まだ起き上がろうとするジンへ、カナトは容赦なく太刀を突き付ける。

「カナト……今日の献立はなんだ?」
「鰻の蒲焼だ。月光花さんが買い物へ行ってくれた。この時期に食べるものらしいからな」
「……そうかよ。なら――」

ジンが動いた。背中のホルスターから取り出す予備の銃。
20発装填できる自動式のピストルだ。

「本気で帰る訳にはいかねぇよ!! 」

発砲。
カナトの左腕を貫通。太刀を放してしまった。

「月光花の料理はな……。今まで何度殺されかけたかわかんねぇ……」
「くっ……」

演習であるがゆえ、怪我を負う事はない。
だが痛覚そのものへダイレクトに伝えてしまうので痛みはある。

「悪いカナト。すぐ戻るからさ、先に寝てくれ……」
「バカが。何でも黙って行動しやがって、少しこっちの見にもなりやがれ!!
取り残されて、心配しか出来ない月光花さんの気持ちを、
お前は、どこまで踏にじれば気が済むんだ! ジン!」
「悪い……」

そう言って、ジンが銃口を天に掲げる。

「“テンペストショット!”」

発砲。
空に放たれた弾丸は無数に分散。
雨の様に降り注ぐ、弾丸の一つ一つは先端を鋭利に尖らせ、引力と共に大地へ突き刺さるのだ。
当然人間の体など、本来なら原型もとどめない。
演習場であるなら、生命の安全は保証されているので、強制送還で住むだろう。
放たれた弾丸が鼠算式のように増殖し、空を覆っていく。
すべてが終わったと、ジンは思った。
次に顔を挙げた時には自分が勝ち、目の前の相棒は居ないと、そう確信した。
しかし、突如胸ぐらをつかまれ、引き寄せられた。

「"ジョーカー・アート!!"」

真っ黒な光が、カナトを中心に炸裂した。

****

「へぇー! すごい! カナト君。ジンに勝ったんだ」

アクロポリス、アップタウンの飛空庭。
ここに住む三人の冒険者は、遅めの夕食をとっていた。
唯一の女性である月光花とともに、鰻の蒲焼を食べるカナトとジンは、目も合わせることなく唯、黙々とそれを食する。

「まぁ、まぐれですが」

この言葉にジンが身を震わせた。
どこがまぐれだ……。

「てんめぇ馬鹿にしてんのか、カナト!!」
「? まぐれ以外に何があるんだ?」
「お前が、ジョーカー・アートでたまたま生き残っただけだろうが!!」
「だからまぐれだろう? 」
「ちげぇよ! 言わせんな!」
「? 理解に苦しむ」

首を傾げる。
ジンからみればどうカナトが生き残っていようが居まいが、負けて居たということだろう。
対人に関しては全く無知のカナトに理解できないのも無理はない。

「完敗だったってことでしょ? なっさけないわねー」
「うるせーよ、ゲッカ。油断したんだよ。次は負けねぇ」

鰻の蒲焼を掻き込むジン。
月光花はそんな彼をほっとした目で見つめ、微笑んだ。

「おかえり」
「!? ……ただいま」

カナトは当然聞こえぬふりだ。
ジンはそんな態度が気に入らないが、
鰻の蒲焼がまともな味をして居ることに少し驚きをかくせない。

「これ、月光花がつくったの?」
「うーん。つくろうとおもったんだけど、買い忘れたものがあってね。
戻ってきたらカナト君が作っといてくれたの」
「へぇー……」

棒読みの返事に、当本人は無反応を決め込む。
そういえば買い物と言っていた気がする。

「土用の丑の日に鰻を食べて、健康に夏を乗り切らないとね!」
「なんか縁起がいいとか、そう言うのじゃないのか」
「何を期待してたのよ。ご飯ついてるし」
「へ、は、早くいえよみっともねぇ!」
「ばーかばーか」

こうした賑やかな食卓をみて、カナトも家族と過ごした日々を思い出す。
実家で暮らし、弟と音楽を学んだあの日を……。

「カナト……」
「……どうした?」
「ありがとな」
「気にするな」

そうして、また一つのパーティーの冒険が始まる。

***

ここまで見ていただき、ありがとうございました!

2012年
08月02日
19:04

③転生
まさかの4投目。
特定の武神に思い入れとか妄想がある方は読まないでください^^;

-----------------

 見渡す限りに広がる広大な空間。まるで隙間なく積もった雪が全てを埋めてしまったかのような、一面の白い世界。
 その白い世界の中心にぽつんと佇む台座に、古びた一冊の本が置かれている。

「あーっ、もう!暇だわ!あのヘンテコネコ妖精、ほんとに許さないから!」
「レネット…その文句、もう何百回も聞いてるわ。まだ言い足りないの?」
「だって、リゼル。こーんな何もない退屈なところに閉じ込められて、他にやることってないじゃない?」
 青いロングストレートの髪にうさ耳の帽子、赤いボレロとミニスカートを身に付けたレネット。その理知的な青い瞳も、今はいたずらのネタを探す子供のようだ。たしなめているのは、真面目でしっかり者のリゼル。白と黄緑のドレスを纏い、豊かな長い髪をポニーテールにまとめている。
 武神として白い世界の本の中に封じられた彼女たちは、今日も暇を持て余していた。
「あーあ、いじったら面白そうな冒険者とか来ないかしら」
 騎乗用のホウキの柄を撫でながら、つまらなさそうに口を尖らせるレネット。
「そうねえ…ちょっと童顔でカワイイ男の子とかだったら、守ってあげたくなっちゃうかも」
 リゼルは少しウットリした表情で言葉を返す。
「げ…リゼル、子供に手を出したら犯罪よ?」
「守るって言ってるでしょ!手なんて出さないわよ」
「ホントかなあ…?」
 ニヤニヤしながら顔を近づけたレネットは、リゼルが気まずげに視線を逸らすのを見て笑った。それから、腰に手を当てて胸を張る。
「ま、どのみち冒険者は男でも女でも、みんな私のしもべになってもらうんだけどね!」
「…はいはい」
 リゼルは冷めた表情を作って肩をすくめてみせた。
 二人はもう何十年も同じようなやりとりをしながら、新たな力を求めてやってくる冒険者を待っている。
「そうだ、そんなに暇なんだったらフロールに歌でも歌ってもらう?」
 リゼルはふと思い付いて提案してみた。レネットは少し首を傾げながら応じる。
「歌か…。そういえばフロールとも長い付き合いだけど、あんまり聴いたことなかったかもね」
「じゃあ、決まりね。フロール、いる?」
リゼルが声をかけると、ふわりと気配がした。いつの間にか、露出の多い踊り子のような衣装を纏ったフロールが、二人の傍らに舞い降りていた。
「あたしをお呼びですの?」
 おっとりとした口調で答えながら、レネットとリゼルに向けて柔らかく微笑むフロール。
「私達、もうすっごーっく暇なの。フロール、何か楽しい歌を歌ってくれないかしら?」
 レネットが頼み込む。少しでも暇を紛らわせてくれるものは、とても貴重だ。フロールは顔をパッと輝かせた。
「まあ、ここがあたしのライブ会場になるんですのね!会場にも観客にもあまり華がありませんけれど、あたし頑張りますわ!」
 一瞬、空気が凍った。リゼルが思わず苦笑いしている横で、気を取り直したレネットがフロールの手をとる。
「うんうん。期待してるからね!今のさりげない暴言は聞かなかったことにしてあげるから、頑張って!」
 レネットの言葉にフロールは嬉しそうに頷いて、意気揚々と発声練習を始めた。
「ラ~ラララ~」
 そのとき。何気なく本の外に目を向けたリゼルの視界に、何か動くものが映った。まだ少し距離があるが、小さな動物の影に先導されるようにして近づいてくる、あれは…。
「冒険者だわ!」
 リゼルは驚きの声をあげた。
「えっ?」
 レネットとフロールの声が重なる。
「ほら、あそこ!久しぶりの冒険者だわ!」
「どこどこっ?」
 二人はリゼルが指差すほうに目を凝らすが、広大な白い世界で、まだ遠くにいる人影は大人なのか子供なのかも判別できないほど小さい。
「遠くてよく見えないわ…。こうなったら、レネットちゃんアイ!」
「あっ、ずるいレネット!私も!えっと…リゼルさんアイっ…?」
「あらあら、リゼルさん…それは流石に無理ですわ」
 三人は本の中で押し合いながら、久しぶりの客をよく見ようと身を乗り出した。
「ちょっと、レネット!見えないんだけどっ。どんな冒険者か教えてってば!」
「ふんふん…。若い男の冒険者ね…。でもリセルの好みよりはちょっと歳が上だわ」
「私の好みって何!?…でも若い男なら、剣の相手にちょうどいいわ!」
「あたしの歌も聴いてくれるでしょうか」
 やがて猫の妖精ケット・シーに案内された冒険者の男は、緊張した面持ちで古びた本の前に立った。年の頃は、二十歳そこそこ。精悍な雰囲気をまといながらも、優しげな眼をした青年だった。
「やだ、ちょっといい男かも!」
 レネットが手を叩いて喜んでいる。
「なんの職業の方でしょう?ワクワクしますわね!」
 フロールも楽しそうだ。
 やってきた冒険者の職業によって、誰が相手をするかが決まる。魔法使いであるスペルユーザー系統の職業ならばレネット。その中でも癒し魔法を操るウァテス系ならばフロール。フェンサー系であればリゼルだ。
 三人の熱い視線を浴びているとも知らずに、冒険者は何やら荷物を置いて準備を始めた。バンダナを取り出して頭に巻き、重そうな金属製のハンマーを肩に担ぐ。開いたカバンの口から、鈍く光る鉄のナゲットがはみ出しているのが見えた。
「ま、まさか…」
 レネットが茫然とつぶやく。
 不意に、背後から不気味な笑い声が響いた。
「フフフ…やれやれ、やっと私の出番のようですね」
 サディスティックな笑いを浮かべながらレネットの背後から現れたのは、タタラベの冒険者を担当する武神・ツバキ。
 ――そう、冒険者の職業はタタラベだった。
 遥か東方に住むといわれるサムライのようないでたちのツバキは、小さな丸メガネを人差し指でクイッと押し上げながら三人の女性武神たちを見まわした。
「残念でしたね、お嬢さん方。ここはこの私に任せてもらいましょう」
 そのまま高笑いを響かせて去っていくツバキ。
 リゼルは、レネットが俯いて妙に静かなのに気づいた。…これは爆発の兆候かもしれない。そっと距離をとったリゼルはフロールにも目配せしようとしたが、残念ながらそれは間に合わなかった。
「もうっ、なんでツバキなのよ!っていうか『残念でしたね、お嬢さん方』って…あの態度が腹立つわ!」
 レネットが火を噴いた。すぐ隣にいたフロールがおっとりと口を開く。
「そうですわね…。それにレネットさんは、もうお嬢さんっていう歳でもないで…あっ、痛いっ、何をなさるんですかっ?」
「フロール、あなたも同じようなもんでしょっ!」
「うーん、ツバ×タタかあ…。もしかして、それもありなのかしら…」
「え、ちょっとリゼル、そんな趣味もあったわけ?!」
「しゅ、趣味じゃないわよ…!ただちょっと…そう、思い浮かべてみただけで」
「リゼルさん、それって…」
「あーっ、あの冒険者、ツバキに勝ったみたいよ!やるじゃない!」
「それならタタ×ツバかしら…?」
「リゼルさん…」
 三人の大騒ぎは、冒険者の男が無事転生して元の世界に帰って行くまで続いている。
 今日も白い世界は平和であった。


※この物語はフィクションであり、実在の(ry

2012年
08月05日
18:37

それでは、僭越ながら、
⑧飛空庭、飛空城
でいかせていただきます~。


『彼女らがフラグをおられたら』

「やっぱ、我が家は落ち着くよね」
家っていうのはマーシャの飛空庭の話。
みんなでいつも集まるから、どこかに集まれる場所がほしいねってことで。
「家かぁ・・・」
確かにマーシャは落ち着くけど、マーシャの飛空庭だと、僕が落ち着かないよ、
・・・・・・、とはさすがに言えないなぁ。
「ダウンタウンの家じゃなくてさー、飛空庭に住めばいいのに・・・。そこに集まれば・・」
「私はダウンタウンの家も好きですけど・・・」
ティタがにこやかに僕のほうを見る。
「ねぇねぇ、エミル、私が一緒に住んであげようか?」
ルルイエが茶化したように言う。
「そうですね、メイド服を着てお掃除をしてあげないと、エミルは冒険で忙しいから・・・」
「ルルイエ、あなたねぇ・・・、ティタも、そんなことしなくていいの!」
「もうメイド服はいいよ・・・」
そう、もうあんな悲しい事件はいらない。僕の顔を覗き込んで、
「ふふ、でも、エミルが私を必要としてくれたから、私がまたここにいるのですし、
無意味ではありませんでしたわ。それに・・・」
「それに?」
「だって、私はこうしてエミルを救うことが・・・」
「ストーップ!二人だけでいい雰囲気にならない!」

「それで、エミルはどんな家に住んでみたいの?やっぱりかっこいい家がいい?」
「ルルイエの言うかっこいいって、アイアンサウスハウスみたいなの?」
いやぁ、それはちょっと・・・。そこにみんなで集まるの?
苦笑いしてる僕を見て、ティタが微笑む。
「僕は、やっぱり、みんなで住める家がいいよ。そう考えると・・・」
飛空庭の家だと、一人で住むような感じになっちゃうし、
みんなの好みに合わせた家となると、ちょっと悩むよね。
「だ、誰かと一緒に住みたいって思わないですか?寂しくないですか?」
ティタが優しい笑顔で心配そうに見つめてくる。
「だ、誰かと僕が二人で住む・・っていうこと?」
どうして僕が誰かと住むって話に・・・。
「な、なんで私がエミルと一緒に住むのよっ!どうしてもって言うなら考えなくもないけど・・・」
「結局、マーシャもエミルと住みたいんじゃない」
「そんなこと・・・・・・・」

うーん、みんなと仲良く集まれる場所って・・・難しいね。

「で、こうなったんだ?」
「うん、これならみんなで住むこともできるし・・・」
僕の出した答えは・・・、
「飛空城ですね・・・」
「みんなの飛空庭から集まれるし、いいかなって」
3人は顔を合わせて、少し残念そうに、だけど、少し安心したように、
「まぁ、エミルらしいといえばらしいけどさー」
「ふふっ、結局、私たちの誰も選ばないなんて」
「エミルのヘタレー」
「えーっ!?」

こうして、僕たちの冒険の拠点に新しい場所が増えた。


そのころアミス先生の飛空庭では・・・・・・。
「ハックション!!
「ヘタレー、どうしたの?」
「いや、誰かに呼ばれたような・・・?」



この物語はこーゆー関係で終われたらいいなーと思ったストーリーです。
ティタを復活させないなんて許しません!!
私のイメージが多分に入ってますので、事実とは異なるかもしれませんけどw

エディトさんの要望に答えられたかなぁとちょっと心配です。

1番~21番を表示

次を表示