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YUNIKOさんの日記

(全員に公開)

2016年
08月05日
00:01

ECOじゃない創作。第4話

この間から書き始めたお話『幼馴染語り』。
気分転換的な自分のストレス発散という名目で続きアップです。
稚拙な文章なので恥ずかしいですが、よろしければ目を通していただけると嬉しいです。

タイトル『幼馴染語り』

---------↓↓本文↓↓----------

第4話 西園寺晶

 私は、地元の旧家に生まれ大切に育てられていた。周りから見ればそれは過保護だったりお嬢様というカテゴリに属していたかもしれない。小学校に上がったときも通学は車で送迎され、勉強にしても運動にしても『あなたは西園寺家の』という枕詞がついて回った。だからといってソレを不満だと煩い小言だと思う事は無く、私はただ『ハイ』と聞いてきた。そんな生活を送っているのだ、当然クラスメイトとのコミュニケーションを取るなんてことしなかったし、取る必要なんて感じてもいなかった。その結果は想像に容易い、クラスで孤立し誰も私に声を掛ける子なんて存在しなくなった。別にそれでもイイと思っていた。しかし、そのせいで私はピンチを迎えた。体育の授業でバスケットボールをしたときだった。私独りどのチームにも入れなかったのだ。普段からコミュニケーションを取ってこなかった私は、こういう時どんな風に声を掛ければいいのか分からず、体育館の隅でぼーっと立っていた。

「なぁ、チームに入れてもらえないのか?」
「え?」

私の目の前に立っていたのは一人の男の子。クラスで飛びぬけて人気者というわけではないが、いつもクラスの中心に近い位置にいるムードメーカー。私は初めて男の子に声を掛けられたことに戸惑い、次の言葉が出てこないでいると、

「あー、お前なんか話しにくそうだもんな。」

ちょっと苦手かも。思った事をハッキリというその男の子に持った第一印象だった。

「あ、あの・・・。」
「まぁでも、一人じゃバスケできないしさ。運動苦手じゃないよな?走るの速ぇもんな。それなら俺らのチームに入れよ。」

私はこんな風に相手に失礼なコトを言っておいて、それで誘ってくる彼の思考が理解できず黙っていると、いつの間にか彼のチームメイトも集まっていた。そして彼は悪戯っぽい笑顔で

「俺らのチームさ、鈍臭ぇのが一人いてさ、すぐにコケるし泣くし勝てそうにないんだよ。」

と言うと、

「な、なによぉ!あっくんのボールが強いんだもんっ!速いんだもん!それに鈍臭くないもん!」
「あれ?泣くのと転ぶのは否定しないの?」
「それもっ!拓ちゃんも意地悪だよぅ!」
「あはははは。」

チームメイトみんなが笑っている。そして、私の右手に温かい感触。

「つーわけなんだ。さ、いこーぜ。」
「あ、あの、ちょっと・・・。」
「んだよ、みんなでやらなきゃ楽しくないだろ?見てたって上手くなんねーし、面白くない。ほら・・・えっと・・・。」
「?」
「名前。」
「西園寺。」
「そっちじゃなくて名前だよ。」
「晶。」
「女の子でアキラとか、かっこいいな!これから晶って呼ぶ!」

私はいつの間にか彼に普通に話していた。自分の名前をかっこいいなんて言ってもらった。私は嬉しかったのかもしれない。初めてちゃんとしたコミュニケーションを取ってテンションが上がっていたのかもしれない。

「ちょ、ちょっと、なんでいきなり下の名前で・・・」

私が彼の顔をちゃんと見て言うと

「だって、『さいおんじ』って長いじゃん。それに友達は名前で呼ぶって決めてんだ、俺。」

私はこの時、初めて男の子というものを意識した。いや、彼を意識したという方が正しい。

「よし、晶!勝ちにいくぜ!史華もコケんなよ!」

彼の言葉は魔法のように私の中にあった自分でも気づかなかった壁を破壊してくれた。その証拠が

「うんっ!勝とう!」

握られた手をギュッと握り返し彼に返した返事だった。
 それから私たちは学校で一緒に話すようになった。笹島拓也くんと三森史華さん、そして篠田篤史くん。3人は小学校に上がる前からの幼馴染でずっと一緒にいたそうだ。最初は戸惑ったが、みんな私を笑顔で迎え入れてくれた。登下校も車の送迎を断り4人での徒歩通学にした。たったそれだけの事なのに、当時の私には世界がまるで違って見えた。こうして今の私がいる。私を変えてくれた、私の見ていた世界を変えてくれたのは、あの三人・・・いや、篤史だ。篤史があの時私に声を掛けてくれたから私は変わることができ、この幸せな生活が送れているのだ。

「私・・・あのとき・・・。」

だからこそ、オリエンテーションのあの日・・・篤史が怪我をしたあのときの事が許せない。あの事故のとき私たちも飯盒を持ってあの場所に戻っていた。正確にはちょうど戻ってきたところだった。篤史に向かって薪が飛んでいくのを私は気づき、声を掛けようとしたとき

『あっくん!』

私より先に彼の名前を呼ぶ声が聞こえた。そしてすぐに飛び出した史華。私は史華の声が聞こえた時、足が止まってしまった。私の立っていた所は史華よりも近くて、間違いなく私の方が先に篤史の傍に行けたのに私は動けなかった。どうして?それは私の気持ちを誰にも知られたくなかったから。拓也にも勿論篤史にも知られたくない。けれどそれ以上に史華に知られたくなかった。史華は篤史の事が好きだ。根拠も確証もないけれど自信はある。だから私が篤史を好きな事を知られてはダメ。もしも知られて、今のこの4人の幼馴染という関係が壊れるのが怖かったから。幼馴染なんだから壊れないかもしれない。でも少なくとも関係は変わる。篤史とも史華とも今のままじゃいられない。それだけは絶対に避けなければいけない。だって、今この場所は私のただ一つの居場所なのだから。

「イヤだなぁ・・・私・・・。」

放課後、ゴミ箱を抱え焼却炉の前でポツリと呟く。

「西園寺・・・どうしたんだ?」
「☆@※▽○×∑~~~!」

私の心は完全な無防備状態だったため、その驚きは尋常ではなく自分でも何と言ったか判らない声を上げた。

「な・・・すごい声だな・・・驚かせた。ごめん。」
「う、ううん・・・大丈夫。向井君こそ、どうしてここに?」

声の主は、高校に入ってできた最初の友達。向井樹君、史華のドジを助けたことがきっかけで例のオリエンテーションも同じ班でそれ以降時々話をする。

「あ、掃除が終わって当番のヤツみんな帰ったけど、西園寺が戻ってこないから。」
「・・・あぁ、ごめん。探しに来てくれたんだ。」

そう、彼は一見無口で無愛想、カッコよく言えばクールな感じだが実はそうではなく、よく人を見ていて気が付く。そしてこんな風に優しいところもある。だから私は思ってしまう。

「・・・ずるい。」
「は?」
「あ、いやごめんね、何でもないの。」

私は驚いた拍子に落としたゴミ箱を拾い上げるとその場を足早に立ち去ろうとした。

「なぁ・・・何か悩んでるのか?」

困ったなぁ・・・こんなスキルも持ってるのか。心の中で小さく舌打ちする。

「ん?なんで?そんな風に見えた?」

すると、彼は真っ直ぐな瞳で私を見つめ

「ああ。そう見えたから声をかけたんだ。篠だ・・・篤史の事か?」
「あれ?向井君って篤史のこと名前で呼ぶんだ?」

私は彼のストレートな言葉のダメージを誤魔化すように返すと

「ああ、この間突然な。篤史からの提案で・・・。」
「ふうん。」
「それよりも・・・。」
「何でもないって言ったら納得する?」
「納得・・・か。それでもいいけど、それじゃ解決にならないんじゃないのか?別に言いたくないならいい。でも、言って少しでも楽になれるなら俺は木にでも石にでもなるさ。西園寺の独り言で片付くだろう?」

まいった。降参だ。こんなコト言われたら、私の中の聞いてほしい気持ちに抑えが利かなくなる。

「そうね・・・。」

私は大きく息を吐いて頷く。

「西園寺、篤史のコト好きなんだな。」
「いきなりなんだね。遠慮がないって言うか容赦ないっていうか。」
「遠まわしに言っても仕方ないだろう?」

私はクスッと笑って

「クールなキャラはそれなりにモテるけど、モテる以上に誰かを傷つけちゃうよ?」

そう返す。そして続けて口を開く。

「オリエンテーションのとき、篤史が怪我したでしょ?」
「ああ、薪が頭に当たったときのことか。」
「うん。あの時私、実はすぐそばにいたんだよね。誰よりも早く気付いて、誰よりもすぐに駆けつけられたハズなのに・・・私、動けなかったんだ。私が声を出そうとするよりも、私が駆け寄ろうとするよりも先に・・・先に史華が動いてて。どうして?なんで?って思うよりも『だめだ敵わない』って思っちゃった。そうしたら、もう篤史のトコ行けなくなっちゃって。」
「でもそれは、いつまでも守られたままじゃ嫌だから、これからは私もアイツに何かあれば役に立ちたいからって言ってたぞ?一番付き合いが長いんだろ?あの二人。家族みたいな兄妹みたいな感じなんじゃないのか?」
「へぇ・・・史華、向井君にそこまで話したんだ・・・。でも違うよ?家族?兄妹?そんなの全然違うよ!篤史の・・・家族・・・兄妹だったら妹にあんな目しないよ!」
「西園寺・・・。」
「だからね、私は言わないし気付かせない。この気持ち・・・篤史の事が好きで好きでずっと、小学生のときからのこの気持ち、絶対に知られない。だって、今日までずっと隠してきたんだもん。これで・・・この気持ちが篤史や史華に知られたら、きっと今のままじゃいられなくなる。幼馴染の仲良し4人組でいられなくなる。そんなのイヤ!変わりたくない!ずっと一生このままでいいの!みんなと一緒に居たいの!」

私は思わず目を瞑り、必死に訴えるように彼に言い放つ。

「でも・・・でも、いつかはみんな一緒に居られなくなるんだぞ?高校卒業して進学するようになれば、県外に行くかもしれないだろう?今の気持ちを西園寺が篤史のコト好きだっていう気持ちを言わずにバラバラになるくらいなら、今言って・・・。」
「ちがうっ!高校卒業してバラバラになるかもしれない。いえ、きっとなる・・・でも・・・なら、高校3年間は一緒に居させてよ!私の唯一の・・・たった一つの居場所なのよ!私が私でいられる場所なのよ・・・だから・・・私の居場所を無くしたくないの・・・。」

いつの間にか、私の目からはぼろぼろと涙が溢れて頬を伝って落ちていた。彼は私の言葉を何一つ取りこぼすことなく聞いてくれて。

「そうか、そんなに篤史のコト好きなんだな・・・。」
「そうよ・・・大好きよ・・・私の身体の93%は好きで構成されてるわ。」
「残りの7%は?」
「史華へのヤキモチ5%、篤史との妄想1%、日常1%・・・。」
「すげーな。大好き過ぎだろうソレ。」
「しょうがないでしょ・・・そうなんだから・・・。」
「え?晶ちゃん、あっくんのコト好きなの?」

その場の時間が一瞬にして止まった。彼の肩越しに見えたのは、良く知っている栗色かかったふわふわの髪。

「なん・・・で?なんで史華がいるの?」

自然と震える声で、萎縮して動かない口を無理やり動かして絞り出した声に

「あ、晶ちゃん遅いなって・・・今日はあっくんも拓くんも用事があるって先に帰っちゃったから・・・。」

と、ただ事でない空気を感じたか、史華が小さく呟くように言う。

「忘れて・・・。」
「え?」
「私が言ったコト、史華が聞いたコト、ゼンブワスレテ!」
「なんで?私、協力するよ!そっかー、晶ちゃん、あっくんの事が好きなん・・・」

嬉しそうに瞳を輝かせて話す史華の声を遮るように私は声を張った。

「何度も言わせないで!」
「ひっ・・・」
「忘れて!誰にも言わないで!誰にも気づかれたくないの!」
「でも・・・」
「もし誰かに言ったら絶交・・・。絶対許さない・・・。」

私は小さく途切れ途切れでこの瞬間の気持ちを声にすると

「・・・わかった!忘れる!忘れた!何も聞いてないよ!あ、そうだ今日は私、用事あったんだぁ、晶ちゃんそういうことだから私先に帰るね!バイバイ!」

顔色を変え表情を強張らせた史華は晶の目を見ることなく逃げ出すように走り去り、私は俯いて止まっていたはずの涙をまた溢れさせながら拳をギュッと握り締めた。

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