おつかれさまですっ。
さてさて、『天界の花とアクロニアの蝶』も第6話になりました。
ここからドンドン物語は加速していき・・・たいなぁとか祈ってみたり(オイ
でわでわ早速。
今回もお時間のゆるす限りどうぞごゆるりと・・・。
ざわつくココロの正体もわからないまま、久しぶりに独りになったエミル。
何となくまっすぐ帰る気になれず、ひとりアクロニア平原に足を向けた。
しかし、そこでエミルは・・・
第6話『 侵入者 』始まります。
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第6話『 侵入者 』
一日の授業が終わり、エミルは帰り支度を始めた。といっても、机の横に引っ掛けてあるカバンを取るだけなのだが。
「エミル、もう帰る?」
エミルの席にマーシャが近づいてきた。
「ああ、なんだマーシャ用事か?」
「うん、ちょっとね~。だから今日は先帰ってて。あ、あとべリアルたちも買い物行くって言ってたから。」
「オーケィ。んじゃ先帰るな。マーシャも気を付けて帰れよ?」
「うん、じゃあね。」
小さく手を振るマーシャにエミルは右手を軽く挙げてそれに応えた。マーシャは小走りで自席に戻るとそこにいたのはあのタイタニアの姫様だった。こちらから見る限り二人の表情は少し固く一言二言交わした後、二人並んで教室を出て行った。エミルはそんな二人を見ながらやはり朝から湧き起こる胸のざわつきに違和感を感じ、
「ティタ・・・か。」
と小さく呟いた。べリアルもマーシャもいない教室でエミルは記憶の引き出しを順番に開けていく。しかし、それらのどの引き出しを開けてみてもティタの姿はどこにも収められていなかった。そして最後の引き出し。6年前のあの日の引き出しを開けてみるが、やはりそこにあのタイタニアの少女の姿はなかった。
「チッ、誰なんだよ・・・ったく。」
放課後、教室の喧騒の中でエミルはこの悶々としたざわつくココロに小さく舌打ちして教室を後にした。
学園を出てアップタウンを歩く。中央広場ではタイニーがいつものように何も知らない無邪気な冒険者を言葉巧みに孤島へ誘い込んでいる。
「なぁんか帰る気しねぇ・・・。ちょっとその辺散歩すっか。」
エミルはブラブラと街中を歩く。見慣れた街、見飽きた風景いつもの場所にいつもの露店、途中カフェスタンドでコーヒーを買いストローを咥えながら散歩の再開。しばらく歩くと
「あ♪エミルくん、ひとり?だったらさー、お茶しない?」
などと声を掛けられたりもするが、
「ハイ問題♪俺が今咥えてるモンってなぁんだ。」
「う・・・コーヒースタンドのストロー・・・。」
「正解♪んじゃな。」
「もーっ!マーシャとばっかでさー!たまにはウチらとも遊んでよー。」
「また今度な。」
ひらひらと手を振って躱す。通った鼻筋に少し冷めた感じの瞳、尖った顎のラインはモデル顔負けの容姿だ。引き締まった身体は決して筋肉でゴツゴツしているわけでなく、細見でスタイルもいい。そのためエミルを狙っている女子は多い。しかし、しつこく迫られることはない。幼馴染があのギルド評議会議長の孫娘マーシャだと皆が知っているからだ。けれど付き合っていないという情報は広まっているためこういった誘いが後を絶たない。エミルはアッカンベーをする女の子を躱し西の稼働橋を抜け平原に出る。西の守衛所の脇を抜け、小高い丘のようになった斜面を少しだけ登り
「ここらでいっか。」
ストンと腰を下ろしそのまま大の字になって寝転がった。空には白い雲がのんびりと流れ、柔らかな日差しを全身に浴びる。目を閉じて、風の音、小鳥の囀り、人々の声心地よい和音になってエミルの耳に飛び込んでくる。
「ん・・・?」
そんな中、ひとつ混じった不協和音、それは音ではなく気配。エミルは目を開けて辺りを見渡す。すると、自分がいる場所よりも更に北側に人影を見つけた。耳を澄ませる。足音の他に金属のぶつかり合う音が混ざっている。
「騎士団?」
騎士団の兵が訓練でもしているのだろうか?金属音は1つではない。しかもその音は甲冑を身に纏った人間が走るにはリズムが軽快すぎることに気づいたエミルは
「ちがう・・・。誰だ・・・。というかなんだ・・・。」
エミルは立ち上がり、音のする方へ駈け出した。
「賊か?いや、やつらが直接ここにくるメリットがない。なら誰だ・・・むやみに近づくのは危険か。武器は・・・」
エミルは腰の辺りに手を伸ばし、一本のナイフを手にする。
「ダガーか。まぁ無いよりマシだな。別に倒すわけじゃない。よし。」
エミルはナイフを握り再度走り出した。一旦丘を駆け下り、森の中へ入ると、慎重にかつ迅速に音のほうへ向かう。音は段々大きくなり向こうとの距離が詰まっていることがわかる。音の後についてしばらく走っていると急に音が止まる。エミルは急いで目の前の木陰に身をひそめた。そこに見えたのは、全身を金属の鎧で覆われた二人組だった。しかし、確実な違和感があった。鎧と思われる全身を覆うソレがあまりにも身体にぴったりなのだ。ぴったりというよりは
「身体そのものじゃねぇのか・・・。」
エミルはゴクリと生唾を飲み込んだ。あれはヤバイ、本能レベルで脳に警鐘を鳴らす。エミルの額に汗が滲み、右手に握るダガーに力が入る。
(どうするか・・・。この距離で見つかることは無さそうだが。2人、武器は持っていなさそうだが油断は禁物。とりあえず、騎士団あたりに報告しといてやるか。)
これ以上の深追いは自分の身に何が起こるかわからないという判断からエミルはこの場所から離脱しようとしたときだった。
パキッ
「・・・っ!」
後ろに引いた右足が地面に落ちていた小枝を踏んでしまった。エミルの全身から汗が噴き出す。すると、その音に気付いたのか2人組は動きを止めて、後ろを振り返る。エミルは息を殺してじっと様子を窺う。そして、振り返った姿を見たエミルは驚いた。
(男と・・・女なのか?人間じゃないのか?やっぱりアレは鎧じゃなくて身体そのものか。何モンなんだ・・・。)
振り返った2人の顔は人と同じ肌色で、瞳はブルー、少年と少女と思われた。少年の方は銀髪に整った顔立ちで無表情、少女の方は深い青色で同じく整った顔だが無表情。そして共に青い瞳をしていた。2人組は辺りを見回した後、少年の方が一言だけ
「イエス、マム。」
とつぶやき、一瞬身体を屈めると大きくジャンプした。そのスピードはエミルの動体視力でも捉えきれないほどのスピードだった。ジャンプした時に落ちた木の葉が地面に接地する頃には、そこに人影も、そこに誰かがいたという事実も何も残っていなかった。
「いったいナンなんだあれ・・・。」
これ以上ここに留まることは危険と考えたエミルは足早に森を抜け、とりあえずダウンタウンに向かうことにした。
西の稼働橋からダウンタウンに入る頃には、空は茜色に染まり始めていた。ダウンタウンは夜の賑わいを見せ始め、露店や酒場には多くの冒険者たちが一日の労をねぎらいあっていた。そんな夜の喧騒のなかをかき分け自宅へと足を運んでいたエミルは、自宅近くで見知った人影を見つけた。ベリアルだ。向こうもエミルに気づいた様子でもたれ掛ったレンガの壁から体を起こすと、
「よう、エミル珍しいな。一人なんてよ。」
両手をポケットに入れたまま近づいてきた。エミルは少しムッとした表情で
「なんだよ。いつもマーシャと一緒みたいな言い方すんな。」
と毒づいてみる。ベリアルはにししとニヤついて、
「おりょ?誰もマーシャなんて言ってねぇけどな♪」
と返してくる。
「テンメぇ・・・。」
「まぁまぁ、それより飯食った?」
「いいや。これからだ。」
「それじゃ、久しぶりに2人でどっか食いに行くか?」
「そうだな。」
2人はテキトーに歩きながら、アップタウンへ上がり路地裏の小さな店に入った。
「いらっしゃいませぇ♪昴林へようこそぉ♪」
和装のメイド服に身を包んだタイタニアの少女が出迎えた。
「かわいいねぇ♪ん?キルルちゃん?今度オレとデートしない?」
ベリアル得意のナンパ開始と思われたが、
「あはは♪私、キミみたいなお子ちゃまは趣味じゃないのよ~♪ごめんね~♪」
と頭を撫でられアッサリ躱され席に案内された。エミルはベリアルの瞬殺ぶりに笑いを堪えるのだが
「っぷ、くくく・・・。」
「てめー、笑い過ぎだっつうの。チェッ・・・。」
噴き出してしまいベリアルは拗ねた口調で抗議してきた。2人はメニューからおすすめをいくつかオーダーし普段に比べると少し豪華なディナーが始まった。特に会話もなく食事が進む中、エミルは昼間の出来事が気になっていた。
「どうしたエミル、悩み事か?」
不意にベリアルが口を開く。
「なんでだよ。」
「そんな顔だ。何年ダチやってるとおもってんだよ。」
「ん~、6年?」
「真面目に応えんなっ。んで?どうしたんだよ。」
ベリアルの口調は茶化したように軽いものだったが、そうじゃない事はすぐにわかる。エミルは少し考えて今日見たものを話すことにした。
「実は今日、西の森で変なヤツを見かけたんだ。」
「変なヤツ?」
「あぁ、タブン男と女、歳は俺らとそう変わんない感じだったんだが、全身が鎧っつうか服っつうか金属で出来ててさ。なのにすげぇ動きが速くてさ。」
と、そこまで話した途端、ベリアルのフォークが止まる。
「どうした?ベリアル?」
ベリアルはハッとエミルの顔を見て
「い、いや。それで?」
「あぁ、なんか探してるっつうか、あ、アレだ偵察?なんか最後に『イエス、マム』とか言って消えやがったんだ。なんか雰囲気がヤバイ感じだったからそいつらが消えたあとすぐに森から出たんだけどな。サウスの職人でもあんな装備は作れないと思うんだ。かといってトンカのマリオネットでもないあれはホント人間・・・みたいだったな。」
エミルの話が終わったとき、ベリアルの表情はいつにもない固いソレに変わっていた。そんなベリアルにエミルは
「ベリアル?オマエ何か知ってるの・・・。」
「ヤバイな・・。」
「は?」
エミルのセリフに被せるように一言呟いたベリアルはフォークを置いて、
「エミルはさ、俺らドミニオンがいる世界が戦争の世界だって知ってるよな。」
「あぁ、アレだろ?第4の種族とかいうのと、もう百年近く続いてるってやつだよな?」
「あぁ、そうだ。」
「それがどうしたんだよ。突然・・・。」
ベリアルは下唇をギュッと咬み、
「そいつらだよ・・・。」
「え?」
「俺らドミニオンが戦ってる相手・・・エミルが今日見たってヤツだよ・・・。」
「どういうことだよ?」
「わかんねぇよ。けど、オマエの話聞いてたらよ、そいつらしか思い浮かばねえんだ。ヤツラこっちの世界への入り口見つけやがったのか・・・。ってことはレジスタンスの防衛網を抜けたってことなのか・・・やべぇ・・・けど、なんでヤツラこっちの世界に来たんだ・・・?」
ベリアルが独り言のようにブツブツと呟く。エミルには訳がわからず、
「おいおいベリアル?ちょっと一人でわかってないで俺にもわかるようにだな・・・。」
とソコまで言うと、
「エミル、俺ちょっと向こうに戻ってみるわ。ヤツラがここに来たってことはアニキ・・・向こうのレジスタンスが心配だ。明日からしばらく学校休むから。」
目の前の料理をかっ込み、グラスに入った水を一気に飲み干すと、
「いいかエミル、もしも今度ヤツラを見たらとりあえず逃げろ。お前が強いのはわかってるけど、マトモな装備がなけりゃ絶対勝てない相手だ。それと、当分はマーシャと一緒に行動しろ。万が一ってことがあるといけないからな。守ってやれいいな。」
ベリアルのただ事ではない雰囲気に押されたエミルは
「わ、わかった・・・。わかったけどよ。一体なんなんだよ。ソイツ等・・・。そんなにヤバイ相手なのか?」
聞きたいことは山ほどあるはずなのに、その一言しか口にできず。
「ヤバイ・・・そうだな。間違いなくこの辺の魔物とは比べ物になんねぇ。ヤツラの名前はDEM・・・デウス・エクス・マキナ、機械仕掛けの神だ。」
「な・・・神・・・?」
「それじゃ、俺行くわ。ココの勘定頼んだ!お前にしかできねぇコトだ!」
ベリアルはウィンク一つ飛ばすと、走って店を後にした。
「おいおいおい!誰も奢るって言って・・・あぁくそっ!今度奢れよ!」
エミルは立ち上がってベリアルの背中に向かって叫ぶと、もう一度椅子に腰掛け、
「ったく、ベリアルのアホめ。つか、何だよ一体、何が起きようとしてんだよ・・・。機械仕掛けの神か・・・まぁソレを今考えてもしゃあないか。俺は俺のできることやるしかないわな。よし、明日からいっちょナイト様になってやるか。」
エミルは皿に残った最後のポテトを口に放り込むと、
「おねえさーん、デザートまだー?」
自分の中に一瞬芽生えた嫌な予感を掻き消すように、ムダに明るく振舞ってみるのだった。
to be continue
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