年度末でお仕事が修羅場突入のYUNIKOですorz
まずはひと段落な11話っ!
世間話なんて書かずにさっそく~
お時間の許す限り、どうぞごゆるりと・・・
ティタとの記憶を取り戻したエミル。
これが全部かどうかは分からない。
けれど、
この気持ちは伝えたい、いや伝えないといけない。
しかし、ティタとの再会の前にタイタスの言葉がエミルを貫く。
第11話『 再会Ⅱ 』 はじまります。
-------------------------------------------------------
第11話『再会Ⅱ』
タイタスは険しい形相で湧き起こる怒りの矛先をヘルミーネに向けた。
「俺はっ!」
そこでエミルが再度口を開いた。
「確かに俺はもうティタの従者じゃないっ!従者でなくなったときの記憶はまだ戻ってないけど・・・。けどな!だから俺はティタに謝りたいんだ!逢って、ちゃんと逢ってティタの顔を・・・目を見て謝りたいんだっ!ティタとの約束が・・・約束を・・・。」
そこで止まってしまう。そんなエミルの後ろでマーシャは心臓を握り潰されるような感覚に襲われ、制服の胸の辺りをギュッと掴んでいた。タイタスはフンと鼻で笑うと、
「まぁいいだろう。所詮もう従者でなくなった以上、ティタと一緒にいることなど出来ないのだからな。それに今日はティタの学友ということで来たのなら学友としてティタに会えばいい。勿論、あの扉が開かれるならな。それと後ろに隠れているお嬢さん?お名前を伺ってもいいかな?」
一転、優しい口調になったタイタスに
「あ、あの、初めまして・・・マーシャと申します。」
エミルの横に飛び出してピョコンと頭を下げる。タイタスは態度を一転、軽くお辞儀をし、
「過去のしがらみで騒がしくしてしまい申し訳なかった。こんなに美しいレディがいらっしゃるとわかっていれば無視出来たほどの些細なことだったのですが。マーシャさんですか、初めまして。私はティタの兄でタイタスと申します。貴女のような素敵な女性がティタの友達なら私は安心できます。時にギルド評議会長のルーランさんはお元気ですか?」
突然祖母の名前にマーシャは
「あ、祖母をご存じなんですか?」
と驚きを隠せない。タイタスは階段を一段一段降りながら、
「ええ、勿論。この世界との通商会議で本当にお世話になりましたよ。またいつでも遊びに来てください。ティタもヘルミーネも喜ぶと思いますから。それに・・・。」
階段を下り、マーシャの立っている目の前で立ち止まり優しく微笑む。
「それに?」
というマーシャのオウム返しに、タイタスはマーシャの手を取り、
「マーシャさんのように美しい女性に会えるのは私自身も楽しみですから。」
と、片膝をつき
「え・・・・・・。」
マーシャの右手を取りそのままそっと手の甲に接吻をした。いきなりの出来事にマーシャは、
「え・・・え?え?ええ?」
目をぱちくりさせながら、あうあうとタイタスと手の甲を交互に見てみるみる顔を紅く染め上げた。それを見ていたエミルは、
「な、なにやってんだよっ!」
マーシャに触れたタイタスの手を払い除け二人の間に立つ。タイタスはハァと分りやすい溜息をついて立ち上がり、
「全く無粋な男だ。くだらん。マーシャさんも大変ですね、こんなクズと一緒にいると。」
「なんだとっテメェ!」
「エミルやめてっ!」
タイタスの軽口に掴み掛らんとするエミルの腕を両手でギュッと掴みマーシャが止めに入った。
「マ、マーシャ・・・なんで・・・。」
エミルは腑に落ちない顔でマーシャを見た。マーシャはエミルの前に出ると、
「タイタスさん、これだけは訂正してください。確かにエミルは無粋でエッチで鈍感ですけど、優しくて何より人の痛みがわかる人です。クズなんて言い方しないでください。」
口調は穏やかだったが、その声とタイタスを見つめる瞳には強い意志が感じられた。タイタスはフンと鼻で笑い、
「エミル、よかったな。こんなにも貴様の事を想ってくれる人がいて。フフッ・・・マーシャさんと一緒になってアアクロニアの片田舎で幸せに暮らすのが貴様のベストだ・・・おっと、私も何かと忙しい身なのでな。これで失礼するよ。マーシャさん、これからもティタと仲良くしてやってください。では。」
軽く頭を下げ二人の横をすり抜けていく。そして、エミルの横を過ぎた辺りで本当に小さな声で
「貴様はブルーエルフィンに魅せられた蝶だ。」
呟かれた。
「なんだよそれ・・・。」
エミルが振り返り聞き返したが、タイタスは歩みを止めることなく玄関へ歩いて行ってしまった。マーシャは心配そうにエミルの顔を覗き、
「なに?何言われたの?」
と尋ねてきたが、エミルはマーシャの目を見ることなく去っていくタイタスの背中を睨み付けるような鋭い視線を投げたまま何も応えなかった。その一部始終を見ていたヘルミーネは、エミルたちの傍へ駆け寄ると、
「エミルさま、マーシャさま、タイタス様のお言葉にご気分を害されたようでしたら、このヘルミーネが代わって謝罪を・・・。」
深々と頭を下げた。エミルはヘルミーネの言葉を遮るように
「大丈夫だ。アイツ・・・タイタスは昔から、小さいころからあんな感じのヤなヤツだったよ。今更どうってことないさ。それよりティタのところへ連れて行ってくれないか。」
そういってヘルミーネの肩に手を置く。ヘルミーネは頭を上げにっこりと微笑み
「はい、それではこちらです。」
三人は改めてティタの部屋へ向かう。
中央の階段を上り、2階のフロアに到着すると長い廊下を進んでいく。見覚えのある壁、柱、エミルは自分の中に取り戻した記憶のピースと一つ一つ重ねていく。そして、
「ティタの部屋って、一番奥の右側の部屋か?」
ポツリとヘルミーネに告げると
「はい。」
エミルの方に振り向くことなく答え
「そうか。変わってないんだな・・・。あのときから・・・。」
独り言のように呟くエミルにマーシャは胸の辺りが締め付けられた。まもなくしてドアの前に立つと、ヘルミーネはゆっくりとノックをして
「ティタさま、ヘルミーネです。よろしいですか?」
すると、中から力ない声で
「放っておいてって言ったでしょう・・・。私は誰にも会いたくありません。一人にしておいてください・・・。」
ティタの声が聞こえてきた。
「しかし・・・き。今日はご学友がいらっしゃったのです。せめてお顔だけでも・・・。」
「ご学友?こんな私にもうお友達なんていないわっ!ここあもリンゴもクラスメイトも・・・それに、私は一番の友達と認めてもらったマーシャを悲しませてしまったもの・・・大好きなエミルも傷つけてしまった・・・。そんな私に誰がかまうと言うの・・・もう私は居ないほうがいい存在・・・。」
と、言葉を詰まらせながら話すティタの声を掻き消すように、ドアを激しく2回叩き、
「ちょっとティタ!私、まだ友達もライバルもやめるなんて言ってないよ!」
マーシャが強い口調で言い放つ。
「え・・・マーシャ・・・?」
ドア越しに疑問と驚きの入り混じった声色の声。
「た、確かにあの時は気が動転していて何がなんだか分からなくてティタに酷いこと言ったけど・・・言ったけど、それは本心じゃない!あ、いや本心じゃないと言えば嘘になるかもしれないけど。だって、ライバルが減るんだもん。でも、そんなので居なくなるのは望んでないのっ!」
マーシャはドアに靠れ掛けた姿勢で恐らくドアの向こう側で聞いてくれているであろう友達で恋敵(ライバル)の彼女に伝えた。力強く伝えたあとフッと表情を緩めて、まるで目の前の友達とふざけあうような口調で一言付け加えた。
「それにホラ、どうせなら選ばれて勝ちたいでしょ?」
するとドア越しに小さな声で、そうねと聞こえた。マーシャはそれを聞くとドアからそっと離れた。マーシャと入れ替わりにエミルがドアの前に立ち、幼馴染のマーシャですら聞いたことのない優しい声でドアに向かって囁く。
「もう・・・もう独りぼっちの夜は怖くないのか?静かで暗くて寂しくて泣いたりしてないのか?・・・ティタ。」
エミルの声が止んだとき、ドアの向こうで息を呑むような音を感じた。エミルはそのまま続ける。
「あのとき俺は守るって約束した。ティタを、ティタさまをずっとずっと守ると・・・。けれど守れなかった。俺はその大事な約束さえも忘れていた。だから、謝りたいんだティタ。」
そこまで言ったとき
「エミル・・・。」
マーシャは両手でスカートをギュッと掴み下唇を噛んだ。ドアの向こうからもティタのくぐもった声が聞こえた。
「エミル・・・貴方思い出して・・・」
そしてエミルは更に続ける。
「全部を思い出したわけじゃない。けれど、ティタさまを守るということは思い出したんだ。けれど俺はもう従者じゃない。だからあの時のようにってわけにはいかない。だけど、学園でなら・・・学園でなら俺はティタさまを守れる。だから、もう一度・・・もう一度・・・指切りさせてくれないか。あの時みたいに二人笑顔でさ。だからここを開けてくれないか。」
エミルは不意にコホンと小さく咳払いをすると
「僕たちの世界でする一番大事な約束。ティタさま、指切りしましょう。」
まだおぼろげな自分の記憶を辿り、あの時の言葉をできる限り忠実に声にした。すると、固く閉ざされていたドアがゆっくりと開き、その先に涙で顔をくちゃくちゃにしたティタが口元に両手を当て、ポロポロと涙を流して立っていた。ドアが開き切ると、泣き顔ティタは無言でエミルに歩み寄り、その身をエミルの胸に預けると細く繊細なガラス細工のような小指を差し出す。鼻にかかった泣き声色で小さく呟く。
「指切り・・・グス・・・して・・・。」
エミルは表情をフッと緩め、瞳を閉じ
「はい。ティタさま。」
ティタの真綿のように白く細い小指に自身の小指をゆっくり絡める。エミルの感触を小指に受け取ったティタは泣き顔で一生懸命笑顔を作り、自分の今精一杯の元気で
「おかえりなさい。エミル・・・。」
と出迎え、
「ただいま。ティタ姫さま。」
とエミルが返す。ティタは悪戯っ子ぽく鼻を鳴らして
「ちがう~、ティ~タ。」
と空いている方の手でエミルの鼻をピンと弾き、エミルも空いている方の手で軽く鼻をさすりながら、
「はい・・・ティタさま。」
と子供のような笑顔で返した。その笑顔にティタも笑顔で
「・・・はい♪」
と応え、ようやく二人は数年ぶりの再会を果たしたのだった。
to be continue
コメント