さてさて、第3話アップします~
まだまだ物語は動き出しません!><
でわでわ、最後までお付き合いくださいませ。
幼きころに交わした約束は、時の流れとともに薄れ消えてしまったのか。
時計のような日常に入り込んだタイタニアの姫は、
日常を切り替えるスイッチになれなくて。
第3話『 日常スイッチ 』はじまります。
---------------------------------------------------------
第3話『日常スイッチ』
「え・・・・・・?」
ティタは突然大粒の涙を一筋流し、
「そんな・・・エミル、私を・・・わす・・・れ・・・。」
両手を口に当てる。ティタの突然の態度にエミルは驚いた。
「あ?え?は?なんで、泣くんだよ。」
周りのクラスメイトも最初は驚いたが、すぐに彼らの中での敵味方の判別は終わったらしい。
「ティタさん、大丈夫?ホントにこんな泣かせるようなヤツと友達なの?」
「エミルてめぇ、姫さま泣かせてっと死刑だぞ、死刑!」
クラスメイトたちは口々に好き勝手な言葉をエミルに投げつける。エミルは盛大に溜息を吐くと、両手で机の天板を叩くように立ち上がり、
「センセー、お腹が痛いので保健室いってきまーす・・・。」
おどけた口調で発せられたセリフもエミルの顔を見れば、おどけているとは思えない。
「え?はい・・・ってちょっとエミルくんっ!ちょっと!・・・ンもぅ。」
先生も一つ溜息をこぼすと、きゅっと唇を噛んで
「はいはーい、みんな席について。ティタさんは・・・ホントにエミル君の隣しか空いてないんだけど・・・。」
「はい、こちらで結構です。」
金色の真っ直ぐに伸びた長い髪がぱさっと揺れると、静かに着席する。こうして微妙な空気のままホームルームは終わり、そのまま授業へと進んでいった。休み時間になると、定番の質問タイムに移行すると思ったところが意外にもその時間が訪れることはなかった。今朝の一件もさることながらやはり貴族という部分が大きいのだろう。アミス学園に通う生徒たちは基本的に庶民やアルマモンスターたちで、王家や貴族たちは皆全寮制の学校へ通うのが普通とされている。そんな中、この学園に貴族が通う事態など誰も想像していないし、そもそも貴族とどんな話をすればいいのかわからないのだ。ティタは休み時間の間、誰とも会話することなくじっと席に座っていた。そんな姿をマーシャは見ていたが、マーシャもまた今朝の出来事が引っかかって一歩踏み出す勇気が生まれてこない状況だった。あの時のティタの流した一筋の涙。あの涙の意味を知りたい。でも知りたくない。その葛藤がマーシャを更に動けなくしていた。午前中の最後の授業前の休み時間、マーシャは改めてティタを見た。色白で透き通るような肌、髪は金髪でシルクのようにツヤのある癖のない真っ直ぐなストレートは背中辺りまで伸びている。恐らく大きいだろうと思われる瞳は伏し目がちではっきりと判らないが、瞼から伸びるまつ毛は長く、目元一つとっても上品さが感じられた。マーシャがずっとティタを観察していると、その視線に気づいたティタが顔を上げマーシャと目が合った。ティタは力弱く笑みを作り微笑みかけた。マーシャはそんなティタの表情に同性ながらドキッとして思わず前を向いてしまった。
(うわぁ、すっごい美少女だぁ。お人形みたいだぁ。でもどうしてエミルの事知ってるんだろう・・・。)
俯いてほんの少し火照った頬を冷ましながら、ふと頭に浮かんだ言葉にドキッと高鳴った鼓動も静まり、
(エミルは覚えていなかった。幼馴染?私以外に?まさか許嫁?エミルが?タイタニアの貴族に?)
次襲ってきたのは胸の辺りに針を刺したようなチクリとした痛みだった。幼いころからずっと一緒だったマーシャは自分の持っている幼い記憶の引き出しを順番に開けていく。初めて出会ったのは4歳のとき、この街に引っ越してきたからと挨拶に訪れた両親の足元に隠れるように覗いていた男の子。控えめで大人しい感じの男の子は当時の私には弟のように見えて可愛く思った。
(きっとあの時から私、エミルのこと・・・。)
そして時間は進んでいく。川で森で朝から晩まで走り回って二人泥んこになって遊んだ。そしてマーシャはふと思い出す。
(そうだ。エミルって8歳の時に引っ越ししてる!それで再会したのが・・・あのとき・・・)
マーシャは、浮かびかけた光景をぶんぶんと頭を振って掻き消した。あの2年、私の知らない空白の2年。そのフレーズが頭の中をグルグルと駆け巡り、駆け巡る度に私の思考は白く白く塗り変えられていく。気が付けば、始業のチャイムが鳴っているにもかかわらず教室を飛び出し、マーシャは学園の庭にそびえ立つ展望塔の上に立っていた。
「はぁ。ん~~~~。」
マーシャは溜息を一つ着いた後、そのまま大きく伸びをした。マーシャのお気に入りの場所、何か自分にあると訪れる場所。アップタウン上空に停泊する飛空城の更に高い場所、自分が訪れることのできる一番空に近い場所。何もかもが小さく見えて、広い空を見上げると吸い込まれそうになるほどに広がる青の中にポツンと一人。何もかもが些細なちっぽけなことに思えて沈んだ心を浮き上がらせてくれる。展望塔を歩き塔の先端部分にたどり着く。吹き抜ける風に髪をなびかせて身を任せる。瞳を閉じてさっきまで考えていたちっぽけなことにサヨナラをする。
「オレンジの縞々って珍しくね?」
聞きなれた声が足元から聞こえた。マーシャは瞳を開き足元に視線を向けると、そこにエミルが寝転がっていた。
「なによソレ。」
マーシャが不思議そうに聞き返すと、
「オマエのパンツだよ。」
「っ!」
エミルが素っ気なく答えた。マーシャは自分でも感じるほど顔を紅く染め両手でスカートを押さえた。
「エミルのばかっ!このヘンタイ!なんで覗いてるのよ!」
エミルは大きな欠伸をしながら
「俺が先にここで寝てたんだ。オマエが勝手に俺の頭の上で突っ立ってるんだろうが。つうかさ、こんなトコだと俺じゃなくても塔の下にいるヤツからも見えるぞ?まぁ、減るもんじゃないけどな。」
「エミルが言わないでよ。ウチの学校の制服ってなんでこんなにスカート短いのかしら。まぁ別にエミルだったら見られてもいいけど。」
マーシャがそう言うとエミルはニヤッと口元を緩めて
「なんだよ、誘ってんのか?」
軽口にマーシャは即答で
「なによ、誘ったら私のこと食べちゃうの?」
と切り返す。エミルは体を起こし
「女子が食べちゃうとか言うな。それにガキんときからお前の裸なんて見飽きてるからな。そんな気起きねえよ。」
耳たぶを触りながらさらっと言い放つ。マーシャは胸がドキッと高鳴る。エミルの癖が出ている。エミルは小さいころから嘘を吐くとき必ず耳たぶを触る癖がある。マーシャはそれを知っていた。
「ふ、ふうんってヒドイよ!私と一緒にお風呂入ってたのっていつの話よ。あの頃とは色々変わったんだよ?成長・・・したんだよ?」
軽く流すはずのセリフの最後を噛んでしまった。エミルは鼻の頭を人差し指で掻きながら
「ば、馬鹿言ってんじゃねえよ。幼馴染なんだ、言ってみれば兄妹・・・家族みたいなもんじゃねえか。手なんて出せるかばーか。」
マーシャに背中を向けて少し強めのアクセントで言われ、
「ティタさんがいるから?だからあの日の告白も応えてくれなかったの?」
マーシャはついポロっと言ってしまった。エミルは勢いよく振り返り
「はぁ?なんでそこであの姫さんの名前が出てくんだよ。」
エミルはほんの少し声を荒げ聞き返す。
「だって・・・だって、あの子エミルのこと知ってた。小さいころのこと、きっと私の知らない2年間の記憶をあの子は持ってる・・・」
「マーシャ・・・?」
エミルはマーシャの手にそっと自分の手を添えて
「マーシャがどんな想像してるのか分かんないけど、きっとそんなんじゃない。覚えていないってことは知らないって事と同じだ。それに考えてもみろよ。相手はタイタニアの貴族だぞ?俺みたいな身寄りもない人間がどうして付き合えるよ。それこそ知り合うきっかけすらぇよ。」
マーシャの瞳を真っ直ぐに見つめて応えた。もちろん耳たぶは触っていない。真実だ。
「ほんと?信じていい?」
「ああ。」
「ホントに?許嫁じゃない?」
「はぁ?ちげーよ。つか、なんで許嫁なんだよ。」
「だって・・・よく小説とかであるでしょ?」
「ねえよ。」
「じゃ、どうしてティタさんがエミルの事知ってるのよ?」
マーシャのしつこい程の質問に苛立ちを隠せず、
「わっかんねえの!俺も知りたいくらいだ!大体、俺の記憶は10歳から始まってんだ。ガキん頃のことなんて覚えてねぇよ!」
つい言葉の節々に出してしまった。その瞬間マーシャはビクンと肩を震わせ、泣きそうな顔になり
「ごめんなさい・・・。私、無神経だったね・・・。ごめんなさい。」
謝るマーシャにエミルはしまったという顔をしながらも
「気にスンナ。それより授業さぼっちまったな。」
マーシャの頭の上に手を置き、優しくなでる。
「不良になっちゃったね。」
「ばーか、そんな1限くらいで不良とかいうな。お、昼か。マーシャ飯にしようぜ。」
「うんっ。」
マーシャは目を細めて撫でられながら、元気よく返事をした。
さすがに半日を同じ教室で過ごすと、嫌でも話す機会はあるわけで。お昼休みには数人のクラスメイトがティタの傍に集まっていた。
「ティタ姫様。お昼はどうなされるんですか?」
クラスメイトの一人が声をかけると、ティタは小さく笑みを作り
「ティタ姫様というな。ここにいる以上、私は貴族でも姫でもなくアミス学園の生徒、皆と同じ。だからティタでよい・・・いや、ティタと呼んでくれ。」
そういって軽く頭を下げた。周りにいた女子たちは
「そんな頭上げてください!私たちはみんなクラスメイトだと思っています。それで・・・」
ティタの前に集まっていた数人が顔を見合わせ
「お友達になりたいなって思ってます。」
笑顔で答えた。そんな笑顔を見たティタも
「ありがとう。私もぜひお友達になってほしい。よろしく頼・・・お願いします。」
負けない笑顔で応えた。
「それじゃティタさん、お昼を学食一緒に行こう?」
「学食?それは・・・。」
「あ、学校に通うの初めてなんだよね?学食っていうのは食堂の事で安くて結構美味しいんですよ♪」
ティタと数人の女子たちは打ち解けた風に会話をしながら教室を出て行った。その直後、入れ替わるようにエミルとマーシャが教室に戻ってきた。するとべリアルが、
「おいおいおいおい、お前ら二人仲よくサボリとかお兄さん感心しないなぁ。どこでエロい事してたんだよ。」
エミルの肩に腕を回してきた。
「バカ野郎、そんなのねぇよ。他の奴らが煩かったから逃げてたんだ。」
エミルが溜息交じりで答えると
「あぁ、朝のアレか。で?ホントのところどうなんだよ?エミル、あのお姫様と知り合いなんか?」
「知らねぇよ。だいたいなんで俺がタイタニアの貴族と知り合いになれるんだよ。」
べリアルの興味津々な質問に、エミルは呆れた口調で言いのける。そのときマーシャの表情が一瞬曇ったが、すぐに笑顔に切り替えて
「そんなことよりっ。お昼にしよ?もう私お腹ペコペコぉ。」
自分の机からお弁当箱を2つ持ってくると、エミルの机の上にどんと置いて近くにあった椅子を引いてくる。
「そうだな。俺も腹ペコなんだ。さっさと食おうぜ。」
べリアルも机から紙袋を持って座る。すると、
「やっほやっほ♪来たよ~ん。」
ルルイエが紙袋を持って教室に入ってきた。べリアルとルルイエの紙袋が同じことに気づいたマーシャが
「あれ?二人とも同じお弁当?」
不思議そうに紙袋を見つめ、それに気づいたルルイエが
「へっへ~ん、今日はなんとこのルルイエちゃんがべリアルのためにお弁当作ってきたのでした~。」
左手でピースしながら椅子に座り
「へぇ。ルルイエすごいじゃん。でもどうして?」
「うん、べリアルの家今日から暫くおばさんが向こうに戻るからね。ここは婚約者の私がべリアルの世話しなくちゃってね♪」
突然のカミングアウトにそこにいた全員と教室にいた全員が
「えええええええええええ!」
驚いた。そんなリアクションにべリアルは平然とした態度で
「あれ?言ってなかったっけ?俺んちとルルイエの家同士でな。だから卒業したら俺ら結婚すんだわ。そんなことより飯食おうぜ飯。」
べリアルとルルイエのあまりにも普通すぎる態度に周りは毒っ気を抜かれたように白けてしまい、
「そ、そうね。ご飯にしよ?はい、エミルのお弁当。」
「お、おう。サンキュな。」
いつものように振舞うしかないわけで。
このときすでに朝の出来事など頭からなくなっていて、
この瞬間は日常スイッチが切り替わったと誰も気づいていない
to be continue
コメント