年度末とかなんとか色々あって、筆が進まなかったなんて言い訳
してるYUNIKOです。(汗
さてさて、仕事もひと段落したので続きを書いていきますよ~
ということで、さっそく!
ティタとの記憶を取り戻したエミル・・・
しかし、それが完全で全てかどうかはわからない。
けれど、
エミルは胸に感じたティタのぬくもりと小指を絡ませたあの感覚は
きっと真実。
そして時間が流れ、あの非日常から日常に戻ろうとしたある日
それは突然に・・・
第12話『 第三勢力 』はじまります。
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第12話 『第三勢力』
その日ウチに訪れたのは、一人の男性と小さな男の子。私は最初リビングの入り口からその姿をちょっとだけ覗いてすぐに隠れた。けれど、男性が着ていた軍服がアクロニア四騎士団のものでないデザインだったので興味が湧き、こっそりと覗いていた。お婆様と軍服の男性が何か色々とお話しをしているその足元で隠れるようにして立っている男の子に目がいった。
(いくつくらいなのかなぁ。私より年下?)
幼い頃の私はすこしお転婆なところがあったので、相手に負けたくないという視点から年齢がすごく気になった。すると、
「マーシャ、ちょっとこっちにおいで。」
そこに居るのがわかっていたようにお婆様に呼ばれ、私はつい
「はいっ。お、おばあさま。」
背筋をピンと伸ばし玄関に続く廊下を歩く。お婆様の隣に立つと、私の頭にポンと手を置き、
「この子がウチの孫娘のマーシャ。母親に似て綺麗な顔なんだけどねぇ、どうもお転婆で・・・。ほら、今日からこの街に住むことになったガトゥさんと・・・。」
そこで、軍服の男性がニッコリと微笑み
「今日からここの住人になるガトゥです。こっちがせがれのエミル。ほら、エミルちゃんと挨拶しなさい。」
背中を押されて姿を現した男の子は、俯き気味に小さな声で
「こ、こんにちは・・・エミル・・・です。」
そう言った。私はその仕草が可愛くて思わずお姉さん風が私の背中を吹き抜ける。
「こんにちは。私はマーシャよ。よろしくねエミル、わからないことがあれば私に何でも聞いてね?」
そうして右手を出したその先には、成長した今のエミルが立っていて
「あれ?どうして?」
そういう私も今の姿で。エミルは私の差し出した右手をするりと躱すと私の右側を通り過ぎる。私は慌てて振り返るとそこに立っていたのは、
「ティタ・・・。」
金髪のタイタニアの少女が両手を広げて立っていて、エミルはその腕の中へ飛び込んでいく。
「イヤ・・・イヤ、エミルぅ!行かないでっ!私を見てっ!エミルぅぅ!」
私はエミルを追いかけるべく右手を伸ばして駈け出した
瞬間。
「ダメェ・・・っはぁ・・・はぁはぁはぁ。」
目が覚めた。汗を吸い込んだパジャマが身体に纏わりつき、自慢の栗色の長い髪が額やうなじに張り付いている。
「何この夢・・・ヤだな・・・。シャワー・・・浴びよう。」
ベッドからゆっくり出ると、大きく溜息に似た深呼吸を一つして部屋を出た。
アップタウンの東階段上。いつもの場所でマーシャは街灯にもたれ掛り空を見上げる。ティタのお屋敷へお見舞いに行って、あれから2ヶ月が過ぎた。あの日の翌日からティタは復学し、何もなかったように日常が始まった。ただ、あんな事があったため、ティタはヘルミーネとその他数名の騎士に護衛されての登校となっていた。最初はあまりにも仰々しく、アップタウンでは見慣れない光景だったため皆が距離を置く感じでおかしな空気が流れたものだが、人間慣れというものは恐ろしく数日もすればその光景が当たり前のものとなり誰も気にすることなく生活するようになっていた。エミルとマーシャも同じようにあの襲撃事件の当事者ということで最初は変に気を遣われて、どこか居心地の悪い日々を送ったがティタの時と同様数日もすれば今まで通りの生活に戻った。それから2ヶ月、特にあの時のような襲撃もなく日々淡々と日常が過ぎていく。しかし、この日々淡々というのが逆にマーシャをこんな風にさせていた。
「どうしてあんな夢見ちゃったんだろう・・・。はぁ。」
見上げた空に浮かんだ雲をぼんやり眺めてポツリと呟く。
「夢がどうした?」
「ひゃうっ。」
突然声を掛けられ、マーシャはその場で飛び上がるように肩を揺らす。慌てて振り返るとそこにエミルが立っていた。
「び、びっくりするじゃない。おはようエミル。」
「おう、いや何かボーっとしてるからさ。これでも4回も声かけたんだぜ?」
「ええ?4回もぉ?うう・・・ごめん。」
マーシャはばつが悪そうに両手でカバンを抱きかかえて口ごもる。
「いいさ、それより調子悪いのか?休んだっていいんだぞ?その・・・何か辛そうだしよ。」
「え・・・。心配してくれてるの?」
「当たり前じゃねーか。幼馴染が具合悪そうにしてて心配しないほど俺はデリカシーない奴じゃねぇよ。」
エミルはマーシャを見つめる。マーシャはエミルの瞳に自分が映っていることに気づくと急に顔が火照りだし、慌てて視線を逸らす。
「だ、大丈夫。ほんと大丈夫だから。」
と、そこでエミルがほんのり頬を染めて、
「あ・・・スマン、気が利かなかったわ。」
マーシャは意味が解らず、首をかしげた
「ん?なにが?」
「いや、アレだろ・・・そのアノ日・・・うがっ!」
エミルが言葉を最後まで言う前にマーシャのカバンがエミルのみぞおちにめり込んでいた。
「違うわよバカっ!ソレはこの間終わった・・・って何言わすのよあほっ!デリカシーない奴じゃないとかどの口が言ってるのよ!もー信じられないっ。サイッテー!もう先に行くからねっ!」
マーシャはフンと鼻を鳴らすと蹲るエミルを置いて、ずんずんと早歩きで歩き出した。エミルはみぞおちをさすりながら立ち上がると、
「待てよ・・・イテ・・・マーシャ待てって。悪かったって。オマエの周期知らなかったから・・・」
すると、マーシャはピタっと立ち止まり振り返ると、顔を真っ赤にして肩を震わせ大きく息を吸い込むと、
「しねっ!」
一言だけエミルへ浴びせそのまま走って行った。
教室に入ると既にティタが登校していた。自席で本を広げ読書に勤しんでいる。
「お、おはよう、ティタ。き、今日は早いんだね・・・。」
笑顔を作ってティタに挨拶をする。
「あ、マーシャ。お、おはよう・・・。うん、その・・・ちょっと今朝は用事が・・・あって・・・。」
「そ、そっか。」
ティタも笑顔を見せるが、その表情は少し固い。2ヶ月前のあの日以降二人の間はこんな感じだ。決して仲が悪くなったというわけではなく、ただ急激に変化した3人の距離感を女子二人が測りきれていないといった感じだった。二人俯いて対峙していると、この事態の渦中の人物が教室に到着した。
「ウーッス。」
いつもの口調でクラスメイトと挨拶を交わしながら自席につく。カバンを置き椅子を引きながら隣にいたティタに、
「おはよう、ティタ。」
声を掛けて席につく。二人はエミルが腰かけた瞬間二人はエミルの前に立ち、
「エミルっ!」
「あの、エミル・・。」
同時に声を掛けた。その絶妙で奇妙なタイミングにエミルは若干身体を仰け反らせ、
「んな・・・なんだ?」
顔を引きつらせて応える。
「あ・・・ティタ・・・先にいいよ・・・。」
「ううん、マーシャが先に・・・。」
二人はお互い遠慮し合いまた動きがソコで止まる。しかし、埒が明かない状態を打開したのはマーシャで、肩から下げていたトートバッグを開き、
「はい、これお弁当。それとおばあちゃんが朝ごはんちゃんと食べてるかって心配してた。最近ずっと家で食べてないし。」
と青色のハンカチで包まれたランチボックスを手渡す。
「おう、そっか・・・ルーランさんに心配掛けるのはアレだしなぁ。それじゃ明日の朝行くって伝えておいてくれないか。」
「うん、わかったよ。あ、もう今晩の夕飯もウチにおいでよ。怪我治ったって報告もしてないんだし、ゆっくりおばあちゃんの相手してあげて?」
「んー、まぁそうだな。そうするか、んじゃ悪い。今晩ご馳走になるわ。」
「うん。」
二人の会話を見ていたティタは少し寂しそうな瞳をしていた。エミルは渡されたランチボックスを机に仕舞いながら
「で?ティタさ・・・ティタはどうした?」
エミルの声にティタは俯いたままで
「い、いや、ランチをご一緒にと思ったけれど、マーシャのお弁当があるなら・・・。」
「おう、一緒に食おうか。」
「・・・え?」
「いや、いいじゃん学食でみんなで一緒に食おうぜ。弁当あるからって学食ダメってことないだろ?」
「エミル・・・。」
ティタの顔にパァっと光が射しさっきまでとは比べものにならない笑顔が咲き始め、それを見たマーシャが
「あ、もう先生来ちゃうから席に戻るね。」
と絶妙にエミルとティタの会話の糸を切り自席へ戻る。ティタも
「あ・・・うん、そうだね。」
とエミルの隣の自席に腰を下ろす。1限目の準備をしていると、担任の教師が入ってきた。
「はぁい、みんな席についてぇ。ホームルーム始めるよぉ。日直。」
担任はクラス名簿を教卓にトンと置き、
「コホン、えーっと、今日から新しいクラスメイトがまた増えます。」
その一言にクラスがざわめきたつ。
「こらー、静かにしなさい。それじゃ、入ってきて。」
担任の声と同時にクラスの視線が入り口の扉に集中する。ガラッと開いた扉から入ってきたのは一人の少女。
「え?・・・ええ?」
「な・・・。」
エミルとマーシャは息を呑んだ。長い金色のストレートヘアに大きめの瞳は少し垂れ気味で幼さの残るあどけない顔立ち。しかし、歩く姿、立ち姿は一分の隙も感じられず、そういった分野に覚えのない人間には『凛とした雰囲気』として映っているかもしれない。少女は教壇に立つと、
「本日からこちらでお世話になりますヘルミーネと申します。ティタさまの警護も兼ねております。皆さんと一日も早く馴染めるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
少し舌っ足らずな高い声でそういうと、先ほどの凛とした雰囲気とは裏腹にぴょこんと頭を下げた。
「おおおお・・・。」
「おい・・・マーシャちゃん+ティタさま+ヘルミーネちゃんって何この楽園・・・」
「オレ、このクラスで・・・いや、生きててよかったぁ。ありがとう母ちゃん産んでくれて・・・。」
クラスの男子が地鳴りのような声をだす。担任はハァっと溜息を吐き、
「はいはい男子~、あんまり言うとクラスの女子全員敵に回るよ~?それじゃ、ヘルミーネさんの席は・・・。」
と、そこで担任の言葉を遮るようにヘルミーネが口を開いた。
「私は、あのエミルさんの席を希望します。もしくは二人の間で。」
一瞬何が起こったのか分からないといった静寂がクラスを包む。
「んなっ・・・。」
「え?ええ?ヘルミーネ?」
「ヘルミーネさん?なんで?」
関係者一同もそれは同じで、せいぜい名前を口ずさむ事くらいしかできなかった。担任はうーんと考えて、
「それじゃ、りんごさんの後ろの席をエミル君の後ろに運んで、ヘルミーネさんの席にします。申し訳ないけどリンゴさん、エミル君机移動させてくれる?」
名案を出したった的などや顔で胸を張る担任をよそに
「マジかよ・・・。てか何なんだよ一体・・・。」
「もう、ヘルミーネったら我儘を言って・・・。」
「どうするの私・・・ティタだけじゃなくってヘルミーネさんもなの?」
三者三様に呟いた。エミルは机を自分の後ろに下ろすと、
「ほらよ。ってか、なんなんだよ。なんでオマエまで転校してきてんだ?」
「私はティタさまの『現・従者』ですから。『昔・従者』の貴方では心配ってことよ。」
ヘルミーネはエミルをキッと睨みつけた。
「おいおい・・・この間は猫被ってたってのか・・・。態度全然ちげーじゃねえか。」
「なんにしろ、よろしくね。エ・ミ・ル・く・ん?」
明らかな敵意と取れる眼差しで左手を出すヘルミーネに、エミルはこれからの学園生活に危機を感じるのであった。
to be continue
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