2日続けてのアップにございます。
こういうムラッ気たっぷりの感じwwww
でわでわ、今日もお時間の許す限りごゆるりと・・・
空白の時間。時間は常に刻まれていく
だから空白の時間なんて存在しない。
空白なのは記憶。
空白なのは貴方との想い出。
第4話『 空白 』 はじまります。
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第4話『 空白 』
昼休みの学食は、恐らくアップタウンのセール期間やダウンタウンの夕方よりも賑わっているに違いない。ここアミス学園の学生食堂は高い天井で解放感のあるホールにテーブル席と壁際のカウンター席がずらりと並んでいる。そんなホールの窓際テーブル席に少女たちはいた。
「きゃは♪いつみても美味しそうなオムライスぅ。」
デミグラスのかかったオムライスを前に少女の瞳はハートマークになっている。ティタも木製のランチョンプレートに彩とりどりのおかずが盛られたランチプレートを載せて席につく。
「どうどう?ティタさん、美味しそうでしょ?」
少女の期待に満ちた瞳を向けられたティタは
「うむ。あの金額でこれだけの食事ができるとは人間界というのは食材が豊富なのですか?」
ティタはランチプレートをまじまじと見つめて唸る。少女たちはクスクスと笑い
「あはは、ティタさん面白いねぇ。ここの学食で出てくる食材はアクロニアの農家さんから食材提供してもらってたり、学校OBからの寄付で運営されてるの。だから安いんだよ。」
「なるほど。地域住民との密接な関係が生んでいるのか。」
ティタは更に唸る。すると、一緒にいた女子が
「ねぇねぇ、ティタさん。そのしゃべり方っていうのは貴族だと普通なの?みんなそんなオジサマみたいな口調なの?」
唐突に質問してきた。ティタは、ん?という表情をして
「ん?いや、そんなことはない。ただ、私の場合は周りが年寄りばかりであったし、公務の場ではこういう話し方でないと相手に嘗められてしまうのでな。いわば『余所行き』ってやつか。やはり・・・変か?」
少し俯いて恥ずかしそうに聞く。
「ん~、変といえば変かも。だって、ティタさん綺麗だし、綺麗?可愛い?なのに、話すと固いっていうか、ギャップがねー。」
女子たちは互いに頷く。
「それに、学校はその、お仕事ってわけじゃないんだから、もっと普通に話せばいいんだよー。っておもっちゃうよねー。それが普通だとアレだけど。」
それを聞いたティタは、瞳を閉じて何かを決意したようにウンと頷くと、
「そうね・・・ここは学校なのだし、みんな私の友達になってくれたのだし、普段の言葉づかいでいいわよね。そうよね、そうするわ。」
そういってニッコリと微笑む。それを見た女子たちは
「きゃー。ティタさん可愛いっ!くだけた話し方なのに上品っていうか、すっごいイメージにぴったり!いいよー、それいいよ!」
黄色い声を上げてティタの決意に賛同する女子。そして、
「それじゃ、冷めないうちに食べましょう!いっただっきまぁす。」
「いただきます。・・・ん、わぁ、これ美味しい♪」
こうして、久しぶりの賑やかな食事会が進んでいった。
食事を終え、食後のお茶を飲みながら雑談をしていると、
「ねぇ、ティタさん?」
「ん?なに?」
「ティタさんってエミル君と知り合いなの?」
「あー、私もそれ気になってた!そうなの?知り合いなの?」
その言葉が出た瞬間ティタの手が止まった。持ち上げたティーカップをソーサーに戻し、
「そうね・・・。向こうは覚えてないみたいだけど・・・。」
窓の外にふと視線を投げて呟く。
「それって、エミルくんも貴族ってこと?でも、ティタさんはタイタニアだし、エミル君は人間だし・・・。いくら貴族でも交流ってそうないんだよね?」
ティタは小さく溜息をこぼし、
「彼は貴族じゃないわ。エミル君のお父上がウチの近衛隊長を務めていらっしゃって。それで私の小さい頃に会っているの。王の遠征の時だったから預かるような形で。時間はそんなに長くなかったけれどね。よく一緒に遊んでいたわ。」
吹き抜けのように高い天井を見つめて、どことなく懐かしむように噛みしめるように話した。
「へぇ、そうだったんだ。それじゃ幼馴染みたいな感じ?」
「うーん、1年ちょっと一緒に暮らしていただけでも幼馴染と呼べるならそうかもしれないわ。」
頬をほんのり紅く染めて、少し冷め始めたティーカップを両手で取り、カップのエッジ部分を見つめながら優しくゆっくりと唇を寄せていく。
「エミル君のヤツぅ、こんな可愛い子忘れちゃうとかヒドイヤツだよね。」
「でも、なんか噂で記憶喪失で小さい頃の記憶が全くないって聞いたことあるよ?」
二人の口から飛び出した信じられない単語にティタは動揺を隠せない。
「ちょっとまって、えと・・・あの・・・」
「あぁそっか。ウチら名前言ってないよね。ウチがリンゴで・・・。」
「私がここあ。ここあでいいよ。改めてよろしくね。」
「うん、こちらこそ。って、エミル君の記憶装置ってなに?」
「いあいあ、記憶喪失。」
「そんなのどっちでもいいの!で、詳しく教えてほしいわ。」
ティタは身を乗り出す。その勢いに二人は少しだけ驚いたが、
「実のところ、私たちも詳しく知らないのよね。もともとエミル君は小さい頃にこっちに引っ越してきたみたいで、しばらくはダウンタウンで暮らしていたんだけど、また引っ越してしまったらしいの。それで・・・。」
「そ、それで?」
ティタの手が僅かに震えていた。
「それで、急にまたこっちに戻ってきたらしいんだけど、その時エミル君は怪我だったか病気だったか、でもなんか大変な状態だったみたい。」
二人は互いに顔を見合わせた。ティタは声を震わせて
「そ、それで・・・それで記憶障害になったの?」
ティタの表情がひどく何かに恐れているような、もしかしたら怒っているのか何とも言えない表情で二人を見つめた。リンゴが
「ウチらはさ、この学校に来てまだ日が浅いから・・・。あ、そうだ、もっと詳しい事を聞きたかったらマーシャに聞けばいいよ。」
「マーシャ?」
リンゴの口から初めて聞く名前が飛び出し首をかしげた。
「うんうん、ウチらと同じクラスの子で、ほら、茶色のなっが~い髪の可愛い子いたでしょ?気づかなかったかな?」
ティタは今日半日の記憶を順にサーチしていく。
「あ・・・もしかして、さっきの授業に出なかった・・・。」
「そうそう、あの子ならエミル君の幼馴染だし、そのさっき言った大変な時期にずっと看病してたって聞いたことある。」
「あー!そういえばそうだ!それにあの二人いっつも一緒だしねぇ。まぁべリアルのアホとルルイエちゃんもいるけど。」
ティタはここあの話を聞きながら、休み時間に目が合った時のことを思い出していた。
(そういえば、あの子・・・ちょっと寂しそうな瞳してた・・・)
「・・・・・・マーシャ・・・」
「・・・・・・って、ちょっと聞いてる?おーい、帰ってこーい。」
「え?あ、ごめんなさい。」
「いいよいいよ。まぁそういうことだし、今日の放課後か同じクラスなんだからいつでも聞けるっしょ。」
ここあは、カップを持ち上げ残っていた紅茶をくいっと飲み干し、
「さて、授業始まるしそろそろ教室に戻ろっか。」
3人は食器を返却口へ戻し食堂を後にした。
午後の授業は全く耳に入ってこなかった。私の知らない間に一体何が起こったのか。ある日突然エミルが私の前から姿を消して、エミルの事を誰も教えてくれなかった。そんな命に係わるような状況にあって、何も知らされなかった。確かにティタとエミルでは種族も身分も違うけれど、初めて出会ったあの日に友達となったのだから他人じゃない。ティタの頭の中にはそのことだけがグルグルと回り続けていた。
(マーシャさん・・・エミルの幼馴染・・・私の知らない空白の時間のエミルを知る人・・・。)
ティタは顔を上げてマーシャの席に目を向ける。
(綺麗な子・・・。長い髪で・・・スタイルも良くて・・・。ああいう子がエミルの好みなの?)
マーシャに向けた視線を恐る恐る左へ走らせる。視界に入ってきたのは頬杖をついてぼーっと空を見ているエミルの横顔。切れ長の瞳、通った鼻筋、幼き頃の愛くるしさは欠片もない。しかしそれ以上に精悍な顔立ちは男としての魅力を漂わせ、ティタはついつい魅入ってしまう。
(いっそ、直接エミルに聞いてみようかしら・・・。でも・・・)
『アンタ誰?俺、アンタの事なんて知らないんだけど。』
朝の言葉がティタの脳裏に蘇る。棘のある言い方、攻撃的な、誰も寄せ付けないという威嚇。ティタは視線を自分の机に戻し、小さく息を吐いて
(もしも次あんな言い方されたら私・・・)
右手に握られた鉛筆で、白紙のノートに小さく【エミルのバカ】と書いていた。初日午後の授業も問題なく終了し、クラスに喧騒が戻る。ティタは席を立つと、そのままマーシャの席へ向かい
「あの、マーシャさん・・・。」
「ん?あ・・・ティタさん・・・。」
二人はその場で見つめあいしばらくのフリーズ。そして、回復が早かったのはマーシャ、
「ど、どうしたの?わ、私に何か?」
マーシャは自分が持つ全ての理性を自分の口に総動員させる。ティタはハッと我に返り
「あの、今日これから少し時間はあるか?」
「へ?」
「もし予定がないのであれば、しばらく私に付き合ってもらえんか?」
ティタの予想外の誘いにマーシャは少しびっくりしたが、軽く微笑んで
「うん、いいよ。あ、エミルと一緒じゃない方がいいよね?」
まるでティタの心を読んだかのようなセリフに
「う、うむ。そうだな、私はマーシャと二人で話がしたい。」
「わかった。ちょっと待っててね。」
マーシャは席を立ち、そのままエミルの席に駆け寄り一言二言言葉を交わすと
「お待たせ。帰りましょう?」
「うむ。そうだ、学食というところは今もやっているのか?」
「うん、やっているよ。そっか、お話するならコーヒーでも飲みながらがいいよね。」
「そ、そうだな。」
二人は肩を並べて教室を出て行った。その後ろ姿をぼんやりと眺めていたエミルの口から
「ティタ・・・か。」
自然と零れていた。
to be continue
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