昨日8話をアップしたばかりですが、さっそく9話もアップしちゃいます。
8話を書いていたら、勢いに乗って9話まで一気に走ってしまったという感じで・・w
3月は年度末でお仕事が忙しくなってしまうので、書けるときに書いちゃえ!という感じです。きっと、次は少し先・・・(ぁ
でわでわ、お時間のゆるす限りどうぞごゆるりと。
DEMの襲撃で深手を負ったエミル
途切れた意識の先は眠っていた記憶の部屋
過去に触れ
ココロに触れ
そして・・・
第9話『 過去 』 はじまります。
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第9話『過去』
そこは青々とした芝生が広がる中庭。花壇に囲まれ色とりどりの花が咲いている。けれど、その視界に違和感を感じる。まるで空から見下ろしているような俯瞰風景。
(ここは・・・俺はいったい・・・。)
辺りを見渡す。すると、真下に小さな男の子と女の子が向かい合って座り、何かを話していた。
(あれは俺?前にいるのは・・・ティタ・・・。)
エミルは近づいて二人の会話に耳を澄ます。
【ねぇ、エミル。】
【なに?ティタさま。】
【私、エミルのこと好きよ。】
【うん、僕もティタさまのこと好き!】
【ホント?それじゃ私たちは両想いね♪】
【りょうおもい?】
【そう、両想いの二人は将来結婚するのよ。】
【ふうん、でも僕じゅうしゃだからティタさまと結婚できないよ?】
【そんなことないわ。二人、恋人になればいいのよ。】
【どうやって?】
【そうね・・・そうだ。キスしましょう?】
【キス?】
【そう、愛し合う二人でする聖なる儀式・・・。エミル、目を閉じて?】
【痛くない?】
【だいじょうぶ。ほぉら、早く目を閉じて・・・。】
【う、うん。】
そこで、ひと際大きな怒鳴り声が入る。
【貴様っ!ティタに何をしている!この従者の分際で!ちょっとティタが気に入っているからと傍に置いたらコレかっ!こっちへ来い!】
【やめてっ!お兄様!エミルは悪くないんです!私が誘ったの!私がしようって言ったの!】
幼いティタは兄と呼んだ少年の腰あたりにしがみつき必死に止めようとするが、例え幼くても男女の力差は明白で制止することができない。
【あの優しく無垢なティタが自分からなんて信じられるかっ!まさか脅されているのか!そう言えと言われたのか!】
【違うのっ!ちがうのぉ、エミルはぁ・・・キャッ!】
【ティタさま!痛いっ!痛いです、タイタスさま!】
【うるさいっ!】
そこにいた幼いエミルは、自分がタイタスと呼んだ少年に腕を引かれ連れ去られてしまう。途中幾度か制止するティタだが簡単に払い除けられてしまい、残されたティタはその場で泣きじゃくり、誰もいない中庭でティタの泣き声だけが響いていた。
(なんだこれは・・・。でも、知っている・・・。いや、思い出したんだ・・・。そうだ、俺はティタを知っている。知っているどころか・・・あんなに好きだったのに・・・。そうか、あの時見たやりとりはこの後の・・・)
そこで目の前が暗転し、次にエミルの視界に現れたのは暗く湿っぽい部屋。幼いエミルは両手を鎖で繋がれ吊るされていた。服は所々破れ、口から頬から血が流れていた。
【貴様はっ!ハァハァ、ただの従者なんだ!私たち貴族と身分の違いをこの身を持って・・・ハァハァ、知れっ!】
そう叫んだタイタスは、右手に持った鞭でエミルの身体に打ち付ける。
【ギャア!僕・・・何も・・・ただ・・・ティタさまのことが・・・】
【ええい!それ以上言葉にするなぁ!ただの人間の分際で!貴様の命など道端の石ころと変わらぬ価値しかないんだ!私の可愛いティタを弄ぶなど万死に値するわっ!】
一言発する度にエミルの小さな体に革で編まれた鞭が容赦なく打たれる。衝撃で着ているものは破れ、素肌に直接触れた部分は赤くミミズ腫れになり、更に皮膚が破れ血が滲み破れた皮膚に鞭が入れば肉をえぐる。想像を絶する痛みに、いつしか痛覚は麻痺し意識も途切れ途切れになり始める。
(くっそ・・・あのタイタスってヤロウ、好き放題しやがって・・・今度会ったらブッコロす。)
【どうして・・・僕はティタと・・・おともだ・・・ちで・・・】
小さく、今にも消え入りそうな声でエミルがそう呟いた瞬間、
【うるさい従者がっ!黙れ黙れ黙れぇぇぇ!】
今までにない数の打撃がエミルの身体を襲い、数十発目に打ち込まれたとき、エミルの頭(こうべ)は垂れピクリとも動かなくなった。先ほどまで聞こえていたヒューヒューという呼吸音も鞭を打ち込まれるたびにビクンと跳ねていた身体も全く反応をしなくなっていた。
【ふ、ふん、こ、こんな事で壊れてしまうとは、やはり人間など脆いものだ。べ、別に代わりはいくらでもあるんだ。テ、ティタにはか、か、可哀想だ、だっだかもしれ・・・いや、こ、これはティタのためなんだ、そ、そうだよっ!これはティタのためなんだっ!】
タイタスは、脚を震わせ言葉を噛みながら自分がやってしまった過ちを正当化するように大声で独りごちると、壁のフックに鞭を掛け部屋を後にしようとする。入り口に続く階段に一歩足を乗せた時だった。タイタスの影は後ろに伸びていたはずなのに、自分の前に長く伸びている。左右の壁も石の染みまではっきりと解るくらい照らされている。タイタスは恐る恐る振り返るとそこには、
【な、なんなんだ・・・これ・・は・・・はっ!こ、この、この紋章は・・・エミルが・・・そんなバカな・・・。】
眩いほどの黄金色に輝く光に包まれたエミルがいた。意識はまだ戻っていないようだが、あれほど数多くついていた裂傷は跡形もなく消え、流れていた血の一滴さえも幻のように消えていた。
(お、おい・・・俺・・・どうなってんだ・・・なんで光ってんだ)
そして、黄金色の光はエミルの左肩全体に浮かび上がった奇妙なアザが輝いているようだった。その光景をエミルは俯瞰で見ていたが全く記憶にない光景で、慌てて自分の肩を覗き込むが、あんな奇妙なアザどころかホクロ一つもない。エミルは目下で起きている状況に目が離せなくて、初めて見る出来事で、自分の身体が普通じゃないということに気が気ではなくて。動揺と疑問が渦巻く中、目の前の状況に変化があった。タイタスはエミルの身体が光り出した時にその場を逃げ出していた。その後もエミルの身体から光は止まらず、しばらく光り続けた。そして、体中の傷が全て癒やされ跡形もなく消え去ったと同時に光は治まりエミルはゆっくりと目を開けた。
(ナンなんだよ一体。俺は人じゃねぇのか?バケモンなのか?誰か教えてくれよ。なんだよ!)
エミルは頭を抱えてその場にうずくまる。すると、
『知りたいか?』
どこからともなく、低い声が響く。
『だれだっ!』
エミルは顔を上げて立ち上がり、辺りを見渡す。
『知りたいか?真実を。』
もう一度、低い声がエミルの内に問いかける。
『だから、誰だっ!真実ってなんなんだっ!』
エミルは闇雲に声がしていた気がする方向に対峙して叫ぶ。すると、周りの景色は再度暗転し、無の世界へと変貌した。エミルは漆黒の中、次に起こる何かをじっと待つ。すると、目の前が上下にパックリと避けるように開き、中から巨大な黄色い円形の恐らく球体ではないかと思われる物体が現れた。透き通るように艶があり黄色の色の中心には縦に黒い真っ直ぐな模様。最初それが何なのかエミルにはさっぱりわからなかった。
『おい!早く教えろよ!』
エミルは先程の声の主に向かって叫ぶ。すると、目の前の黄色いソレが左右に回転するように動き再度、模様を中心にして止まる。続けざまに上下に割れた闇がまたその物体を覆い・・・まるでそれは
『これ・・・目か・・・?』
あまりにも大きくて気づけなかったが、そうだこれは目だ、エミルはその物体と対峙し、
『オマエがこの状況を作り出してる犯人か。それで声の主もオマエってことか。』
すると、目と思われる物体はエミルを睨むように大きく開かれ、
『知りたくば、自らの手で掴んでみよ。己の中にある真実を・・・』
低い声で響き渡る。エミルは言葉の意味がわからず、聞き返そうと口を開いたときだった。まるでどこかに落ちるように下へ吸い込まれる感覚に襲われた。
『う、うわあああああああ・・・・・』
はっと目を開けると、目の前に広がるのは見慣れた天井。体を起こそうと力を入れると体中の関節が軋んだように痛み、起き上がれずに再度ベッドに沈む。エミルはまだ覚醒しきっていない意識を奮い立たせ、これまでの事を思い返していた。ターミナルでDEMと戦闘になってティタとの事を思い出し、直後にDEMに斬りつけられて・・・。
「今はいつなんだ・・・?」
溜息交じりに独りごちる。すると、廊下から近づいてくる足音に気づく。エミルは息を潜め足音に全神経を注ぐ。
「・・・・・・。」
足音が部屋の入り口で止まると、ゆっくりと扉が開かれそこからマーシャが顔をだした。
「んだよ・・・マーシャか。」
エミルの声に、マーシャは驚いて持っていたカバンを落とし、扉を開け放つと、エミルの元へ駆けよりそのまま抱き付いてきた。
「あーーーん!エミルが目を覚ましたぁぁぁぁ。えーーーん、よかったぁよかったよぉぉ・・・。」
マーシャはエミルの首に腕を回し耳元でわんわんと泣く。腕がまだ自由に動かせないエミルはそれでも必死に右手に力を入れてマーシャの背中に手を添えるつもりが、腕の性能はまだ十分に回復していなかったらしく、マーシャの腰の辺りちょうど丸くて柔らかい部分に乗った。
「えーーーん!エミルが目を覚ましたらエッチになってるぅぅぅ!でも、生きてるからいいのぉぉガマンするのぉぉ!えーーーん」
エミルは、マーシャのお尻の柔らかさよりもマーシャの態度でかなり心配をかけたことを悟り、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。
「マーシャ・・・」
「ふぇ・・・?」
「ごめんな。これで、2回目だな。」
「ふぇ・・・いいの・・・でもやっぱ良くないよぉ。どれだけ心配したと思ってるのぉ?ホントに・・・ホントに死んじゃうと思ったんだから・・・。」
「ごめん・・・。マーシャは怪我しなかったのか?ティタは?」
「うん、私はこの通り・・・ティタも大丈夫・・・。エミル・・・」
「ん?」
「アホ、バカ」
「ちょ、」
「ヘンタイ、スケベ、カイショーナシ、タンショー・・・」
「ちょ、ちょっと待て、最後の方は女の子が口にするもんじゃ・・・」
「それくらい言わせてよ・・・ホントに心配したんだから・・。」
「・・・・・・あぁ。ごめんな。」
「うん。」
エミルはマーシャの頭に手をいつもみたいに撫でてやりたくて右手を動かそうとするが、やはりそれ以上持ち上げるのは困難で結果的に
「エミルがどさくさに紛れてまだ私のお尻触ってる・・・。それも執拗なほどに撫でまわしてる・・・。もしかして、小さい頃のエッチなエミルの記憶が戻ったの?」
悪戯っぽく上目遣いで見上げてくるマーシャに
「お、おまえなぁ、ンなわけあるかっ!つかそんなガキじゃなかっただろうが!・・・上手く動かせないんだ。ワリィ。」
エミルの少し沈んだ表情にマーシャは優しく微笑んで、
「いいよ。約束通り私たちを守ってくれたんだもん。あ、そうだ、お腹空いてない?何か消化の良いもの作ろっか。」
「あぁ、そうだな。何かスープとか・・・。」
マーシャは、エミルから身体を離し、エミルの右手をそっとベッドに戻すと、制服のスカートをパンと払い、
「それじゃ、マーシャさん特製パン粥でも作りますか♪」
腕まくりのジェスチャをしながら部屋を出て行こうとした。そこでエミルが
「なぁ、俺ってどれくらい寝てたんだ?ティタは?アイツは大丈夫だったのか?」
そのセリフにマーシャのジェスチャはピタっと止まり、こちらを振り向きもせず、ほんの少しだけ声を震わせ
「1週間・・・エミルが目を覚ました今日で、ちょうど1週間。その間・・・ティタも・・・学園休んでるわ。」
独り呟くように言った。エミルはふうんと言うと、
「それじゃ、近々、オレ様復活!ってアイツん家押しかけるか♪」
「やめてっ!!!!」
エミルのおどけた声をかき消すほどの大声でマーシャが叫んだ。
「マ・・・マーシャ?」
「ごめん・・・お粥作ってくる・・・ね。」
マーシャはそれだけ言うと、部屋から出て行った。
to be continue
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