さてさて、新しく書き始めたお話
『天空の花とアクロニアの蝶』
の第2話完成しましたー!
今回はECOの設定をほとんど気にせず書こうとしているんですけど、いざ書きだすとこれがなかなか難しいww・・・っと、それじゃさっそく!
お付き合いくださいませ♪
日常はいつも同じように繰り返すかのごとく訪れる。
しかし、それはほんの些細な、ほんの小さなきっかけで
容易く非日常へと塗り替えられる。
第2話『 日常+きっかけ=非日常 』
はじまります。
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第2話『日常×きっかけ=非日常』
変化のない壁掛け時計のように単純に時を刻むような繰り返しの毎日を送る。週末であってもそれに変わりはなくて。アクロニア大陸に新たな一週間が訪れる。エミルは身支度を整えるといつも通り家を出る。いつからだろう、気が付いたときにはもうエミルは一人でここに暮らしていた。母親の顔も父親の顔も覚えていない。自分がこの地に生を受けているのだから、当然両親はいるのだろうけれど、エミルには全く記憶が存在していなかった。彼の中にある一番古い記憶は6年前。当時10歳だったエミルは気が付いたときこの家のベッドに寝ていた。ぽっかりと何かが抜け落ちているような感覚に幼いながらも不安を感じた。目を開けると、涙で顔をくしゃくしゃにしたマーシャがエミルの手を握って覗き込んでいた。これがエミルの中にある一番古い記憶。きっとあの時見たマーシャの顔、流れる涙は一生忘れる事なんてないんだろうと思う。
「あれから6年・・・か。」
エミルはぽつりと呟いてダウンタウンを歩き出す。稼働橋に差し掛かり、いつものようにべリアルとルルイエと合流しアップタウンの入り口でマーシャと合流。
「おはよう、エミル。」
「おう、オッス。」
いつもと同じこれが日常。変わらないメンツ変わらない景色、それを退屈と考えるか安泰と考えるかは人それぞれ。
「そういえば、今日じゃねえの?例の転校生。」
べリアルが唐突に言う。
「あ、そういえばそうだねぇ。ホントに来るのかなぁ。」
マーシャが人差し指を顎に添えて呟く。
「来るんじゃないの?センセーがそう言ってたんだしさー。」
ルルイエは両手を頭の後ろで組んで眠そうに反応する。
「同じクラスだったらいいなぁ。お友達になれるかなぁ。」
マーシャはうっとりとした表情で視線を空に向けている。
「うーわ、マーシャがイケナイ妄想してるぞ。エミル止めなくていいのか?」
「ん?いいんじゃね?好きにさせておいてやれよ。大方お嬢様に偏った憧れ持ってるだけだろ。」
エミルは、小さく溜息を混ぜながら軽口を吐く。
「マーシャのとこも金持ちだろ?十分お嬢様じゃねぇか。」
べリアルが言うとマーシャは、ハッと何かを思い出したように振り返り
「ウチはね、もともと商家でしょ。確かにおばあちゃんの代でちょっとは有名になったけど、お嬢様じゃないもの。せいぜい成金?」
「おい、口が悪い。」
エミルが注意するとマーシャはペロッっと下を出して
「ごめん。でもホントだもん。貴族じゃないから家格もないし、家だって旧家でも名家でもない普通の家。だから憧れるのよねぇ、優雅にお茶会とかさー。社交界デビューとかすっごいセレブ単語使ってみたいっ!」
マーシャは両手を胸の辺りで合わせて瞳を閉じる。エミルはそんなマーシャの頭にポンと手を置き、
「あいつらはあいつらで色々堅苦しい事情とかあるんだろうし、今みたいに自由に生活できないんだぞ。今のままでいいんじゃね?」
「へー、エミルくん何?そのクールな対応。おっとな~♪」
ルルイエがエミルの前に回り込んで下から見上げる。エミルはルルイエの視線から顔をそむけて逸らし、
「茶化すなよ。早く学校いくぞ・・・。あ、そうだ学校まで競争っ!最後の奴は放課後アイス奢りな!」
ルルイエをスッと躱すとダッシュした。
「え?え?あーっ!ずるいぞ!」
ルルイエも慌ててエミルの後を追い
「へっ、俺はこの間アイス奢らされたからな!今日は奢ってもらうっ!」
べリアルもルルイエとほぼ同時に走り出し、うっとり妄想中のマーシャは一人出遅れ、
「へ?え?なに?ええええ!ちょっと待ってよー!ずるいー!もー、私今月ピンチなんだからー!これ以上の出費はカ~ン~ベ~ン~!」
両手をブンブン振り回しながら走り出した。
いつもと変わらない、いつもと変わるはずがないと思っていた日常のはじまりだった。
走って登校したおかげで、いつもより随分早く学校に着いた4人は、クラスの違うルルイエも集まって教室で話をしていた。
「前から気になってたんだけど、ルルイエいい?」
「どしたん?マーシャ改まって。」
ルルイエはべリアルの片膝に座って机に頬杖をつく。
「んとさ、ルルイエもべリアルもドミニオンって悪魔なの?」
マーシャの質問に二人は目を丸くする。
「はぁ?今更ぁ?」
ちょっぴり呆れた口調でマーシャを見るルルイエに
「だってさー、聞けないでしょう?そうやって言われるのわかってるしさー。でも学校とかでも習わないでしょ?みんないつ知るの?」
マーシャはちょっと拗ねた口調で言う。するとべリアルとルルイエは顔を見合わせて、
「実はねぇ、正直なところウチらも知らないんだよね。」
想像もしていなかったルルイエの言葉に
「はぁ?え?マジで?」
マーシャは驚きを隠せないでいた。そんな表情を知ってか知らずかルルイエは話を続ける。
「もともと3種族って、別の世界に生存していたのは知ってるよね?で、その別世界の地形はほぼ同じ形らしいのよ。それで、そういう地形の条件とかなんとかよくわかんないけど、そういうのが絡み合って、お互いの世界に歪みというか綻びができて行き来できるようになった・・・。」
ルルイエが一呼吸置くとべリアルが続けて
「人間はその歪みに気づけなくて、天まで続く塔を建てればタイタニアの世界へ行けると思ったみてえだな。途中でとん挫してるけどよ。まぁアレだ、歪みの場所が天と地だから、人間の世界じゃドミニオンは地底人、タイタニアは天空人って言われるようになった。俺らからしてみりゃ、俺らの世界からは人間のこの世界にしか行けないから、そんな発想はない。」
「それで?結局悪魔なの?」
「ん~、俺らが結局悪魔なのか天使なのかはわからないんだ。俺らの世界には悪魔とか天使とかそういうのないからな。俺らのご先祖さまが人間の世界で初めて知ったらしいしな。だから俺らはタイタニアだって天使なんて認識してないわな。昔は『白き民』って言われてたらしいけど。」
「ふ~ん・・・奥が深いんだねぇ。」
マーシャは納得したような理解したような微妙な表情で腕を組む。
「それに俺らの羽って付いてるだけで飛べねぇんだよな。」
「あれってそうなんだ?てっきり秘密兵器的な存在で大事な時にしか飛ばないのかと思ってた。」
マーシャの斜め上な発想に、二人は大きく溜息をついて、
「オマエなぁ・・・。んまぁ、飛べないし悪魔なんて文化もないから俺らはドミニオン、人間世界では地底人、タイタニア世界では・・・わかんね♪」
「マーシャのそういう天然っぷりがアタシは好きなんだけどねぇ♪」
ルルイエがおもむろにマーシャの頬にキスをする。
「わきゃ☆んもー!ルルイエったらびっくりするじゃなーい!」
ルルイエはグロスが塗られプルンとした自分の唇にそっと人差し指を当てて、
「んもう、ちゃんと唇はエミルに残しておい・・・。」
と言いかけたところで
「わーわーわーわーわーわーわー!ちょっ、ちょちょちょちょちょ、な、な、な、なに言ってるのよ!」
マーシャの狼狽ぶりにクスリと笑い
「はいはい。お、それじゃ予鈴鳴りそうだし教室帰るねー。またお昼に~♪」
べリアルの片膝からピョンと立ち上がると、敬礼ポーズを取りながら赤い舌をペロッと出してウィンクし走り去って行った。マーシャは僅かに声を震わせながら
「も、も、も、も、もうル、ル、ル、ルルイエったら何言っていらっちゃりゅにょかしらねっ。フンっ!」
狼狽はいまだ継続中な様子で。ニヤついたべリアルと目が合ったので
「ふんっ!!!」
思いっきり凄んでみたマーシャだったが、頬を染めたマーシャでは凄みではなく、美少女度が上がりクラス男子のファンが増えただけだったと本人が気づくのはもう少し先になる。
予鈴が鳴りクラスメイトたちがぞろぞろと自席に戻る。べリアルも同じように自席へ戻り、マーシャも
「それじゃエミル、今日も頑張ろうね。」
「あぁ。そだな。」
エミルににっこりと微笑み、腰まで伸びた長い栗色の髪をヒョコヒョコ揺らしながら自分の席に腰を下ろす。窓際の席であるエミルは一限目の教科書を取り出すと机の上に無造作に置き、頬杖をついて外の景色を無気力に眺める。しばらくして、担任の先生が教壇に立つ。出席簿を静かに教卓に広げると、咳払いを一つ落として
「コホン、えーっと、今日から新しいクラスメイトが増えます。」
先生の一言に教室内が一斉にざわめき出す。先生はパンパンと手を叩いて
「こぉら、静かになさい。それじゃ紹介しますね。」
先生は教壇から呼ぶことなく、教室の入り口まで自ら出向き、
「お待たせいたしました。では、どうぞこちらへ。」
小さくつぶやき、廊下にいた転校生を教室内へ招き入れた。
「おぉ・・・・・・。」
「うわぁ・・・・・・。」
転校生が教室に入るや否や中にいた生徒からは溜息ともうめき声とも何とも言えぬ「音」が漏れ、それ以降教室内は水を打ったように静まり返える。予想以上に静まり返った環境に気をよくした先生は
「はいはい、みんなぁ?見蕩れすぎよ?それじゃ紹介するわね。このお方は・・・」
と先生が紹介しようと口を開いたとき、その言葉に被せるように
「よいよい、自己紹介くらい自分でできるわ。」
「しかし・・・」
「ここにいるときは、私も皆と同じ一介の生徒。余計な配慮はいらぬ。」
「・・・はい。」
先生は一歩後ろに下がる。そして、転校生は再度顔をまっすぐに向けゆっくりと口を開く。
「私はティタ。理由あって今日から皆の学友になる。皆には色々苦労をかけるやもしれんが、仲よくしてやってほしい。」
ティタと名乗った転校生は、やや上からな態度で挨拶をする。突然の予想もしない挨拶に生徒たちは開いた口が塞がらない・・・いや、その口を開くことすらできないといった方が正しいかもしれない。
「はい、ティタ様は・・・。」
「ティタでよい。」
「あ、はい。コホン、ティタさんはタイタニア貴族で、みんなも聞いたことあると思うけど、エル・シエルを治める侯爵家のご令息です。正真正銘のお姫様よ。こちらの世界には初めてということですし、学校にも今回初めて通われるそうです。色々教えてあげてくださいね。」
先生の説明を一通り聞いた生徒たちは元気よく返事を返した。
「それじゃ、ティタさんの席は・・・。」
「そのことなのですが、このクラスには私の友人が在籍しておる。席はその者の隣にしてほしい。」
そう言うと、生徒たちはお互いの顔を見合わせ誰だ誰だとざわめきたつ。
「ご友人?えっと、それは誰かしら・・・。」
先生が聞き返すのとほぼ同時にティタは教壇を降り歩き出す。そして、窓際一番後ろの席の横でその歩みを止めると、
「最後に逢った日から随分時間が過ぎてしまったけれど、すぐに分かったわ。久しぶりねエミル、お元気でしたか?」
ぼんやり外を眺めていたエミルは、少々気の抜けた顔で振り返る。
「幼少の頃から可愛い顔だったけれど、こうやって精悍な顔立ちになってみてもやはりあの頃の面影は色濃く残っているのね。」
ティタの声に反応してエミルは顔を上げティタを見つめると、
「アンタ誰?俺、アンタの事なんて知らないんだけど。」
軽く欠伸をしながら、興味ないといった感じで頬杖を突いたままぶっきらぼうに答えた。
to be continue
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