マスターにされた本命質問に、キサラギは興味津々。仕事が終わって自部屋でまったりタイムのはずが・・・。
第8話はじまります。
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お風呂から上がり、濡れた髪にタオルを巻いてテーブルにマスターの作ってくれた賄い料理を並べる。ファーマー農園のワインをグラスに注ぎ、短いけれど癒しの時間が始まる・・・はず・・・だったのに。
今の私はというと、
・お風呂上がりでタオル1枚
・濡れた髪にタオルを巻いている
・テーブルに料理が並んでいない
・ソファーの上に正座している
・ソファーの背もたれに小さい悪魔が足を組んで座っている
はい、間違い探しです。私の予定と違うところはどこでしょう?良い子のみんなはわかりますよねー・・・。
「さて、お風呂に入ってさっぱりしたところで、トーコ?さっきの話の続きよ!」
キサラギはビシッっと私に指をさす。
「ひぅっ!」
「いい?これは契約を円滑に進めるために必要なことなんだからね!」
「ねぇ・・・お腹すいたから、ご飯食べながらでいいで・・」
「却下っ!」
「そ、そんなぁ。今日は忙しくて疲れてるんだ・・・」
「却下っ!」
「キサラ・・・」
「くどいっ!!」
「ひゃうっ・・・」
私は怒られた猫のようにビクッっと肩をすくめる。
「さっさと終わらせたら、美味しいご飯が待ってるんだから子供みたいなこといわないの。」
まるで母親のような口調で諭してくるキサラギに、私は小さく
「なによ・・・私よりキサラギの方がずっとちびっ子じゃないのよ。」
と呟くと、
「は?今何か言った?何?ちびっ子とか言った?」
ギロッっと鋭い視線が向けられる。私はその視線に耐えられず、
「う、ううん!言ってない!言ってないよ!」
首が勢いあまって1回転するんじゃないだろうかと思うくらいの勢いで横に振る。
「フン、まぁいいわ。それじゃ聞くよ?トーコ、アンタあのエミルって坊やとタイタスってインテリ眼鏡とどっちが好きなの?」
直球でした。
「え?え?どっちって言われても・・・。それは・・・その・・・。」
「あぁ、もう煮え切らないわねぇ。」
私は俯き気味に下を向いて、両手の人差し指を互いに突きあう。
「だって、今までそんなこと考えて仕事してないし。あの二人はお兄ちゃんみたいな存在だからそんな風に見たことないよ。」
私は精一杯の反論をする。
「へぇ・・・。あぁ、そういえばインテリ眼鏡が言ってたねぁ。妹がどうとか・・・。」
「そう、私の魔法学校時代の同級生で友達のお兄さんなの。その子すごく優秀で、卒業した後すぐにエミル君のパーティに入って冒険に出かけるくらいだったの。でも・・・。」
私はそこで口をつぐんだ。
「ふーん、その冒険先でやられたのか。」
「詳しく話してくれないから、詳細まではわかんないけど・・・」
「ちなみにその妹の名前はなんなの?」
「ティタ。ティタって言うの。」
「ティタ・・・ティタ・・・どこかで・・」
キサラギは腕組をしてう~んと唸る。正直なところ、私はその話には触れたくなかった。その話自体詳しく知っているわけでもないし、ティタは友達だから余計にそう思うのかもしれない。どうしてもその話題になると複雑な表情をしてしまう。
「ん~、まぁいいわ。トーコはインテリ眼鏡は対象外・・・っと。それじゃもう一択じゃない。」
キサラギは組んだ脚を解いて私を覗き込む。
「え?えぇ?!エミル君?!」
私は膝立ちして声までひっくり返してしまった。
「なによ?そんなに驚くことじゃないでしょ?2-1=1って子供でもできる計算じゃん。それとトーコ、アンタのスタイルが良いのは分かったけど、魅せる相手が私じゃ寂しくない?」
キサラギの言葉で私は視線を下へ向ける。すると、お風呂上りで体に巻いたタオルが盛大にはだけて私は生まれたままの姿で膝立ちしていた。みるみる顔が火照りだすのが自分でもわかる。私は床に落ちたタオルを物凄い勢いで拾い上げるとそのまま無言で脱衣所へ。そして、シャッっとカーテンを引き、
「キサラギのばかっ!あほー!」
と泣きそうな声で叫ぶ。
「なによ、裸の一つや二つくらいで。減るもんじゃなし。」
明らかに呆れた物言いが聞こえてくる。
「それにさー、見られた方が更に綺麗になれるかもよ?女ってそういう生き物なんだから。」
「なっ・・・!!!」
私は右手に持ったショーツをギュッと握り締めて動きが止まる。刹那、聞きなれた声が・・・。
「トーコちゃん、綺麗だよ。ボクにもっとよく見せて・・・。愛おしいその瞳を、体をボクのモノにさせて・・・。」
「!!!!!!!!!!!!」
どうして?!なんで?!私は軽くパニックを起こす。ここにいるはずのないエミルの声が聞こえてきたからだ。全身が強張り上手く身体が動かせない。パクパクと金魚のように口だけが動くが本来の機能を果たしていない。しかし、その声はどんどん近づいて・・・。
「ねぇ、トーコちゃん。開けちゃうよ?いいよね?」
「・・・・・・・(パクパクパク)」
「黙ってるってことはOKってことでいいよね。」
「パクパクパクパク(ダメダメダメダメ~)」
シャッっとカーテンが開けられ、私は同時にギュッと瞳を閉じてペタンとその場に座りこむ。そして頭上から聞こえてくる最近記憶された聞き覚えのあるハスキーボイス。
「どう?ドキドキした?声真似はアタシら悪魔の十八番♪今のでトーコの女度がぎゅーんと・・・って、あれ?トーコ?ト・・・」
・・・・・・・・・・・・ピキーン
「なに?今の音なに?」
「・・・・・ナイ」
「え?トーコ?」
「・・・ユル・・・サナイ」
「フフフフフ・・・・・」
「ト、トーコ?ちょ、ちょ・・・」
「アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
キサラギが瞬きをした次の瞬間、そこにへたり込んでいたはずのトーコの姿が消える。そして、次に映ったのはキサラギの鼻先数センチ先。
その形相にキサラギの身体がビクンと跳ねる。そして後ろへ下がれと脳が命令を発行したときには、キサラギの身体にトーコの拳が触れていた。
「ギャッ!」ゴキッ!
キサラギはこのとき遠ざかる意識の狭間で美しい天使の姿をした悪鬼を目撃する。そして数百年の人生で新たな知識が備わる。
『トーコを怒らせることは自身の死を意味する』と。
その夜の声は、後に「ダウンタウンに眠る悪魔の復活」というアクロニア都市伝説になるとこの時は誰も知らない。
・・・To be continue
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