キサラギと契約して1ヶ月が経ち、周りから言われてエミルが好きなのかと思い始めるトーコ。
ドキドキしたり気になったりするけれど・・・。そんな微妙な心の揺らぎの中で・・・。
恋に目ざめ始めたトーコの揺らぎはこんなもんでは終わりません。
第9話はじまります。
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キサラギと契約して1ヶ月が経とうとしていた。私はいつものように店に出て、慌しくランチタイムを裁いていた。ピーク時間も何とか乗り越えた私は食事を終えて空きになったテーブルの食器を片付ける。この時間からディナータイムまでは殆ど客は出入りしない。依頼(クエスト)の客はこの時間に来ることが多いが、東西南北の出張所でも同様のサービスを提供しているので、わざわざダウンタウンのココまでくる人は少ない。
「ふぅ。今日も忙しかったなぁ。」
小さく溜息を吐きながら、食器を片付ける。
「トーコちゃん、ソレ最後?」
厨房からマスターが両手にプレートを持って出てきた。
「はぁい、これでひと段落ですよー。」
左手に数枚のプレートを持ち、右手でテーブルを拭きながら答える。
「それじゃ、ソレ片付けたら俺たちもお昼にしよう。今日の賄いはモーモーテールの煮込みライスだよ。」
「お~!やったぁ、私の大好きごはん~♪スグ片付けまーす。」
ランチタイムの疲れも吹き飛んだような軽やかな足取りで私は厨房へ入る。洗い物を流しへ放り込むとスキップしながら煮込みライスの、もといマスターの待つテーブルへ向かった。
「ん~、いいニオ~イ♪いっただっきまぁす。はむ・・・おいひぃ~幸せ~♪」
「ほんとにトーコちゃんは、これ好きだよねぇ。」
「だって、モーモーのテール煮込みなんて家じゃ作れないですもん。それにこの味はここでしか味わえないですし。マスターのこの煮込みが好きなんですから。」
「嬉しいこと言ってくれるね。トーコちゃん今日は早番だよね?帰りに夕食用のテール用意しとくから持って帰りな。」
「やたー!ありがとうマスター!」
幸せな昼のひととき。
遅めの昼食を済ませると、ディナータイムまでは特にすることもないので店の掃除が主な仕事になる。私は順番にモップを走らせる。店内が片付き、表の掃除に取り掛かろうと箒を持って入り口を出たときだった。
「よう。」
声の主は、顔は切れ長の目に通った鼻筋。細身でも華奢でなく引き締まった身体。モデルかと見まごうその姿には背中に特徴的な尖った羽が生えている。けれど、彼のソレには違和感がなくその羽がなければいけないとさえ感じてしまうれっきとしたドミニオン。今日は珍しくスーツを着ていた。深い深い漆黒のような紫のスーツ。
「あ、ベリアルくん。」
いつものコトながら、私はその甘いマスクに一瞬見蕩れてしまう。けれど・・・
「よう、トーコ。相変わらず可愛いな。いつ見てもラインが変わらない。そろそろ、オレに抱かれないか?」
「きっ!! /////」
そう、彼ベリアルはこういう人なのだ。かっこいい、確かにかっこいい。あの顔で迫られれば世の女の子は誰だってクラッっときてしまう。間違いない。でも、ソレを彼も心得てるからタチが悪い、俗に言うところのプレイボーイなのだ。
「ば、バッカじゃないの!昼間っからどーしてそんなコト言えるのよ!恥ずかしいなぁもう!」
私は彼の横をすり抜けると、箒を忙しく動かし始める。慣れない、どうしても彼のそういうところに慣れることができない。
「なんだよ。オレは純粋にトーコのこと褒めてるんだぜ?可愛いしさ、スタイルいいし、それにな・・・」
私はベリアルの言葉にどんどん頬が紅くなっていくのが分かる。よく恥ずかしいとも言わずそんなことを堂々と・・・私は箒の柄をギュッと握り直し、小さく息を吸い込むと身体を反転させてベリアルと向き合う。
しかし、彼の方が一枚上手だった。
振り向いた瞬間、左手の手首を持たれ引き寄せられる。私はベリアルに抱き寄せられるカタチで彼の胸の中にスッポリとおさまってしまった。一瞬の出来事に呆然と顔を上げるとソコにはベリアルの顔がそれこそ数センチのところまで迫っていた。全身に力が入り、胸が早鐘を撞くように高鳴る。
「・・・・・・それに、トーコの瞳がたまんないんだ・・・。」
「な・・・/////」
私はそのたまらないらしい瞳を大きく見開いた。次、何かくる!?なに?しかし、私の予想は大きく裏切られ彼は抱き寄せた私をフット解放し、その場に立たせる。状況が飲み込めない私は一人そのまま棒立ちで。でも、次の瞬間私の唇にかかった髪をスラリと長い指が唇に当たるか当たらないかギリギリのところで優しく解く。
「けれどオレは、相手がその気じゃないと手は出さない。それがトーコ、オマエなら尚更だ。」
「・・・・・・」
「そろそろ、オレの方も振り向いてくれよな。」
「・・・・・・」
「じゃ、いくわ邪魔したな。今日はトーコの顔が見たかったってのと、ついでに最近くっついてる性悪そうなペットをひと目見たかっただけだし。」
「・・・・・・え?」
そう言うと、ベリアルはボーラーハットを深めにかぶりそのまま私をあとにした。何が起こったのだろう、私なんでこんなにドキドキしてるんだろう。ベリアルの軽口はいつものことなのに・・・。そして彼の最後の言葉が頭をよぎったとき、私は現実へ引き戻された。
「性悪ペット・・・え?ベリアル気付いてた?」
そこへフッと頭に重みを感じる。
「あーぁ、中々カンの鋭い坊やねぇ。アタシに気付くなんて。しかも性悪なんて言ってくれちゃって。」
キサラギは、そのまま私の耳元まで降りると、
『でも、これでまた一段と面白くなりそうだわ♪』
そう呟いてボフンと姿を消した。
・・・To be continue