ベリアルの行動に、揺らぐココロ。誰が誰を好きなのか。
そもそも私は誰かを好きなのか。
これが恋なの?これが誰かを好きになるってことなの?
戸惑うトーコの前に現れたのは・・・。
走り出した第10話はじまります。
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「トーコちゃん?トーコちゃん!」
「・・・え?あ、はいっ!」
「そろそろディナータイムだし、ボード出して。出したらあがってくれていいから。」
ベリアル君が来てから、私は仕事が手につかなかった。掃除していても、通りを歩いているドミニオンの男の人を見るとつい目で追ってしまう。それだけじゃない、フィールドジャケットを着た男の人を見かけてもその手が止まる。
「トーコちゃん!それクローズボード!閉店しちゃわないで!」
「あ・・・。」
「どーしたの?午後から変だよ?具合悪いの?」
私は店先に置いたクローズボードを慌てて片付け、ディナー用のメニューボードに置き換える。
「すいません。大丈夫です、ちょっとボーッとしちゃって。」
重症だ。今までこんなことなかったのに。別にエミル君に好きとか言われたわけじゃないし、この間の夜以降会っていない。ベリアル君にだって、ああいった軽口なんて散々今まで言われてたのに。まぁ、『そろそろ、オレの方も振り向いてくれよな。』なんてセリフは今回が初めてだけど。でもそれだけでこんな風になるなんて・・・。私は小さく溜息を吐くとエプロンを解きながら厨房へ入る。
「もし・・・本人に出会っちゃったらどーなるんだろう・・・。」
ボソっと呟いて、再度溜息。
「ん?どーなるって?」
厨房の調理台で準備をしているマスターが声をかけてきた。
「え?あ、え、なんでもないです。お疲れ様でした。」
「変な子だなぁ。はい、お疲れ様、今日はゆっくり休むんだよ?」
そう言って、マスターが煮込みの入った包みを渡してくれた。
「はい、心配かけてすいません。疲れちゃったんですかね。でも煮込み食べれば元気になりますから!」
そう言って、ロッカールームに入りいそいそと店を出た。
店を出て部屋に戻る途中、絶対キサラギが根掘り葉掘り聞いてくると思ったのに何も聞いてこない。ちょっと身構えていたのに拍子抜けだ。けれど、その身構えは別のところで生かされてしまった。ダウンタウンの中心部、シアター前でソレは起こった。
「やぁ、トーコちゃん。今日はお仕事終わり?」
そこで出会ったのはエミル君だった。一瞬だけど呼吸が止まる。そして、みるみる頬が熱くなっていくのが感じられ、私はそれがバレないように思わず下を向く。
「あ、エ、エミル君。う、うん。」
「そっかー、それじゃ今日は夕飯お店に行ってもトーコちゃんいないのかぁ。」
「え・・・。」
ドキドキする。私の心臓にスピードエンチャントがかかったように物凄いスピードで鼓動している。どうしよう、どうしよう、こんなの、こんなこと初めてで私は動揺を隠せない。
「だって、トーコちゃんがいればオマケしてもらえるかなーって。あはははは」
あぁ、ですよね、ですよね。私の心臓はディレイキャンセル並みのスピードまで落ちた。けれど、
「ねぇ、エミルー、映画始まっちゃうよ?今日は私に付き合ってくれるんでしょ?」
その声で私の心臓にスタンブロウが打ち込まれた。私はゆっくりを顔を上げると最初に映ったモノは無駄に膨らんだ風船のような脂肪の塊。その塊をグイグイと押し付けられているエミル君の腕、更に顔を上げるとポニーテールの可愛い女の子が映った。
「うん、分かってるって、マーシャも知ってるだろ?ホラ東の酒場で働いてる・・・」
「知ってるよ、トーコちゃん?だよね?こんにちは。」
「こ、こんにちは・・・。」
その笑顔で投げられた挨拶は、同性だけが感じることのできるトゲが埋め込まれている。それに私に向けられる視線にも敵意を感じる。その直後、少し甘えるような声で
「ねぇ、エミル行こーよ。ごめんなさいね、私たちこれから映画観るの。今日は一日私に付き合ってくれるって言うから♪夕飯も今日は私と一緒にワ・タ・シ・の・家で食べるの。それじゃね。トーコちゃん。ホラ、行こう早くー。」
そう言ってエミルの腕を引っ張って私の横を抜けていく。
「・・・邪魔しないでよね。」
私の横を通り過ぎる瞬間小さな声で呟く言葉を私はしっかりと聞いてしまった。
「わ、ちょっと、マーシャ!ご、ごめんね。それじゃまたね。週末でもお店行く・・・うわぁああ!」
最後まで挨拶させてもらえず、エミルはシアターの中へ消えていった。その場に残された私はまるで、マジックメヂューサを掛けられたように立ちすくむ。どうしよう、めちゃめちゃ警戒されてた。というかアレはもう警戒じゃない、完全に宣戦布告だ。いやいや死の宣告に近いかもしれない。私別にエミル君のこと好きって言ったわけじゃないのに、周りから見たらそう見えちゃうのかな。もしかしてやっぱり私、エミル君のこと・・・。
『ほーぅ、アレが恋敵かぁ。手強そうねぇ、あーいうタイプがイチバン厄介なのよねぇ。絶対負けを認めない典型よ~アレは。』
突然耳元から声がして、私の石化が解除される。
『ちょっ、キサラギ~びっくりするでしょ!』
『ゴメンゴメン、でもいいタイミングで帰ってきたわ♪我ながら褒めてあげたい。』
キサラギは腕を組んでウンウンと頷く。
『帰ってきたって、ドコか行ってたの?』
『ん~?あぁ、前に話してたティタってタイタニアの事が少し気になってね、それと私を性悪ペットなんて言ってくれちゃったドミニオンの坊やと。調べてたのよ。』
『え?ティタの事?』
私は何故今、しかもキサラギがティタの事を調べる必要があるのか理解できなかった。
『あぁ、それはいいの。というかそのうち話すわ。それよりそれよりっ!あのドミニオンの坊や・・・ホラ・・・』
『ベリアル君?』
私の一言にキサラギの尻尾がピーンと伸びる。
『そう!あのベリアルって子さ、トーコのことホントに好きみたいよ。どう?驚いた?』
『え?ええ?!なんで?どーしてそんな事言えるのよ。』
『あの子、あんな感じに見えるけど、実は誰とも関係持ってないの!』
『関係?』
『肉体関係よっ!』
『に、に~!?』
『ハイハイ、そのリアクションはもういいから、飽きたし。で、確かに色んな女の子と遊んでるみたいだけど、キスすらしてないんだよ!信じられる?なんなの?!根性ナシ?!ヘタレ?!あれで純粋ってわけないし!びっくり通り越して笑っちゃうよね!』
キサラギはホントに楽しそうに瞳を輝かせて、でもお腹を抱えて話す。
『でも前、ベリアル君女の子にキスしてたの見たよ!』
『それって、どうせオデコかホッペでしょ?』
『う、うん。』
『はぁ、そんなの挨拶じゃない。キスって言ったら唇でしょうが、ク・チ・ビ・ル』
最後の単語を紡ぐキサラギの唇がやけに色っぽく見えて、同性ながらドキっとしてしまった。
『これで一気に話が盛り上がるわぁ!悦びなさい、トーコ!アンタ幸せよ!』
『な、なんでよう』
『はぁ?だって、【奪う悦び】と【奪われる快感】を同時に味わえるのよ!コレを幸せと言わないでなんて言うのよ!それに・・・』
『それ・・・に・・・?』
『種族を越えた愛っ!禁断の愛っ!コレ以上の萌えがどこにあるの?!世界中探したってそうそうお目にかかれるモンじゃないわっ!』
肩で息をして、拳を振り上げるキサラギの姿に、私の頭の中はもうグルグルだった。
『さぁ、これからが本番よ!ほら、さっさと帰って作戦会議するよっ!』
キサラギはそう言うと私の腕にしがみついて、自宅へ向かって勢い良く飛び始めた。その張り切り具合に、
『え?え?えええええええ?!』
私は、全てがいきなり過ぎてついていけない感をそのままに、ただただキサラギついていくのしかないのであった。
・・・To be continue
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