エミルを探しがてらのウィンドウショッピングを楽しむトーコたち。
久しぶりの休みを楽しく過ごしたかったのに、まさかのバトル。
バトルは相手の放棄で何とかカタがついた。
気を取り直す意味も兼ねてのランチ、その後のまどろみ。
しかし、それは・・・
第15話はじまります。
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「ごちそうさまでした♪」
私はサンドイッチの入っていたケースの蓋を閉め、両手を合わせて昼食をすませる。
「ん~、トーコの作るのと見た目変わらないのに、コッチの方が断然美味しいわ。」
キサラギも満足そうに目を細める。
「ひっどーい、でもそうなんだよねぇ。」
私は、ぷぅっと頬を膨らませるがすぐに溜息に変わる。普段地下のダウンタウンで生活していると、太陽の光がとても心地良く感じてしまう。お日様は偉大だ、こんなにも私を無気力にさせてしまう。PT広場の木の下で柔らかな日差しを浴びてウトウトと始める。キサラギも私の膝の上に腰を下ろして体を預ける。フワフワとした日差しとキサラギの体温が私を夢の世界へ誘い始める。
「気持ちいいかも・・・。」
目を閉じて呟いたときだった。私の閉じた視界に影がおちる。
「ひゅう♪こんなカワイ子ちゃんが無防備すぎっぜ。」
「気持ちいいかも・・・じゃなくてよぉ、もっと気持ちイイコトしようぜ?」
下品な声と物言いに私はハッと瞳を開ける。そこに立っていたのは二人の男、一人は細身でバンダナ、もう一人はいかにも悪役ですといわんばかりの顔つきで両腕に刺青が見える。バンダナの男がニヤケた顔で私の顔を覗き込み
「よう、こんなトコでお昼寝するくらいなら俺らと遊ぼうぜ・・・って、よく見たらネェちゃん酒場の店員じゃねーか。」
男の言葉に後ろにいたゴツイ男がズイと覗き込み
「ほぉ、店の制服しか知らねぇから気づかなかったぜ。あの制服もミニスカートもそそるけどよぉ、私服もいいなぁ。こんな短けぇスカートじゃ、パンツ見えちゃうんじゃねぇのか。たまらねぇ~。」
ふんふんと鼻息を荒らげる。私は、その迫力に顔をそむけると同時にキサラギにコンタクトする。
『キサラギぃ、どうしよう。』
『ん?なにが?』
予想しない返事に、思わず視線をキサラギにむける。
『やる気なしっ?!っていうか、興味なし?!』
なんとキサラギは私の膝の上ですでに昼寝の体制を取っていた。目を丸くしている私をうっすら右目を開けて一瞬確認すると、
『そんな百面相しなくても・・・。ふぁ、いいじゃんテキトーにあしらっとけばさぁ。』
再度瞳を閉じて就寝体制に入る。
『そんなぁ、あしらうってどうしたらいいのよぉ・・・って、寝息?!んも~っ』
私たちのやり取りはほんの数秒。しかし、ナンパ中の男たちには長い「間」であるわけで。
「おいおい、黙ってねぇでさぁ、ドッカいこうぜ?」
「い、いえ、私は結構ですから・・・この後用事もありますから。」
私なりにちゃんと断った。しかし、断って「ハイソウデスカ」と言うやつはいない。というか、いればそんなヤツは一生ナンパはしないほうがいい。
「いやいや、『結構です♡』で済んだら騎士団いらねぇし。わかる?アンタに拒否権はないの。いつまでも座ってないで立てよ!」
「きゃっ!」
バンダナの男に右手首をグッと掴まれ引き上げられる。細身のわりに力が強い。しかし、今はそんなところに感心している場合ではない。私が立ったということは、当然膝の上のキサラギは・・・
『キサラギっ、だいじ・・・はぁぁ?!』
浮いていた。私の腰の辺りの高さでフワフワと浮いて寝息をたてていた。
『それネタでしょ!心配して損したぁっ!バカっ!』
さすがに私もイラっとした。キサラギはその気配を感じたのか、ゆっくりと瞳を開けると
『あぁもうアタシが気持ちよく寝てたのに邪魔しちゃってさぁ。しかも意味もなくトーコに怒られてるしぃ。ったくぅ、めんどくさいから灰にしちゃうかぁ。』
キサラギの体から紫色のオーラが放たれる。その気配に私は一瞬息が止まる。しかし、その時男達の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「オイ!オマエたち何やってるんだっ!」
そこに立っていたのはエミルだった。彼は男達の後ろで腕を掴まれて立っていた私に気づき、
「トーコ・・・ちゃん?」
「エミルくんっ!」
私の声を聞いた瞬間、彼の体から闘気があふれ出すのが感じられる。
「オマエら・・・ボクの友達になにしてんだ・・・」
低い声でボソっと呟き、ゆっくり一歩一歩進む。
「エ・・・エミルって、あのエミルか・・・?」
「い、い、いや、アンタの友達だって知らなかったんだ。わ、悪かったよ。」
バンダナ男はさっきまでの威勢はどこへやら表情が変わる。隣にいた刺青男も一回り小さく見えるフシギ。近づいてくるエミルの威圧に負けたバンダナ男は
「おいっ、い、いくぞ・・・」
「あ、あぁ。ねぇちゃん悪かったな。」
特に捨て台詞もなくその場から逃げ出した。私は今のやりとりにあっけをとられていると、
「トーコちゃん?大丈夫だった?」
エミルがいつもの笑顔で声をかけてくる。
「あ、う、うん。ありがとう。」
私はありがとうという単語を口にするのが精一杯で。
「いいよ。でも無事でよかった。クエスト帰りにもの凄い威圧感を感じちゃってさ。あの氣はボスクラスいやそれ以上だったかも知れないなぁ。それで急いで来てみたらトーコちゃんが絡まれてるし。」
エミルの話に、私はキサラギの最後の一言を思い出した。私もあの瞬間、息が止まるほどの威圧感を感じた。キサラギ・・・愛(略奪系)の守護魔と言っていたが、本当のところはどうなんだろう。その場で一瞬考えてしまう。
「それにしても、トーコちゃん今日は・・・なんていうか・・・いつもと違って、その大胆な格好なんだね。最初分からなかったよ。」
エミルの言葉が私の羞恥心を呼び起こす。体が熱くなって耳の先まで紅くなる。
「あ、あ、こ、これはねっ、これは・・・」
必死に説明しようと口を開くとそれを遮るように
「でも、凄く似合ってる。とっても可愛いよ、トーコちゃん。」
とてもステキな呪文が聞こえた。そのとき私は胸がキュンとなった。その感覚にハッキリとした確信があるわけではなかったが、今までと明らかに違うということは理解できた。
「ありがとう・・・エミルくん。」
いつもならもっと言葉がでてくるのに、今日は今この瞬間だけは何も言葉が見つからなかった。そんな私の心を悟られまいと違う話題を振ってみる。
「そ、そういえばさ、エミルくんって凄いんだね。たった一言で二人とも怖がって逃げちゃったじゃない。」
「あぁ、アレは僕だけの力じゃないよ。あれは・・・」
「あれは?」
首をかしげてエミルの顔を見上げるように覗き込む。
「マーシャのこともあるんだ。」
「え?」
驚いた。そこでどうしてマーシャの彼女の名前がでてくるのか。私は前から気になっていたことも含めて思い切って口を開く。
「マーシャさんのコトって?それに前から気になっていたんだけど、エミルくんとマーシャさんってどういう関係なの?」
エミルはマーシャとの関係まで聞かれると思っていなかったのか、少し驚いた表情をしたがすぐに笑顔に戻って、
「今時間ある?」
(エミルくんを探していたんだよー!)
とは当然言えず、私はウンウンと首を上下にしか動かせなかった。
『はぁ、せっかくのチャンスなのに。だらしないなぁ』
どこからか溜息交じりのキサラギの声が聞こえてきた。辺りに視線を投げるとPT広場の柵に腰を下ろし、いつものように足を組んで自分の脚に頬杖をついていた。
「それじゃ、そこに座ってちょっとおしゃべりしていかない?この間、マーシャのせいでゆっくり話できなかったしね。」
エミルくんと私はPT広場のベンチに座った。
・・・To be continue
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