ハプニングは、絡まれたことなのか
エミルくんに出会えたことなのか
気になるマーシャとの関係
そして
エミルくんの・・・
第16話はじまります。
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暖かい日差しの下、私たちは向かい合ってベンチに座っていた。こんな状況が予測できたであろうか。
できません。
いざこういう風に二人で向かい合わせに座るとなんだか恥ずかしい。ドキドキが治まらない。ちゃんと彼の顔が見れない。私は俯いて木のテーブルの節を見つめる。
「トーコちゃん、この間はごめんね。マーシャが急かすからゆっくり話もできなくて。」
「ううん、いいの。あ、あの時は私も少し調子が悪くって・・・逆によかったとおもう。」
「そっか。それに、今日こうやって会えたからいいか。あはは。」
エミルはいつもの笑顔を崩さない。そして座ったばかりのベンチから立ち上がり
「飲み物買ってくるよ。コーヒーでいい?」
「あ、でも、私が買ってくるよ!助けてもらったし!」
「いいよ。それはさっきお礼言ってもらったし。今日は僕に奢らせて。」
「あ・・・うん・・・・アリガト。」
「うん。」
そう言うと、タタッっとコーヒーを買って戻ってくる。受け取ったカップはとても温かく、ドキドキする私を少し落ち着かせ、カップから香る香ばしい香りが私の走り回る思考を優しく包み、ひとくち口にすると先ほどまでが嘘のように落ち着けた。
「あ~♪やっぱりクエストの後のコーヒーは美味しいなぁっ!><」
エミルは、ズズッとコーヒーを啜る。
「それ・・・でっと。さっきの話の続きだよね、マーシャのことだっけ?」
キタ。私の落ち着いたココロがまた活動を再開する。
「うん。とっても仲良さそうだし、それに・・・。」
そこから先の言葉を口にできなかった。
「それに?」
「ううん、なんでもないよ。それで?」
私は平然を装う。
「あぁ、うん。マーシャとは幼なじみなんだよ。家が近かったし、それにホラちょっと勝気なトコロがあるでしょ?小さい時は僕たち男の子に混ざってよく遊んでたんだ。そんな関係がそのまま続いて、いつか一緒にクエストとかさ冒険とかさ。」
エミルはもうひとくちコーヒーを啜る。そして話は続く。
「でさ、マーシャってほらギルド評議会の代表されてるルーランさんの孫娘って知ってる?」
驚いた。あの優しいルーランさんの孫娘がマーシャだったなんて。でもあの存在感は、言われてみれば少し納得だったり。
「そうなんだ。初めて聞いたよ。でも、それが関係ある?」
「ギルド評議会ってダウンタウンの中心機関だし、評議会に睨まれたらダウンタウンで生活していけないからね。それに下手するとアップタウンで商売もできなくなる可能性だって。あ、それにクエストなんかも受けられなくなるかなぁ。だから、マーシャと仲が良い僕とかタイタスに何かあってそれがマーシャに知れれば・・・後はちょっと情けないから想像してね。はは・・・」
はははと乾いた笑いで鼻の頭をポリポリと掻く。そんなエミルの仕草を見ながら私もコーヒーを飲む。そして私は肝心なトコロが気になった・・・いや、最初から気なっていた。それはココロ、エミルのマーシャに対する想い。訊こうか・・・訊ける?言える?ここに来て恋愛経験の無さと異性との会話の経験不足がその決断を鈍らせる。
『ホラ、聞いちゃいなよ。トーコ!』
柵の上に腰掛けていたキサラギが、フワッと羽を羽ばたかせて私の肩に腰を下ろす。そして小さいがスッと伸びた細い指で私の頬をそっと撫でると、
『今日のトーコはいつもよりずっと可愛いよ。それに・・・変わったんでしょ?勇気・・・トーコの中に小さな勇気生まれたんでしょ?』
いつものキツめの口調とはかけ離れたとても優しいソレで私に耳打ちする。
『う・・・ん。そうだよね、私、変わらないと。』
私は、普段持っている勇気に今日生まれた勇気、この服をくれたキサラギとステキな髪型にしてくれた美容院の店長がくれた小さな勇気。いやそれは単なるキッカケで私の中に生まれた私の中の新しい勇気。両方を合わせてやっと半人前の・・・。
「ね、エミルくん。一つ訊いて・・・いい?」
私は半人前の勇気を振り絞る。次に綴られるであろう言葉のために、その言葉がちゃんと音になるために。
「ん?なに?」
「エミルくんって、その・・・あの・・・」
「ん?」
「マーシャさんとその・・・幼なじみ以上のというか、つ、つ、付き合ってる・・・とか。」
訊いた。
「え?あぁ~!ないない。マーシャは好きだけどね、僕の中では幼なじみでなんていうか家族なんだ。それに・・・。」
「それに?」
「ん?あ、いやなんでもないっ。あははははは。でもどうしてそんなこと訊くの?またもしかしてマーシャに何か言われた?」
「また?」
「いや、マーシャって基本的に優しいんだけどねぇ。少しわがままなトコがあってさ、しかも一人っ子だから寂しがり屋というか。だから僕が誰かと仲良くしてると一人ぼっちになっちゃうって思うのかな。『これは私のー!』みたいに主張しちゃうみたいでさ。」
それ・・・ズレてると思う・・・。エミルくん気付いてない?!エミルの言葉に私はホンノ少しマーシャを気の毒に思ってしまった。
「あ・・・うん、そんな感じのコト言われたけど・・・。」
それ以上のこと・・・この間の敵意むき出しのあのセリフも午前中にあった出来事も口にするのをやめた。
「ごめんね、気にしないで。あれでもイイ子だからさ。」
エミルはそれだけ言うと、カップに残っていたコーヒーをグッと一気に飲み干して、ベンチから立ち上がり
「それじゃ、クエストの報告もあるしそろそろ行くね。今日はありがとう、初めてかもねこんなに話したの。楽しかったよ。」
「うん・・・こっちこそ助けてもらってありがとう。また・・・機会があればその、お話しようね。」
私はそう言ってエミルに笑顔を向ける。エミルも私に負けない笑顔でうんと頷き、
「こちらこそ。それじゃね、バイバイ」
「うん、バイバイ・・・。」
手を振ってその場を後にした。エミルが去ったベンチで私はコーヒーのカップを手に取る。
『トーコ、頑張ったんじゃない?』
キサラギが声をかけてきた。私はカップの飲み口に親指をそっと沿わせて、
『う・・・ん。』
『なぁに?マーシャと付き合ってないって分かったんだし、略奪ってわけにはいかないけど十分チャンスあるじゃん。不満?』
略奪愛のキューピットは、ちょっと不満気に問いかける。
『そうじゃないの。エミルくんがさっき言ったのが気になって。マーシャさんと家族だって、その後のそれにって』
『あ~、何か言ってたね。』
『それにってそれがちょっと気になって・・・。あの瞬間のエミルくんの瞳・・・寂しそうだった。』
私はカップの飲み口を再度見つめる。
『へぇ・・・♪トーコ、恋愛LV上がったんじゃない?そんなトコ気になるなんてさ。』
キサラギは私の一言に気をよくしたのか、私の前に羽ばたくと人差し指をピッと立てて嬉しそうに言った。
『そう・・・なのかな。私はただちょっと気になっただけで・・・。』
私は両手で持っていたカップにそっと口をつける。
「・・・・・・にが。コーヒーってこんなに苦いんだね・・・。」
ちょっと大人になった気がした昼下がり。私は飲み干したカップをテーブルに置いて空を見上げる。
「あれ・・・。トーコ珍しいね、よく似合ってるよ。」
空を見上げた私の顔をお日さまから隠すように覗き込まれる。
「あ・・・。ひゃっ☆ ベリアルくんっ!」
覗き込んできたのはベリアルくんだった。
・・・To be continue
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