気になる・・・
エミルくんも・・・
エミルくんのあの言葉も・・・
そして
こんなにもざわつく私のココロも・・・
第17話 はじまります。
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「今日はそんなにお洒落してどうしたんだ?つっても、その暗い顔じゃせっかくの髪も服も威力発揮できてないけどな。」
ベリアルくんは、私の前髪を優しく整えてくれる。
「そんな顔してた・・・?」
彼はヤレヤレと言った感じで小さく溜息を吐くと、私の隣に腰を下ろして
「自分の表情ってか、気分に気付けないなんて重症だな。何があったんだ?」
私は下を向いて
「うん、実はね・・・」
とそのとき。
「ん~~~?エミルの匂いがするぅ・・・。」
甘えた声と同時に私の両肩に不自然な重みを感じる。私は驚いて後ろを振り返ると、そこにベリアルと同じドミニオンの女の子が立っていた。
「ルルイエっ!?」
その女の子は、ドミニオンに特徴的な紫の髪、ボーイッシュなショートカットでレザー地のタイトなライダージャケットとミニにロングブーツのチョイス。ほんの少しきつそうなジャケットのジッパーを大胆に真ん中近くまで下ろしてミニから伸びる白く長い脚がとても色っぽい。私と同じくらいの歳のはずなんだけど、どうしてもお姉さんに見えてしまう。
「あっれぇ?誰かと思ったらトーコ!?なになに?今日可愛いじゃーん?どしたの?デート?ん?ん?」
必要以上に私の顔を覗き込む。
「ちょっとぉ、近いよー!ちーかーいー。」
「あはは、トーコかわいい♪」
「もう、同い歳なんだからー!子供扱いしないでよー。む~。」
私はぷぅっと脹れる。ルルイエは脹れた頬を人差し指でツンと突くと、
「ごめん、ごめん。だってホントに可愛いんだもん。そんな服今まで着たことなかったし珍しかったんだよ♪」
テヘっと笑ってみせる。普段お姉さんな雰囲気なのにこういうときは歳相応の無邪気な笑顔になり、きっとそのギャップが男性を魅了してしまうんだろうと思う。現にルルイエはモテるのだ。ウチのマスターもルルイエの隠れファンだし・・・。そんなことを考えていると、ルルイエは私の隣に腰を下ろし、頬杖をついてこっちを見る。
「それよりさ、何の話?ベリアルに口説かれ中?」
「ちっ違うよ。」
「そうだ、まだだ。」
「まだって!?んもぅ、ベリアルくんはー。」
私はさっきあった出来事を掻い摘んで説明した。マーシャと口論したこと、その後ヘンなヤツに絡まれてエミルくんに助けてもらったこと。ルルイエはうんうんと興味津々に聞いていたが、ベリアルの表情は複雑だった。
「そうか・・・エミルが・・・。クソッ」
ベリアルは小さく舌打ちして吐き捨てる。私は不思議そうにべリアルの方を向いて、
「どうして怒るの?」
「惚れた女がそんな時に傍にいられなくてどーすんだよ。守ってやるとか言っててさ。なさけねーよな、怖い思いしたんだよな、悪かったなトーコ。」
ベリアルが頭を下げる。
「なんで?ベリアルくんが謝るのおかしいよ。そうやって言ってくれるだけでうれしいんだよ?」
私はベリアルの顔を覗き込んで言う。ベリアルはまだ少し不服そうな表情ながらも、柔らかい笑みを作って
「そか・・・。わかった。トーコやっぱりオマエ最高だよ。もっとトーコのこと好きになってもいいよな?」
優しいトーンで私に囁く。ベリアルのその切れ長の瞳でそんな風に笑顔作って言われたら・・・。私はドキッとした。と同時に顔が熱くなるのがわかる。
「はーい、ベリアルの口説きターン入りましたぁ♪」
私の表情が変わるのに気付いたのか、ルルイエが楽しそうに右手の人差し指と親指を立てて、銃のような形を作り私の胸につきたてる。
「バッカ、ルルイエ茶化すなよ。」
ベリアルがキッとルルイエの方を睨む。しかし、ルルイエは悪びれもなく
「だって、ホントのことだもーん。」
と、あっけらかんに言う。私とルルイエは「もう~」と言いながらあはははと笑いあう。
「あ、そういえば、ベリアルくん今日は珍しく戦闘着なんだね。クエスト?」
「あぁ、いや、今日はちょっとアニキに呼ばれててな。向こうに行ってたんだコイツと。」
「アニキ?あれ?ベリアルくんって兄弟いたんだっけ?」
すると、ルルイエが
「違う違う、アニキっていうのはドミニオンレジスタンスのリーダーのことだよ。ベリアルとリーダーって何か兄弟の杯を交わしたとかなんとか言ってさ。ま、向こうが年上だからそう呼んでるんだよ。」
そんな風に説明してくれた。ベリアルくん達ドミニオン族が住んでいる世界は「地底界」といわれ、今私達が生活している真下に存在している。そういえば前に少し聞いた事がある。ドミニオン世界は、絶えず戦争が起こっていてレジスタンスという組織が最前線で戦っていると。その相手は確か・・・。だから、自分の故郷へ帰るにも命がけだって。ルルイエの説明を聞きながら私はそんなことをぼんやり考えていた。その時、どこからか電子音で構成された少し寂しいメロディが聞こえてきた。私がそれに気付いてキョロキョロと辺りをうかがうと、
「ん?アニキ?」
それは、ベリアルくんのWISモバイルだった。彼は端末を取り出し、
「ワリ、ちょっと野暮用。トーコ、また今度な。」
「え?あ、うん。バイバイ。」
私の声を聞かず彼はその場を後にした。
残った私とルルイエの間に暫しの沈黙。そして、ルルイエは両手を前に出してん~っとノビをひとつ。
「でもさー、アレだよねぇ。」
ルルイエが空を見上げながらポツリと呟く。私はその音にビクッと一瞬肩をすくめて、
「え?なに?」
ルルイエの次の音を導こうとする。そして、ルルイエから出たのは、
「エミルってなんかいいよねぇ。一見頼りなさそうに見えるんだけど、いざって時には頼もしいというか。」
ちょっと意外だった。私はルルイエはエミルくんみたいなタイプは好みじゃないと思っていたから。といっても、ルルイエの好みをはっきり知らないんだけれど。でも、彼女のハッキリとした性格上エミルくんのようなホワっとしたタイプは無いと思っていたのに。でもそれと同時に、今まで何回も一緒にクエストや冒険を繰り返してきたんだから、私以上に彼のことを知っていても全然普通なわけで。私は黙って下を向いた。きっと百面相してると思ったから。ルルイエはまだ奏でる。
「憧れちゃうよねぇ♪マーシャも狙ってるみたいだし、それにあの子幼なじみでしょ?あのポジションは確かに有利だよね!私なら間違いなく夜這いして襲っちゃう・・・じゃなかった!アタックして彼女になっちゃうのに!」
またも信じられない音が聞こえてきた。憧れちゃう?!誰が?誰に?マーシャさんの事は十分身をもって理解できているけど、ルルイエの言葉は予測範疇ではなかった。いや、そもそも登場すらしていないのに。ということは、これって、この展開って、まさかのまさか?私の百面相もまだまだ続く・・・はずだったが、その直後に終幕する。
「・・・でも、エミルにはなぁ・・・」
ポツリと呟く。本当に小さな声で、この台詞がアップタウンの喧騒の中なら絶対気付かない。でもここは穏やかな南平原。
「え?ルルイエ・・・それどういう・・・?」
私の言葉にルルイエは、一瞬焦ったような表情を見せるが、
「ん?あ、あぁ、あははは!なんでもないなんでもないっ!。私も隙あらば襲っちゃ・・・じゃなかったアタックしちゃおうっておもってるからさ!」
次の瞬間には、いつもの笑顔に戻っていた。でも、私の頭の中には、”でも”このフレーズがリフレインしていた。
気になる。
エミルくんも・・・
エミルくんのあの言葉も・・・
ルルイエのこの言葉も・・・
そして、
こんなにもざわつく私のココロも・・・
けれど、この後その言葉を理解することはできない。それ以上に私の心をかき乱す出来事が起こるから。
・・・To be continue
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