鎖で自由を奪われる
ベリアルという鎖で
身体もココロも繋がれて
呼吸することさえもつらい瞬間
私のココロが息できないと悲鳴をあげる
ベリアルくん・・・どうして・・・
19話 はじまります。
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私は今ベリアルくんの腕の中にいる。抱き寄せられた私の体は自由を失っている。けれども、私もこれ以上は許すつもりはない。
「ねぇ、ベリアルくん苦しいよ、ちょっと痛いよ。ちょっと聞いて・・・る・・・」
その時、彼の体が僅かながら震えているのが分かった。様子がおかしい、いつもの彼じゃない。そう思った私は静かに尋ねた。
「ベリアルくん、何かあった・・・の?」
私の質問に彼は無言で返す。
「なんかヘンだよ?いつものベリアルくんじゃないよ。どうしたの?」
「トーコ、俺は・・・」
彼が耳元で吐息混じりに小さく呟く。
「俺はトーコのことが好きだ・・・。オマエが欲しい。」
「え・・・」
いきなりの直球に体の力がフッと抜ける。そして、踊り場の壁にもたれる格好で私は壁と彼に挟まれる。私の脚の間に彼の脚が割って入ってくる。ダメ、このままだと取り返しのつかないことになる・・・。私の理性が警鐘を鳴らす。私の太ももに擦れる彼のレザーパンツがまるで蛇のように私の触感を刺激する。
「ぁん・・・おかしいよ。ベリアルくん今までこんな強引なことしたことないのに・・・。どうしたの?ねぇ教えてよ・・・。」
僅かに私の声も震えていた。心臓がバクハツしそうなほど早く動いている。
「・・・・・・」
彼は無言。
「このままだと、私ベリアルくんのこと嫌いになっちゃうよ。だって、今のベリアルくん怖いんだもん。ねぇ・・・。」
「・・・・・・くんだ。」
「え?」
「俺、暫く向こうの世界に行くんだ。」
「何?お仕事?」
「戦争・・・」
彼の口から出た単語に私はドキリとする。
「どういうこと?ベリアルくんって兵隊さんじゃないんでしょ?そう言ってたじゃん。」
「アニキがさっき敵に襲撃されてヤバイって連絡があったんだ。」
彼の言葉は俄かには信じられない内容だった。だから何?こっちで平穏に暮らしているのに?どうして?私の思考が崩れ始めていた。
「だから・・・帰ってくる。必ず生きて帰ってくる・・・けどそれでもやっぱりトーコには俺の気持ちだけは伝えておきたかったんだ。もしも・・・。」
ベリアルは私の瞳をじっと見つめて優しく見つめて言う。けれどその優しさには温かさはなかった。乾いた優しさというか虚で模られた優しさ。彼が最後に言おうとした言葉を聞きたくなくて私は自分の言葉でソレを遮る。
「そんなのっ!そ、そんなのズルイよ。私の都合とかおかまいなしなんて。しかもこのタイミングなんて。・・・もしもなんて聞きたくない!ベリアルくんが弱気なんてらしくない!それに・・・私どう返事したらいいの・・・。」
私は震える声でベリアルくんにぶつける。
「返事はさ、俺が帰ってきてから聞かせてくれないか。いつ帰ってこれるかわからないけど。何ヶ月・・・いや何年になるかもしれない。もしトーコが待っててくれるなら、そのときに聞かせてくれないか・・・。」
それだけ言うとまた抱きしめられた。今まで以上にきつく・・・。
「ベリアルくん、このことルルイエは知ってるの?」
「言ってない。」
「なんで?!幼なじみなんでしょ?」
「あぁ、アイツに言ったらきっと付いてくるから。戦争なんて女子供が立ち入る場所じゃない。魔物じゃないんだ相手は・・・。ルルイエは幼なじみで、家族というか、アイツ俺のコト・・・だからアイツには血で汚れてほしくないんだ。」
「ベリアルくん、ルルイエの気持ち・・・気付いて・・・るの?」
私の言葉で彼の腕に力が入る。気付いていたんだ・・・。
「だったら尚更じゃない!ルルイエの気持ち知ってて言わないなんてヒドイよ。ルルイエの気持ちに答えないで私になんて・・・。」
「しょうがないじゃないか!俺は、俺はトーコが好きになっちまったんだから。ルルイエじゃなくトーコが・・・。」
そう言ったベリアルくんの背後で気配がした。私は彼の肩越しに稼動橋へ続く階段に目をやる。そこにいたのは紫色のショートヘアの女の子・・・。
「ル・・・ルルイ・・・。」
私はルルイエの名前を最後まで言えなかった。彼女の表情は切なくて悲しくて・・・。私とベリアルの肩越しに目が合った。ルルイエは、壊れそうなほど脆い笑顔を浮かべて
「だ、誰かとお、お、思ったら・・・ベリ・・・アルとトーコだ・・ったんだ・・・。あ、あは・・・じゃましちゃった・・・ね・・・。べ、ベリアルは・・・そうだよね、トーコも・・・好きって・・・気付い・・・」
力なく、いつものルルイエからは想像できない小さな細い声で、まるで両手にすくった砂がサラサラこぼれるように言葉を落とすと、そのまま振り返って階段を駆け上がる。振り返る瞬間ルルイエの瞳に光るモノを私は見てしまった。私は渾身の力を込めてベリアルから体を解く。そして、思いっきりベリアルの頬を打つ。
「トーコ・・・」
「ベリアルくんのばか!早くルルイエ追いかけなさいよ!ベリアルくん、アクロニアで一番のジゴロなんでしょ!女の子泣かせてどうするのよ!それに・・・それにっ!私のこ、こ、事・・・ス、スキならちゃんと身の周り整理してから言ってよ!そうじゃないと返事もしないし待ってもあげないんだからっ!」
私は自分の息が続く限りの大きな声でまくし立てた。
「トーコ・・・」
「ケジメつけなさいよ!ベリアルくんの事スキって思ってる女の子泣かせちゃダメ。ルルイエの気持ち知ってたんならなおさらだよ・・・。ホラ!早く!いっけーーーー!」
私は思いっきりベリアルを突き飛ばした。2、3歩後ろへよろけた彼は、フッと笑い
「やっぱり、トーコは最高だよ。それじゃな、ちょっと行ってくるわ。帰ってきたときはその顔涙でグチャグチャにさせて、ついでに瞳には俺しか映らないようにしてやんよ。」
そう言って、右手で軽く敬礼のような仕草を取ると階段を駆け上がっていった。
踊り場に残された私は独り。
音の無い空間。
まるで常世のような異質な空間で
私は糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れた。
・・・To be continue
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