ひとつがふたつになったとき、
ひとりの少女が湖に佇む。
ひとつの想いが世界に散らばる。
20話 はじまります。
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トーコの肩に乗っていたキサラギは、ルルイエとの会話を聞いていた。
(ふうん、エミルって坊や何かあるのね。興味あるわねぇ、ちょっと調べてみますか。)
トーコはルルイエとの会話に夢中だったので、こっそりその場を離れた。稼動橋を抜けてアップタウンに入る。中央広場を抜けた先に二大聖堂が鎮座している。黒の聖堂と白の聖堂があり、それぞれドミニオンとタイタニアの聖なる場所として皆の心の拠り所として存在している。
(この聖堂は・・・人の想いが溢れすぎてるわね。司祭ってば浄化サボってるのね。)
などと考えていると、白の聖堂傍で見知った顔が視界にはいった。金髪のタイタニア、眼鏡をかけて少し影のある男はフラフラと聖堂の中へ入っていった。
(あれって、エミルと一緒にいたインテリ眼鏡じゃないの。あ、そうだ、あの時たしか・・・妹がトーコの友達で・・・なんてったっけなぁ・・・あ、ティタか。その子ってタイニーアイランドに・・・行ってみるか。)
キサラギはカラダを反転させると中央広場に戻り、中央に立っているぬいぐるみに近づく。
「はぁい、クマっこ♪」
「やぁ!ボクの名前はタイニー。フシギなところへ・・・」
「背中の糸抜いちゃうよ?」
「ひぃぃぃぃ!はっ!キサラギさまっ!守護魔のあなたがどうしてここに?!」
タイニーはひどく驚いてその場に尻餅をついてふるふる震えている。
「別にどーだっていいでしょ?イイ女は不意に現れるもんなのよ。ホラ、そんなことより転送しなさい。糸・・・抜くよ?」
「ひっ!た、ただいまー!」
タイニーの前に現れた光の玉にキサラギが覆われて消えた。
瞳を開けるとキサラギは海岸に立っていた。そこは、ちいさな島タイニーアイランド、常世にも現世にも属さない中立の世界。いわば歪みだ。キサラギは『ん~っ』と大きく伸びをして、
「さぁて、行きますか。」
パタパタと羽をはばたかせある場所へ向かった。吊り橋を渡り、岩のトンネルを抜けたその先に小さな湖があった。澄んだ湖が光を反射させて、まるで宝石が散りばめられたように輝いて見える。キサラギは湖のほとりに辿り着くと辺りを見回す。
「いた・・・。」
そこには一人の天使・・・タイタニアの少女が立って湖を眺めていた。金色の髪がまっすぐに背中まで伸び、水色のワンピースがその金色を更に引き立てる。穏やかな顔に見えるその横顔は睫毛がすうっと伸び、高くはないが綺麗な鼻筋をしている。しかし、その瞳に生気はなく、どこか虚ろなソレは端から見てもわかるほどだった。キサラギは少女の元へフワフワと飛んでいく。
「あら、今日はかわいいお客さんがいっぱいなのね。」ジャリ・・・
少女がその虚ろな笑顔をこちらに向ける。動かすカラダに似合わない音。
「アナタ、名前覚えてる?」
「私はティタ。気が付いたらここにいたの。この湖、綺麗でしょう?ここのお水を飲むために色んな動物が訪れるのよ。」
少女は虚ろな笑顔を崩さず視線を湖の中央から湖岸へ移す。ソコにいたのはペガサス。湖の畔で水を飲んでいた。
「ふうん・・・。で、ティタはどうしてここにいるの?」
「私がこの島を出ようとすると、島の入り口にいるタイニーが『君にはまだ早いよ』って帰らせてもらえないの。」
ティタの話す言葉は、どこか台詞めいていて彼女の言葉に聞こえない。
「そう・・・。」
「ほら、あそこにいるのはムーンペガサス。時々こうやって水を飲みにくるの。あの子はとても臆病で・・・。」
ティタのセリフを聞きながらキサラギは辺りを窺う。
「ふうん・・・臆病なムーンペガサスねぇ・・・・・・。ティタ、また来るわね。」
そう言うと、キサラギは湖畔をなぞるように移動する。少し行くとそこにタイニーが隠れていた。
「ちょっとアンタ。」
「ボクはタイニー。ホラ見てみて、あそこに立っている女の子かわいい・・・」
「そのフェルト、チリチリにされたいの?」
「ひっ!!!一体なんだよっ。・・・はっ!キサラギ様っ」
キサラギはタイニーの頭に座ると、脚を組んでから姿を消す。
「いい?チリチリになるか、バラバラに解体されるか好きな方を選ばせてあげるわ。選びたくないなら正直にアタシの質問に答えるの。OK?」
「い、い、いったいナンノコトデスカ。ぼ、ぼ、ボクにはサッパリダヨ。」
動揺したタイニーは、汗を自身の体に染み込ませ変色し始めている。キサラギは、再度姿を可視化させると、長い髪を手にとって毛先を自分の頬へ当てて
「あ、そう・・・わかったわ。それじゃ守護魔キサラギの命によって冥界の番人を召喚。タイニー族を地獄の業火で焼き尽くし、マリオネットの称号を剥奪・・・。」
「わーわーわーわー!!わかった!わかりましたっ!お話します!」
「そう?最初から素直になりなさいな。守護魔には逆らえないんだから。」
キサラギは、にっこり笑ってタイニーの眉間にブーツのかかとをめり込ませた。
「それじゃ、まずはこの状況を説明なさい。」
タイニーはその場に座り込むと、ポツリポツリ呟きだす。
「はい。ご存知のとおり、ここはフシギの島タイニーアイランドと呼ばれていますが、常世でも現世でもない世界です。ここにいる住人は全て監視役です。ここには現世に想いが残っている人の心を浄化するためにある世界。迷い人として幽閉されています。1年のうち一回だけ星の祭りのときは別ですが・・・。」
「そんなことは知ってるわ。ティタはこの世にいない存在だからここにいることも理解できる。でも、どうして天界へ送らないの?死人を留めて迷い人にするのはアナタ達にもやっちゃいけないことだってわかってるわよね?」
「はい。しかし、彼女は天界に送れないんです。送れないというより、逝けないんです。」
タイニーは悲しい声色で呟く。
「どうして?」
「はい、彼女にはとても強い想いがあるんです。あれはもう想い出にならない・・・念と言ってもいいでしょう。けれど、もう現世を離れた者が再び現世に戻れることは無い。悲しいけどボクたち監視役はある決断をしました。ティタのココロを抜き取って、彼女を天界へ送ることです。」
キサラギは黙ってタイニーの言葉を聞く。
「ボクたちタイニーと他の監視役たちとで、蒼き月天の夜・・・ティタの心を結晶に封印しました。しかし・・・。」
そこで、タイニーは声を震わせ詰まってしまう。キサラギは脚を組み替えて頬杖をつくと、溜息混じりに呟く。
「想いがことのほか強いものだったから、器となる結晶が耐え切れなかった・・・と。でもいいじゃない。心は抜けたんでしょ?それなら天界へ送れるじゃない。まぁ?結晶がバラバラになったんなら集めて封印しとかないと?そのかけらを魔物が取り込んだら純粋な力になっちゃうから、ボスクラスが溢れちゃうでしょうけど。」
「はい・・・。でも、それだけじゃなかったんです。じつはティタはまだその命を終える運命ではなかったんです。天界にあるティタの輪廻の蝋燭が尽きてなかったんです。」
「はぁん、あるわねそうこと。ってことはなに?ティタ生き返らせるの?」
「でも、心がないんです。だから・・・。」
「そういうことね。だから、鎖につないであそこに留めてるのね。ペガサスも監視役?」
「はい、あの湖は『生命の泉』あそこから離れなければ、泉から湧き出るオーラでティタのカラダは朽ちることがありません。けれど、ティタは自分の世界に返りたいと無意識に島の結界に近づくので・・・。」
「なるほど・・・。だいたいわかったわ。この事態の報告が、アタシたち守護魔へ報告なかったけど・・・。」
「も、申し訳ございませんっ。この償いはいかなる罰もお受けする覚悟でございます。しかし・・・ティタの・・・あの子の心だけは・・・。」
「いいわ。アタシはそんな事つべこべ言わないし。それでかけらは?どれくらい集まっているの?」
「はい、殆どはこちらに。タイタスというティタの兄弟とエミルという人間によって集められました。残るはあと1ピース・・・。」
タイニーは、何やら詠唱を始めると目の前に小さな箱を具現化させる。その箱を静かに開けると、そこにハート型の赤い石が入っていた。その石の赤色はまるで人の血を連想させるような真っ赤だった。しかし、その石の中央部分が欠けて穴が開いていた。
「それじゃタイニー。その結晶を集める作業は引き続き行いなさい。心配しなくていいわ。このことは他の守護魔そして・・・あのお方にも報告しないから。ロウゲツあたり、アイツ超Sだから知ったらすごい事されるんでしょうけど。うふふ。」
「は、はいっ。この命に代えても必ずっ!」
「あ、それと、もう少しティタとお話しても・・・いいわよね?」
「はいっ!しかし、心のないティタと会話が成立するかどうか・・・。」
「そうね、偽りの記憶を埋め込んで、あんな人形みたいなセリフ言わせてるくらいだもんね・・・。大丈夫よ。それじゃがんばりなさい。」
そう言って、タイニーのおでこにキスをすると、タイニーはその場で真っ赤になって硬直した。キサラギはそんなことおかまいなしにパタパタとティタの元へ戻る。
「あら、今日はかわいいお客さんがいっぱいなのね。」ジャリ・・・
「ごきげんよう、ティタ。アタシはキサラギ。アナタ達の運命と生命を司る者よ。」
・・・To be continue
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