溢れる想い
ゆえに
失くしたココロ
記憶の果てに
潜む現実
21話 はじまります。
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「あら、今日はかわいいお客さんがいっぱいなのね。」ジャリ・・・
「ごきげんよう、ティタ。アタシはキサラギ。アナタ達の運命と生命を司る者よ。」
ティタは、脚に繋がれた鎖をジャラジャラと引きずりキサラギの元へ歩み寄る。素足に繋がれた足かせはティタの足首に容赦なく擦り傷をつけ、鎖は泉の中央へと伸びていた。
「ティタ?あなた脚痛くないの?」
「脚・・・あぁ、これ可愛いでしょう?ここのタイニーさんがとっても似合うよってこんなに可愛いリボンのアンクレットをプレゼントしてくれたの。私はとても気に入ってるわ。」
ティタはその場でクルリと一回転しポーズを取ってみせる。しかし、動くたびにティタに繋がれた足かせが容赦なく足首に食い込み血がにじむ。心を失くし、幻影によって鎖をくらまし・・・ティタが現状生きていない存在だから耐えられているが、さすがのキサラギもこの光景は辛かった。
「そう、よく似合ってるわ。そうだティタ?これから私と少しだけお話をしましょう。でも、私との会話に言葉は必要ないわ。アナタの記憶・・・閉じられた世界にお邪魔するわね。せっかく誤魔化せていた心の傷を少し開いちゃうかもしれないけれど、ガマンしてね。それじゃここに座って・・・。」
「・・・・・・。」
キサラギの言葉にティタの動きがピタリと止まる。そして言われるがままその場に座る。心を失くしたティタに恐怖は存在しない。震えることもなく次に起こることをジッと待つ。キサラギは、自分の胸に付いていたアクセサリーを外すとティタの胸元に付けなおし、詠唱を始める。詠唱を始めたキサラギはティタの額へ自分の額を当て、ティタの意識を自分の支配下へ置く。
「Mnemosyne Deus reponoAd hoc perierunt agnus praestare a radius regere tuum fontem.Ita in luce ulterius error utinam ingredi uiam patere debet.Fidem datam ex fonte largiris.(記憶の神ムニモスィニよ、汝の司る記憶の泉の一筋をこの迷える子羊に与えたまえ。さすれば、迷いの道に光が差しその者の歩まんとすべき道が拓かれることでしょう。我に泉の加護を与えたまえ。)」
詠唱が終わると同時に、お互いの触れた額から眩い光が溢れ出し二人を覆う。キサラギの視覚がティタの記憶にリンクする。瞳に映し出されたのは、氷に覆われた洞窟。それも人の手によって作り出された人口の坑道だった。
(ここは・・・氷結の坑道?)
そして舞台は、ティタの閉ざされた記憶へ。
坑道は、地面から壁、天井まで分厚い氷で覆われていた。坑道の奥から吹く抜ける風がエミルたちの歩みを鈍らせる。
「エミル~、めっちゃ寒いよぉ。」
ルルイエがエミルの腕にしがみつく。
「あぁもう、ルルイエそんなにくっついたら歩きにくいよ。だから、もっと着込んでおいでって言ったのに。ぅわぁ、ちょっと!」
エミルとルルイエの後ろから、タイタスが毒づく。
「ったく、これだからルルイエは・・・オマエはもう少し学習という言葉をいい加減覚えろ。その辺のプルルでももう少し賢いぞ。」
「も、もう、兄さんったら・・・。ルルイエさんもそんなにエミルくんにくっついたらゴニョゴニョ・・・。」
「な、なによー。このインテリ眼鏡!うっさいわよ!私が着込んだら、もしものときに奇襲打てないでしょうが!アンタこそティタにくっついてスカートめくったりしないのよ!このシスコン!」
ルルイエがベーっと舌を出す。二人のやり取りを見ていたベリアルはガハハと笑って
「いいじゃねえか。別に減るもんでもないしよ。それに意外とエミルのヤツ、ルルイエの胸が当たって実は嬉しかったりしてな。コイツむっつりだから♪」
「ちょっ・・・ベリアル!」
「なぁんだ、エミルそれなら早く言ってくれればいいのに。これがいいの?ウリウリ♪なんなら上着の中に手、入れてみる?」
「もーー!ルルイエさんばっかりズル・・だめーー!」ドンッ
「やんっ。もう、ティタったら、冗談よ、じ・ょ・う・だ・ん」
「もう・・・。エミルくんも鼻の下伸ばし過ぎです。」
あはははと笑いが絶えないパーティが向かっているのは、坑道の奥で最近異常に増えてきた魔物の討伐依頼だった。エミル、タイタス、ベリアル、ルルイエ、この4人が今までも一緒に冒険してきた仲間。そこへ最近、魔法学校を卒業したタイタスの妹ティタが仲間に加わるようになった。理由は簡単、冒険の経験もこれから支援という仕事をしていくなら当然必要だし、タイタニア族が本来成すべき「試練」を見つけるためにも色々な事を経験しなければならない。見知らぬ冒険者と一緒に経験を積むよりも知っている仲間との方が効率がいい。そして、今日のこの依頼は討伐依頼でもわりとランクも低めで、報酬は少ないが、ティタの経験を積ませるにはもってこいの依頼だったのだ。
「今日の依頼は、1階と2階の掃除だ。まぁ、アルカナがウザイがあとは狼やら獣ばっかだからな。ティタもそんな緊張しなくてもイイ。」
ベリアルがティタの肩に手を乗せて言う。ティタはベリアルの方を向いて小さく頷く。
「みんな、2階へ降りるよ。準備はいい?ティタ?君はタイタスの傍からなるべく離れないようにね。ルルイエとベリアルも準備いい?」
エミルが全員の顔を見つめて確認する。他のメンバーもお互いの顔を見合って頷く。エミルは下へ続く階段に足をかけて、階段を下り始めようとしたときだった。
「じゃあ、いく・・・」
「エミルっ!あぶないっ!」
「え?」
刹那。
エミルの視界がガクンと下がる。そして、目の前に見慣れたブーツ、見慣れたズボン。
「あ・・・れ・・・?」
次の瞬間にやってきたのは激痛。焼けるような痛み。意識が飛びそうになる。そして意識が切れる直前目の前の見慣れたものがついさっきまで自分の物だったと気付く。
「イ・・・イ・・・イヤアアアアァァァァァァ!!!」
ティタの悲鳴に全員が我に返る。目の前にいたのはデスだった。死神が実体化した悪魔系の魔物。大きな鎌を持ちその動きはとてつもなく速い。
「タイタス!エミルを!蘇生だ!ティタ!オマエもそっちだ!」
ベリアルの言葉にタイタスはエミルの上半身とティタの腕を掴んで隅へ移動する。ルルイエはエミルの下半身を抱えるとタイタスの元へ走る。エミルだった2つを地面に並べ、ルルイエはベリアルの加勢へタイタスは蘇生魔法を開始する。
「クソッ!『熾天使(セラフ)ラファエルのみなにおいて、体を覆いし2対の羽が羽ばたきしとき、降り注ぐ厄災の全てを浄化し全てを癒す風となれ!熾翼の風(アレス)!』還ってこい!エミル!」
ティタはエミルの袖口をギュッと掴み、わんわん泣くばかり。
「ティタ!おまえも詠唱してくれ!アレスで体をつながないとリザレクションが使えないんだ!わかるだろ!時間がないんだ!ティタ!」
タイタスの言葉も周りの音もティタの耳には何も入っていなかった。ただ泣きじゃくり、詠唱どころではなかった。そんなティタの姿を見ていたルルイエがティタの元へ駆け寄り、
「いい加減にしなよっ!」パーーーン
おもいっきりティタの頬を打つ。ティタは何が起こったのか理解できずに、泣き止んで呆然とする。ルルイエはティタの胸ぐらを左手で掴むと、もう一度ティタの頬を打つ。そして両手でティタの胸ぐらを掴みなおし、
「ティタ!いい加減にしなっ!アンタが泣いてる間にもエミルの命は消えていくんだよっ!アンタ、エミルのこと好きなんでしょ!守ってあげるんでしょ!」
ルルイエの物凄い剣幕にティタは現状の深刻さを実感する。そして・・・
愛する人を守りたい
この人を守るために私がアナタの盾になる
ティタの脳裏によぎった言葉・・・。私がエミルくんに出会って、話して、触れ合ってそうして生まれた偽りの無い言葉そして想い。胸の奥から熱いものがこみ上げる。
「ティタ!忘れたの!アクロニアの冒険者の・・・」
「忘れてないっ!私が!私がエミルの盾になるっ!」
ティタはルルイエの手を振りほどくと、エミルの方へ振り向き詠唱を始めた。
「『熾天使(セラフ)ラファエルのみなにおいて、体を覆いし2対の羽が羽ばたきしとき、降り注ぐ厄災の全てを浄化し全てを癒す風となれ!熾翼の風(アレス)!』」
ドルイド二人による治癒魔法は強力なものだった。切断された体はみるみる結合していき、傷がドンドン塞がっていく。体に刻まれた傷跡はもう跡形もなく治癒していた。タイタスは汗を拭いながら、ティタの肩にそっと手を置き
「さぁ、仕上げだティタ。エミルに生きる力を与えるんだ。」
タイタスの言葉にティタは小さく頷くと両手をエミルの心臓辺りへ置き、静かに詠唱を始めた。
「『熾天使(セラフ)ラファエルのみなにおいて、体を覆いし2対の羽を広げ給え。そして神への愛と情熱で燃え盛る体その炎で、今消えかからん命の灯火に生の力を与え給え。慈愛の熾(リザレクション)』」
ティタが詠唱を始めだすと両手から赤い炎のようなオーラが溢れ出し、エミルの体に吸い込まれていく。そして詠唱が終わると同時にエミルの止まっていた呼吸が・・・
「呼吸が戻らないっ!!どうしてっ!」
エミルはピクリとも動く気配が無い。
・・・To be continue
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