友人の事を思う。
友人の事を想う。
思いが重い
想いが重い
突きつけられる真実にトーコのココロは・・・
24話 はじまります。
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明かりの消えた部屋。
地下の街では窓から月明かりは差し込まない。
街灯の人工的な灯りがカーテンを揺らす。
満月とは違う人工的で無機質なソレ。まるでさっきまでの私のココロのよう。
バスルームから出た私たちは、着替えを済ませて部屋に入る。ベッドの上に向かい合って座ると、
「さてっと、それじゃ始めましょっかね。」
座っていたキサラギがフワッと飛び上がると、私の顔の前で停止する。
「いい?さっきも言ったけど、トーコにとって見なければよかったと後悔する内容も出てくるかもしれないわ。でもそれは目を背けていた現実で真実よ。ちゃんと受け止めなさいね。」
再度忠告が私の胸に突き刺さる。私は黙ってコクリと頷くと、
「それじゃ始めるわね。目を閉じて・・・リラックスして・・・」
キサラギは瞳を閉じて、自分の額を私の額にくっ付ける。肌が触れると、触れた部分が瞬間に熱く熱を帯びる。
(熱い・・・)
次にやってきたのは眩暈。目を閉じているのに眩暈というのはおかしいかもしれない。脳が揺さぶられる感覚といった方が的確かもしれない。そして、閉じた瞳に映し出されたパノラマ。青い海に白い砂浜。反対には緑豊かな草原。どこか見覚えのある景色。
(ここ・・・ドコだろう。見たことあるんだけど・・・)
映像は私の意識とは関係なくドンドン進んでいく。草原の中に伸びる一本道を進むと吊り橋、岩でできた洞窟っぽいトンネル。そこでピンときた
(ここ・・・タイニーアイランド・・・)
私はドンドン再生されていく映像を隅々までこぼさないように見る。岩のトンネルを抜け左へ進むと泉が見えてきた。緑に囲まれてひっそりと佇む。なおも進む映像に、やがて一人の人影を捕らえた。その人型はタイタニアの女の子、絹糸のように艶のある金色の長い髪、水色のワンピースを纏った・・・
(あれ?・・・ティ・・・タ・・・?どうして?)
しかし、ティタの存在以上にその映像に違和感を覚えた。足元に繋がれた太い鎖。足首に鉄製の足かせ。その鎖は泉の中へ伸びていた。キサラギ視点の映像はそのままティタへ近づく。そして、何か会話をしているようだが慣れていないためか、会話が上手く聞き取れない。私は意識を集中させる。
『・・・あの子はとても臆病で・・・。』
『ふうん・・・臆病なムーンペガサスねぇ・・・・・・。ティタ、また来るわね。』
最後の一言だけ何とか聞き取れた。そして映像はティタから離れ、傍にいたタイニーに近づく。キサラギとタイニーの会話が始まり、私はその会話が聞きたくて意識を集中させる。
『はい。ご存知のとおり、ここはフシギの島タイニーアイランドと呼ばれていますが、常世でも現世でもない世界です。ここにいる住人は全て監視役です。ここには現世に想いが残っている人の心を浄化するためにある世界。迷い人として幽閉されています。1年のうち一回だけ星の祭りのときは別ですが・・・。』
『そんなことは知ってるわ。ティタはこの世にいない存在だからここにいることも理解できる。でも、どうして天界へ送らないの?死人を留めて迷い人にするのはアナタ達にもやっちゃいけないことだってわかってるわよね?』
『はい。しかし、彼女は天界に送れないんです。送れないというより、逝けないんです。』
(何の話?ティタはタイニーアイランドに幽閉?天界にいけない?どういうこと?)
『どうして?』
『はい、彼女にはとても強い想いがあるんです。あれはもう想い出にならない・・・念と言ってもいいでしょう。けれど、もう現世を離れた者が再び現世に戻れることは無い。悲しいけどボクたち監視役はある決断をしました。ティタのココロを抜き取って、彼女を天界へ送ることです。』
途中箱が現れ中からハート型の赤い石が出てきた。
(あれが・・・ココロのかけら・・・)
なおも会話は続く。ハート型の赤い石はちょうど中心部が欠けていた。私は意識を集中させて会話の内容を聞き取ろうと試みる。
『・・・・・・しかし・・・ティタの・・・あの子の心だけは・・・。』
『いいわ。アタシはそんな事つべこべ言わないし。それでかけらは?どれくらい集まっているの?』
『はい、殆どはこちらに。タイタスというティタの兄弟とエミルという人間によって集められました。残るはあと1ピース・・・。』
(あ、そういえばエミルくんたちが集めてるココロの欠片って、白の聖堂で預かって貰ってるって・・・ここにあったんだ。)
二人の会話が終わると、映像はまたもティタのいる泉へ向かう。そして、ティタとキサラギの会話を始めるが上手く聞き取れない。そうこうしていると、キサラギは身に着けているアクセサリーをティタに付け詠唱を始めた。
『Mnemosyne Deus reponoAd hoc perierunt agnus praestare a radius regere tuum fontem.Ita in luce ulterius error utinam ingredi uiam patere debet.Fidem datam ex fonte largiris.』
詠唱が終わると、再度私の頭が揺さぶられる。それは吐き気をもよおす程の強烈なものだった。そして映像が今までとは全く別の場所を映し出す。そこは氷に覆われた洞窟。それも人の手によって作り出された人口の坑道だった。
(ここ・・・どこだろう。)
見たことない風景だった。といっても、冒険をしたことない私がこんなところを知っているわけがないのだが。次に映し出されたのはエミルくん、ルルイエ、ベリアルくん・・・私は流れ始めた映像にまたも違和感を覚える。
(これ、キサラギ視点じゃない?ティタもいないし・・・あ、これティタの記憶?)
キサラギの記憶の中のティタの記憶。そのためか、さっき以上に会話が聞きづらい。どうもクエストのためにココに来ているようだった。楽しそうな会話が続く。所々途切れてしまうが、会話の聞き取りもだいぶ慣れてきた。映像は洞窟の奥へ進んでいき、下へと続く階段の前までやってきた。
そこで私の呼吸が一瞬止まる。
目の前に広がるのは惨状、地面に広がる鮮血、ソレは泉のように流れ出し辺りを染め上げていく。しかも、その源が自分の友達で。タイタスさんとルルイエが、さっきまでエミルだったソレを抱え坑道の隅へ移動する。泣きじゃくるティタ、額から汗を流し必死に詠唱するタイタスさん、魔物と戦うベリアルくん・・・。私はその光景を見たくないと心底願った。目を背けたい、瞳を閉じて闇に閉ざしたい、そう思っても叶わない現実。映像はダイレクトに私の脳に流れ込んでくる。これがキサラギが言っていた見たくないものだったのだとその時感じた。
(エミルくん・・・)
そして、この状況に変化が起きる。ルルイエが泣きじゃくるティタの頬を打ったのだ。ティタの胸倉を掴み何かを叫ぶ。次の瞬間、ティタの表情が変わりタイタスと共に詠唱を始めた。エミルくんの体はみるみる回復していく。
(二人ともすごい・・)
完全にエミルくんのカラダは元の状態に戻った。しかし、エミルくんの瞳は開かない。タイタスさんとティタの元へベリアルくんとルルイエが駆け寄る。そして3人が言い争っている。
(何を言い合っているんだろう。)
そこへティタが口を開く。
『できるよ・・・。あ、でもこれはソーサラーでもエンチャンターでもムリ・・・。私たちドルイドじゃないとできないの。だから今ここででき・・』
『だめだっ!!!ティタ何言ってるんだ!アレは禁忌の魔術だ!スキルじゃないんだぞ!絶対だめだ!』
『じゃあどうするの?!このままエミルくん助からないの?助けないの?イヤ!そんなの絶対イヤッ!』
(なにができるの・・・?ティタのあんな表情見たことない・・・。禁忌・・・)
私は意識を集中させて二人の会話を聞く。そして
(あっ!・・・もしかして・・・)
私はティタの言っていることが理解できた。禁忌の術・・・ドルイド職にしか使えない蘇生魔法。正確には魔法じゃない蘇生契約。学校の授業で聞いた覚えがある。その昔、まだお互いの世界が戦っていた頃・・・。戦闘で削られていく戦力をカバーするために自らの命を死んだ者へ移す魔術。しかし、自らの命を絶つということと死んだ者を蘇らせるという非人道的なその行為は戦後封印され禁忌の魔術とされてきた。だから、当然私たちのような新しい世代は誰もその方法を知らない。こうやって学校の歴史の授業で聞く程度だった・・・はずなのに。
(どうして・・・どうしてティタは方法を知っているの?!)
二人の会話は鬼気迫ったものだったが、タイタスの制止でティタは黙って下を向いてしまった。
(そうだよね、そんなこと出来るわけないよね・・・。)
そして、会話は進みティタを残して帰路を確保するようだった。その展開に私はホッと胸を撫で下ろす。
(よかったぁ・・・これでエミルくんも助か・・・あれ?それじゃティタっていつ・・・)
私の中に嫌な胸騒ぎが生まれる。映像は、タイタスさんがティタの頭を優しく撫でていた。いつもクールな感じのタイタスさんがとても柔らかい笑顔だった。しかし、私の不安は的中してしまう。
『今までありがとうお兄ちゃん・・・バイバイ。』
突然聞こえてきた一言。そして、エミルくんを抱きしめる。
(ダメ・・・ダメッ!ティタ!そんなコト考えちゃダメ!)
私は必死に叫ぶがティタに届くはずもなく、ティタの話が聞こえてくる。
そして、
『でも・・・こんな風にできるの今日が最後になっちゃうんだ。でもいいの私それでも・・・。だって私、エミルくんの盾になるって決めてたんだし、それにエミルくんのこと好きなんだもん。』
(ティタがエミルくんのこと好きだったんだ・・・。)
ティタの瞳から涙が溢れ出す。しかし、何かを決意した彼女の瞳に悲しい色は見えない。そして、呪文が紡ぎだされる。
(ダメッ!ティタ!ダメぇぇぇぇぇぇぇ!)
私は必死で訴える。しかし、物語は無情なまま終幕へと歩き出す。
「エミル・・・好き・・・愛してる・・・だから・・・私の分まで生きて・・・おね・・が・・い・・・わたし・・・あなたの・・・瞳に・・・もう一度・・・映りたかった・・・な。バイバイ・・・。」
そしてゆっくりとティタは顔を寄せてエミルにそっとキスをする。すると、光の玉がティタのカラダから現れる。と、同時にティタのエンジェルリングが消えた。
(ダメ・・・。ティタ・・・あ・・・エンジェルリングが・・・)
そして、光の玉がエミルの中へ取り込まれた瞬間、ティタの背中に生えた無垢な翼はくすみ、そして背中から落ちた。
(イヤ・・・ダメェ!ティタ!ティタァァァァァァァ!)
そして映像が途切れ、視界が暗転しその悲劇は幕を下ろした。ゆっくりと瞳を開ける。頬が冷たい。目の前のキサラギを見るとキサラギは切ないような微妙な表情をしていた。そして、私はキサラギが言っていた【受け止めるべき真実】がこれだったと理解した。ソレと同時にもう一つ・・・
「んなぁにやってんのよー!ティタ!信じられないっ!腹立つぅぅぅぅ!」
私の全く想像もできなかったであろう一言に、キサラギはビクッと反応し尻尾がピンと真っ直ぐ伸びていた。
「ちょ!トーコなんでそーなるの?!」
・・・To be continue
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