えっと、この間書き始めましたっていうお話を載せてみます。まずは前編ということで。
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PrincessBLADE 【前編】
豊饒の大地に囲まれた小さな国『ファーイースト王国』。
その国は、たくさんの農作物に恵まれ毎年たくさんの実りが国民に笑顔をもたらす。
収穫の時期には、城から見渡すいちめんの大地が黄金に輝き、
訪れた旅人はその美しさに皆、溜息を漏らしてしまうほどだった。
ページをめくらず、そのままパタンと本を閉じると少女はパジャマの小さな胸に抱きしめてトテトテとベッドに向かう。その本は一冊の絵本。物心ついたときから読まない日は無いくらいお気に入り。もう読みすぎてかなりボロボロになっていた。少女はベッドにぴょんと飛び込むと、枕もとのスイッチをパチンと押す。蒼く照らされ、ぼんやりと浮かんでいた絵本の表紙は一気に白くその鮮やかさを露わにする。
その物語は、遠くよその国の遠く古いおとぎ話。
『 』を探す旅に出た小さな姫の冒険のお話。
少女は、小さく息を吸い込むと・・・
今夜もお気に入りのボロい絵本のページを開く。
一人の侍女が忙しく長い廊下を走る。その両手には、純白のフリルが眩しいドレスと同じ色の小さなパンプス。侍女は、ソレらを大事に抱え何かを叫びながら泣きそうな顔で走る。
「姫さまぁー!ユニコ姫ぇー!・・・っもう、どこにいらっしゃるのですかぁ!そろそろお着替えになられませんとお妃様の誕生パーティに間に合いませんよー!」
長い廊下の突き当たり、ティーワゴンを静かに押す別の侍女が歩みを止め走ってくる侍女をとめる。
「待ちなさいレヴェッカ、なんですか騒がしい。姫様のレディスメイドの貴女がそんなはしたないことでどうするのですか。貴女は下の侍女たちの手本と・・・。」
「申し訳ございません、トーコメイド長。しかし、その姫様がどこにもいらっしゃらなくて・・・。」
トーコと呼ばれたメイド長は、ヤレヤレと言った感じで小さく溜息をつくと、レヴェッカの少し広がった襟を優しく整え
「まったく、ユニコ様ったらいつまでたってもお転婆で・・・。幼少の頃からずっと一緒の私ではいつまでもお変わりになられないからと、年下の貴女をレディスメイドに置いて少しは落ち着いていただこうと奥様と決めたのに・・・。」
大きく溜息を吐く。トーコは、ユニコ姫と同じ歳で立場上、同年の遊び相手がいない環境に憂いを持った国王と后は、当時のメイド長をしていたショーコの娘・トーコをユニコの遊び相手、学友として寝食を共にさせた。案の定、人見知りで引っ込み思案だったユニコの顔にどんどん笑顔が溢れだし、歳相応の明るい少女に育っていく・・・はずが、そのパワーは止まることを知らず、明るいはお転婆、そしてじゃじゃ馬へと変わっていった。トーコはそんなユニコのストッパーとして奮闘していたが、逆にユニコにはそれが甘えられる相手としてその位置が確立してしまった。そこで、『ユニコをレディへ成長させる大作戦』と銘打って、当時ウェイティングメイドで4歳年下だったレヴェッカをレディスメイドに昇格させ、レヴェッカを妹的な位置でユニコの母性を覚醒、レディとしての成長を狙ったのだが・・・・・・この結果である。
「ユニコ様ならきっと裏庭の・・・。」
「はぁ・・・またあそこですか。私、高いところ苦手なのにぃ。もう、トーコ姉ぇ何とか言ってよぉ。」
廊下の埃が吹き飛んでしまうほどの溜息を吐いて、トーコの袖口を抱えたドレスの下からキュっと摘む。
「こぉら、レヴィ?いくら二人きりだからって、仕事中はちゃんとメイド長と呼びなさい。幼馴染でもここでは・・・」
「は~い。上司で私は部下・・・ですよね。申し訳ありません、トーコメイド長。」
レヴェッカは、深々と頭を下げる。トーコはレヴィの肩にそっと手を置き、
「よろしい。さ、急ぎなさい、時間あまりないのでしょう?それと、ドレスは私が部屋へ届けておくから。着る前から皺になってしまうわ。」
優しい笑顔で声を掛ける。
「はいっ!」
元気いっぱいに返事をすると、ドレスと靴をトーコに預け小走りで裏庭へ向かった。
お城の裏庭は、兵士たちの鍛練場として利用されており噴水などの装飾品は建造されていない。ただ、裏庭の中央に一本のバオバブの木が立っているだけだ。勝手口の小さな扉を開け、そこから頭をヒョコンと出し辺りを見渡す。
「やっぱり・・・。」
中央の木に視線を投げると、木の枝に座って遠くを見つめる少女がいた。凛とした横顔、少し釣り目で勝気な感じの顔立ち。しかしその中に見える幼さがピンクの髪によって引き出され、レディ一歩手前の言わば蝶になったばかりの儚さが更に彼女の美しさを創りだしていた。レヴェッカは扉から体を出すと、小走りで木の根元へ駆け寄る。
「姫さまっ!ユニコ姫さまっ!またこんなところにいらしたのですか!」
「ん?なぁんだレヴィか。びっくりしたじゃない。」
全くびっくりしたような表情は見せず、ユニコは駆け寄るレヴェッカを見下ろして微笑む。その微笑みは、少女の成長過程で魅せるあどけなさが、誰も見た事のないまさに天使のソレであった。
「もうっ!びっくりした・・・じゃないですぅ!全然びっくりしてないじゃないですかぁ!」
「それより、レヴィもこっち来ない?今日も気持ちいいわよ?」
「行きませんっ!っていうより、私が高い所苦手って知ってて仰ってますよね!?可愛いメイドの私をからかって楽しんでいらっしゃいますよね!」
ぷぅっと頬を膨らませ、赤くなるレヴェッカにクスクスと笑うと、
「それじゃ、私の剣術稽古に少し付き合ってくれる?」
「もー!ユニコ様っ!私が剣術できないこと知っていらっしゃるでしょう!」
「だから、レヴィの得意な銃捌きを見せてくれればいいの♪今も持ってるんでしょう?」
ユニコは悪戯っぽくレヴェッカを見下ろす。
「持ってますけど!持ってますけど、今日はダメですっ!ユニコ様、今日が何の日か知っていらっしゃいますよね?!今日は、お妃さまのお誕生パーティの日ですよ!もう少しすればお客様がいらっしゃいます!早くお着替えになられませんと!」
レヴェッカの言葉に、あぁ!っという表情で手をポンと鳴らし
「知っているわ。あら、もうそんな時間だったのね。よいしょ・・・」
「あっ!ユニコ様っ!」
ユニコは立ち上がると、ぴょんと踏み台から降りるように軽々と飛び降りる。空色のワンピースの裾が盛大に捲れ上がり、その下に隠れていたすらりと伸びた白い両脚が大きく露出する。
「ユニコ様、なんてはしたないっ!もっと慎みを持った・・・」
「もう、レヴィはいちいち煩いなぁ。いいじゃない、別に誰もいないんだし。それより、街の様子はどう?」
「はい、街はもうお祭の準備で活気立っているようです。先ほど街へ買出しに出たキッチンメイド達が言ってましたよ。」
ユニコはポニーに結ったリボンを右手で解き、左右に首を振って絹のようなピンクの髪を解き放つ。そして、街の方角へ視線を移すがその表情は少し固い。そんなユニコの仕草をレヴェッカは
「どうなされたのですか?何か浮かないお顔・・・。」
「ううん、街の方の空がほら・・・。朝はあんなに天気良かったのに。せっかくみんながお祝いしてくれるのに心配だわ。」
「うふふ、お優しいんですね。民を想うそのお心、やはりユニコ様はじゃじゃ馬でもイースト王国の姫君なのですね♪」
「ちょっとぉ?レヴィどういうこと?誰がじゃじゃ馬ですってぇ?」
「さ、姫様、早くお部屋に戻ってお着替えを済ませてしまいましょう。ほらっほらっ。」
「んもう、レヴィったら。でも、あの空・・・本当に何もなければいいのだけれど。」
一抹の不安を残しながらも、ユニコは部屋に戻りパーティの支度をする。
日も暮れ始め、会場となるお城の前庭には各国要人、そしてファーイーストの住民がお祭騒ぎに興じていた。それぞれの手にはファーイーストで作られたビールやワイン、もう片手にはマリーゴールドが一輪握られている。マリーゴールド、その花は聖母の黄金の花とも呼ばれ、花言葉は『信頼』『生命の輝き』『変わらぬ愛』など、どれも君主へ向けての忠誠の証であった。会場の熱気が少し上がったところで、城壁の上から聖歌隊のファンファーレが鳴り響く。それまで騒がしかった会場は水を打ったように静まりかえる。城中央のテラスへ視線が集まる。そこに現れたのは、深紅のドレスを身に纏った一人の女性。本日の主役であるファーイースト国王后である。
「今宵、私のためにこんなにもステキなひとときを感謝します。このイーストの地にそして祝ってれた民の皆に神のご加護がありますように。」
后であり、ユニコの母であるカザリは、シャンパングラスを顔の高さまで上げこの場に集まった人々に感謝の言葉をかけた。
「カザリ様に永遠の美を!イーストに最上の恵みを!カザリ様万歳~!」
会場に集まった民衆はそれぞれの手に持ったマリーゴールドを高々と掲げ、皆その喜びを分かち合う。はちきれんばかりの拍手と喝采が城内に響く。そして、カザリは一際高く手を掲げ、
「今日のこの良き日に、民の皆に報告したい。この地、ファーイーストがここまで素晴らしい実りがあり、豊かな大地を維持できるのはファーイーストで汗水を流し働く皆の努力があってこそ。ありがとう。」
最初の一言に民衆の喝采が地響きのごとく唸る。
「そして、そのお手伝いをしているのが私が今身につけているイヤリングとネックレス。家宝であるアクロニアの鼓動である。これは皆も知っている通り、代々王家の姫が身につけることによって神のご加護が受けられる・・・大地に恵みが訪れるのです。今日、この日にこのアクロニアの鼓動を、我が娘であるユニコに継承することを宣言します。そして、今以上の恵みがこのファーイーストに訪れるように!」
カザリは、そういうとテラスの端に立っていたユニコの方を向く。ユニコは今日そんなことがあるとは全く聞かされていなかったため、状況を把握できないまま呆然と立っていた。そんなユニコの後ろから小さな声でトーコが囁く。
「さ、ユニコさま。早く奥様の元へ。来賓の皆様もイーストの民もユニコ様をお待ちですよ。」
そう言ってポンと肩を叩く。ユニコは小さく深呼吸をすると、母の元へ・・・いやファーイースト国王后カザリの元へ一歩踏み出したそのときだった。民衆の中にいた一人の男が大声で叫ぶ。
「あ、ありゃなんだっ!おい!空からなんか来てるぞ!」ガガーンッ!
男が叫び終わるのと同時に響き渡る雷鳴。雷鳴と男の言葉に周りにいた全員が空を見上げる。そこに見えたのは死神の軍勢だった。先ほどまで星がのぞいていた夜空は一瞬にして厚い雲に覆われ雲の隙間から何十・・・いや何百もの死神がまるで雪が降り出すように現れる。
「どうしたの!これは一体・・・。」
「ユニコ様、危険です。ひとまずお城の中へ!レヴィ!」
トーコはユニコの腕を掴み引き寄せる。レヴェッカはすぐさまユニコの前に立ち、メイド服のスカートを捲り上げ、中から2丁の銀色に輝く拳銃を取り出し迫り来る恐怖に向かって構える。
「お母様っ!お父様っ!」
「大丈夫です!国王とお后様は衛兵達がお守りしています。ユニコ様早くこちらへ!」
「はっ!」
トーコがユニコの腕を引いたその時だった。
「うがぁ!」
「な、な、なに奴じゃ!ぶはっ・・・・うが・・・。」
「あ、あなたぁ!」
国王と后を取り囲んでいた十名近い衛兵達は一瞬で全員地に沈む。そして、その中に赤いローブがあった。
「お父様っ!お父様ぁ!」
倒れこむ中で一人、カザリだけが呆然とその場に立ち尽くす。一体なにが起こったのか、気がつけば自分以外の人が倒れ、最愛の夫である国王までも・・・。事態を把握しきれず、把握することも許されず、恐怖は更に続く。
「ふははははは!人間どもよ、よく聞け!我が名はテツコ。冥界の番人にして魔王アンラ・マユ様守護四天王の一人。」
立ち尽くすカザリの頭上から、高らかに響く笑い声。そこに現れたのは一人の少女。しかし、その姿は一目にして人でないと理解できた。頭に生えた羊のような角、背中には3対の黒い翼、そしてお尻から伸びる尻尾。少女の顔立ちは幼く、大きな赤い瞳。小さな口から発せられる声は舌っ足らずでまだまだ幼さ残る高めの声。しかし、開いた口元に光る牙と右手に握られた大振りの鎌がそれらを全て打ち消す程の迫力があった。テツコと名乗った悪魔は、右手に持った鎌を肩に担ぐと、
「今宵、冥界との門が開かれた。我らはこの地を我領土とし、我らが王アンラ・マユ様の下に降るのだ。しかし、ここには禍々しい力が溢れておる。ほほぉ・・・これか。」
そう言うと人の塊に降り立ち、カザリの顔をじっと見つめる。ユニコはその仕草を直感的にただならぬ危険を感じた。次の瞬間、トーコに掴まれた手を振りほどき大声で叫ぶ。
「お母様ぁっ!だめぇ、逃げてぇぇ!」
刹那。
その声がカザリの耳に届く前に予想された悲劇は現実になる。
「い、い、い、い、いやぁぁぁぁ!お、お、おかあさまあぁああ!」
「ふん・・・」
ユニコの目の前に立っている母は、『母だった』モノに変わる。その身体と呼ばれているモノには、個を象徴するための大事な部分が見あたらなかったが、ユニコはソレを見つけるのにさほど時間を要することはなかった。いや、時間など必要としなかった。しかし、理解することに時間がかかった。テツコの左手に掴まれていたのは黒髪の短髪、カザリの頭部だった。そして、髪をつかむ指先にはそれまでカザリの首に掛けられていたネックレスが摘まれていた。ユニコがそれを認識きた直後、首を刈られた胴体は激しく血を吹きながらその場に沈んだ。
「あ、あ、あ・・・ああぁ・・・お、お、おかあ・・・」
ユニコは声が出ない。言葉が出ない。その場に崩れ落ちる。そのとき、背後で聞きなれた声が聞きなれない言葉を発する。
「お・・・おのれぇ・・・この・・・クソ悪魔ァ・・・。」
「・・・え?・・・・・・トーコ?」
「だめぇ!トーコ姉ぇ!だめぇぇ!」
ユニコの背後から今まで感じたことのない凄まじい程の殺気が身体を覆う。その気に当てられたユニコは声を出すことすらできない。
「ほぅ。こんなところにもおったのか・・・。人外。アークタイタニアなんぞ、何十年ぶりかのう。前に会うたのは、確か北の小娘だったか。オマエも楽しませてくれよ?」
テツコと名乗る悪魔は鎌を口元に寄せると、紅い小さな舌でその刃をすうっとなぞる。
「は・・・はああぁぁぁぁぁぁぁぁ!出よっ浄絃ソウルセラフィム!」
トーコは右手を天に向け伸ばすと、指先に小さな光の玉が現れる。光の玉は掌に吸い込まれるように引き寄せられると、そのまま膨らみ次の瞬間には純白の竪琴へと形を変えていた。
「なるほどなるほど。竜眼に浄絃か・・・。ふははは!やはり人外じゃのう!その力、我に試させよっ!」
テツコの表情は歓喜に溢れていた。トーコは、その表情を見るや否や詠唱を始めた。
「『世の理に背きし異端の神々よ。汝らのもつ七つの大罪を光の矢へと形を変え、その神殺しを貫き示せっ!ディバイン・ブレイ・・・。』」
トーコの詠唱を聞いていたテツコは、小さく欠伸をし
「なんじゃ、我は楽しませよと申したのにな。退屈すぎる、興ざめじゃ。」
そう言って、持っていた大鎌を一振り振り下ろす。次の瞬間、その場に座り込んでいたユニコの膝の上に、見慣れたモノが落ちてきた。純白の竪琴とそれを握り締めたトーコの一部。ユニコの膝の上で、生きている証を撒き散らしながら跳ねる。その証が、ユニコの顔に胸に腕に降り注ぐ。
「ひっ・・・あ・・・い、いや・・・。」
ユニコの言葉にならない声を掻き消すような叫び声。
「うああぁぁ・・・・が、がぁぁぁぁ!おのれ、おのれぇぇぇ!」
「トーコ姉ぇ・・・だめ・・・やめ・・・あ、悪魔めぇ!」
トーコは両手を失いながらも、その場から駆け出しテツコの元へ飛び出す。その姿を目の当たりにしたレヴェッカは握り締めた2丁の拳銃をクロスに構え詠唱を始める。
「『It becomes a holy bullet, the soul of evil is shot,The god kisses me Please. ・・・Delay cancel!(我が身が聖なる弾丸になり、悪しき魂を撃ち滅ぼさん!神よ・・・私に接吻を・・・堕天使の囁き)』」
蒼白いオーラが全身を包み、レヴェッカは更に詠唱を重ねる。
「『The act of the dance party goes up with the fanfare of the firing hammer. It is an ominous soul that steps on a bullet of silver and a magnificent step.Dance! Dance! Dance! Have the life and lower a curtain. BulletDance!(撃鉄のファンファーレとともに、舞踏会の幕が上がる。銀の弾丸と華麗なステップを踏むのは忌まわしき魂。踊れ!踊れ!踊れ!その命をもって幕を下ろせ!硝煙の輪舞曲!)』」
詠唱を終えたと同時に飛び出すレヴェッカ。しかし、その動きは一瞬にして封じられる。目の前の光景に・・・。
「やはり退屈じゃ。これ以上ガッカリさせるな。カーディナルは光の歌人。おぬしのような怒りに染まった心では紡ぐ言霊なんぞ赤子の泣き声とかわらんわ。もうよい、眠れ。」
担いだ大鎌を自分の目の前に立てるとトンと地面を軽くつく。すると、トーコの周りを7体のデスが囲む。そして・・・
「がはっ・・・」
それぞれのデスの鎌がトーコの身体を貫いていた。しかし、それだけでは終わらなかった。
「そこのちっこいの。オマエでは役不足じゃ。そんな震えた身体で我を撃つつもりなのか?笑わせる・・・。しかし、その心意気はたいしたものじゃ。それに免じて、我が直に手にかけてやろう。我の大鎌、存分に味わえ。『闇の盟約に基づきし、冥界の主ディアボロスよ 死の旋律に舞え そして血の洗礼で我が身を満たせ 死鎌演舞。』」
テツコは詠唱と同時に大鎌を横に大きく払う。すると、両端に刃のついた大鎌が現れ、レヴェッカの前で4回転した。最初の回転で首、次に胸、そして腰、最後に膝を容赦なく刻む。レヴェッカは声を出す間もなく、その場に肉塊となって崩れ落ちた。
「やはり人間などそんなものか。つまらん・・・。まぁしかし、冥界の門も開かれ、アクロニアの鼓動も手に入れたからのう。今宵のところは良しとすべきか。しかし邪魔じゃ・・・なっ。」ブチィ
テツコは、イヤリングをカザリの耳から引きちぎる。そして、小石を投げるようにカザリの頭部を投げ捨てた。それはゴロゴロと転がり、ユニコの目の前で止まる。ユニコは、もう何が起こって何がどうなっているのか全く理解できなかった。目の前の惨状に声も出せず、震えることすらできない。ただユニコの眼球は、目の前に転がった自分の母親の成れの果てから1ミリたりとも動かせずにいるのだった。
「おい、小娘。」
ユニコは自分に掛けられた言葉に反応することさえできない。
「まぁよい。小娘、命が惜しければすぐにここから立ち去れ。この地にもう二度と陽が昇ることはない。しかし、何処へ逃げたとしていずれはこの世界は闇に包まれ、我らアンラ・マユ様のモノになる。それまでのしばしの時間で存分にそのちっぽけな命を肥やせ。恐怖と共にな。」
そう言い残すと、テツコはフワリと身体を浮かせ街の外れへと飛び去っていった。
どれだけの時間が過ぎただろう。気がつけば、ユニコは母カザリの頭部を両手で抱きかかえていた。純白のドレスは真っ赤に染まり、もはや元の色が白色だったと気付くことすらできない。左手にカザリを抱え直すと無言で這いずり、一番の親友の元へ近寄り右手で抱き起こす。そして、ゆっくりと立ち上がると、よろめきながらすぐ傍に転がる妹のように可愛がっていた少女のもとへ歩み寄り、小さくなった身体をかき集め親友と母と並べる。
「うっ・・・うぁ・・・。」
ゆっくりと周りを見渡す。そこは、まさに地獄絵そのものだった。折り重なるように人が倒れ、灰色の石畳は赤黒く染まり、ここがあの実り豊かなファーイーストであると信じることができなかった。
「うわああああああああああああああああああああああ!」
お腹の底から叫んだ。目の前の光景も今さっき起こった出来事も噎せ返るほどの血の匂いも全てを受け入れたくなくて。声が枯れて、流す涙も枯れ果てて、それでもなお叫び続けた。喉が裂け、血を吐き、その血で噎せ返り嘔吐しても。
悲しみの時間が流れ、ユニコは叫ぶのをやめた。その瞳にもう涙はなかった。ユニコはゆっくりと立ち上がると、フラフラとおぼつかない足取りで歩き、地面に落ちてしまったファーイーストの国旗を拾い上げ、愛する人の元へ戻りそっと掛け次に向かうは自分の部屋。そこでドレッサーに置いてあった一本の白いリボンを手に取り髪を結う。そして、壁に掛けてある一本の剣を手に取ると、もう一度みんなの元へもどる。国旗に包まれたみんなの元に跪き、ユニコは一言だけ告げた。
「お母様、少し出かけてまいります。トーコ・・・お留守番お願いね・・・。帰ったら、久しぶりにみんなで茶話会でもしましょう?美味しい紅茶用意しておいてね・・・。その後は・・・レヴェッカ・・・私の稽古に付き合ってもらうからね・・・。自慢の銃捌き見せてよね・・・。それじゃ・・・行ってきます。」
ゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げると身体を翻し城を後にする。
To be Continue
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と、こんな感じで・・・。
いかがでしたか?続きは近日中に!書けたらいいなぁ・・・・w
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