さっそく、本文!しばらくのお付き合いを・・・
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少女はゆっくりとページをめくる。開かれたページにはお姫様の絵が描いてあった。綺麗な顔立ち、風に舞うドレス。しかし、次のページには恐ろしい悪魔の姿が描かれていた。大きな鎌を右手に持ち、左手には輝く宝物が抱えられている絵。一見すると、幼い子供なら怖がって母親の袖をキュッと掴んで顔を背けてしまうような。しかし、少女は決して目を離さない。
『空からやってきた悪魔は お城にある大事な宝物を盗んでいきました。
お城を守っていた兵士たちは 悪魔にみんな倒されてしまいました。
恐ろしい悪魔の力に 王様もお后様も倒れてしまいます。
ひとり助かったお姫様は 悪魔に盗まれた大事な宝物を取り返すため
そして
悪い悪魔を成敗するために ひとり冒険に発つのでした。』
そう、少女は怖がるどころかワクワクしていた。何度も何度も読み返し次に起こる事もその結末も全て知っているにも関わらず・・・。彼女には見えていたのだ。お姫様の実際には描かれていない瞳の奥に燃える炎と胸に抱きしめられたBrave(勇敢な心)が。
夜も更け、蒼く輝く月が雲の切れ間から顔を覗かせる。
パパやママには決しておねだり出来ない宝物。
それは少女の胸に生まれたロマンス。
そして、まだまだ夜は終わらない。
ユニコは変わり果てた城内を歩き城門を目指した。つい数時間前までの賑わいや華やかさがもう何年も前の出来事だったかのような静寂と闇。ただそれらが本当に数時間前の出来事だったと確信できるのは、噎せ返る血の匂いと所々で上がっている炎だった。城門を抜け、広がる絶望にユニコは心臓を握りつぶされる程の痛みを感じた。ファーイースト王国は国有地の大半が森と穀倉地帯であり、国民の自由と豊かな生活を重んじた国王は城下町を造らず、地層の豊かな一体を全て国民に与え農地とさせた。城は海岸沿いに建造され、海を背景に一際高い石垣を築き、万が一の有事に備えた。ここアクロニアでは、古より古き民と呼ばれる先住民族との盟約により海へ入ることを許されていない。なので、この立地は鉄壁に近い。背後に広がるオーシャンビュー、そして正面に広がる豊かな緑。この理想的な風景がこの国の自慢であり誇りであったのに。しかし、今広がる風景はというと、空は厚い雲で覆われ、星は消え辺り一帯には月の光すら届かない闇。草花は枯れ果てあんなに豊かな深緑をたくわえていた木々は、木の葉一枚残すことなく全て散ってしまっていた。もしも地獄というものが存在しているならば、きっとこんな場所なんだろうと感じずにはいられないそんな風景が広がっていた。
「ひ、ひどい・・・。なんていうことなの・・・。これがあの美しいイーストなの・・・?はっ、みんなは・・・町のみんなは・・・。」
ユニコは自身の愛馬で駆り出すべく馬小屋へ向かったが、そこに馬小屋は存在せず、砕け散った柱と横たわる馬たちの亡骸が無造作に折り重なっていた。ユニコの瞳から枯れたはずの涙が一筋だけ頬を伝う。
「ごめんね、みんな。怖かったよね、苦しかったよね。必ず仇を討つからね。それで全部終わったら、みんなが好きな西の丘にみんなのお墓つくるからね・・・。ほんとにごめんね・・・。」
鞘に収められている剣を握る左手に力が入る。ユニコは俯いて小さくつぶやいた。
ユニコは馬小屋を後にし歩き出した。荒野と化した穀倉地帯の街へ続く一本道を一歩一歩。行く先は一つ、テツコと名乗った悪魔のいる場所。それが何処にあるのか知るはずもなかったが、歩みを続けているうちにある異変に気付いた。
「あれは・・・。あそこは確か・・・原初の森・・・。」
それはファーイーストの街の北側に位置する洞窟の名前で、太古からの植物や動物がそのままの姿で生息し、その最深部には精霊が宿るといわれる精霊の樹や悪戯好きの妖精・フューリーが住んでおり、ファーイーストの住民からは『聖なる洞窟』『神聖なる森』とされている場所。その辺りだけが異様に雲が厚く立ち込めていたのだ。
「あんな近くに・・・。あ、だからココが・・・。ということは、街が心配だわ。急がないと。」
ユニコは脳裏によぎった一抹の不安をグッと抑え、イーストの街へと続く一本道を足早に歩き出した。
変わり果てた穀倉地帯を抜け、イーストの街に辿り着くと意外にも街はいつもの姿でユニコを迎えてくれた。しかし、それは見た目だけやはりここも変わり果てていたことに気付くのにさほどの時間も必要としなかった。街のあちこちにたくさんの人が倒れていた。それも皆眠ったように、一滴の血も流さず本当に眠っているように。しかし、皆眠ってなどいない。まるで蝉の抜け殻とでも言えばよいのだろうか。幾重にも折り重なって倒れている街人は皆こと切れていた。
「・・・っく。ひどい・・・。デス・・・街のみんなは魂だけ狩られたということ?ひどい、ユルサナイ・・・。」
ユニコは腰に携えた剣の柄をグッと握りしめ下唇を咬む。と、そのときだった。
「ママ!ママァ~!」
小さな女の子の叫び声が聞こえた。ユニコはすぐに声のするほうへ駆け出す。そこには、今まさにデスが幼い娘を庇う女性の魂を狩ろうとしている瞬間だった。
「やめろぉぉ!『あまねく風の神々よ、戦いの鬼神よ、我が体の翼となりて、剣と共に舞い踊れっ!剣神乱舞(ソードディレイキャンセル)!』」
ユニコはすぐさま剣を抜くとデスに飛び掛る。スキルを唱えたユニコの身体は人とは思えない速度で一気にデスの元へ飛び込む。そして、目にも留まらぬスピードでデスを斬り刻む。一般の人間ではその剣跡はとても追えるものではない。一瞬の出来事だった。デスは数十もの剣撃を浴び、その場で消滅する。
「はぁはぁはぁ・・・。ケガはない・・・ですか?」
「は、はい。剣士さまのおかげで・・・って、ユ、ユニコ姫!」
助けられた女性は、泣きながら抱きついてきた娘とおぼしき少女を抱きしめ、自分を救ってもらった剣士がユニコだと気づき驚きを隠せなかった。
「姫さまっ!ご無事でしたのですね!王様はやお后様は・・・。あの、この子の父親・・・私の主人がお城へお祝いに行ったきり戻らないんです。お城は、お城はどうなったのですか?」
震える力ない声で、女性は見えていた結果に確信を求めるかのようにユニコに問いかけた。ユニコは更にグッと下唇を噛み締め、そこから赤い筋が一本アゴを伝う。
「ここは危険です。街の西に軍の詰め所があるのはご存知ですね?あそこなら微量ですが食料もあります。さ、早く・・・。」
ユニコの言葉に、全てを悟った女性は抱きしめた少女の首筋に顔を埋め身体を震わせた。すると、衛兵が通りがかり
「あっ・・・おい、そこの人。ここは危険だ。早く詰め所へ!街の人はみんな避難している。早く・・・はっ!姫様!」
驚いた顔で駆け寄ってきた。ユニコの前で立ち止まりピンと姿勢を正すと、
「ユニコ姫!自分はイースト衛兵第3部隊・・・」
「そんなことはいいのっ!早く、早くこの人たちを安全な場所にっ!。」
「はっ!それでは姫様も・・・」
「私はいいの。それよりも早く!これは命令ですよ!」
「し、しかし・・・」
「はやくっ!」
「はっ!了解いたしました!自分の命に代えても!」
ユニコは敬礼する兵の肩にそっと手を置くと、フッと優しい目で微笑み、
「『自分の命に代えても』なんて、そんなこと言ってはだめ。アナタを大切に想う人が悲しみます。街の人もそしてアナタも仲間もみんなが生き残れる選択をまず考えなさい。自分を犠牲にするのは守られた人に一生の悲しみを植えるだけなの・・・。いいわね?」
「はい・・・。わかりました。姫様は・・・。」
「私は自分が成すべきことを成すだけです。それと、原初の森には近づいてはダメよ。貴方達は街の人を一人でも多く守りなさい。」
そう言うと、女性に抱かれた少女の髪をそっと撫でる。少女は伏せた顔をこちらに向け、
「ひめさま・・・わるいまものをこらしめてくるの?」
「えぇ、そうよ。お母さまとアナタが笑って暮らせるように、ちょっと懲らしめてくるね。兵隊さんの言うことをちゃんと聞いて、大人しくしててね?」
「うん・・・。あのね、ひめさま・・・これあげる。」
そう言って少女が差し出したのはペンダントだった。銀の短剣を模した小さなペンダント。
「これは?」
「パパがくれたの。おまもりなんだって。ひめさまがわるいまものにまけないように、これあげる。」
「ありがとう。」
ユニコは小さな手からペンダントを受け取り、そしてキッと鋭い目に戻しその場を歩き出した。
イーストの街の中を歩きながら原初の森を目指す。途中、何人もの街人の亡骸を見た。その姿を見るたびにユニコの胸に鉄杭が打ち込まれたような痛みが走る。街の外れに差し掛かったとき、明らかにこの先が異質であると感じずにはいられなかった。厚い雲に覆われ、瘴気とも思えるほどの濃い霧がたちこめていた。そして、その中に蠢く数十、数百の魔物たち。ユニコは立ち止まり、ゆっくりと瞳を閉じ大きく深呼吸をする。
「ふぅ・・・。お父様、お母様、トーコ、レヴェッカ・・・。少しの間だけ姫を捨て剣士ユニコに戻ります・・・。私に力を貸して・・・『あまねく風の神々よ、戦いの鬼神よ、我が体の翼となりて、剣と共に舞い踊れ・・・剣神乱舞(ソードディレイキャンセル)。』」
静かにスキルを唱えると、全身を黄金色のオーラが包む。ゆっくりと剣を鞘から引き抜くと、
「私はファーイースト第一王女ユニコ・ファー・ウィルハル・ニーヴ。この国の平和を・・・安息を・・・私が守るっ!うおおおおおおおお!」
大地を大きく蹴り出し、目の前の闇へ立ち向かった。
気がつけば、少女はまたいつものページを開いていた。
一番大好きな場面。
悪い魔女の手下をバタバタと倒し、
傷つきながらも前へ進むお姫様。
剣は欠け、受けた傷からの血で視界が霞む。
しかし、
振り返ることはない、
逃げ出すことも、
立ち止まることも。
そして
お姫様の口から紡がれるのは
幼い頃にお母様が歌ってくれた歌。
愛の歌。
窓から覗く蒼い月は、流れる雲にその光を遮られフッと部屋を暗くする。
少女のページをめくる指に力が入る。
次に待ち受けるのは
闇か
光か
少女は固唾を呑む。
小さな姫の勇敢な物語。
「やぁっ!・・・・くっ・・・はあぁっ!・・・ハァハァ。」
東の洞窟を抜け、立ちふさがる死霊たちを斬り倒しながら毒の湿原を進む。いったいどれだけの死霊を相手にしただろう。次々を現れる敵に、一心不乱に剣を振る。相手は決して1対1にはならない。周りに神経を研ぎ澄ませ、目の前の敵に力を込めた剣を振るう。体力も精神力も目に見えて消耗していく。少しでも気を抜けば容赦なく相手の鎌が剣がユニコを斬り刻む。
「うおぉぉぉ!せいっ!」
大きく振り抜いた瞬間、ユニコの視界を闇が覆う。先ほど受けた傷から流れた血がユニコの左目に入ったのだ。
「チッ・・・。あ・・・しまっ・・・」
目に入った血の痛みで肩に力が入ったユニコは、振り抜いた剣の勢いでバランスを崩す。そこへ容赦ないデスの鎌が振り下ろされる。ユニコはすぐさま剣を横に構え、デスの攻撃を真正面から受け止める。その攻撃は重く、思わずユニコの表情が歪む。受け止めた衝撃で身体が後ろへ下がる。そのとき、踏ん張っていた右足に抵抗がなくなる。そして次に襲ったのは激痛。
「がぁっ!あ・・・あ・・・あ・・・。んくぁ!」
毒の沼地に架けられた足場を踏み外し、沼地に右足が浸かる。ここまでの戦闘で負った傷口に沼地の毒は容赦なく攻め立てる。意識が飛びそうになる。ユニコは歯を食いしばり、その力で奥歯が割れる音が耳の奥で響く。その音と痛みで飛びそうになった意識を手繰り寄せ
「こ、こ、このおぉぉぉ!」
受け止めた鎌を受け流し、デスへ向けて一閃を放つ。衝撃波はデスの身体を真っ二つに裂き、ユニコは危機を打破する。
「ハァハァハァハァ・・・。グッ・・・」
ユニコは沼地から脚を引き抜き、その場に膝をつく。額から流れるのが汗なのか自分の血なのか確かめる気力すらない。肩で呼吸をしながら右足のフォルチュネイトブーツを脱ぐ。
「く・・・こんなところで・・・」
裂けたブーツの下、ユニコのふくらはぎにはデスから受けた裂傷が走り、傷口に湿地の毒が染み込み傷口は赤黒く腫れていた。剣山でふくらはぎをザクザクと突き立てるような痛み。このままでは毒が回り、もしかすると右足は壊死してしまうかもしれない。
「こ、こんなところで・・・立ち止まってなんていられないの・・・。」
ユニコは胸元に光る、あの少女から貰ったシルバーのペンダントを右手で引きちぎり、それにポーションを掛けると、
「んっ!ぐ・・・があは・・・ああぁぁ・・・」
裂傷走るふくらはぎの中にそのペンダントをチェーンごと突き立て埋め込んだ。その上から、毒消し草の葉を数枚揉んで同じように傷口に埋め込み、さらに数枚で傷口を塞ぐように貼り付ける。ドレスの裾を手で裂くと包帯代わりに巻く。
「はぁはぁはぁ・・・。」
地面に置いた剣を手に取り、ゆっくりと立ち上がると右足を引きずりながら湿原を抜けていく。剣は欠け、「赤いドレス」は自らの血で更にその色を鮮明にさせていた。湿原を抜け、原初の森と呼ばれる東の洞窟の最深部へ辿り着く。精霊の住処。厳正なピンと張りつめた空気。それだけでどこか異世界な雰囲気を醸し出していたその場所は見る影もなかった。精霊の樹は深緑鮮やかな葉を全て落とし枯れていた。碧く幻想的な輝きを放っていた苔も枯れ果て赤く地を染めている。木々の間を飛び回るニンフの姿はどこにもなく、洞窟の最深でありながら溢れんばかりの生の息吹は、もう全く感じることができなかった。
「ひどい・・・。」
ユニコは周りの惨状を目の当たりにしつつ、さらに奥へと歩みを続ける。
しばらく歩き、原初の森の最深部・ニンフ達の神聖なる祭壇をあと数十メートルとしたときだった。
「ほう。エミルごときが大したもんじゃ。ここまで来れたことは誉めてやろう。そうじゃ、小娘・・・ぬ?お前、城におった小娘か。そうかそうか、親を殺され、庇って死んだメイドの仇でも討ちにに来たか。」
どこからともなく、幼い舌っ足らずな声が響く。ユニコは歩みを止め辺りを見回す。忘れもしない、無垢な声、しかしその裏側に潜む狂気。ユニコは俯き肩を震わせる。そして、
「我が名は、ファーイースト第一王女ユニコ・ファー・ウィルハル・ニーヴ。姿を見せよ!忌まわしき悪魔!」
ユニコは鋭い眼光で向こうに見える祭壇に目をやる。
「あはははは!どこを見ておる!」
「・・・っ!」
高らかな笑い声が聞こえた瞬間、僅か数メートル先にその姿があった。赤い髪のポニーテール、全身をユニコとは対照的な黒いドレス。右肩には髑髏を模した肩当、右手には少女の躯体には似つかわしくない大ぶりの鎌が握られている。
「ふっ。名乗りをするなど、剣士気取りか。小娘・・・いやユニコといったな。その体で我に挑もうとは見上げたもんじゃ。よかろう、我も応えねばな。我が名はテツコ、冥界の番人にして魔王アンラ・マユ様守護者じゃ。以後・・・は存在せぬな。冥途への土産に我が名をしかと刻んでおけ。」
不敵な笑みを浮かべ、空いた左手でドレスのスカートを摘まむと少し持ち上げ、足を引き軽く礼をする。ユニコは、持っていた剣を正面に構え
「私はイーストを統べる王家の者として、この国を民を守らねばならない。例えこの身が朽ち果てようとも・・・それが王家に生まれた私の使命なの。私は・・・私は必ずアナタを倒してこの国に再び平和を民に笑顔を取り戻すっ!」
「ふん。使命か・・・。愚かじゃな。あれだけの力量差を見せられてなおもこうやって挑む・・・。まこと人間とは愚かな生き物じゃ。よかろう、ならば存分に試してみよ。そして、絶望せよ!己の未熟さを。そして呪え!この世界の理不尽さを!」
テツコは最後の一言と同時に右手に持った大鎌をビュンを振りぬくと、全身を黒とも紫とも見える重い色のオーラが全身を包む。ユニコはその一振りだけで圧倒的な強さを感じた。勝てる気がしない。今私が動いたら、きっとこの体は簡単に斬り刻まれてしまう。全身に嫌な汗が噴き出す。
「けれど、今日は違う・・・。」
「ん?」
昨日までならそうだった。あの時も。けれど今は違う。私にはみんなの想いがある、この胸に、トーコのレヴィの想いが私を守っていてくれている。力を貸してくれている。そう思うと負ける気がしない。体の奥から力が湧いてくる。ユニコは構えた剣を更にギュッと握りしめ、
「いくぞっ!・・・っはあぁぁ!」
「我を楽しませてみよ。簡単に死ぬなよ?人間。」
ユニコが一歩、大地を思いっきり蹴りだしテツコの元へ飛び込む。テツコは微動だにせず、その場でユニコの突進を待つ。ユニコはテツコの目の前でジャンプすると体を前転させて振り上げる剣に更なる威力を上乗せる。
「リミテイションエッジ!」
「・・・・・・。」
防御を捨てた捨て身の一撃、リミテイションエッジをテツコに討ち込む。
ガキィィィン!
耳を劈く様な金属音が響き渡る。
「っく!」
「なんじゃ。サーカスか?」
ユニコの渾身の初斬は、テツコの大鎌の柄の部分で簡単に止められてしまった。すぐに後ろへ飛び退くと、
「『あまねく風の神々よ、戦いの鬼神よ、我が体の翼となりて、剣と共に舞い踊れっ!剣神乱舞(ソードディレイキャンセル)っ!。』」
黄金色のオーラがユニコを包む。
「斬撃・・・無双っ!」
「遅いわっ。」
「くぅ!」
スキルを発動した上での斬撃無双を全て受け止められてしまう。しかし諦めない。間髪入れず次の攻撃に移る。
「百鬼哭っ!」
「ほう。しかし、残念じゃな。ふん!」
「は・・・きゃあぁあ!」
斬撃無双、百鬼哭を続けざまに繰り出した攻撃はあっさりと受け止められてしまう。テツコはユニコの放った百鬼哭の最後の一撃を受ける前に鎌を一振りし、ユニコごと斬撃を吹き飛ばす。大きく後ろに飛ばされたユニコはそのまま地面に叩き付けられる。全身に走る衝撃と激痛。ユニコはフラフラと立ち上がり、剣を再度構えなおすと叫びながらテツコの元へ飛び込む。
「うおおぉぉ!」
「むやみに飛び込むとは素人か。もうよい、オマエも仲間の元へ逝け。『闇の盟約に基づきし、冥界の主ディアボロスよ 死の旋律に舞え そして血の洗礼で我が身を満たせ 死鎌演舞。』」
テツコは横一文字に鎌を振ると、飛び込むユニコの目の前に両端が刃になった鎌が現れ、目の前で回転した。ユニコの脳裏にあの時のレヴィの姿が幻灯機で映し出される紙芝居の如く浮かび上がる。
「なんじゃと?」
しかし、その光景は実現することはなかった。回転した鎌はユニコに触れる直前、霧散したのだ。その事実に驚いたが、ユニコはそのまま一気にテツコの懐へ剣を向ける。そして、飛び込んだ懐からの零距離からの一閃。これで終わった。ユニコはその体に確信を募らせる。一閃を放った直後、大きく後ろへ飛び退き、二人対峙したその一点を剣を構えなおし見つめる。舞い上がった砂埃が消えきらぬ間に、ユニコの勝機は一転、絶望に変わる。
「油断したわ。まさか体の中に銀器を埋めているとわな。しかも、ご丁寧にアクロニアの鼓動のオマケ付きか。なるほどなるほど、これでユニコとやら、オマエがここまで来れた理由が・・・。ならば・・・。」
砂埃の中でぼんやりと浮かんでいたシルエットが不意に消える。
「魔力なぞ使わず、この自らの手をもって殺してやろう。」
最後の言葉の音が消える前に、テツコはユニコの後ろに立っていた。左手に見覚えのある銀のペンダントと赤黒い塊を持って。テツコは握られたその塊に舌を這わせ握りつぶす。ユニコは反射的にテツコとは反対の方向へ飛ぼうと右足に力を入れた瞬間、その場に崩れ落ちた。
「ぎゃあぁぁ・・・!」
右足の膝から下、ふくらはぎと呼ばれる部位がごっそりと消失していた。ユニコの目に涙が滲む。右足を焼けるような痛みが襲う。体力も消耗し尽して痛みを訴える声すらこれ以上あげられない。涙を流す瞳でキッとテツコを睨み付ける。
「ゾクゾクするのぉ。死に恐怖する目、堪らんわ。そして、余興も終わりじゃ。」
テツコが大鎌を振りかざし、ユニコの首めがけて横に薙ぎ払う。ユニコは全身に宿るすべての力を両手に振り絞り、大鎌の一撃を受け流し
「うああぁぁぁぁ!いっっっせぇぇぇん!」
一閃を放つ。鎌を受け流した際に剣が折れる。一閃は刀身から己の気を使って放つ衝撃波であるがために、刀身の長さと威力は比例しない。予測していなかったユニコの反撃に、テツコは舌打ちをして後ろへ飛び退く。その際ユニコへ向けて、魔力弾(カオスウィドウ)を放つ。それは見事にユニコに直撃し、ユニコは大きく後ろへ吹き飛ばされた。ユニコの体は宙を舞い、地面に叩き付けられても勢いは消せず、2度3度地面に叩き付けられながらやっと勢いをなくす。うつ伏せに倒れたユニコを眺めながら、
「蝋燭が消える間際のようじゃな。よくあの一撃をだせたものじゃ、誉めてやろう。人間の分際で、ここまで我の前で生きていられた者はお前が初めてじゃ。ユニコとやら、オマエに敬意を払って使わずと思っておったが、我の魔術で綺麗に消してやろう。」
そう言うと、テツコは右手の鎌を天に向けて掲げ、ゆっくりと終焉の詠唱を始めた。詠唱が始まると、ユニコの倒れている地面に直径数メートルにも及ぶ大きな魔方陣が浮かび上がる。魔方陣はその光をどんどん増していき、魔方陣に浮かんだルーンに稲妻のような魔力が溢れだす。
ユニコは目を醒ますと、一面白の世界にいた。立っているのか浮いているのか、そもそも上があるのか下があるのかも解らない世界。
(ここは・・・どこ?あ、私、もう死んじゃったんだ。ということはここは天国?)
ユニコは目を閉じて、両手を胸の前で祈るように合わせると大粒の涙を流す。
(ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。私、みんなを救えなかった。トーコの想いもレヴィの想いも叶えることができなかった・・・。う、う、うわああああああぁぁぁん!)
子供の様に泣きじゃくる。真っ白の中に独り。ただただ泣きじゃくる。
(泣かないでユニコ・・・。)
(姫さま、泣いちゃだめですよ!)
(ユニコ・・・泣かないで。)
大声を上げて泣くユニコの中に聞き覚えのある声が響いた。驚いたユニコは目を開ける。すると目の前に、私の大切な大切な人が立っていた。
(お母様・・・トーコ、レヴィ・・・。ごめんなさい、私、守れなかったの・・・国も民のみんなも・・・そして、みんなの仇も・・・)
そう言いかけたとき、トーコが人差し指を立てて、ユニコの唇にそっと当てる。
(何を弱気になっているの?ユニコ?私の知っているユニコはそんなお淑やかな女の子じゃないはずだけど?)
トーコが悪戯っぽい目でユニコに問いかける。
(そうですよ?トーコ姉やアタシにあんなに挑発的で勝気なお転婆・・・コホン、姫はどこにいったんですか?)
やれやれといったジェスチャでレヴィがウィンクする。
(ふたりとも・・・)
ユニコは、その瞳に止まっていた涙を再び流しだす。
(ユニコ、あなたは本当によくやっているわ。でも、一度の失敗で挫けちゃうのが小さい頃からの悪い癖。ほら、がんばって?アナタの力はこんなものじゃないでしょ?)
(お母様・・・。でも・・・)
ユニコが何かを言おうとしたとき、
(アナタがユニコ殿か。なるほど、これはいい眼をしている。)
ソコに現れた一人の男性。髪を後ろで結い、白と青の服に珍しい形をしたマントを羽織っていた。
(あなたは?)
(拙者は神威。アナタに力を授けるものでござるよ。)
そう言うとニッコリと笑う・・・が、すぐにその表情は難しいものになる。
(ユニコ殿に力を授けるのはやぶさかではないが・・・。いや、もとよりそんなことはわかっていたことだ。なんでもない。さぁ始めよう。)
何かを言いたげだったが、その言葉を飲み込みユニコと対峙する。神威と名乗る男は、右手をユニコの胸に当てると聞いたことのないスペルを詠唱し始めた。すると、男の身体は光に包まれ、みるみるユニコの身体に吸い込まれていった。何が起きているのか把握できず、そもそも私は死んでいるのか、これは夢なのか、だんだん混乱してきたそこへ、
(さあ、ユニコ。もうひと暴れしてくるんでしょ?アナタはファーイーストの王女で、そして私の自慢の大親友なんですから。ほら、街のみんなが待っているわ。ほらほら、行ったぁ!)
トーコに背中をポンと押され、私は右足を一歩踏み出した。
ゆっくりと目を開ける。そこは赤い地面。そして、周りに浮かび上がる魔方陣。ユニコは、状況を整理する。そして、
「・・・・・・ない。」
ポツリとつぶやく。
「ん?まだ息があるのか。しぶといのぉ。」
「・・・・けない。」
「なんじゃ?」
「負けない・・・負けない。私はこの手で・・・」
「ほう、動けるのか。」
ユニコは、ゆっくりとゆっくりと身体を起こしていく。折れた剣を杖に立ち上がるボロボロのプリンセス。とてもプリンセスには見えない姿だった。がしかし、それ以上にユニコの瞳には力が溢れていた。
「私はこの手でっ!この手でみんなを!救うんだ!うおおおおおお!」
ユニコは折れた剣を正面に構え吼えた。ユニコの声に応えるかのように大地が震えだす。そして全身を真っ白な、透き通るようなけれど決して透明ではない本当に真っ白のオーラが全身から湧き出す。その光はどんどん膨れ上がる。その光景にテツコは表情を一変させ、
「な、なんじゃこの力は・・・これは、竜眼・・・いや、人外の・・・ハイエミル・・・なぜじゃ!こやつは転生の儀をしておらんただのエミルだったはず・・・どこから・・・フン、しかし、その身体ではその力は受け切れん!このまま我ダムネイションで無に還るがよい!」
テツコは詠唱を終え、闇魔法ダムネイションを発動させた。無数の闇の手が地面から現れ、そこにある全てを闇の世界へ引きずり込む。
「あははは!驚かせよる・・・何がハイエミルか・・・我の前にして、生き・・・延び・・・たエミ・・・ルなど・・・お・・・らん・・・バカな・・・。そんな・・・はずは・・・ガフッ・・・」
ダムネイションが発動した場所にユニコの姿はなかった。そして、テツコの懐にその姿はあった。折れた剣はユニコの身体から発せられたオーラが創り出した鋭く輝く切っ先となり、テツコの心臓を貫いていた。
「私が・・・この手で・・・守るの・・・この・・・手・・・で。」
と同時に、テツコの大鎌がユニコの背中から心臓を貫いていた。二人の身体はそのままユニコから溢れ出す真っ白な光に包まれ、ひと際眩い光を放ちそして消えた。
折れた剣と大鎌を残して。
厚く覆われた雲が晴れていく。街を徘徊していたデスはいつの間にか消えていた。まるで嵐が通り過ぎた直後のような。街の西にある軍の詰め所から一人の少女が飛び出した。空から降り注ぐ光のカーテンに街全体が照らされていく。そんな風景を見ていた少女はふと不安げな表情で、
「ユニコひめさま?わるいまものをこらしめたの?」
「 」
「すごい!これでもうかくれなくていいの?ほんと?」
「 」
「ひめさま!ありがとう!バイバイ!」
少女は満面の笑顔で大きく手を振った。
「どうしたの?誰と話してるの?」
「あのね、ひめさまがね、わるいまものをこらしめたんだって!すごいね!」
「え?ユニコ姫様が?どこにいらっしゃるの?」
「んとね、おともだちにね、あいにいくんだって!」
ファーイースト城はあのときのままの姿で時が止まっていた。あのテラスの国旗も。そんな場所にも光のカーテンは降り注ぐ。城全体が眩い光に包まれる。そして、テラスにあった国旗に真っ白な光が降り注ぐ。国旗は端から光の粒に変わっていく。端から順に光の粒は空へ上り消えていく。国旗が全て光の粒に変わったとき、その場所に一輪のマリーゴールドと両脇にゼラニウムが並んで咲いていた。
少女は絵本の最後のページを閉じた。
ベッドのランプを消して、布団を鼻の辺りまで引き上げる。
そして、窓から僅かに覗く蒼い月に
自分と同じ名前をもつ絵本の中のヒロインに誓う。
剣士になって、悪い魔物を成敗する。
そして、
世界を笑顔にするんだ。
ユニコ・ニーヴ、11歳の誕生日をあと数時間で迎える夜のお話。
Fin
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