攻防戦パーティメンバーのフレさまを片っ端から辱めていった
YUNIKOです。
さてさて、この企画も最後の一人になりました。
半ば強引に承諾をもらって書き始めちゃいましたお話は、少し色を変えて。
今回はここにアップしていきます。
ちなみに禁止ワードは「殺」「す」でした・・・。
物語は、カーディナルのプニサンとフォースマスターのフォビアが
孤高のマエストロ・ライグPTを脱退してしばらく経ったある日、一人残ったカーディナル・キルルのお話。
それでは、よろしくお願いいたします。
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『ココロの色、記憶のカタチ』
シーン1 【 ココロの色 】
「はぁ・・・。」
小さくも深いため息を今日も一つ落とす。アップタウンの喧騒にかき消され、自分の耳には届かなくも心には深く突き刺さる。今日もやってしまった。痛恨の支援ミス、もう少しでパーティが全滅してしまうところだった。魔法力が尽きてしまった私は傷を負ったみんなを回復することができず、自分自身も傷を負い・・・。結果的にはミサキの持っていたポーションとアートフルトラップで何とか回復ができたのでよかったのだが、今回が初めてじゃないのが問題だった。
「プニサン・・・なんでいなくなっちゃったんだろう・・・。」
魔法力の管理なんて体調管理と同じで自分自身の問題だが、こう何回もミスを連発すると、さすがに愚痴の一つもこぼしたくなる。当然、今回の冒険が終わった後もアップタウンの片隅にひときわ大きく響く声。
「キルっ!お前、今日のありゃなんだ?俺らと心中する気だったのか?」
「う・・・ごめんなさい。」
「ごめんで済んだら騎士団なんていらねーんだよ。オマエのジョブってなんだよ?カーディナルじゃねぇのかよ。」
「ごめ・・・ごめんなさい。」
「もうその辺でいいじゃない、ライグ。」
こんな風に怒られることも最近では珍しくなくなってきた。ナデシコさんの制止がなければ、今日こそはライグに殴られてしまうんじゃないかと内心泣きそうになっていた。しかし、仲間の生死が関わることなんだから当たり前だ。夜の帳が下りたアップタウンを一人トボトボと歩く。しかし、冒険が終わったので明日からクールタイムで暫くオフの日が続く。だから、明日から溜っている大好きな本を読んで、いっぱい寝て、美味しいモノを食べてリフレッシュしよう。
(あ、もちろん訓練もするよ?本当だよ?)
しかし、今この沈んだ気持ちは今夜中に何とかしたい。そんな風に考えて歩いているときだった。目の前に小さな看板が目に入った。その看板は決して大きくも派手でもない至ってシンプルな看板。白地に黒で書かれた店名とおぼしき単語。
「・・・。初めてみるお店だ。新しくオープン・・・したってわけじゃないよね、この看板の汚れ具合はどう見ても。」
私は看板と店の入り口に視線を交互に送り
「昴林・・・すば・・こう・・・りん?珍しい名前・・・。まぁいっか、今日はここで夕飯にしよう。」
私は看板の脇をすり抜け、少しくすんだ木の扉をゆっくりと開ける。薄暗い入口とは裏腹に店内は割と明るい感じがした。中はカウンターにテーブル席が2つと店内の広さにはやや少なすぎるものだったけれど中央に置かれたグランドピアノと無数に置かれた本棚とそれを埋め尽くすほどの本たちがこの店のレイアウトを納得させた。客は入ってきた私以外誰もおらず、自動演奏されるピアノの調べだけが静かに店内に流れ、私はその調べに導かれるようにカウンターに腰を下ろす。
「いらっしゃいませ。」
不意に声をかけられ、私はビクンと肩を跳ねさせてしまう。
「あ、失礼いたしました。驚かせて・・・しまいましたか?」
「い、いえ・・・。」
カウンター越しに立つバーテンダーの男性は、銀髪のタイタニア。切れ長の瞳に銀縁の眼鏡、中性的な雰囲気を持ちながら整った唇からこぼれる声のトーンは低く、それがまた知的に感じられた。
「初めて・・・ですね。ようこそ、昴林へ。」
「は、はい・・・。」
私は優しい笑顔を作る目の前のバーテンさんに、一瞬見蕩れてしまった。ハッと我に返り店内を見渡すが、彼と私以外誰もいない。
「マスター・・・ですか?」
「はい。えっと、どなたかとお待ち合わせですか?」
「え?あ、いえ・・・。ひ、ひとりです。」
「これは失礼いたしました。それではご注文を・・・よろしいですか?」
スッと差し出されたメニューを開く。イイ雰囲気のお店だったので、バーだと思っていたけれど、食事のメニューも意外に多かった。私はメニューを閉じると、
「マスターのオススメが食べてみたいです。」
普段口にした事もないセリフが出ていた。マスターは私の言葉にフッと柔らかい笑顔を作ると、
「そうですね・・・。今日はアクロニア海岸のアサリとイーストの農園で採れたトマトがありますから、ボンゴレロッソなどいかがでしょう?」
「わぁ・・・美味しそう。それにします、お願いできますか?」
「はい。かしこまりました。それと・・・お飲み物はいかがされますか?」
「えっと・・・。」
「もしよろしければ、私に選ばせていただけますか?アルコールは・・・。」
「あ、はい、大丈夫です。それじゃ、お任せで。」
「はい、かしこまりました。」
差し出したメニューを両手で受け取ると、軽く頭を下げ奥のキッチンへむかった。
(不思議な感じのひと・・・)
自然に浮かんだ感想だった。料理が出来上がるまで、私はピアノの調べに耳を傾けながら店内をじっくりと見渡す。落ち着いた雰囲気、照明も暗くなくでも明るすぎない。こんな感じのいいお店どうして今まで知らなかったんだろう。そして気になった大きな本棚。壁一面に並べられた本棚には隙間なく本が並んでいて、本好きの私の興味を一心に集めた。私は席を立ち、本棚へむかいソコに並んでいる本のタイトルを順に眺めていく。本のジャンルは様々で雑食の私は更に興味が湧いた。学説書もあれば文学書や絵本まで、図鑑や最近話題の小説まで本当に色々並んでいる。
「あ・・・。」
私はその中から一冊の古い絵本を手に取った。私が持っていたモノとは比べ物にならないくらい古い絵本だったが、私はそれを知っていた。お姫様が一人勇敢に魔女に立ち向かうお話。表紙をめくり冒頭の数行に目を通す。
「気になる子がいましたか?」
「えっ?」
またも不意に声をかけられ、びっくりして振り返るとカウンターに出来立てのボンゴレロッソが湯気を立てて置かれていた。私は絵本を閉じると、そのまま手に持ってカウンターへ戻った。私が座ると同時にワイングラスが一つ置かれ、ゆっくりと赤い液体を注いでいく。
「これは・・・赤ワイン?」
「はい。でも、ちょっとだけ普通の赤ワインとは違うんですよ?」
「へぇ・・・いただきます。」
まずはワイングラスに口をつける。ほんの少し舐める感じで舌先に触れさせてから一口含む。赤ワイン特有のえぐ味はなく、グレープジュースだと勘違いしそうなほどにフルーティで、甘さがあるのにあっさりしている、すごく飲みやすいワインだった。ワインがこんなに美味しいならパスタは一体どんなに美味しいのだろう。私は高鳴る期待を胸にフォークを滑らせ一筋巻きつける。巻きつけたパスタを落とさないようにアサリをフォークの先に刺し、ゆっくりと持ち上げる。はしたなくも私は大きな口を開けて頬張る。
「んんんんんん~~~~~っ♪」
「お気に召していただけたようですね。」
飲み込むのが勿体ないこのパスタを私は意を決して飲み込むと、蕩け落ちるほっぺを両手で押さえ、
「すっごい美味しいですっ!私、こんなに美味しいボンゴレ・ロッソ生まれて初めてです。」
「うんうん、あと一息ってところですね・・・。」
「え?」
「いえいえ、それではどうぞごゆっくり。素敵な時間になりますように。」
そう言って彼は奥へ引っ込んでしまった。彼の背中を見送ると、またピアノの旋律に乗せて、束の間の幸せタイムを満喫した。
パスタもきれいにたいらげ、グラスのワインも飲み干して一息ついていた。カウンターの奥から何やら香ばしい香りが漂う。今さっき食べたばかりでも、コレは別腹と昔の偉い人も言っている。私は再度溢れだす食欲(別腹Ver)を抑えつつ、漂う香りの正体を想像していた。
「これは、当店・・・いえ、私からのサービスということで。」
「え?」
私の前に出てきたのは、リンゴの焼き菓子のようなスイーツ。
「これは?」
「これはリンゴのベニエです。甘くて美味しいですよ。」
「わぁ・・・ありがとうございます。でも、どうしてこれを?」
私は今日初めて訪れた客に出すには手の込んだデザートだと思った。それにマスターからのサービスというところも気になったので、思わず口にしてみた。マスターは、柔らかく微笑むと静かに
「貴女がここへ来たとき、なにか嫌なことがあったのではないですか?とても辛い色の心が見えました。色で例えると灰色でしょうか。」
「・・・・・・。」
「当店にお越しいただいたお客様には、皆さま温かい色の心で帰っていただきたいなと。そうですね、色でいえばオレンジ色でしょうか。」
「それで?それだけで、こんなサービスを?」
「それだけ・・・ではないですよ?それが一番なのですから。」
マスターは柔らかな笑顔のまま、そうハッキリと答えた。私はその笑顔を眺めつつ出されたベニエを口に運ぶ。ふわふわの生地と周りのパウダーシュガーそして中に入っているリンゴの酸味が全体の甘みを引き締め、さっきまで残っていたトマトの後味をスッと流してくれる。私にまた至福のひと時の訪れである。
「くぅぅぅぅ・・・・おいひぃ♪」
「それは何よりです。どうです?ここへ訪れた時の心の疲れは残っていますか?」
「いえっ☆まったく残ってないですっ!逆に幸せです♪」
「よかった。あ、そうです、お客様の・・・お名前をお伺いしてよろしいですか?」
「名前・・・ですか?いいですよ。キルルです。あ、マスターは・・・。」
「キルルさん・・・とても綺麗な響きですね。素敵なお名前です。私はアサギ・・・そう呼んでください。マスターでも結構ですが、言われ慣れていなくて実は少し落ち着かないのです。」
「あはは♪そんな。それじゃ、アサギさんって呼んでもいいですか?」
「ええ、もちろん結構ですよ。」
「それじゃ私のことはキルルって呼んでください。」
「畏まりました。キルルさま。」
「さ・ん」
「承知いたしました。キルルさん。」
「はい♪」
お腹も満たされ、心も満たされ、いつしかアサギさんとの会話で夜も深まっていった。アサギさんとは今日あった冒険での失敗話から始まり、好きな場所や趣味の話から本の話へと盛り上がる。やはり私同様アサギさんも本が好きで暇さえあれば本を読んでいるのだとか。昔は陰陽道という東の異国で伝わる術式の研究に没頭していたらしいのだが、ある日を境にやめたのだそうだ。実験で失敗して怪我でもしたのだろうかと、その時は深く考えることなく話に花を咲かせた。
「キルルさん、その子お気に入りですか?」
「あ、はい・・・というか、私も持ってるんです。復刻版のですけど。最近買ったんですけど、なぜかすごく懐かしい感じがして。一目惚れってやつです。これは随分古いですよね?もしかして原版ですか?」
その子と呼ばれた絵本は、とても古いモノで色褪せ、破れているトコロも多少あったが、とても大切にされていたことはすぐに分かった。
「えぇ。そうです。これはある人のモノなんですけどね。預かっているんです。」
「え?えっ!そんな大事なものお店の本棚に置いておくとかダメじゃないですか!」
「いえ、いいんです。その人はもうこの本を手に取ることはないですから。」
「え?どういうことですか・・・?あ、もしかして、聞いちゃいけないことでした?というか、聞いちゃいけないことですよね。ゴメンナサイ。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。おっと、少し話に花を咲かせすぎたようですね。もうこんな時間です。」
そういって差し出された懐中時計は、長針と短針が真上で二本抱き合っていた。一体、パスタと一皿のスイーツで何時間いるんだと自分で自分に毒づく。
「それじゃ、これで・・・。」
そう言って出された一杯のカクテル
「これは・・・?」
「これは、『Between The Sheets』というカクテルです。おやすみなさい、よい夢を・・・という意味です。」
「へぇ・・・。それじゃ・・・わ、飲みやすい・・・そんなにきついお酒じゃ・・・わ、ぽかぽかしてきた。」
クイッと飲み干した私は、アサギさんにエスコートされて入り口に辿り着き、
「今日はとても楽しくって美味しくって幸せでした。おやすみなさい♪」
「いえいえ、こちらこそ久しぶりに素敵な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。またのお越しをお待ちいたしております。」
こうして、夕方までどん底だった灰色のココロは、この素敵な場所で見事オレンジ色のココロになって自宅に帰ることができたのだった。
「不思議なカンジ・・・。あのお店もアサギさんも・・・絵本も・・・。」
初めてのお店と人との出会いに新鮮さを感じながらもどこか懐かしさも感じてしまう不思議なお店「昴林」。私がそこの常連になるのに時間など必要なかった。
to be continue