はい、やっと終わり。最後のシーンです。
今回、このお話を書くにあたって、出演を快諾してくださった
白雪りんごさん、ゆのここあさん、本当にありがとうございました。
ちょっと強引に始めたお話もこうして完結させることができました。
そして
いつも、訪れて読んでくださっているユーザーさま、たまたま目に留め
読んでくださったユーザーさまありがとうございました。
でわでわ・・・また新しいお話が生まれたときに。
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【 エピローグ 】
いつもより少し長めのクールタイムもそろそろ終わりを告げようとしていたある日の午後。アップタウンを歩く大小ふたつの人影。
「なぁミサキチよぉ・・・。どんな顔でアサギに会えばイイと思う?」
「知らない。もうこれで昨日から通算93回目の同じ質問。そろそろ私も飽きてきた。」
「ちょ、オマエなぁ・・・ンなもん数えんなよ。てか、そんなにしてる?」
「うん。次からはその質問の頭に『ミサキ愛してる』って付けて言ってくれないと受け付けない。」
「ぶっ!お、おま、な、なに言ってんだよっ!」
「もう照れちゃってかわいいなー(棒)。」
「はぁ・・・ハイハイ。」
ライグはミサキの頭をわしわしと撫でながらため息をつく。でか猫みみカチューシャを付けたミサキはまるで子猫のように目を細めて何も言わず鯛焼きにかぶりつく。ソレは突然だった。昨日の早朝、いつものように朝のトレーニングをしていたライグのWISモバイル端末に一通のメールが届いた。差出人はアサギ。
『明日、店に来てほしい。話したいことがある。午後3時に来てくれ。美味しいアフタヌーンティをご馳走しよう。』
たったこれだけ。話があるとか詳しい事を一切書かないあたりアイツは全く変わっていない。ライグは久しぶりの友に会う喜びの反面先日のキルルとのことがどうしても気になって素直に喜べない。どんな顔をしてアイツに会えばいいんだろう。キルルともあの日以降連絡をとっていない。こんな中途半端な状態でアイツに会って、何を話せばいいんだとライグの頭にはそれしか浮かんでこない。横目でチラッとミサキを見るが、無言で鯛焼きにかぶりついている。ライグはハァっと溜息をこぼして空を見上げた。
「しゃあない、どうにでもなれっ・・・だな。」
「そーそー、気にしない気にしない一休み一休み。」
「おま、ソレどっかで聞いたことあんぞ・・・って、そうだな、ミサキの言うとおりだ。」
と、気がつけば本日の目的地に着いていた。
「い、いくぞ・・・。」
「う、いってらっしゃい・・・。」
「はい、いってきま・・・じゃねぇ!ミサキも来んだよ。」
「にゃう・・・。」
ライグはドアノブに手を掛けゆっくりと開ける。そこに広がっていた光景は、2人が知っている店内ではなかった。
「おいおいおいおい・・・・。」
「お店間違えた。」
2席だったテーブル席は4席に増えていて満席、カウンターもほぼ満席、かろうじて一番端の2席が空いているだけだった。2人は店内の状況に驚きながらカウンターへ。
「いらっしゃいませ。」
「お、おう。すごいな。」
「アサギ、お久しぶり。」
「ミサキもお久しぶり。どう?朴念仁に変化はあった?」
「ない。全くこれっぽっちも微塵もない。逆に無さ過ぎて清清しい。」
「ははは。なかなか手ごわいようですね。」
「な、何の話だよ。」
「いえいえ、コチラの話です。」
「そーそー、乙女のお話。」
「アサギは乙女ちゃうやろ!」
あんなに緊張していた友との再会は意外にアッサリと和やかに迎えられた。
「あ、今日はお2人にとっておきの茶葉を用意したんです。今用意しますね。」
「わ、楽しみ。」
そう言って、アサギはカウンターにティーカップではなくマグカップを並べ、ティーポットからゆっくりと注がれる。二つのカップから湯気が立ち上り、
「どうぞ。」
「おいおい、意外にワイルドだな。」
「あ・・・。」
「おや、さすがミサキ。気付いたようですね。」
ミサキはマグカップを手に取ると、ゆっくりと口を近づけ一口飲む。ミサキは目を閉じて、
「これ・・・懐かしい。私たちが初めて冒険したときのキャンプでアサギが淹れてくれたお茶・・・。」
「正解です。ちょっと最近あの頃の夢を見まして・・・。ついつい懐かしくなってしまって。」
アサギはあの頃を思い出すような柔らかい笑顔で答えると、
「さて、そろそろです。」
「んあ?」
ライグのマヌケな返事と同時に、店内の喧騒が水を打ったように静まり返る。店内の照明が落とされ、その場にいた客たちが皆テーブルに置かれたキャンドルに火を灯す。そのほかにも所々に置かれたキャンドルにアサギのネコマタが順に灯していく。
「何が始まるんだ?」
「まぁまぁ、黙って観ていて下さい。」
すると、ライトを持ったネコマタがカウンターの奥をピンスポットで照らす。
「お・・・お、お、お・・・。」
「ライグうるさい。これ咥えて黙ってみる。」
「んぐ。」
ミサキはどこからか鯛焼きをライグの口に突っ込む。そのときのミサキの頬がほんの少し紅くなっているのは、店内の暗さでごまかせたようだ。そして、ライトの下に現れたのはピンクの髪をアップに結い上げ、和服に身を包んだ
「キルル綺麗・・・。懐かしい衣装・・・。やっぱり歌姫キルはこうでないと・・・は、始まるみたい。」
キルルはそのまま中央に置かれたグランドピアノに着席し、旋律を奏で出す。そして、
『♪どんなに毎日を 頑張って生きてても 誰かのコトバに傷ついた日もある・・・♪』
ピアノの調べに乗ってキルルの歌声が響く。それは透き通ったガラスのように繊細なでも力が湧いてくるけれど癒される、本当に聴く者によって声色が変わるフシギな音。2人はその音に包まれ、
「キルル完全復活・・・か。」
「というこは、このあと・・・。」
すると、ピアノを弾くキルルの傍にスッと現れた人影。ヴァイオリンを構えたアサギだ。キルルと向かい合い、視線を交差させ
『♪本当に大切なものは近くにあるよ 君と一緒なら 加速する冒険・・・♪』
『陰陽師・香椎と歌姫・キル』のミニコンサートが始まった。キルルのピアノにアサギのヴァイオリンの旋律が絶妙に神妙に優雅にでも切なくそして愛おしく絡み合う。その中に時折顔を出す二人のハーモニーが店内をこの空間を優しさと切なさで包み込む。
「「♪なにがあってもきっと希望は忘れない 強く感じたあの日・・・♪」」
2人のハーモニーが響き止んだとき、2人を照らすスポットがフッと落ちて。そして同時に沸き起こる拍手と喝采。店内の照明が元に戻され、二人は並んでお辞儀をする。拍手をするお客の中には涙を流す人までいた。
「ヤ、ヤバ・・・イな・・・。何時聴いても・・・。グス。」
「うん、ステキ・・・。やっぱり2人は2人じゃないとだめ。」
「そうだな。これナデシコにもネコにも聴かせてやりたかったなぁ。」
「フフッ。2人なら、あそこで泣いてる。」
テーブル席を指差した先には、2人で涙を流しながらケーキを頬張る姿が見えた。アサギはステージを降り、こちらに戻ってきた。ヴァイオリンを置き、
「どうでした?」
「ステキ・・・。」
「あぁ、最高だ。ということは記憶・・・。」
「記憶?あぁ・・・いいえ、まだです。私もキルルも何も思い出せていません。」
「「え・・・。」」
2人はキョトンとアサギを見る。
「あんなに歌えてるのにか?」
「ええ。まぁ、こうして2人で歌うのには色々あったんですけどね。」
キルルはそのままピアノに向かい、演奏を始める。アサギはそんな彼女の姿を優しく見守りながら、2人のカップに2杯目を注ぐ。
「キルルと2人で一緒に2回目の使命を果たそうって決めたんです。私たちの記憶を取り戻す。でも、今は今で大事な時間であり大切な記憶・・・。それと・・・。」
「それと?」
「キルル・・・彼女に言われたんです。私はキルルに恋してるって。」
「恋?お前が?キルルに?何でまたそんなことを。」
「キャッ♪ステキ・・・。私も言ってみたい。」
「フフフ。それで、約束・・・お願いしたんです。私の心の謎を解き明かす手伝いをして欲しいってね。」
「ますますステキ・・・。私もアサギに恋しそう。」
「あはは、まぁそんな感じで、彼女に店を手伝ってもらってその流れで一緒に歌うように。彼女はカーディナル、精霊の言霊を歌で紡ぐ職。ステキな歌声でしょう?」
「あぁ、そうだな。プニサンの次にな。」
「ははは、あの子は特別ですよ。」
お互い笑い合う横から、アルバイトなのかメイド服姿の少女がトレーにケーキを持って立っていた。
「マスター・・・ご注文の・・・。」
「あぁ、ありがとうナリサ。2人にお出しして。」
「はい。・・・・・・どうぞ。」
2人は出されたケーキに舌鼓を打ちながら、ひとときの歓談。
「あの、ライグ、ミサキ。お願いがある。」
「ん?なんだよ、水臭いな言ってみろよ。」
アサギは2人の前で姿勢を正すとスッと頭を下げる。そして
「私も次からパーティに参加させてほしい。また、昔のように皆で冒険がしたい。そして・・・。」
「キルルと一緒にいたい・・・だろ?何言ってんだよ。お前はずっと俺らのパーティメンバーだっつうの。長い休暇だったけどな。これでやっとまともな支援が期待できるぜ。」
「ふふふ。おかえりなさい。アサギ。」
2人は屈託のない笑顔で、当たり前のように言う。
「2人とも・・・。」
「マスター!お願いしまーす。」
「はい、今いきます。・・・それじゃ、仕事があるのでこの辺で。どうぞごゆっくり。」
何かを言いかけたとき、声がかかりその先は聞けなかったが、聴く必要は無い。その先の言葉は
「野暮ってもんだぜ。アサギ。」
「うんうん。」
2人はカップを持ち、向こうで客の相手をするアサギに向かって小さく乾杯。ミサキがアサギとキルルを見つめながら
「2人のココロの色は今きっと同じ色・・・。」
ライグはミサキの頭を撫でながら
「そうだな。きっとおんなじ色だ。それとな・・・。」
頭を撫でられ目を細めていたミサキは?とライグを見る。
「記憶・・・過去ってのは大事だ。その人を作り出す最重要要素だ。でも、それが全てじゃない。」
「何が言いたいの?」
「記憶のカタチってのは、常にひとつじゃないってことさ。2人を見てればわかるだろ?こんなカタチもありってこった。」
ライグは、もう一度キルルとアサギにカップを持ち上げ、小さく乾杯をする。
「本当に大切なものは近くにある・・・んだぜ。」
Fin
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