さてさて、静かにアップしています。
アップの時間は気にしないでっ!
ではシーン3【 無口な子猫は不治の病 】はじまりまーす。
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シーン3 無口な子猫は不治の病
頭が痛い。でもちょっとだけ。起床行動に支障はない。私は重い瞼をゆっくりと開けると、そこに映ったのは見慣れた天井。
「私、家に帰ってる。いつの間に?」
霧のかかった昨夜の記憶を懸命にサーチするも、何も思い出せない。私は辺りを窺うと、シロが洗濯カゴを持って歩いているのが見えた。
「シロ?」
「あ、マスター。お目覚めになったのですね♪おはようございましゅ。」
「昨日、シロが運んでくれたの?」
私の質問にほんの少し頬を染めたシロは、
「さ、昨晩は、あ、あ、あの、ラ、ライギュしゃまが送ってくだ、くだ・・・。」
「そう。ライグが・・・そうなの・・・。」
私は再度、昨夜の記憶にサーチをかける。しかし、結果は同じだった。けれど、シロからライグの名前を聞いたとき一瞬胸が躍った。覚えている記憶を脳内で再生、クエスト終了後マイマイキャンプで夕飯をみんなで食べて、ライグと友達になりたいと伝えて・・・
「何も思い出せない。」
「そうですね、マスターぐっすりでしたから。」
「うん。・・・・・・あ。」
一瞬脳裡を声が横切った。断片的で、でも優しい声色の
『・・・なってやってもいいぜ・・・』
「はう・・・。」
「∑!ど、どうしました?マスター?」
「うう。シロ、これなんだろう。胸が痛い。」
「病気ですか!」
「わかんない・・・。こう、胸が痛いんだけど熱い。ざわざわする。」
私は平ら・・・もとい、絶賛成長途中の控えめな胸に手を当てて、自分の鼓動を確かめる。
「マスター・・・はっ!みんなを呼んできますっ!もしかしたら、オトメお姉ちゃんなら解るかもしれないでしっ!」
シロは、洗濯籠を床に置くとトテトテと外へ出て行った。私はベッドから起きたものの、そこから動く気が起きないのでもう一度倒れるように寝転がる。ドキドキと鼓動が早い、心なしか音もいつもより大きい気がする。
「ライグ・・・。」
鼓動が更に早くなった。間違いない、
「ライグのせいだ。何かされた・・・。薬?呪術?後者の可能性が高い。」
ぽつりとつぶやく。すると、
「マスター、大丈夫ですか?ちょっと診察しますね。」
「マスター・・・痛いの?苦しいの?一緒にミニーとレディになるんだから、病気になっちゃダメなんだからぁ。」
心配そうな面持ちでアルマモンスター達が集まってきた。オートメディックアルマのオトメが、私の額に手を当て同時に全身スキャンを実行する。その横でミニードゥアルマのミニーと白い使い魔アルマのシロは手を取り合って心配そうに見ている。デスアルマのデスとサラマンダアルマのサラは、デスの提案で、薬草を摘みに外へ出て行ったらしい。オトメのスキャンが進んでいく。
「脈拍・・・不整脈なし、鼓動・・・早いけど正常範囲、体温正常、異常発汗なし。オールグリーン、正常ですよマスター。シロから聞いた症状から、過去の症歴から検索・・・該当なし、民間伝承も検索範囲に含め・・・あ・・・。」
オトメの動きが一瞬止まり、それまで無機質な無表情な彼女が目を細め、ほんのわずかな優しい微笑みを浮かべた。私はそんな仕草を見落とすわけもなく、
「どう?何かにヒットした?」
私の言葉にオトメは目を閉じて、
「はい。一件該当しました。」
「さすがオトメちゃんっ!無駄にミニーよりお胸が大きいわけじゃなかったのね☆」
「・・・サーチアイ、ミニーはお口の病気だからお尻にお注射してあげて?」
オトメの傍についていたサーチアイはどこから持ってきたのか怪しい色の液体の入った点滴袋をボディにぶら下げ、ミニーのお尻に向けて赤いレーザーポインターをロックし、返事したような電子音をあげると、突進し始めた。
「ピピッ・・・」キュウウン・・・
「ひっ!い、い、いやあぁぁぁ!それはいやあ!絶対いやぁ!ご~め~ん~な~さ~い~。」
ミニーは、顔を真っ青にしてその場をまさに脱兎のごとく逃げ出した。
「はぁ・・・もうミニーちゃんったら・・・。オトメお姉ちゃん、マスターは何のお病気なのですか?」
シロの少し不安げな表情での質問に、オトメはシロの頭を優しくなでながら
「これは不治の病・・・。」
「えっ?治せないんでしゅか!」
「そうね、お医者さまでもオトメさんでも治せない。でも・・・。」
「でも?」
「一つだけ方法がないわけでもないです。あの人だけが唯一マスターのこの症状を緩和できるの。」
オトメの『あの人』という単語にシロは気づいたようで、
「そ、そういうことですかぁ。なるほどでしゅ。」
「たぶん、きっとそう。ただ、私はそういう経験もデータもないので、確実とは言えないわ。あくまで推測よ?」
付け足すようにオトメが言うと、私はようやく決心ができた。
「シロ?ミニー?お出かけするよ。支度して。」
「はいっ♪」
「や~~~ん!こ~な~い~で~・・・はっ、行く!ミニーも準備して・・・」
・・・プスッ・・・
「イっくううううう・・・」
「あ、オトメは留守番だよ。」
「それは構いませんけど・・・。どうして、と聞いてもいいですか?」
「たゆんたゆんだから。それは魔物だから。」
「・・・・・・・・・・・・ハイ。」
オトメは目にうっすらと涙を浮かべ小さく頷いた。
それからしばらくして、3人はアップタウンを歩いていた。ミサキを先頭に両脇にシロとミニーを連れて。ミサキの右手には一枚の名刺が握られていた。シロから渡されたもので、いつでも連絡してくるようにと言伝られていたらしい。しかし、ミサキは名刺に書かれたWISモバイルナンバーに連絡はいれず、オトメに番号から現在位置のサーチをかけさせて、直接押しかけることにしたのだ。
「マスター?どうしてお電話しないのです?」
シロが歩きながら質問する。
「面白いから。」
「即答でしゅ!」
「そうよ!レディはいつだってさぷらいずっ!さぷらいずなレディがいいんだから!」
「そ、そういうものなんですか。」
「そうよっ!」
「嘘、別に意味はないわ。」
「うそよっ!意味なんてないわっ!」
「もう、ミニーちゃん、うるさいです。」
「にゅう・・ごめんなさい。」
シロがミニーを窘めている傍で、ミサキは少しだけ、本当に少しだけ頬を染めて
「だって、電話・・・だけで終わりそうでイヤ・・・だから。」
ぽつりと呟く。
「マスター・・・。んふふ♪家にいらっしゃるといいですね♪」
「うん。」
「なぁに?なぁに?ミニーも教えて?ねー、シロってばー、ねー。」
「もう、ミニーちゃんはレディになりたいならもう少しお淑やかにすべきです。騒がしい子は一番お子ちゃまですよ?」
「む~・・・わかった。静かにする。」
こうして、3人はアップタウンの外れまでやってくると、一本の縄梯子を見つけた。
「着いた。」
「そうですね。」
「そうねっ!・・・はっ、お淑やかに・・・そうですわね。」
ミサキは目の前の縄梯子に手をかけると、大きく一回深呼吸をして登り始めた。
to be continue
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