リアルがちょっと忙しくって、寝不足気味なYUNIKOです。
さてさて、文字テロ的なお話もご本人さまから快諾いただけたので、
テロからふつうのお話になりましたw
それでは第3話はじまります。
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第3話 友達は銀髪の猫耳
あれから2週間、ヨミコとライグは今日も光の塔で素材集めをしていた。
「ヨミコっ!そっちに1体行ったぞ!」
「はいっ!」
ヨミコの振りかぶったメイスがトロットにめり込む。トロットは火花を散らしながら煙を吹き沈黙する。トロットに足を掛け両手でめり込んだメイスを引き抜き
「ふぃ~。ライグさん、そろそろ休憩にしませんかぁ?もう私へろへろッス~。」
メイスを杖のようについて進言すると
「そうだなぁって、もう昼回ってるのか。昼飯にするか。」
「はぁい♪それじゃ準備しまーす。」
ヨミコは階段の下にレジャーシートを広げると、バスケットから重箱のようなランチボックスと水筒を取り出し並べる。
「お?今日はおにぎりじゃないのか?」
ライグがレジャーシートに腰を下ろしランチボックスを眺めて言う。
「はい♪あ、いや、ご飯はおにぎりなんスけど、おかずを別に作ってみたのです♪じゃーん!」
ヨミコがランチボックスの蓋を開けると、割と茶色率高めのおかずとキレイに並んだおにぎりが現れた。
「なんというか・・・肉多いな。」
「失礼ですねっ。品数的にはバランスいいんスよ?バルル肉の生姜焼き、アボカドのバルル肉巻き、ドードー南蛮、卵焼き・・・で、こっちが付け合せのピクルスっす♪」
「いやいや、肉ばっかじゃねぇか。」
「てへ☆」
「まぁ、ヨミコの料理美味いからいいけどな。しっかり腹にたまるし。どれもおにぎりに合うんだもんなぁ。・・・もぐ、いい嫁さんになれるんじゃないか?」
ライグは生姜焼きを放り込むとおにぎりを頬張る。
「あはは。そんなお嫁さんに憧れてるんなら、こんなに埃まみれになってないっスよ。」
「それもそっか。」
「はい♪」
頬をほんの少し染めて、三角おにぎりの先に小さくかぶりつく。初めてライグと出会ってから、確実にヨミコの中に変化があった。今だってそう、軽口のつもりで言われた『嫁さん』という単語にヨミコの胸は異常に反応して煩いくらい打ち付ける。最初はそんなことなかった。命の恩人でタタラベ職の大先輩で、ヨミコの夢のためにこんな無償に近い形で見ず知らずのへっぽこ冒険者の手伝いをしてくれる。憧れの兄のような存在だった。けれど日か経つにつれ、一緒にこの塔で狩りをして同じ場所に帰り朝を迎えるにつれ、憧れは確実に別のモノへと形を変えて行った。
「・・・い。」
「・・・ミコ?ヨミコ?」
「へ?え?はいっ。」
「どうした?全然食ってないじゃないか。調子悪いのか?」
ライグが心配そうに声を掛けてくる。
「い、いえ、そんなことないッスよ?あ、お茶、今日はお肉多めなんでジャスミン茶にしたんです。」
そう言って誤魔化すように水筒からお茶を注ぐとライグに手渡す。
「お、悪ぃ。って、おわぁ!」
「きゃっ。あ、ごめんなさいッス!」
手渡す瞬間お互いの指先が触れ、先程からの胸の高鳴りの後遺症でついつい手を勢いよく引っ込めてしまい、あやうくコップを落とすところだった。
「っぶねぇ。大丈夫大丈夫。」
「ごめんなさいっす・・・。」
そんな微妙な雰囲気をさすがのライグも気が付いたか、自分のウェストポーチを開き、
「この間、ヨミコと食材買い出し行っただろ?」
「はい。」
「そん時にもらった福引券でアップタウンのドリームクジ引いてみたんだ。」
「はあ。」
ライグは小さな箱を差し出し
「んなら、こんな箱が当たったんだけど、なんつうか化粧箱?コスメポーチ?って、箱なんだけどレースのヒラヒラしたのついてるし、よくわかんねぇんだけどさ。ただ言えることは俺は使わないからな。ヨミコはほら、一応女の子だし。よかったら貰ってくれ。」
差し出された箱は黒のレースで装飾されたお洒落な箱でいかにもアップタウンの女子が好きそうなデザインだった。
「え?って、一応女の子ってなんスかぁ。でも、いいんですか?」
「ああ、まぁアレだ、ほら、毎日飯作ってもらってるしそのお礼だよ。」
「え、でも、それは今この時間の報酬で・・・そんな・・・。」
「いいから貰っとけって。」
ライグはぶっきらぼうにヨミコの前に突出し、ヨミコはそれを受け取る。
「ぁ・・・ありがとうッス。大事にするッス!わぁ・・・何入れようかなぁ。ウフフ♪」
「力のコンデンサとか入れんなよ?」
「そんなもん入れませんっ!何言ってんスかぁ!しかも何でよりにもよって力なんスか!私だってこれでも一応女の子なんスから!でも、ありがとうです。」
「ああ、気に入ってくれたんならよかったさ。さて、それじゃそれ食い終わったら午後の部開始とすっか。」
「はいッス!」
ヨミコの胸は最高潮に高鳴り、この気持ちが憧れじゃないと確信した。
午後の狩りも順調に進み、念願のロボットアームも手に入り、これでロボを組み立てるのに必要な素材は全て集まった。ライグはそれを自分の事のように喜んでくれて、帰りはタイタニアリゾートの温泉経由で汗を流して、本当に今日は最高の一日になった。飛空庭に帰ると、ヨミコはライグが工房の隅に作ってくれた部屋に入る。
「ただいまぁ~ふぃ~。」
ヨミコは、服をその場で脱ぎ捨てるとそのままベッドに倒れ込む。そして数秒、むくっと顔を上げると脱ぎ捨てた服の中からウェストポーチを引っ張り出し、昼に貰った箱をそっと取り出す。
「あは☆初めてのプレゼントっす・・・あの人からの・・・にゅふふふふふふ・・・どうするンスかぁ♪何入れるンスかぁ♪あ、もしかしたら既に中に入ってるかも知れないッスよ!『何が?』何がって愛がっ!って、そんなわけあるかもしれない~どうしよう♪」
箱を胸に抱いてベッドの上をゴロゴロと転がる。ベッドの上を往復すること十数回転がった後、ぺたんと座り込んで箱を開けた。
「きゃっ!」
蓋を開けると何やら箱から白い靄のような煙が勢いよく立ち上がった。ヨミコは驚いてベッドから転げ落ちる。すると、ベッドの上からのんびりした口調で、声が聞こえた。
「ん~~、あらあらぁ?ご主人さまはいらっしゃらないのですかぁ?」
聞き覚えのない声に恐る恐るベッドの上に視線を投げると、黒いドレスを纏った銀髪の少女がちょこんと座っていた。しかし、その少女には決定的な違和感があった。
「え?え?誰っす?てか・・・えええええ!小さいし!み、み、耳!耳が!」
その少女は一見幼いように見えるが、その顔立ちはヨミコと同年代、いやもしかしたら年上かもしれない。なのに幼く見えるのは、
「小さっ!いやいやいや、小さいでしょ!お姉さんっぽいのに!も、もしかして魔物!?私をとって食っちゃうぞ的なアレっすか!」
そう、彼女?の体躯は明らかに人間の大きさではなかったのだ。ベッドの脇でぎゃあぎゃあと騒ぐヨミコに気付いた獣耳の少(小)女は
「あらぁ、こんなところにいらしたんですねぇ♪ご主人さまぁ、初めましてぇ。私、フリルと申しますぅ。ちなみに、わたくし魔物ではありませんよぉ?確かに広義的には魔物ですけどぉ、これでも一応霊格高いネコマタですぅ。あぁそうそう、ご主人さまのお名前をお伺いしていないですぅ。」
自らをネコマタと名乗った少女は、なんとも特徴的なおっとりとした口調で一気に話す。ヨミコはそれをただポカンと聞いていることしかできず、
「あ、はいッス。それはご丁寧にどうも。私の名前はヨミコ。仕事は鉱石(いし)屋・・・て、そのご主人さまってなんすか。あとネコマタちゃんは知ってるッスけど、キミは聞いたことないなぁ。桃ちゃんとか藍ちゃんはお話したことあるけど。」
向こうの問いかけに、自分の疑問で返してしまった。すると、フリルはクスクスと笑い、
「何を仰っているんですかぁ。ご主人さまがわたくしを起こしたんではないですかぁ。こう、かぱーって。かぱーって。」
そう言って、フリルがライグから貰った箱を抱え蓋をパカパカと開け閉めする。
「え?ええ?!それ、キミの・・・棺桶?」
「まぁ、棺桶というか・・・お部屋というか・・・ネコマタになるにはこの世との執着が基本ですからぁ・・・それなりに生きているときのお気に入りとか思い出の品とかぁ、そういうのが憑代になるんですぅ・・・って、そういうことなんですよぉ?ですので、これからよろしくお願いいたしますぅ。ご主人さま♪」
フリルは箱を大事そうに抱えてぺこりと頭を下げた。
「うん・・・こちらこそ・・・私、ネコマタちゃんとか使い魔ってよくわかんないから、迷惑かけちゃうかもだけどよろしくね。えっとフリルちゃんでいいのかな?」
「フリルで結構ですよぉ。ご主人さま?」
「あー、うんわかった。あ、それじゃ私のことはご主人さま・・・っていうのもなかなかに萌えるんだけど、ヨミコでいいから。」
「はい、ヨミコ♪」
「ん♪」
こうして、ヨミコに新しいちょっと変わった友達ができた。
一晩明けて、ライグの工房でヨミコのロボ製作が始まった。今までに集まっている素材はギルド倉庫から工房へ運び込み、パーツの組み立てから調整方法などをライグから手取り足取りといった感じで習っていく。
「そろそろティータイムにいたしませんか?ヨミコ。」
光の塔で手に入れたロボットアームの調整がひと段落し、額に流れる汗を拭ったとき、おっとりとした声が耳に届いた。
「お、いいねぇ♪私もひと段落したし。ライグさんっ♪」
ヨミコが上機嫌に声を掛けると、操縦桿周りのチェックをしていたライグが顔を上げた。
「そうだな、こっちも大まかな所は片付いたし。それじゃフリル、俺にはコーヒー頼めるか?」
「かしこまりました。ライグさま。」
朝、ヨミコは目が覚めると一番にライグへ昨日の出来事とフリルの事を報告した。
『へぇ・・・あの箱、新品ってわけじゃなかったのか。まぁそれでもヨミコにも友達できたんだな。おめでとさん。』
ライグは驚くことも無く、目の前にフワフワと浮かぶフリルの頭を撫でながらすんなりと受け入れた。ただし、
『フリルとか言ったか?その語尾をなんとかしてくれ。力が抜けちまう。』
という言葉にフリルも納得し、普通に話すようになった。
「ヨミコはミルクティでいいですか?」
「うん。」
ヨミコとライグはいつも通りオイル缶に並んで腰掛けると、フリルが淹れたカップを受け取る。そんなに大きくはない工房でロボ2台を並べるとなると、休憩スペースは少々窮屈なくらいしか取れず、自然と二人は肩が触れそうな距離で座ることとなる。そんな環境にヨミコの胸はずっとドキドキと煩いくらいに鳴りっぱなしで、隣のライグに聞こえてしまうじゃないかと心配してしまう。ヨミコはマグカップを両手で持ち、
「いいな・・・こういうの・・・。」
ぽつりと呟いて、そっとマグカップに唇をつけた。
to be continue......