前に書いた「梅雨をテーマに」を久しぶりに読み返して
恥かしいと悶えながらも新しく書きはじめる・・・とかちょっとMなの!?
というわけで、ECOじゃないお話をのんびり書いてみようかなぁと。
まぁ、アレです。気分転換的な自分のストレス発散です。
お越しくださった皆さん、お時間の許すかぎりどうぞごゆるりと。
タイトル『幼馴染語り』
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第1話 嵐の前
冬が終わり日に日に春の足音が近づく頃、4人の男女が横並びに掲示板の前で目を瞑っていた。
「いいか?『いっせーの』で確認な?」
「う、うん・・・。もし私だけなかったらどうしよう・・・えぅ。」
「大丈夫よ。史華がんばったもん。心配ないよ。」
「そうだよ。あんなに頑張ったんだから自信持って。」
「あぅ・・・。晶ちゃぁん、拓ちゃぁん・・・。」
「大丈夫だって。つーか、あれだけ教えたんだから合格できてなかったら、俺の華麗なる3年殺しな♪」
「やだよぅ、もうあっくんのえっちぃ・・・私、真剣なのにぃ。」
「もう、篤史それセクハラだよ?」
「セクハラとか適用される体型かっての・・・って、いいか?いくぞ?いっせーのでっ!」
全員が目を開け、掲示板を食い入るように見つめる。
「・・・・・・。」
ほんの少しの沈黙の後、
「よし。」
「あった。」
「ほっ、あった。」
「・・・・・・」
それぞれが自分の受験番号を確認した。
「おい・・・史華?なんで黙ってんだよ・・・って、おいまさか・・・。」
「え?史華あるよね?何番?私も一緒に見てあげるよ!」
「・・・・・・えう・・・ぐすん・・・あ、あ、あった・・・。あったよう・・・ごうかくだよう・・・。えーん。」
涙をボロボロと流しながらわんわん泣く少女の頭を他の3人が代わる代わる撫でていく。気が付けば号泣する少女は、まだ幼かったあの頃、いつも隣にいてくれた少年の3年間着古された学生服の裾をギュッと握り、ほんの少しだけ逞しくなった胸元に顔を埋めて
「みんないっしょぉぉぉ・・・またいっしょにいられるぅ。」
と暫くの間泣き止まず、そこに居た3人は何も言わず少女を囲み、またこのメンバーで同じ時間を過ごせる喜びを噛みしめていた。
高校入試合格発表の日
今まで通りのメンバーで
今まで通りの時間を
今まで通りに過ごせると
その時は全員が確信していた。
桜舞う穏やかな春の朝、真新しい制服に身を包んだ少年が慌ただしく玄関を飛び出す。
「それじゃ行ってくる。」
「篤史ぃ?今日は入学のお祝いするんだから夕飯までには帰ってきなさいよ!」
「わかったわかった、茜も急がなくていいのかぁ?」
「っホントだ!って、アンタねぇ・・・私、一応お姉ちゃんなんだからね!・・・ンもう、いってらっしゃい。」
「おう!」
篤史は親指を立てポーズをとると、そのまま外へ駈け出して行った。普段通い慣れた道も、今日はなぜか見えるもの全てが眩しく見える。街路樹の桜の下を走り抜け、いつもの場所に到着する。
「おう拓也、はえーな相変わらず。」
「ん?やっ。おはよう、篤史。」
篤史はいつもの場所で見つけた幼馴染の顔に挨拶を投げる。そして周りを軽く見回すと、少し意外という表情で声を掛ける。
「そういや、史華たちは?拓也来る途中に声掛けなかったん?」
拓也は、読んでいた文庫を鞄に仕舞い
「あぁ、途中まで晶とは一緒だったんだけどね。史華がちょっと手間取ってたっぽくて、僕だけ先に来たんだ。」
「ふうん、そういうことか。相変わらず史華はどんくせぇな♪ま、時間はまだ間に合うからいいけどよ。」
篤史は両手を頭の後ろに回し空を眺める。すると、
「わ、私、そんなにどんくさくないもんっ!女の子は時間がかかるもんなんだもん!」
篤史の背後から、そよぐ程度の春風の勢いに乗って柔らかい声が届く。
「ンだよ、どうせアレだろ?靴下が左右別だったとかじゃねぇのかよ。」
篤史はその声が届くや否や振り返り、間髪入れず面倒臭そうに切り返す。
「え!なんであっくん知ってるの?もしかしてエスパー?」
言いだしっぺの声の主は驚いて篤史の顔を見る。篤史は盛大な溜息を吐いて
「はぁぁぁぁ、ンなこと今に始まった事じゃねぇじゃねぇか。ンであれだろ?『おかあさ~ん!私の靴下どこ~』って階段駆け上がろうとして躓くとかよ。」
いつもの事じゃないかと言わんばかりに、篤史が言い放つと史華の隣で今のやり取りをクスクスと笑いながら聞いていた4人目の幼馴染みである晶が笑いを必死に堪えながら
「でも、その躓きのおかげでパンツ穿いてないのも分かったから良かったよね♪プッ、プププ。」
と口元を手で押さえ衝撃発言をした。
「って、階段で躓いたのか・・・はぁ?パンツ!?そんなもん忘れてたのも気づかないのかよっ!鈍いにも程があるだろ!てか穿けよ!ノーパン健康法とかじゃねぇんだろーが!てか、何で脱ぐ必要があんだよ!」
篤史は呆れ半分冗談半分でツッコむと、史華は顔を赤く染めて
「もぉ!晶ちゃんひどいぃ。言わないでって言ったのにぃ。」
ポカポカと晶の身体を叩く。
「ごめんごめん、でもきっと篤史・・・今想像しちゃってるよ?史華のお尻・・・♪」
晶は小声で史華に囁くと、
「聞こえてっぞ。つか想像するかンなもん。オマエらのケツなんてガキんときに散々見てンだろうがよ。」
と頭を掻きながら呆れた口調でこぼす篤史に晶が嬉しそうに
「いやん、ス・ケ・ベ。」
とツッコミ、
「なっ・・・。」
と少し頬を染めた篤史にすかさず、
「あっくんのえっち・・・。」
と史華も乗っかる。そのやり取りを見ていた拓也は呆れた笑顔で一人歩きだす。それに気付いた篤史も
「ったく、ほら遅刻しちまうだろ、さっさと行くぞ。」
と拓也に続き
「あ、ちょっと待ってよ。行こ、史華。」
「うん。」
と晶は史華の手を引いて先を歩く拓也と篤史を追いかけた。
教室に入ると、教卓の上に置かれた名簿に目を通し各々自分の席に鞄を置く。篤史はそのままドカッと椅子に座る。
「これから1年よろしくね、篤史。」
篤史の前の席に座る拓也が振り返って頭を下げる。
「こちらこそよろしくな。っつうか、出席順の配置だと絶対こうなるよな?」
と、篤史は両手を頭の後ろに組む。
「でもさ、そのおかげで私たち仲良くなったんだもん、これはこれで感謝しないとね。篤史、拓也、よろしく♪」
そう言って、拓也の隣の席に腰を下ろす晶。
「あぁ、男女ごちゃ混ぜの席順じゃないのか。よろしくな晶。」
「うん。」
「よろしくね、晶。」
「うん、よろしく拓也。でもさ、見事に私たち『さ行』だよね。」
晶が少しおかしそうに言うと、拓也も同様に
「篠田篤史、西園寺晶、笹島拓也。確かに『さ行』だね。」
「あれか?『さ行トリオ』?」
「なにそれ♪だっさ!」
「ダサいとか言うな、それより俺ら全員同じクラスっていうほうが奇跡じゃね?」
「だよね!私も思った・・・って史華は?」
晶が顔を上げる。篤史は呆れた口調で
「迷ってんじゃね?」
軽口を叩く。
「篤史、いくら史華でも教室で迷うとかそれはちょっと・・・。」
拓也が苦笑いで反応する。晶も同じような表情で
「そうだよ?それに史華は篤史の妹分なんだからちゃんと面倒みてあげないと・・・あ、いた。あっ!危ない!」
軽口をたたいたと同時に出たセリフに篤史は声の向いているほうに視線を投げた。そこには自分の席から立ち上がり、史華がこちらへ近づこうとしたときだった。
鞄を置いて自席にとりあえず座ってみる。周りを見る、知らない人ばっかり。それでもいい、またみんな同じクラスになれたから。でも出席順の席は好きじゃない。笹島、西園寺、篠田、みんな席が近いのに私は三森。私だけ遠い、小学校も中学の時もこのクラス替えの一瞬だけ独りぼっちな寂しい気持ちになる。
「・・・でも大丈夫。うん、おんなじクラスだもん。」
私は心の中でガッツポーズを取りみんなの元へ行こうと立ち上がったときだった。不意に出された男子の脚に躓いて大きく身体が傾き
「きゃっ。」
盛大に転ぶ未来が浮かんだ瞬間、何か硬くて暖かいものに受け止められた。
「あ、あれ?」
もう転んだと確信していた私はその違和感に戸惑っていると
「大丈夫・・・か?」
聞き覚えのない声が自分の頭の上から降り注ぎ、私は慌てて顔を上げる。するとそこには、優しい目をした男の子が私を見ていた。
「あ、あの・・・。」
「ん・・・悪い、転びそうだったから。」
そのセリフに私は今の状況を確認してみると、見事なまでに抱き付いていた。
(あっくん以外の男の子に・・・)
そんな事が頭をよぎった瞬間、自分でもわかる程に顔が赤くなっていく。
「あ、あ、あの・・・ありがとう・・・あの・・・。」
「ああ、悪い。俺は樹。本当に大丈夫か・・・。」
「ありがとう・・・い、樹くん。あ、あ、私、三森史華・・・です。」
私はすぐに身体を離すとお辞儀をし、慎重に一歩一歩床に足を着けてみんなの所へ向かう。
そんな普段見慣れた光景を幼馴染が見守るなか、俺だけ違うところに釘付けになっていた。そして純粋に思ったんだ。
『運命的な出会いとか、ドラマの中だけだと思ってた。
けど今、史華が俺の知らない目をしてる。』
そのとき初めて自分の胸のざわつきに気づいたが、俺はそれが何なのか気付くことはできなかった。
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