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各月の日記

YUNIKOさんの日記

(全員に公開)

2016年
07月29日
19:38

ECOじゃない創作。第2話

この間から書き始めたお話『幼馴染語り』。
気分転換的な自分のストレス発散という名目で続きアップです。
稚拙な文章なので恥ずかしいですが、よろしければ目を通していただけると嬉しいです。

タイトル『幼馴染語り』

---------↓↓本文↓↓----------

第2話 名前で呼ぶということ

「大丈夫だった?毎回思うけど、史華って見ててハラハラするよ。」

拓也が溜息交じりに史華を見上げて言う。

「うん、危なかったよー。樹くんが助けてくれなかったら、転んじゃってたねー、えへへ。」

史華は頭をポリポリと掻きながら恥かしそうに言う。

「もう、気を付けなさいよ?それより・・・樹クン?知ってる人?」

篤史は晶が発した『イツキクン』という単語にピクンと反応してしまう。

「ううん、でも樹くんがね、転びそうになった私を止めてくれたんだよ。お礼を言うのに名前知らないから、そしたら樹って自己紹介してくれて。」

史華が嬉しそうに話す姿に、篤史は何故かイライラしてしまい

「けっ、嬉しそうによ。ンで何で名前呼びなんだよ、馴れ馴れしいんだよ・・・。」

つい棘しかない言い方をしてしまう。

「な、なに?あっくん怒ってる?なんで?そ、そりゃ躓いたのは私の不注意だけど、でも・・・」

史華は戸惑いを隠さず篤史を見る。しかし、そんな姿さえ今の篤史にはストレスでしかなく

「っせぇよ、ンだよ、何で名前なんだよ。」
「なんで?おかしくないよね?拓ちゃん、晶ちゃん、あっくん、みんなそう言ってるし、みんなもあっくんも名前で呼んでるよ?」
「俺らは付き合い長ぇじゃねぇか!つーか、チビんときからじゃねぇか。けど、アイツは違ぇ!今日会ったばっかじゃねぇか。馴れ馴れしいんだよ!何で名前で呼ぶんだよ!」

思わず声を荒げてしまった篤史を泣きそうな目で見つめ

「ひぅ・・・あっくん怖いよ・・・だって・・・だって名前言われたんだもん!苗字知らないんだもん・・・なのにあっくん怒るんだもん・・・。」

声を震わせる史華に篤史は席を立ち、

「あぁそうかよ、悪かったよ!」

3人を置いて早足で教室を出る。

「あっ・・・あっくん!待って!あっくん!ドコ行くの!」

史華が後を追いかけるが、篤史は立ち止まらず廊下に出る。そして

「っせぇ、ションベンだよ!ついてくんな!」

ピシャリと言い放つと、史華はビクンと肩を震わせ教室の入り口で立ち止まる。

「大丈夫だよ、史華。」

晶が後ろから史華の肩を抱き覗き込むようにして優しく宥める。

「篤史、悔しかったんじゃないかな。史華が今まで一緒に居て僕たち以外を名前で呼ぶことなかったし。あ、悔しいっていうんじゃなくて戸惑ったのかもしれないね。どちらにしても気にすることないよ。」

史華を挟むように拓也が前に立って、優しく声を掛ける。史華は目に涙を浮かべ

「どうしよう・・・あっくんに嫌われちゃった・・・すごい怒ってたもん・・・昔、私が山で迷子になった時みたいにすごい怒ってたもん・・・どうしよう・・・あっくんに嫌われたら私・・・みんなと一緒に・・・」
「嫌われてないよ。一緒だよ、ずっと一緒。篤史、こういうトコまだまだお子ちゃまだからねぇ・・・アレよ、妹の成長に驚く兄みたいな?娘がカレシ連れてきた父親っていうか♪拗ねてるだけだって。」
「なにそれぇ晶ちゃぁん・・・あ・・・。」

慰めてくれる晶からするりと身体を抜くと、史華は教卓へ駆け寄り名簿を必死に指でなぞる。

「あった・・・。む、向井樹・・・むかいくん、むかいくん、むかいくん向井くん・・・。よし。」

小さく頷くと、また二人の元へ戻ってきた。

「ん?あぁ、苗字?」
「うん。向井くんって言うみたい。」
「そっか。」

落ち着いた史華に二人がホッと胸を撫で下ろした。そこで不意に教室の前の扉が開き

「おーい、新入生ぇ。そろそろ入学式始まるから廊下に並べ。」

クラスの担任だろうか、一人の男性教師が顔を覗かせて声を張る。

「それじゃ行こっか。ほぉら、史華?涙、ちゃんと拭いて、鼻水も。」

晶がポケットからハンカチを取り出すと、

「うん・・・って、鼻水出てないもん!・・・出てないよね?」

史華は不安そうに晶を見上げ、その仕草に拓也と晶は顔を見合わせてプッと吹き出し

「大丈夫だよ。晶の冗談だから。さ、行こう。」

拓也が史華の頭にポンと手を置く。

「もう~。晶ちゃんのバカぁ。・・・あ、あっくんが・・・。」
「大丈夫だよ、ほら、あそこもう並んでる。」

晶が指差した先には篤史が面倒臭そうに廊下のサッシにもたれ掛っているのが見えた。史華は嬉しそうに顔を綻ばせ

「あ・・・うんっ。」

と小気味よい返事を返すと3人もクラスメイトとに混ざって廊下に並んだ。
 入学式が厳かに進行していく中、篤史は言葉に表すことのできないナニカが胸の中に渦巻いていた。

(なんなんだコレ・・・何苛立ってんだ、史華は俺が守る・・・守らなきゃいけない、今までだって守ってきたんだ。)

篤史の頭の中に今までの出来事、幼い頃の思い出がフラッシュバックする。そのどれもが史華は篤史に手を引かれていた。篤史は史華の前にいた。

(俺が一番アイツと長く居ンだよ、拓也や晶よりもずっと長く・・・。なんなんだよアイツ・・・いきなり現れてよ・・・史華にあんな目させやがって・・・クソッ。)

心の中で悪態をつく。そして、後ろの方へ視線を投げる。その先には渦中の男子、樹の姿がある。篤史はジッと彼を観察するが、特に目立ったところは見受けられない。確かに顔はイイと思う。決してイケメンではないが、きっと俺の次・・・いや拓也の次くらいだと思う。篤史は何をしたらあの一瞬で、人見知りで泣き虫で怖がりの史華にあんな顔をさせる事ができるのか、嬉しそうに名前を呼ぶような気持ちにさせるのか凄く気になって仕方がなかった。

(拓也や同じ女の晶だって、最初は名前・・・いや、苗字ですら呼んでなかったのに・・・。)

篤史は気に食わなかった。名前云々というよりも俺たちの時間に変化が起きようとしていることに。しかしその直後、どうして変化が起きることにこんなに消極的なのかという疑問も浮かび悩ませる。そんな時だった。篤史は自分に向いている視線を感じ、俯くように後ろを見ていた頭を起こし前を見ると、晶がぼうっとこっちを見ていた。しかし、すぐに晶は篤史の視線に気づき篤史と目を合わせるとニコッと微笑み小さく手を振ってきた。そんな些細な仕草に篤史は一瞬ドキッと胸が躍り焦った。篤史はそんな自分の変化を見抜かれないように、わざと口を尖らせてシッシッと鬱陶しそうなジェスチャをする。それを見た晶はベーっと舌を出し前を向くように座り直した。ただ、座り直すとき、晶の目がほんの一瞬だが寂しそうに見えたような気がした。入学式が終わり、教室に戻った篤史たちはそのまま昼休みを迎え、午後からはホームルームに入り今日のカリキュラムを終えた。

「んじゃ、帰るか。」

篤史がさっさと鞄を持ち上げ拓也に声を掛ける。

「そうだね。晶、大丈夫?」
「うん。」

今度は拓也が晶に声を掛けるいつものフロー。いつも通りじゃないのは3人から少し離れたところでじっと立っている史華。

「なにしてンだよ、史華。」

篤史が声を掛けると、史華はビクンと肩を震わせて

「・・・ん、うん。あの・・・えと・・・」

モジモジと何か言いにくそうに俯く。

「っあぁぁ・・・わ、悪かったよ。」
「え?」

不意に小さな声で告げられた言葉に史華がキョトンと顔を上げると、篤史はバツが悪そうに頭を掻きながら視線を外し

「悪かった。・・・ちょっとその・・・言い過ぎた。」
「あっくん・・・。」

史華は曇らせていた表情をどんどんと綻ばせ笑顔に変える。

「あー!終わりだっ終わりっ!帰ンぞ!」
「えへ・・・ふふ・・・うん!」

照れ隠しにきつめの口調で発した篤史の言葉に史華は笑顔で鞄を両手に抱えると、子犬のようにふわっとした栗色の髪をはためかせて篤史の後ろをついていく。その様子を見ていた晶は笑顔のはずなのに憂いを帯びたような儚い笑顔に見え、そんな晶を拓也は黙って歩み寄り、晶の背中にそっと手を当てて

「帰ろう?」

と優しく促し、晶はいつもよりほんの少しだけ柔らかい笑顔に変えて頷く。そして、

「ねぇねぇ、帰りにお茶していかない?」

と提案すると、

「買い食いっ!すごい・・・魅惑の響きだよ・・・これが高校生だよ・・・あっくん・・・。」

と史華の食いつきがハンパなく、

「買い食いって発想が小学生かよ・・・ったく、つーか俺らの帰り道にそんなお茶するような店無いだろ。」

篤史が晶の提案に反応すると、

「そうだねぇ、駅前の方に行けばお店あるけど・・・思いっきり反対方向だよね?そうなるとお茶してたら夕飯の時間になっちゃわない?」

拓也も同調し、篤史は

「あ・・・今日は俺、茜が早く帰って来いって言ってたから、おばちゃんの店にしようぜ。」

と、行きつけ・・・と言えばカッコが良いが、近所の駄菓子屋を提案する。すると史華が

「いいよ♪それなら買い食いになるもんね。」

とどうでもいい反応を返し、晶も拓也も駅前探索は日を改めてねと納得すると、駄菓子屋案に満場一致した。4人揃って校門をくぐり拓也と晶が並んで前を歩き、篤史と史華が後ろを歩いていると

「あっくん。」
「ん?」
「あのね・・・いつ・・・向井くんのコトなんだけど・・・。」
「向井・・・あぁ、なんだよ?」
「今度のオリエンテーションで私たちと一緒の班に誘っちゃダメかな?」

史華の言葉に篤史は一瞬にして身に纏う空気の温度を下げた。

「あ、あのね、ちゃんと向井くんって苗字で呼ぶし・・・ダメ・・・かな。」

篤史は子犬のような瞳で見上げてくる史華に

「なんでだよ?」

とぶっきらぼうに、しかし声は荒げず聞き返す

「え?」
「なんで誘いたいのか理由・・・わけあンだろ。」

すると、史華はふっと息を軽く吐き

「んとね、助けてもらって、人見知りの私がいきなり話せたのが一番の理由なんだけど・・・ほら、班って5人だからね、向井くん誘ってみんなとも友達になって欲しいなって・・・優しいんだよ?無口で怖そうだけど、ホントはきっと優しい人なんだよ・・・彼。」

またあのときの顔だ。篤史は史華が見せた今日2回目の表情に覚悟を決めると

「わかったよ。俺もアイツには興味あるしな・・・。知りてぇんだ、どんなヤツなのか・・・。」

と呟くように吐き捨てると

「あっ、ケンカはダメだからね?あっくん、中学のときみたいに怪我させちゃったり乱暴したら口きかないからね?絶交・・・の手前だからね?」

と生ぬるい釘を刺してくる。篤史は鞄を反対の手に持ち帰ると空いた手を史華の頭に乗せて

「しねぇよ、まぁ向こうから売ってきたら買うけどな。俺からはしない。もししたら・・・おばちゃんトコで好きなモン奢ってやる。」

ワシワシと撫でた。

「安っ!でも、針千本はさすがに可哀想だしそれでいいよ。」

史華は嬉しそうに目を細める。

「なぁ、拓也、晶。」
「ん?」

二人が振り返る。篤史は二人に今話したアイツの事を話し全員で決めた。

 篤史は未だ残る胸のモヤモヤに気づかぬ振りをして
 晶は史華と篤史を柔らかく微笑んで
 拓也はそんな光景を優しく見つめ
 史華は夕焼けに変わりそうな空を見上げた。

この風景が終わるはずなんてないと・・・。

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